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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
世界を愛し、世界に愛された者『大魔法つかい』
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パオロの決断

 ルチアの言う、好都合な展開という意味はマクシムにも分かった。

 翌日、パオロ・ガリレイ中佐は総員を集めて、こう言ったからだ。

 彼は厳かな様子で語る。


「私のこちらでの任期を延ばすことにしました。やるべきことができたからです」

「中佐ー、それは何なのですか?」


 と、『与力』の女性が好奇心に目を輝かせながらすっとぼけて質問する。

 近くの別隊員から「おい」とツッコミを食らっているが、「まぁまぁ」とその女性は返している。

 苦楽を共にした経験からか、和やかな空気があった。

 パオロは淡々と続ける。


「実はアリアナ中尉に告白をされまして」


 おぉぉ、という声は、マクシムたちの前班を中心としたメンバーだった。

 その声には多分に「ようやくか」という想いが込められているようだ。自然と拍手も起きる。

 どうやらパオロ・ガリレイ中佐は人望に厚いようである。

 実際、パオロの理由やるべきことについては広くない基地だから既に皆が知っていた。

 ちなみに、もう一人の元凶である、アリアナ・コスタ中尉は体調を崩して寝込んでいる。らしい。

 マクシムとしてはそれが仮病なのか、それとも、精神の緊張が切れたからなのかは分からなかった。


「皆も意外だったと思います。私も夢にも思いませんでした」

「いや、そんなことはなさそうですよ」


 と、マクシムは小声でツッコミを入れたが、パオロには聞こえなかったようだ。

 パオロは神妙な面もちで続ける。 


「というわけで今後について考えるため、少し時間の猶予をいただくことにしました。アリアナ中尉の立場を考えると、私も一緒に暗黒大陸に残った方が良いと判断した次第です」


 なるほど、とマクシムは納得する。

 アリアナの能力名は『暴威』。

 単純に分類すると、多集団・広範囲への精神干渉能力である。

 その能力強度は恐ろしく高く、普通の人間は抗うことができない。

 いや、マクシムも無理だと思うし、対抗手段は基本的には存在していない。


 アリアナはレッドリスト入りしている。

 危険人物一覧レッドリストだ。


 レッドリストは一部の特異能力者で、さまざまな制限を受けた者が載るリストになる。

 危険な能力を保持し、人間性や経歴に従ってリスト入りが決まる。

 レッドリストに載るのは、ほとんどが犯罪者だ。

 その名簿に記された者は、場合によっては即殺害されることもある。


 アリアナは『士』の隊員でレッドリスト入りしている、唯一無二の特殊な存在だった。

 『士』の基地以外では監視の必要があるし、暴走した場合は殺される立場だ。

 隊員の中で、最も危険視されていると言い換えることもできる。


 ちなみに、能力規模と強度だけが載った要注意人物一覧ブルーリストには、マクシムやナタリアも載っている。

 ナタリアは『竜騎士』として載っていて、『竜姫』ではないが、それを知る者がいないのだから訂正されることもない。

 ちなみに、とパオロは視線を向ける。


「ルチア・ゾフ特務大佐はこの状況を予言していたそうです」

「正確には可能性の一つとして考えていたのです。ルチアでもこのハッピーエンドは驚きなのです」

「ハッピーエンドかは分からないですが、何か質問がある方はいますか?」


 そこで挙手したのは、『握戟あくげき』リオッネロ・アルジェント大尉だった。

 大きな手を軽く横に振りながら質問する。


「よく分かんないんですけど、国に戻っちゃダメなんですか? こんなところにいるよりも、よほど良いと思います!」

「リオッネロ大尉、君はアリアナ中尉の立場について知るはずですが、それでも分かりませんか」

「すみません、全然分からないです!」

「想像もできませんか?」

「できません!」


 直情径行型のリオッネロは一切申し訳なさそうにせずにそう言った。

 『暗器使い』のウーゴ・ウベルティ大尉がその隣で嘆息しているが、リオッネロの眼差しに曇りはない。

 曲がったことができなさすぎる男だった。


「自分、アリアナ中尉とはほとんど会話したこともないので人となり知らないです!」

「……あの、こいつ、自分の目で確認したものしか理解できないタイプなんです。中佐、無視して良いですよ」

「なるほど、会って確かめてくださいという言葉で十分ということですか」

「いえ、自分が気になるのは中佐の判断です! どうして残ろうと思ったんです?」

「というと?」

「どうしてアリアナ中尉のことを考えたのか、中佐の判断が分からないです! アリアナ中尉のことを知っていれば、少しは想像できたかもしれないですけど、さっぱりです!」


 横で聞いていたマクシムもリオッネロの疑問がようやく理解できた。

 パオロの意図が理解できないのだ。

 考えることは内地に戻ってからでも良いのではないか。どうして暗黒大陸に残るのか、だ。

 意外とリオッネロ以外、誰もパオロの判断に疑問を持っていなかったのかもしれない。

 少なくともマクシムは分からなかった。

 実際、レッドリストにあるアリアナは、行動などに制限があるが、決して犯罪者のように収容されるわけではない。

 パオロ中佐は少し考えて言う。


「暗黒大陸は一人で考え事をするならそう悪い環境ではないという話です」

「一人で考えるのに向いている……。つまり、誰かに相談するには不向きってことですね!」

「一人で考えるべきこともあります。しかし、リオッネロ大尉、意外と深いところを突きますね?」

「そうですか? よく分かりませんが、ありがとうございます!」


 おそらくパオロ中佐は多少皮肉を込めていたが、リオッネロは全然気づいていないようだった。

 少しフォローしようか、とマクシムが口を開こうとした時、そっと後ろから手を引かれた。

 小さな手。

 振り返るまでもなく、ルチアだった。

 訊ねるでもなく、彼女は軽く首を横に振った。

 その視線の先には、女性簡易宿泊施設の窓からわずかにこちらを伺う一人の姿。


 アリアナ・コスタ中尉だった。


 彼女はパジャマの状態で、こちらをチラチラとバレないように伺っている。

 体調がまだ優れないのか、顔は赤い。ああああ、とワナワナ震えている。


「マクシムさん、あんまり視線を向けないでです。気づかれるのです」

「分かったよ」

「大丈夫なのです。あの二人は良い方向に向かうのです」

「そっか。ハッピーエンドなら良いか」


 そうなのだ。

 マクシムたちにとっては、パオロ中佐が残ることの方が重要だった。

 これで、多少自由な行動がとりやすくなった。

 そう、『大魔法つかい』を探す時間も取れるという意味だった。

 ルチアは苦笑しながら言う。


「そう単純な話でもないのです。それに、そろそろのはずなのです」

「そろそろ?」


 ルチアは山側の方角を見て呟く。


「敵襲です」

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