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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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『庭師』VS『絶対』 その三

 マクシムは爆薬を作動させながら竜を呼び出した。

 最初から追い込まれた場合、竜を召喚する計画だった。

 もちろん、その必要がなければ良かったのだが、ジャンマルコ特務大尉の正体が不明過ぎた。

 そもそも、マクシムの打つ手が何も通用しなさ過ぎた。

 仕込んでいた最終手段だったが、発動させるしかなかった。

 竜《最強の魔獣》であれば大概の敵は一蹴できる。


 この秘策の問題点は竜が強すぎるということ。

 もちろん、きちんと竜を使役できるのであれば別だが、マクシムは竜を呼び寄せることも、意思疎通することもできない。

 不正行為がバレれば、一発退場だろう。


 ちなみに、竜を呼び出した方法は『竜姫』ナタリア・サバトを介した。

 ナタリアへの伝達方法は()である。

 あらかじめ彼女に渡していた種を遠隔操作で開花させ、合図とした。

 それはナタリアが上手くそこらの他の草花と紛れさせていたため、誰も気づくことができなかった。

 あるいは『W・D』であれば気づけたかもしれないが、あの場にいなければそれも不可能だった。


 竜のキンバリーは音を切り裂きながら上空より飛来した。

 竜を止めることができるモノなど存在しない。

 キンバリーはマクシムまでの距離を最短で詰める。

 『竜姫』ナタリア・サバトの命により、マクシムの敵を殲滅するために!


 竜の最大速度で生み出される、衝撃波を伴った轟音。

 マクシムは爆薬だけでなく、竜が生み出す衝撃波も樹木で受け流すことに成功する。

 そうでなければ、鼓膜を破るなどの被害を受けていただろう。

 失神してもおかしくないほどの圧を発するキンバリーは、森の樹々を薙ぎ倒しながら着陸。


 周囲の生き物たちが本能に従い一斉に逃げ出す。

 逃げ出さなかった生き物はただ一人だけ。


「わぁ、竜か。凄い迫力だね」


 ジャンマルコ・ブレッサ特務大尉。

 儚い美少年は不敵な笑みを浮かべている。

 自身の数千倍、いや、それ以上かもしれない体積を有した敵に対しても怯む様子を見せない。

 そして、彼は竜に告げる。


「どちらにせよ、僕には()()に勝てないけどね」


 竜がその挑発に応じるように吠えた。

 竜の咆哮は生き物を本能的に委縮させる効果がある。

 それは弱肉強食の理に照らし、絶対的に抗えない叫び。

 最強の魔獣を前にしてもジャンマルコは一歩も退かない。


「かかってきなよ」


 そして、最強の魔獣が『絶対』に襲い掛かる。


   +++


 マクシムは度重なる衝撃でボロボロになった樹から這い出る。

 マクシム自身もボロボロの状態だった。

 そして、そこで息を切らしながら――目撃する。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 マクシムは既視感に襲われる。

 もうずいぶんと昔に感じられる、ある廃村で目撃した情景によく似ていた。

 小さな人間が最強の魔獣をぶん殴っているのだ。

 ドゴン、ドゴンと拳で発しているとは思えない、重い音を立ててキンバリーをぶん殴っている。

 だが、決定的に異なっている点が一つ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 爪も牙も火も尾も、あらゆる攻撃がまるで通用していない。

 特にキンバリーは英雄『竜騎士』アメデオ・サバトの盟友。

 つまり、暗黒大陸で戦い抜いた最強の魔獣だ。

 実績も実力も歴史上最高ランク。

 故に、キンバリーに速度がないわけではない。

 マクシムでは先端が見えないほどの速さで爪を振り回している。

 その一撃が鋭くないわけではない。

 その尾は、マクシムの能力で強化された巨木を小枝のようにへし折っている。

 だが、ジャンマルコはそれを軽く避け、受け止めている。

 その威力と重さ、速さがどこに消えたのか不思議なほど、軽い受けだった。

 もしかしたら、受け止める必要さえないのかもしれない。

 それくらいジャンマルコは余裕しゃくしゃくに見える。


 キンバリーの攻撃は無力だったが、ジャンマルコの攻撃は効果的だった。

 ただただ無造作に、手を振り回して見えるジャンマルコの拳が、竜を打ちのめしていた。

 軽く触れているだけのように見えるのに、その一撃一撃で竜の巨体を数メルほども浮かしている。

 蟻が狼を吹っ飛ばすような不条理――それはほとんど冗談のような光景だった。


「冗談、だろ……」


 マクシムはほとんど言葉にならない感想を漏らすしかない。

 ジャンマルコは「ははっ!」と嗤う。

 そして、キンバリーへの攻撃を続けながら横目でこちらを見て言う。


「マクシム、君は本当に『竜騎士』になったみたいだね!」

「…………」マクシムは返事できない。

「この竜、すごい忠誠心だ! 君を守るために倒れないよ!」


 違う。

 その忠誠を誓った相手はきっとナタリアだ。

 もしくは、アメデオの死を看取ったマクシムへの感謝も少しくらいは混じっていたのかもしれない。

 だが、マクシムはそんなことを立場上言えない。

 ただ、手に汗を握って、キンバリーの反撃を祈るのみ。


「すごいすごい! 『竜騎士』の伴侶に選ばれただけじゃなく、その植物操作の特異能力もすごい! 『士』の佐官なんて枠組みに入ってなんのメリットがあるんだよ! 君は英雄と同等の実力者だよ!」


 ジャンマルコの言葉は賞賛だった。

 だが、竜に関してはナタリアの力を借りているので何も言えない。

 そもそも、最強の魔獣を圧倒している絶望的な光景を前に絶句するしかない。


「それでも僕には絶対に勝てないけどね!」


 そして、終わりの時は近づく。

 トドメとばかりに大きく振りかぶったジャンマルコの拳が振り下ろされる前に、キンバリーは大きな音を立てて地面に転がる。

 地響きを立て、瀕死の重傷を負いながら失神。

 『魔王の眷属』との闘いで癒えたばかりの傷口が開く。

 それを見ながらジャンマルコは言う。


「おっと、この竜はもしかして、この間の『魔王の眷属』たちとの戦いで活躍した英雄の……。いや、名前なんて覚えてないけどさ。とりあえず、すごい竜と契約を結んだんだね。ま、僕には知ったことじゃないけど、うん、()()()()()()()()()()()よ」


 ジャンマルコはとても可愛らしい顔立ちをしている。

 可愛らしい笑顔のまま、そんな酷薄な一言を発していた。

 マクシムは背筋が寒くなり、絶句するしかなかった。


 最終手段として召喚した最強の魔獣、英雄アメデオの盟友――キンバリー敗北。

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