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鉄砲玉勇者 勇者と悪の組織が協力して魔王復活を阻止しますが何か?

作者: 蟷螂

ちょっとした思いつきで序章的なものを書いてみました。悪の組織と魔族が対立、悪の組織側の尖兵が勇者という多分新しい形式だと思います。

夜、とある廃墟ビルの一室にて


ひとりの男が異形のモノを剣で切りつける。


その動きに反応できず異形のモノは袈裟斬りで切られ形容しがたい声をあげて倒れた。


これで戦闘は終わり、あっけないものだ。


男は全身が鎧で覆われており一見して中世の騎士を思わせるような格好であった。


そこに誰かが入って来る。


入ってきた者も異形、だが倒された異形のモノとは違う印象を受ける。


例えるなら、そう蜘蛛のような外見。



「おー、さすがやな。眷族を一発で倒すか。」


「こんな雑魚に手こずっていたら勇者とは言えないさ。」


男は入ってきた異形の者を見ると嘆息して答える。


その異形の者を見ても男は警戒する様子はなかった。



「向こうの世界で勇者やってたヤツから見たらコイツは雑魚やろが、わしら怪人から見たら手こずる相手やで。」


自分を怪人と名乗った異形の者、蜘蛛怪人は倒された異形のモノを眺めながら答えた。


その男、勇者は持っていた剣を空間に仕舞う、同時に纏っていた鎧も消えた。


剣も鎧も消えた勇者はその外見を晒す。


彼は端正な顔をしておりホストクラブにいそうな風貌である。


つまりチャラい印象を受ける。そう指摘されたら本人は否定するだろうが。


「ニールお疲れさん。後始末はこっちでやっとくからあんたはもう帰ってええで。」


蜘蛛怪人はニールと呼ばれた勇者に先に帰るように促す。


「分かった、もうマンションに戻る。また魔族やその眷族が見つかったら連絡くれよ。」


蜘蛛怪人は分かったとばかりに手をひらひらしてニールに帰るように促す。


ニールがその部屋から出ると通路に5名ほどの男たちが立っていた。


皆同じバトルスーツを着てこれまた同じフルフェイスマスクで顔を覆っている。


怪人曰く戦闘員というらしい、むこうの世界で例えるならば兵士といったところだろうか。


その異形の者はニールを見ると少し頭を下げてそして部屋に入っていく。


倒した魔族の回収と痕跡を無くすのだろう。


ニールは彼らにお疲れさんと心で呟きながら廃ビルを出てきらびやかな街中に向かって歩き出す。


そしてニールは廃ビルの方向を振り返り呟く。


「勇者が悪の組織の下で動くとか、どうしてこうなったんだか。」


彼はそう呟きながら街の喧騒の中に消えていった。




 威神組いしんぐみ。関西を中心に日本を影で牛耳る悪の組織の大手である。

 

 けっして893ではない、立派な悪の組織である。

 

 幼稚園のバスジャックを行い、貯水池に毒を放り込み、一般に流通していない禁制品を扱い、売上をマネーロンダリングをして、科学者を拉致して秘密兵器や怪人の製造を行い、国の要人を怪人などとすり替えて国を裏から操る、コテコテの悪の組織なのである。

 

 痛みを伴う改革を掲げてアジ演説しているあの人も悪の組織の一員なのである。

 

 

 この威神組の活動範囲で最近奇妙な事件が起きている。

 

 銀行強盗をしようとしたら先に奪われている。

 

 禁制品や武器が輸送中に強奪される。

 

 政治家とすり替わった怪人が行方不明。

 

 さらには無差別な殺人、強姦まで起こる始末。

 

 悪の組織として面目丸つぶれの事件が何度も起こっているのだ。

 

 

「何アホ晒しとんじゃボケ! 犯人の目星もつかんのか!」

 

 と、威神組の若頭補佐、ではなくサブリーダーの蜘蛛怪人は調査に向かった戦闘員たちに向かって灰皿を投げつける。

 

 ゴンッ、と灰皿は壁にぶち当たり割れる。

 

 戦闘員たちは冷や汗を流しながら直立不動である。

 

 その中の戦闘員Aが手を上げて蜘蛛怪人に現状を話す。

 

「アニキ、いや蜘蛛怪人さん、対立している組織の奴ら何人か捕まえてもいっこうに吐きませんねん。どうもこの辺の組織の者とちゃいますわ。」

 

