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エトゥス日記

 

 



 1日目


 ファブニルに家を作ると言ったところ、「うむ」と一言だけ返された。

 ちょっと寂しかったが、僕は未来の家に夢を膨らませる。

 ベイカル伯爵に頂いた道具を広げると、ノコギリや(かんな)(のみ)、木づちといったものから、どう使うのかも分からないものまで豊富な種類が用意されていた。

 替え刃なども周到に用意されていて準備は万全だ。

 さっそくノコギリで倒木に挑戦。

 指三本分くらいまで切り込んだが、刃が食い込んでノコギリが動かなくなった。

 日が落ちてきたので今日は終了。





 2日目


 ジョルグが手伝いを申し出てくれた。

 僕がなるべく真っすぐに通った木に目星をつけると、ジョルグが手刀でへし折ってくれた。

 運搬もジョルグが軽々と大木を持ち上げて運んでくれる。

 僕は広場の外れでへし折れた部分から亀裂が届いてない場所を切り落とす作業に没頭した。

 10本程がそろうと、樹皮をはぎ取る作業に取り掛かる。中々に力仕事だ。

 ジョルグも手伝ってくれるが、はっきり言って雑だ。

 結局ジョルグがはがしたものを僕が仕上げる流れ作業に落ち着いた。





 4日目


 ファブニルは相変わらず寝ている。

 作業をしていたらヒュドがやってきた。

 やはりご先祖様も家を欲したらしく、ヒュドは一度作ったことがあるらしい。

 もっとも300年も前の家なので、今はもう朽ち果ててしまったらしいが、ヒュドのアドバイスを聞きながら作業を続ける。





 5日目


 ある程度木材の目途が立つと、ヒュドのアドバイスで焼き入れを行った。

 なんでも焼き入れをすると腐食を遅らせる効果があるらしい。

 焼き入れはジョルグが行ったのだが……まさか口から火を吹くとは。

 途中森に火が回りそうな事態に陥ったが、ファブニルが消し止めてくれた。

 そのあとジョルグがファブニルに殴られて遥か遠くに吹き飛んでいたが、無事だろうか? 心配したが何食わぬ顔で夜中にジョルグは帰って来た。





 8日目


 今日から土台造りだ。

 火事の一件からファブニルもちょこちょこ協力してくれる。

 ちょっと嬉しい。

 なるべく平らな石を敷き詰め、その上に基礎となる大きな石を設置する。

 石の加工をどうしようかと思っていたが、ファブニルの爪はいとも簡単に石を抉りとっていた。

 夫婦喧嘩は絶対にしないと心に誓う。





 9日目


 昨日の夜は頑張りすぎた。

 全身あざだらけなので今日はお休み。





 14日目


 少しづつだが丸太が積み上がり、壁が出来てきた。

 扉の場所をくりぬくのを忘れていたことに気づいてやり直したが、こうやって出来上がっていくのは充実感がある。

 ファブニルも心なしか嬉しそうだ。





 17日目


 とうとう雨が降り出した。

 雨季に突入したのだ。

 作業は一旦中止になり、僕は住処でしょぼんとしていた。

 それを見かねたのかファブニルが竜化。

 雨雲を吹き飛ばし上空には青空が広がっている。

 ありがたいけど、足が震えたのは内緒にしておこう。





 30日目


 時折ファブニルが雨を止ませてくれたので屋根作業が終わった。

 さっそくファブニルと家の中に入ると、心地よい木の香りが鼻をくすぐる。

 一部屋しかない建物ではあるが、広がる空間に僕は喜びを隠せなかった。

 まだ中の仕上げ作業も残っているが、今日はここで寝ようとファブニルに提案する。

「うむ」と頷くファブニルも嬉しそうだ。

 夜になり雨が降り出すと僕は頭を抱える。

 雨漏りだらけだった。

 明日はヒュドにアドバイスをもらい、屋根の改修作業にとりかかろう。





 38日目


 屋根の木材を2重にして、角度なども色々変えてみる。

 雨漏りも無くなり、あとは扉の設置と内部の仕上げを残すのみだ。





 50日目


「完成したね」


「うむ」


 僕とファブニルの目の前には丸太小屋が建っていた。

 大きな家とは言い難いが、今までの住処の何倍もの大きさだ。

 天上だって高い。

 扉を開け中に入ると快適な空間が待ち構えている。

 まだ箱のような部屋だが、一つだけ置かれたものがある。

 ベッドだ。

 乾燥した草を布に詰め込んだだけのお手製ではあるが、腰を下ろしてみれば中々の柔らかさだ。

 ちなみに乾燥した草はジョルグが必死に集めてくれた。

 多分雨季ではない地方まで足を延ばして調達してくれたのだろう。


「家もいいものだな」


「でしょ? 雨季には間に合わなかったけどね」


「しかし我は初めて楽しい雨季を経験したぞ」


 僕とファブニルはそのままベッドに一緒に寝転んだ。

 お互い顔を見合わせ口元を緩ませる。

 家が作れた充実感もあるが、何よりファブニルと一緒に作った喜びは大きい。


「ファブニル」


 僕はそっとファブニルの髪に手を添えた。

 新居で妻とベッドの上なんて興奮しない方がおかしい。

 しかも初めての室内だ。

 天井に設置された光る土が微かに照らす部屋で、僕はファブニルに覆いかぶさった。 





 翌日。里に族長の叫びが聞こえると噂になったので、新居の防音設備も整えようと僕は心に誓うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『刃が食い込んでノコギリが動かなくなった』 あるあるですね! チェンソーですらよくある! [一言] 防音! 大事ですね!
[一言] 若いなあ( ˘ω˘ )
[一言] 意外と逞しいな……
感想一覧
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