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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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交渉と対峙

 ミッチェン・ミミックは完全に怯えていた。

 怯えていたが、目は据わっていた。

 もうどうにでもなれ、とどこか自棄やけになっていることが分かる。


「わ、わたしを脅しても無駄だから! どうしようもないんですもん!」

「いや、ミッチェン。君ならできるから」

「根拠のないこと言わないで!」

「根拠はある。君は『案山子』だ」

「それのどこが根拠なの! それは()()()じゃない!」


 ミッチェンはイーサンの言葉を一蹴する。

 正直、隣で聞いているマクシムとしても、イーサンの言葉は適当に聞こえた。ただ、口下手なだけかもしれない。

 そもそも、イーサンのいい加減さを考慮しようがしまいが、ミッチェンはこちら側の説得にも聞く耳がなさそうだった。

 それは彼女の立場を考えれば仕方のない話かもしれない。

 英雄であっても『案山子』は伝説の殺し屋だ。なのに、その圧倒的な殺人能力者と同じ力があるという自覚はない。その状況は警戒心が先立って当たり前。同情できる面があった。


「…………チッ」


 ――と、その時、マクシムは気づいた。

 隣にいるナタリアは状況を真剣な顔で静観しているが、その更に隣のシラは違った。

 明らかに苛立ちながらミッチェンを睨んでいる。舌打ちのような音も彼女が発信源だろう。


 元々、シラはこの場に参加する予定はなかった。

 だが、ニルデの件が絡んでいることを知り、強硬に参加を希望した。

 それだけシラにとってはニルデのことを大切なのだろう。


 ミッチェンはシラが睨んでいることに気づいた。

 何よ! という挑発的な態度だが、彼女は涙目だった。隠すこともできないほど必死に強がっている。

 だが、それでも余裕のないシラとしては腹が立ったのだろう。彼女の拳に力が入った。


 その時だった。

 それまで黙っていた『W・D』が口を開く。まるで状況が膠着することを読んでいたかのような態度だ。


「おい、ハセ・ミコト」

「わたしの中の『案山子』に呼びかけても無駄。だって、わたしにもどうしようもないし」


 『W・D』は彼女と問答をするつもりがないのだろう、一方的に言葉を続けた。


「エリア・ジーノ大佐とミッチェンに起きたことは調べた。いや、ディアナ・フェルミ大尉も加わったディアマンテ郊外での作戦、そう『天麗の飢饉』の際に起きたスラムでのことなら俺が協力してやるぜ」


 マクシムたちは『W・D』が何を言っているのか全く分からなかった。

 ただ、その次の瞬間だった。

 ミッチェン・ミミックの雰囲気が変化していた。

 まるで何も怖いものがないとばかりに薄い笑みを浮かべている。

 その平板な表情に、マクシムは背筋が寒くなる。


 ――この女は、何かがおかしい。


 その気持ちはマクシム以外の人間にも共通したものだったのだろう、それぞれが大なり小なり警戒する。

 ナタリアが腕を掴んできたので、マクシムはわずかに抱き寄せながら状況を見守る。

 ミッチェンは周囲の緊張とは無関係とばかりに、平板な声で言う。


「さすがは『士』最高の名探偵です。私のことをよく調べています」


 やはり、とマクシムは直感が正しかったことを確信する。

 そこにいたのは世界最恐の殺し屋『案山子』の当代――ハセ・ミコト。明らかにミッチェンとは別人格だ。


「いや、ほとんど推理だがな。ハセ・ミコトは『案山子』というシステムの要ではあるが――それ以前に、ミッチェン・ミミックの味方ということも理解しているからだぜ」

「なるほど。あなたは警戒に値します」


 そこで少し慌てた様子のイーサン。


「おい、『W・D』、どういうことだよ? 説明と報告は?」

「こっちの話だぜ。エリア大佐と『案山子』の件は任せろ」

「おい、大佐は『士』最高戦力の一人だからな。一方的に任せるほど無責任なことができるか」

「なら、責任は取れ。でも、俺に仕切らせろ」


 かなり『W・D』は無茶なことを言っていた。

 だが、イーサンは少し考えて「分かった」と受け入れる。

 それが最善手であるという自覚、それに『W・D』への信頼、ついでに頭領としての覚悟もあるからだろう。


「話はまとまりましたか?」

「ああ。俺が力を貸す代わりに、お前の力も貸してくれ。そういう話だぜ」

「承知しました。それで私の力をどう使いますか?」


 そこで『W・D』は少し言い淀んだ。


「……『大魔法つかい』を調べたいぜ」

「お断りします」


 即答だった。

 妙な間が空く。

 珍しく『W・D』はどこか気まずそうだった。


「……………………どうしても無理か?」

「どうして究極の魔法使いと敵対するようなことをしなければならないのですか? 明らかにつり合いがとれていません」

「……むぅ」


 呻いた『W・D』は少し迷ったように視線を動かし、


「これは『うち』の()()()()()()が言っていたんだが……」

「?」

「『案山子』が協力を断ることは俺も推理できていたが……やはり()()ということなんだろうな」


 まるで独り言のようだった。

 だが、視線はイーサンに向けられて二人だけで納得するように頷いている。

 ハセ・ミコトは怪訝そうに『W・D』とイーサンを見る。


「二人だけで納得しないでください。説明を求めます」


 マクシムとしてもハセ・ミコトに同意だったが、『W・D』は説明しなかった。

 ただ、こう続けた。


「世界最強の殺し屋『案山子』よ。呪詛の根源――()()()()()()()()()()()()()()()()、こちらに協力してくれないか?」


 平板だったハセ・ミコトの目が大きく見開かれる。


「その証拠は?」

「俺が初瀬川はせがわについて知っていることだけでも証拠にはならないか?」

「分かりました。協力しましょう」


 よく分からないが、ハセ・ミコトは協力してくれることになった。

 初瀬川というのがそれほど彼女にとっては重要なのだろう。

 ただ、マクシムはそれ以上に協力者という存在に興味が湧いた。一体、名探偵以上の説得力を持つ? それは?

 だが、その正体を訊ねる前に『案山子』による『大魔法つかい』探査は始まった。


   +++


 『案山子』は予備動作もなくヒトガタを作り出した。

 以前見たものとは違い、それは人間と見間違うほど精巧な造りだった。


 長い耳。

 白い肌。

 金色の長い髪。


 『大魔法つかい』は美しい女性だった。

 そして、男性にしては小柄なマクシムとあまり背丈が変わらないくらいサイズが大きい。

 これが等身大だとしたら、『大魔法つかい』は話に聞く印象よりも頭身の高い大人びた女性だったことになる。

 年齢は二十歳くらいに見えるが、実際は百歳を超える。

 いや、そもそも、年齢は関係ない。不老不死を体現しているからだ。


「もっと少女のイメージでしたわ」


 とナタリアが感想を言った。

 マクシムは同感だったので首肯する。十代前半で成長が止まったと勝手に想像していた。


 誰が声をかけるか一瞬だけ視線を交わし、声を発したのはイーサンだった。


「あなたが『大魔法つかい』か?」


 それに答える声も美しかった。


『あなたがクレートの後継者?』ため息。『まるでダメじゃない。クレートの足元にも及ばない……弱いわ。ばっかみたい』


 暴言を吐いた。

 声音に反し、言葉の中身は汚かった。

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