「じゃあ何か? 儂らを舐めた一連の案件はヒーローがやったって言うんか?」

 

「ヒーローはわしらの妨害するけど強奪とかこっそり怪人倒すとかしまへんで。」

 

「じゃあ誰がやったちゅうねん。あぁっ?」

 

「わ、わかりまへん。でもわしらも舐められるわけにいかんから必死に探してます。もうちょっと待ってもらえまへんか。」

 

「アホ! お前らなこの件をわし首領と幹部たちに報告せんとあかんねんぞ!! わかりまへん、って言えるかぁ!!! さっさと犯人探して来いや!!!」

 

 蜘蛛怪人は怒声を上げる。

 

 それを聞いて戦闘員は「Eーッ!!」と叫びながら蜘蛛の子を散らすように部屋から出ていき、各自また調査に向かって行った。

 

 

 戦闘員たちが出ていき静かになった室内で蜘蛛怪人は椅子にどさりと座り、机の引き出しから胃薬を取り出し、ボリボリと噛み砕き飲み干す。

 

「ほんま胃が痛いわ。しっかし、犯人誰やろな。他の悪の組織がやったんやないとなると・・・分からん。三日後会議やからそれまでに報告できるようにせんと。あー、胃が痛い。」

 

 悲しき中間管理職、蜘蛛怪人なのである。

 

 

 翌日、戦闘員たちは対立組織やヒーローの動向を探り、また一般人に紛れ込み市内で何か変わったことはないかと調査を開始した。

 

 戦闘員の調査は芳しいものでは無く、その間にも自分たちのシマを荒らされる事件が起きるのではないかと蜘蛛怪人は胃薬をバリバリ噛み砕くのであった。

 

 二日目の昼頃ひとつの噂を掴んだ戦闘員Cが蜘蛛怪人に報告にやってきた。

 

 最近大きな何かが街の廃ビルに向かって飛んでいる様を見たという噂があるのだと。

 

 戦闘員から報告を受けた蜘蛛怪人は別組織の怪人「こうもり男」あたりが廃ビルを拠点に周囲を荒らし回っているのではないかと考えた。

 

「でもおかしいな、こうもり男は昨年ヒーローに倒されたはずなんやが。まあ、ええわ、お前ら今晩その廃ビルに強襲掛けるから準備しとけや。」

 

 戦闘員たちはその命令に「Eーッ!」と返事をして蜘蛛怪人の執務室から出ていく。

 

「どこの組のもんか知らんが、見つけたらギタギタのケチョンケチョンにしたるわ。」

 

 と悪の組織だけどそうじゃないセリフを吐きながら蜘蛛怪人はまた胃薬をバリバリ噛み砕くのであった。

 

 

 その晩

 

 その廃ビルの手前に2台のトラックがやって来て停止する。

 

 トラックの荷台から20名ほどの武装した戦闘員が音を立てずにぞろぞろと出てくる。

 

 最後にトラックの助手席から蜘蛛怪人が出て来た。

 

 それから蜘蛛怪人と戦闘員たちは廃ビルに向かって歩んでいく。

 

「蜘蛛怪人さん、廃ビルは通電されておらずセンサーの部類も設置されてまへん。また最近ビルに出入りした形跡が見当たりませんわ。」

 

 戦闘員Aはそう報告を行う。

 

「おっかしいな。それやったら羽生えた怪人がひとりでここに住み着いとるってことかいな。」

 

 そう首を傾げる蜘蛛怪人。

 

 彼が疑問に思うのは当然で、悪の組織で単独行動というのはあまり考えられない。

 

 基本ひとりの怪人が小部隊の戦闘員10〜50名を指揮して動くのである。

 

「まあ、ええわ。ビルをしらみ潰しに調査するで。」

 

 蜘蛛怪人の指示の元戦闘員達は廃ビルの中に侵入していく。

 

 戦闘員達は二人一組で各階の部屋を確認していく。

 

 しかし、どこも廃墟で最近使われた形跡がない。

 

 その報告を受けながらますます蜘蛛怪人は首をかしげることになる。

 

「このビルに怪人らしきものがいたというのは見間違いか何かちゃうんか?」

 

 そう言って戦闘員Cの方をチラリと見る。

 

 気まずそうにしている戦闘員C。

 

