僕の事、君の事
久し振りに小説UPです。
短編なので、この回のみですが、楽しんでもらえたら嬉しく思いまするよ。
僕の事、君の事
「......」
空を見上げると快晴で雲ひとつ無い。
「......暑いなぁ......」
僕は空から視線を前に向けて、そんな事を呟きながら一人歩いていた。
今は午前7:30、ここは学校に行く途中の道。
......そして......気温......27℃......しかも蒸し暑い。
この時間でこの気温は参る。
昨夜も熱帯夜で寝苦しい事この上無かった。
眠い。だるい。何もかものやる気が失せる。
それでも学校に向かうのは、ただ単にそれ以外にやる事がないからと言う理由だ。
決して学校が好きでも勉強が好きでもない。
学校を休んだって結局暇を持て余すだけなんだ。
だったら、普通に学校に行っていた方がいい。
額に滲む汗を指先で拭いながら、重い足取りで学校への道を進む。
学校への道も半ばといった所、大体10分くらい歩いただろうか、
自転車の横に立って自転車を睨みつける、僕と同じ位の年齢の女の子
が僕の視界に入った。
女の子は忌々しそうに自転車を睨みつけ、そして蹴りを入れた。
「こんのっ! ポンコツっ! 何でこんな所で壊れるのよっ!」
......何ともまぁ......この暑い中、随分と元気な女の子だ。
ともあれ、僕の知った事じゃない。
僕は気にも留めず女の子の横を素通りする事にした。
......が、僕が女の子の横から一歩先に出た辺りで、
不意にその女の子から声が掛かる。
「ねぇ.......君さぁ......
女の子が困ってるのに素通りするなんて、随分と冷たいんじゃない?」
声を掛けられて立ち止まる理由は僕には無い。
というか、彼女の言葉は何気に僕に喧嘩でも売るかのような口調だ。
......勿論、僕には彼女に喧嘩を売られる理由も見当たらないし、買うつもりもない。
それでも、不意に声を掛けられた為に一拍ほど歩みが止まった。
そして普通に歩き去ろうとする僕に対して、彼女は僕の肩を掴み、
「ちょっと! 無視するんじゃないわよ!」
と随分と語気の荒い声を掛ける。
......実力行使と来たか......
僕は溜め息を吐いて一拍置いてから彼女の方を向く。
「......僕に何か用ですか?」
僕がそんな風に声を掛けると、彼女はさっきよりも語気を強めてこう言い放った。
「可愛い女の子が困ってるのに無視するなんて、随分と冷たいじゃないっ!」
......何と言うか、自分で自分を可愛いと言うとは、随分と自分に自信があるらしい。
まぁ、確かに可愛いと言えなくも無い。でも、僕にはどうでもいい事だ。
「自分で自分を可愛いと言うとは、随分と自意識過剰ですね。
それともあれですか? 新手の逆なんちゃらですか?
生憎と間に合っていますし、僕は君に対して全く興味が無いですから、
是非、他をあたってください。」
僕がそう言うと、彼女は目と口を大きく開けたままで固まっている。
2秒ほど待ったが彼女からの反応がなくなったので、僕は再び学校へ向かおうとした。
「ちょっ......だから待ちなさいってば!」
そう言って彼女は僕の右手首を掴む。
「......離してくれませんか?」
僕が彼女の方を向いてそう話すと、彼女は僕を睨みつけながら、
「ヤダっ!」
と言った。
「どうしてですか?」
「離したら行っちゃうでしょ!?」
「勿論、学校に行かないといけませんからね。」
「私も学校に行かないといけないのは同じよ!」
「なら、僕なんかを引き止めずにさっさと向かったらどうですか?」
「この状況を見て分かんないの!?」
彼女は彼女の隣にある自転車を指差して僕にそう言った。
「......僕の知った事ではありません。」
「何でそう冷たいのよ!」
「......君は僕に助けを求めましたか?」
「呼び止めたじゃないの!」
「君はただ単に、『無視するなんて随分と冷たい』と言っただけでは?
こう言っては何ですが、喧嘩を売っているようにしか聞こえませんでしたよ?」
そこで彼女は僕を睨みつつも口ごもった。
2秒程沈黙があり、彼女が何も言ってこないので、僕から話しかける。
「君は黙っていたら声を掛けてくれると思ってたのですか?
助けを求めるならば、最初から普通に話しかけたらどうですか?」
すると、彼女は俯きながら、こう呟いた。
「だっ.......だって......今までなら大体向こうから声をかけてくれたし.......」
「だったら、僕に声を掛けずに、声を掛けてくれる人を待てばいいじゃないですか。」
そこで、少し泣きそうな顔をしながら、彼女は僕の方に顔を向けてこう話した。
「だってっ!私だって急いでたしっ! 声を掛けてくれると思ってたしっ!
なのに声を掛けてくれなかったんだもんっ!
声を掛けてくれたっていいじゃないっ!」
......全く以って、随分と我が侭な女の子だ。
自分から声をかけなくてもいいと思ってる所が物凄く可愛げない。
僕は目を伏せて溜め息を吐き、そして、
「......だったら、最初から助けてくださいと言えばいいんです。
自分から声を掛けなくても誰かが助けてくれるなんて甘い考え
は是非捨ててください。」
と言い、その後、自転車の方を見て、
「で? どうしたんですか?」
と彼女に聞いた。
彼女は、僕の言葉を聞いて泣きそうな顔から目を丸くして驚いた顔に変化した。
「え?」
僕が何を言ったのか分からなかったのか、何故かボーっとしている。
「だから、どうしたんですか、と聞いているんですが。
呼び止めたのは、困っているからなのでしょう?」
僕の言葉が信じられないのか、彼女は驚いた顔のままで、
「......助けてくれるの?」
と聞いてきた。
「......必要ないなら僕は学校に向かうので。それでは。」
僕がそう言って踵を返そうとした所で、彼女は慌てて
「っ! 待って! 助けてよ!
