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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
112/235

最後の

 ジャンマルコ・ブレッサ特務大尉が『武道家』を打倒した。

 その話をマーラ・モンタルド大尉から聞かされ、マクシムは言葉を失っていた。

 絞り出すように、一拍置いてから訊ねる。


「っと、『武道家』を捕まえたって、何のためにさ?」

「ボクは知らない。頭領に訊いてよ」

「頭領って誰なのさ……いや、違う。それどころじゃない。僕はジャンマルコを倒さないとダメなんだ。いや、待てよ」

「君、頭領のことは知っているでしょ。だって――」

「ちょっと黙っていてくれるかな」


 無駄な会話をしている余裕はない。

 『武道家』を打倒するほどの人間が迫っているのであれば、急いで結論を出す必要があった。

 マクシムは焦燥感に襲われながら考える。

 最初は曾祖母の兄アダム・ザッカーバードの死の理由を掴むためにいろいろな場所を訪ねてきた。

 その過程で『士』に入ろうと思ったのは『案山子』の情報を得るためだ。

 それは『大魔法つかい』の情報を得るために必要だと考えたからだ。

 だが、『武道家』が囚われているとしたら――より真相に近づけるかもしれない。

 何故ならば、『武道家』を捕らえているのであれば、ニルデの件も知っているはずで、それを妹のナタリアに伝えないのは不可解だからだ。もちろん、見習いの幼なじみ(イーサン)が知らされていないだけの可能性はあるが、『竜騎士』には伝えそうな情報である。

 その理由は不明だが、やはり何かを『士』が隠している可能性が高い。


 つまり、『士』に入る理由が更にできたことになる。

 知りたい情報を総取りするためには――勝つしかなかった。


「やっぱり、ジャンマルコ特務大尉を打破する必要があるわけか。なるほど」

「何を納得したのか分からないけど、ボクを無視しないでくれるかな」

「余裕があんまりないんだ。だから、マーラにも脱落してもらうね」


 マクシムはあえて流れの中でサラリと伝えた。

 するとマーラは「抵抗したいけど、もうボクには手がないね」と諦観のような透徹した苦笑を浮かべた。

 少佐昇任試験は一人しか残らないのだから、見逃されないことは承知していたということか。

 緩められたとはいえ拘束された状態では、抗う手段がないと理解していたのだろう。


「うん。ちょっとあなたのことを警戒する余裕がないからさ」

「ついで扱い、ね。プライド傷つくなぁ」

「ごめんね。どうしても僕は勝ちたいんだ」


 マクシムは樹木を操作し、樹液から睡眠性の薬物を生み出した。常温でも揮発する薬物だ。

 自分が吸い込まないよう注意しながら、枝を扇ぐように上下動させることで風を生み出し、それをマーラ大尉へと向ける。

 彼女は呼吸をしないことで時間を稼ぐ可能性もあったが、特に対抗しなかった。

 ただ、眠りにつく前に一言だけ。


「あぁ――――――――悔しいなぁ」


 そう言ってすぐ眠りについた。

 マクシムが寝た振りかどうかを確かめる。

 確かにマーラは寝ていた。

 寝息を立てているし、手足から力も抜けている。

 マクシムはそのまま樹木を操って、彼女を監督役たちのいる待機場所まで移動させることにする。

 少しだけ見送ったが、問題はなさそうだ。


 これでマクシムが確認したところ、四人が『士』の少佐昇任試験に脱落したことになる。

 残ったのはマクシムとジャンマルコ・ブレッサ特務大尉の二人だけ。

 一対一という集中できる状況になったことで、マクシムはどうやって勝つか作戦を練ることにする。

 正直、何をされたのか分からないため、作戦を練りようもない気がするが、それでも考える。

 世界最強の『武道家』を上回った、能力正体不明の特務大尉。

 かなりの難題だったが、あえて強がってマクシムは笑う。


「あー、どうすれば勝てるかなぁ。どうしようもないなら……最終手段に頼るしかないかなぁ」


   +++


 その時、ジャンマルコはマクシムを見失い、困ったなぁと後頭部を掻いていた。

 おそらくだが、もうマーラ大尉も脱落した可能性が高い。

 マクシムがどれくらい甘いか分からないが、本気で『士』の佐官を狙っているなら流石に見逃さないだろう。


 だが、ジャンマルコとしてはそちらの方が良かった。

 万が一、マーラ大尉がマクシムと手を組んで来られた場合の方が厄介だったからだ。

 不確定要素が減ったという点で良かった。


 ただし、元々の任務は『士』の大尉の誰かを勝ち上がらせることだったのを考えると――なかなか頭が痛かった。

 ちゃんと確認したわけではないが、もう二人きりの可能性が高い。

 任務失敗。

 もっと早い段階でマクシムを倒すための行動を取るべきだったが、マクシム・マルタンがあれほどの能力者とは思っていなかった。

 おそらくだが、頭領を含めた誰も予想していなかったはずだ。


「あー、どうすれば良いのかなぁ。僕が佐官になるのは許可されてないしなぁ。頭領、許可してくれないかなぁ」


 ジャンマルコはブツブツと独り言を呟いている。


 ――いや、この状況を『W・D』は読めていたのかも。


 だから、『W・D』はマクシムの勝利を予想したのかもしれない。

 その情報をこちらに渡さなかったことを理由に勝利しても良いが、その勝利が認められるかは不明だった。

 考えることが面倒くさくなったジャンマルコはボソッと最後に一言。


「――――――マクシム、殺して全部終わらせちゃダメかな」


 美少年の可愛いらしい顔に似合わない、物騒な呟きだった。

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