 少し嫌味を言ったが、そんなことを責めても意味がないので蜘蛛怪人は戦闘員たちに続けて各階を確認するように指示した。

 

 

 そして怪人たちは廃ビルの最上階にまでやって来た。

 

 その階に誰もいなかったら徒労で終わり、蜘蛛怪人はまた胃薬を噛み砕くことになるだろう。

 

 その階で一番広いエリアに戦闘員二人が入ると何かが立っていた。

 

 異形の者。

 

 背中にコウモリのような羽が生えている。

 

 それを見た戦闘員たちは別組織にいた蝙蝠男かと思った。

 

 が、身体つきが蝙蝠のそれではない、角が生えている、肌は爬虫類のように鱗で覆われている。

 

 たぶん似たものを見たことがある。

 

「ガーゴイル?」

 

 戦闘員たちはそれが何かわからないものの敵対する者である、それだけは分かった。

 

 そして所持していたサブマシンガンを構える。

 

 

『ふん、最近何者かが嗅ぎ回っているから噂を流したが、釣れたか。』

 

 耳から聞こえてくるものではない、耳以外から聞こえてきた、そんな感じ。

 

 この異形の者(以降ガーゴイルと呼称する)が何者かは分からないがひとつだけはっきりしていることがある。

 

 こいつは敵だ。

 

 

 戦闘員のふたりは一斉に射撃を行う。

 

 金切り声のような射撃音がフロアに響く。

 

 本来はこのような事は上官である怪人の指示を仰がなければいけない。

 

 だがこいつはヤバい、倒さなければならない。

 

 サブマシンガンによる連続射撃を一旦終える。

 

 そしてガーゴイルの様子を確認する。

 

 

『ましんがんというヤツだったかな。俺にはそういうものは効かんよ。』

 

 異形の者の手前で銃弾が止まっていた、異形の者の前に光る文様らしきものが銃弾を防いでいるのだ。

 

「あ、あほな。マシンガンの銃弾が防がれてるやんけ。」

 

 戦闘員たちが驚愕している次の瞬間、戦闘員たちの目の前に暴風のような勢いで異形の者が彼らをなぎ倒した。

 

 ふたりとも壁に激突して倒れる。

 

 ピクリとも動かない。

 

 

『こちらの兵士は弱いな。まだヴァースの人族たちの方が根性あったぞ。』

 

 ガーゴイルは心底がっかりしたとでも言いたそうな態度を取る。

 

 

 そこに銃撃を聞きつけた蜘蛛怪人たちがやって来た。

 

「なんやなんや許可なしで銃ぶっ放すなや、って何やあれは?」

 

 蜘蛛怪人もガーゴイルを見て驚く、後ろについてきた残りの戦闘員たちも同様である。

 

 そして壁側にふたりの戦闘員が倒れているのを見た。

 

「てめえ、うちの者に何さらすんじゃぁ!!」

 

 激昂する蜘蛛怪人の声とともに戦闘員たちはサブマシンガンを構えて一斉にガーゴイルに向けて発射する。

 

 サブマシンガンのけたたましい音が室内に響く。

 

 しかしガーゴイルには効かない、異形の者の周囲にある光る文様が銃弾を全て防いでいるからだ。

 

「何やあいつ、あれだけ撃って効かんってもしかして幹部クラスの怪人かいな。」

 

 これはまずい、幹部クラスの怪人だと自分たちでは勝てないかもしれない。

 

 蜘蛛怪人は冷や汗をかきながらどう対処するか考えようとした。

 

 

『ふん、お前ら俺だけを相手にしてていいのかよ?』

 

 ガーゴイルがまた例の奇妙な喋りを行うと、室内にぞろぞろと何者かが入ってきた。

 

 異形のモノ、それは様々な形態のモノがいた。

 

 人型だが緑色の体色であるとか、手からカマキリのような窯が生えた者、巨大なオオカミのようなものもいる。十人十色(?)といったところだろうか。

 

 異形のモノは一斉に戦闘員たちに襲いかかった。

 

 戦闘員達はサブマシンガンで異形のモノたちに向けて射撃を開始。

 

 ガーゴイルに比べて銃撃は一定の効果を現し、異形のモノたちの身体に穴が開けられていく。

 

 しかし、傷は浅いのか異形のモノたちは傷を気にすることもなく戦闘員たちに襲いかかった。

 

