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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
127/235

『弾丸』

 聖剣『テイルブルー』は防御性能に特化している。

 まず第一点として、その保有者となった瞬間からある種の異能力を退ける。

 要は、その使い手は呪いや魔法に対して、絶対的なアドバンテージを手にする。

 つまり、『士』は『大魔法つかい』や『案山子』の天敵だった。

 ただし、これは聖剣の付随機能でしかない。あくまでも補助的なものだ。


 完全発動させた『テイルブルー』は剣の形を失う。そして、微粒子として周囲の空間――おおよそ半径五〇メルに拡散する。

 使用者を中心としておおむね球状に散った『テイルブルー』は、微粒子の状態で聖剣の能力も保持している。

 その粒子一つ一つで、規定された教義ドクトリンにより攻撃判定されたものを自動的に迎撃する。

 剣だろうが、弓だろうが、銃だろうが、砲だろうが、魔法だろうが、毒だろうが、その空間内に攻撃が届くことはない。

 これは英雄として『士』が経験してきた、聖剣に蓄積された戦闘情報のおかげだ。

 聖剣『テイルブルー』自体が魔王討伐という過酷な戦いで成長していた。


 ちなみに、英雄『士』クレート・ガンドルフィは鞘に入った状態で常時完全発動させられたが、イーサンには不可能だ。

 剣を抜き、意識を集中させなければ難しい。

 だが、それでも腰にびているだけで、自身に降りかかる災いの大部分を退けられた。


 聖剣『テイルブルー』の防御を突破するためには、ドクトリンに引っ掛からない攻撃である必要がある。

 故に、()()()()()()()()()()が可能な達人である『武道家』は『士』にとっての天敵になる。

 このような形で、英雄たちは化け物揃いだが、それぞれで相性が存在していた。


 また、クレートには可能だった、微粒子状態での聖剣の攻撃運用もイーサンには無理だ。

 というよりも、それはクレートだから可能という例外でしかなかった。

 史上最強クラスの天才剣士だからこそ叶う技。

 聖剣を生み出した『旅人』でさえも想定していなかった絶技。


 聖剣の能力は、あくまでもドクトリンに沿って迎撃。

 それでも、その絶大なる防御性能を引き出せる人間はいなかった。

 クレートの死後五十年以上、イーサン以外に聖剣の使い手になれる人間は存在していなかった。


 イーサン・ガンドルフィは『士』という組織が必要とし続けた希少な才能の持ち主である。

 ただ、イーサンは自分自身で攻撃する手段が必要だった。

 その点について、彼の異能力で解決していた。

 それがあったから、イーサンは聖剣の使用者としてだけではなく頭領として『士』全隊員から認められていた。



 その能力名は――『弾丸』。



   +++


「攻守交代だ。ゆけ、我が一撃、我が『弾丸』を!」


 ――と、イーサン・ガンドルフィは叫んだ。。

 その時、聖剣『テイルブルー』が一瞬だけ収束し、剣の形を取り戻す。

 だが、それは本当にまばたきをするほどの刹那であり、すぐ消滅。

 ただし、その消滅には指向性があった。

 真っすぐ竜たちが密集した地点――つまり、ナタリアの手前の地面に向かって一筋の青光が照らされる。

 爆発的に光量を増す。

 それは本当に一瞬の煌めきだった。


 能力名『弾丸』。

 簡単にいえば、受けた攻撃を蓄積し、無形の『弾丸』として形成し、射出する能力だ。

 衝撃を蓄積すればするほど、その威力は高まる。

 理論上その蓄積量は無限であり、個人が保有する異能力としては最大級の攻撃力を誇る。


 だが、問題点がいくつもあった。

 まず衝撃の蓄積に失敗すれば、その反動を直に受ける。場合によっては自身の命すら危うい。

 更には反撃に使用するために、照準を合わせるのが異常に難しかった。

 だから、イーサンの能力は『射手』ではなく『()()』。撃つ者ではなく、その身を捧げ・削ることで操る物なのだ。


 元々『弾丸』は欠陥能力というカテゴリーにあった。

 それが解消したのはイーサンが聖剣『テイルブルー』を手にできたから。

 彼は様々な意味で奇跡の子だった。

 そして、真価を発揮した『弾丸』は凄まじい精度と威力を持って、地面を穿つ。



 ()()()()()



 フフッ――と、ナタリアは微笑む。

 最愛の人物はマクシムだったが、イーサンとの付き合いも長い。

 もしかしたら、結ばれていた可能性さえもある程度には近しい。

 だから、分かっていた。

 何をするかは分からないが、何らかの策を用意していることは分かっていた。 

 その程度には信頼していた。

 予感が的中したからこその微笑である。


 ナタリアは竜たちを下がらせない。むしろ、少し前に出させた。

 それはまるで攻撃を読んだかのような、タイミングに合致した動き。実際に、声に反応して動かした。

 攻撃が届くまでは一瞬であり、ナタリアも歩みを進めたため『弾丸』の直撃コースとなった。


 イーサンは目を見開く。

 だが、一度発射された『弾丸』は止めることができない。

 そもそも、竜たちの攻撃を受け続けたそれは、人類が行使できる最大級の威力にまで高まっていた。

 『弾丸』が直撃した場合、肉片も残らないだろう。

 避けることも受け止めることもできない。

 ナタリアが『竜騎士』であろうとも、肉体そのものが特殊なわけではないのだから――。


 イーサンの頭の中が真っ白になる。

 当てるつもりなどない。

 ナタリアの実力行使に対して、思い通りにさせないという示威のためのパフォーマンスだった。

 自分が傷ついても、彼女が傷つくのは避けていた。

 まさか反応できるとは思っていなかった。


 それなのに、ナタリアが死ぬ。

 愛する少女(ニルデ)の妹が死ぬ。

 いや、大切な幼なじみが死ぬ。

 それは後悔しかない想像だったし、一瞬の間にそれだけ考えられる、加速する感覚があった。



 ――だったが、想像とは違った光景が目に入る。



 それは後ろに控えた十頭の竜たちの動きだ。

 まるで、ナタリアの背後に控える形で、こうべを低くし、何かを捧げるようだ。

 いや、それは波動として現れた。

 目に見える形で空間が歪む。

 波動の正体は魔力。

 竜が生み出した膨大な魔力がナタリアに集中する。

 集中した魔力を使ってナタリアは腕を振るう。


 轟音と共に生み出される一撃。


 イーサンの攻撃が直撃する瞬間、ナタリアは無形の『弾丸』を赤い波動で上空へ弾き飛ばした。

 『弾丸』は消滅し、その余波でナタリアの足元の地面が削れる。

 ナタリアの周囲から魔力の波動が消える。


「え?」とイーサンが顎が外れそうになりながら驚いていると、ナタリアは言う。


「あなたが『弾丸』ならワタクシは『咆哮』ですわ」

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