自転車のチェーンが外れて車輪が回らなくなっちゃったのよ!」
と少し大きめの声で僕に言ってきた。
「......そうですか。」
僕はそう言いながら、再び彼女の方を向き、そのまま自転車の後輪
を見る為にしゃがみ込む。
「......かなり錆びてますね。雨ざらしですか?」
「そんなの普通のことでしょ?」
「自転車は鉄なんだから雨ざらしじゃ錆びて当たり前でしょう。」
「......」
何も言い返せないのか、彼女は押し黙ってじっとこちらを睨みつけている。
まぁいい、さっさと修理して学校に向かおう。
僕はカバンからツールナイフを取り出し、ツールナイフのペンチ部分
で後輪のナットを回し、後輪とフレームの間に挟まったチェーンを外す。
そして、ペダルを回しながら後輪のギアにチェーンを巻きつけ、
緩めたナットを締め直した。
「お〜、すごいすごい! 直った〜!」
彼女は手を叩いて喜んだ。
僕は立ち上がりながら彼女に
「これで大丈夫ですが、後は自転車屋さんで見てもらってください。
それじゃぁ、僕はこれで。」
と言い学校に向かう事にした。
「っ! 待ってよ!」
が、再び彼女に手を掴まれ、呼び止められた。
「まだ何かあるんですか?」
僕は彼女の方に向き直る。
「そっ、そうじゃないわよ!」
少し大きな声でそういった後、俯きながらモジモジする。
「......えっと......あの......ありがとう!」
大きな向日葵のような笑顔。
不覚にもトキメイテしまった僕がいる。
高鳴る鼓動を抑えて平静を装いながら、
「......いえ、それでは。」
と踵を返しながら答えるのが精一杯だった。
次の日。
昨日、彼女と出会った場所に近付くと、その場所には自転車を停め
て寄りかかる彼女の姿が見えた。
またトラブルだろうかと思いながらも、僕から声を掛ける理由など何も無いので、
そのまま彼女の横を素通りしようとした。
が、いきなり腕を捕まれた。
......というか、腕に抱きつかれた。
僕はいきなりの行動に唖然としながら立ち止まって彼女の方を見る。
「おはようっ! 冷たいけと優しい人っ!」
彼女は、昨日僕に礼を言った時のような、大きな向日葵のような笑顔
を僕に向けていた。
不覚にも、再びトキメイテしまった僕。
「......おはようございます。どうしたんですか?」
「一緒に行こう?」
「構いませんが、自転車はどうするんですか?」
「いいじゃん、そんなの気にしなくたって。」
「そうはいきませんよ。」
「はいはい、いいから行こっ!」
そうして彼女は抱き付いている僕の腕を引っ張りながら歩き出す。
「ところで......」
状況が飲めないながらも平静を装い、彼女の方を出来る限り見ないでいたが、
いきなり彼女から声が掛かった。
「......なんですか?」
僕の動揺を悟られないように、できる限りいつもの自分を意識して答えた。
「好きになっちゃった! 付き合って?」
僕は目を丸くして驚き、立ち止まって彼女を見る。
「......趣味が悪いですね。」
「いいじゃん! 好きになっちゃったんだもん!」
彼女は僕の言葉に少しムッとした感じで答えながらも、
再び大きな向日葵のような笑顔を僕に向けた。
「......っ!」
どうやら、僕は彼女のこの笑顔に弱いらしい。
顔が赤くなるのを感じながら、僕は前を見る。
「......赤くなってるよ?」
少し意地の悪い彼女の声が僕に届いた。
「......何の事でしょうか?」
僕は少し足早になりながら告げる。
しかし、彼女は僕の腕に抱きついたままだ。
彼女は離れないので全く意味がない。
「......惚れたな?」
再び意地の悪い彼女の声が僕の虚を突き、僕は更に動揺する。
「っ!」
「分っかりやす〜い!」
「......うるさいですよ。」
しかし、僕の顔は更に赤くなっているに違いない。
「で、返事は?」
再び立ち止まる。
そして僕の腕に抱きついたままの彼女を見る。
「......」
彼女は僕に笑顔を向けたままだ。
その笑顔は、「分かってるんだからね。」と言わんばかりだ。
「いいんじゃないですか? 君がそれで良ければ。」
「うふふ、素直じゃないな〜」
彼女の声は、不満を示すような言葉を吐きながらも、とても機嫌が良い事を示してた。
そうして、僕と彼女は再び歩き出した。
「そういえば、僕達はお互いの名前を知らないですね。」
「そういえばそうだね。私の名前は......」
出会いは最悪だったかもしれないけれども、出会った事自体
はとても幸運な事だったのかもしれない。
暑い季節だけれども、彼女が抱きしめている僕の腕は、
彼女の心地よい体温で温かく感じた。
この短編小説は、元々はフェリシモ文学賞に投稿するつもりで書いたものですが、
フェリシモ文学賞の2000文字という制限の倍になってしまい、
結果的にボツ作品となってしまいました。
が、この作品はこの作品で面白いと思うので、こちらにUPしようと考えた感じです。
この小説の題材は"冷と温"です。
この短編から冷と温を感じられたら嬉しく思いまするよ。
ちなみに、フェリシモ文学賞には全く違った感じのを投稿しました。
入選すると嬉しいけれども、まぁ、こういうのに投稿した
のは今回が初めてなので、とりあえずは経験値の為
と考えておりまするよ。