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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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信じられない再会

 時間を少しさかのぼる。

 マクシムが試験会場となった島の自然を少しでも元通りにしようとしていると――恋人としての責任感混じりの罪悪感からだ――背後から肩を叩かれた。

 振り返ると、そこにいたのはイーサン・ガンドルフィ、『士』の頭領である。


「ちょっと頼みたいことがあるんだが、話できるか」

「構わないけど……?」


 一応上司になるかもしれないから、もうちょっと敬意を払った方が良いのだろうが、警戒心が先に立った。

 少し身を引きながら受け答えしてしまう。


「いや、頼みたいこともあるが、それよりも先に訊きたいことを聞くべきか。ニルデが『武道家』になった話なんかは聞けたが、どうしてそうなったのかも教えてくれよ」

「それ、断ることはできる?」

「お前の知らない、俺の知っている情報を共有してやる。『案山子』なんかもな。だが、断ったら知らん。勝手にしろってだけだ」

「分かったよ。ナタリアに相談するから――」

「それもダメだ。こっちの都合で悪いが、お前が責任を負って判断しろ」


 イーサンは真剣なまなざしをしていた。

 それは本気、ということなのだろう。

 いや、本気というよりも、切実。緊迫。切迫……そういった張り詰めたものが感じ取れた。

 だから、マクシムは頷いた。

 切実さが感じられるということは、あまり交渉の余地がないからだ。飛び込んで、確認するしかない。


「分かったよ」

「良かった……」


 イーサンは安堵の息を漏らした。

 肩の荷を下ろしたほどではなくとも、何か負担が減ったような吐息である。


「ナタリア、診察するよな。今から指定する病院へ行け。そこの駐車場で話をしよう」

「駐車場?」

「詳しい説明はその時にする。それまで話せることはまとめておいてくれ」


 マクシムは「了解」と頷いた。

 そして、その場でマクシムは信じられない再会を果たし、自分の置かれた立場について全てを開示することになった。


 ――こちらもそうするしかなかったからだ。


   +++


 ナタリア、シラと共にマクシムはイーサンの所有する車へ向かった。

 マクシムは緊張で動悸が激しくなっていた。

 ナタリアたちがどういう反応をするのか、分からなかったからだ。

 驚いて喜ぶのか、悲しむのか、怒るのか、本当に読めなかった。

 ただ、先に説明をするのは避けてしまっていた。

 彼女たちのことを知らない時とは違う。

 子どもができるほど深い関係になったからこそ――とても信じられない事態をどう伝えて良いのか分からなかったのだ。


 イーサンは車の前で待っていた。

 車は小型のバスくらいのサイズがあり、窓には曇りガラスが使われているのか中が見えない仕様だ。

 いろいろと手のかかった特製品らしい。


「大きな車ですわね」

「だろ」

「それで、ワタクシたちに何を見せてくれるのですか」


 イーサンはナタリアの疑問を無視し、ため息をつく。


「……マクシム、説明しなかったのか?」

「見た方が早いかなって」

「いくらなんでもそれは怠慢だろ……」

「分かっているよ」

「でも、言えなかった、と。……ま、お前に任せたからそれも自由か」


 ナタリアは不快そうに眉間にしわを寄せる。


「あの、お二人だけで会話しないでくれませんか。爪弾きされているみたいで気分が悪いですわ。ね、シラ? シラ……?」


 シラは呆然とした顔をしている。

 普段からあまり表情の動かない彼女にしては、信じられないほど無防備な姿だった。

 ナタリアが驚いたように一歩後退った。が、すぐにシラを支えるように寄り添う。


 マクシムは悟った――シラが気づいたことを。

 獣人種特有の敏さか、それとも、シラだからこそ気づけたのかは分からない。

 顔色を変えながらシラは叫んだ。


「まさか……!」


 シラはほとんど飛びつくようにして車のドアを開けようとするが、施錠されていて開かない。

 そのまま思い切り窓を殴り割ろうとしたところを、イーサンが拳を受け止める。いてぇ、と顔をしかめながら、


「おい、シラ、止めてくれ。それは困る」

「開けろ!」

「開けるから落ち着け」


 イーサンは車の扉を開けた。

 シラが飛び込むのをナタリアとマクシムも追った。

 マクシムは位置的に後ろになったので、その背中にイーサンが声をかける。


「お前が上手く説明してくれよ」

「うん、分かっているよ」

「すまないな」


 それがどういう謝罪だったのかは分からない。

 だが、その沈痛そうな声を聞くと、イーサンも苦しかったのだろうな、と思った。

 そして、車内からは悲鳴のような声が聞こえてきた。


「ニルデお姉ちゃん!」「お、お姉さま……」


 マクシムはほぼ同時に聞こえてきたその二人の声に込められた想いを感じ取り――怖くなってきた。

 本当に、どう説明すれば良いのだろうか?

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