 何人かの戦闘員はその異形のモノに切りつけられ、噛みつかれる。

 

 それを見た蜘蛛怪人は戦闘員に襲いかかっている異形のモノに向けて粘着性の糸を口から勢いよく吐き出し、これで異形のモノたちを動けないようにした。

 

 そして糸に絡まり動きが封じられた異形のモノたちに蜘蛛怪人は音速のごとき動きで近づき打撃を加えた。

 

 打撃の勢いで異形のモノの首はありえない方向に曲がる。

 

 すかさず蜘蛛怪人はもう一体の異形のモノへ今度は蹴りをお見舞いした。

 

 もう一体は勢いよく吹き飛ばされ5メートル先の壁に激突、そのまま動かなくなった。

 

「なんや、コイツらは大したことないやんけ。おい、お前ら固まって陣形を作れ。」

 

 それを聞いた残った戦闘員達は一箇所に集まり陣形を作り周囲の異形のモノと対峙する。

 

 戦闘員たちににじり寄る異形のモノたち。

 

 そこに突如後方から暴風が巻き起こり、陣形を組んでいた戦闘員たちが異形のモノともに吹き飛ばされる。

 

 その暴風のようなものはガーゴイルから放たれた不可視の何かだった。

 

 戦闘員および異形のモノは全員倒れてしまう。

 

 

『おい、眷属ばかり気にしていて俺のこと忘れてねえか?』

 

 ガーゴイルは残った蜘蛛怪人を見下したように言う。

 

「うっさいな、ワシが相手したるわ。」

 

 立っているのはガーゴイルと蜘蛛怪人のみ。

 

 覚悟を決めた蜘蛛怪人は言うやいなや強粘着の糸を吐き出しガーゴイルの動きを封じようとする。

 

 しかし、強粘着の糸もガーゴイルの手前の光る文様に防がれてしまう。

 

 そこにすかさず音速のごとく近づいた蜘蛛怪人が蹴りを入れる。

 

 が、光る文様によって防がれてしまう。

 

 それを見たガーゴイルはニヤリといやらしい顔をした。

 

「ちいぃぃ、ワシの音速の蹴りでも通じんか。」

 

 そこにガーゴイルの左手が蜘蛛怪人に襲いかかる。

 

 それをとっさに避け、蜘蛛怪人はバックステップで5メートル以上距離を取った。

 

「腕力ありそうやが、スピードは大したことないわ。でも当たったら死ぬかも」

 

 非常にまずい、ガーゴイルは自分だけでは倒せそうにない。

 

 あらゆる攻撃が光の文様に防がれるのでは打つ手がない。

 

「あいつら見捨てて撤退するしかないんか。」

 

 それ査定にかなり響きそうやなとクズなことを考えていると自分とガーゴイルの間に青い光が生じた。

 

 スタン・グレネードかと思ったが、そこまで光は強くなかった。

 

 

「何やあれは?」

 

「まさかここを特定したのか? どこまでも邪魔してくれる。」

 

 蜘蛛怪人は驚愕を、ガーゴイルは怒りを滲ませる。

 

 次第に青白い光は弱くなり、5秒ほどで消える。

 

 するとそこには長身の者が立っていた。

 

 身長は180cm前後、全身を覆う鎧を纏っている。

 

 しかし、中世の鎧とはまた違う印象を持つ。

 

 

「どっちや?」

 

 敵なのか味方なのか? もし敵だったら詰む。

 

 蜘蛛怪人はどちらでもあっても対処できるように構え直したのだった。

 

 


 鎧の着た者(以降騎士と呼称する)に向かってガーゴイルが暴風のように襲いかかった。

 

 これに瞬時に反応した騎士は空間から光り輝く剣を引き抜き襲いかかってくるガーゴイルの左腕に向けて一撃を加えようとする。

 

 しかしガーゴイルの前に光の文様が現れて剣の攻撃を防ごうとする。

 

「あかん、また防がれるで。」

 

 しかし、光り輝く剣はその光の文様をまるでバターのように切り裂き、そして光の文様はフッと消え去る。

 

『くそっ、やはり聖剣を持ってきてやがったか。』

 

 ガーゴイルは悪態を付き、更に騎士が聖剣で斬りつけようとするのを回避しようと後ろに動く。

 

 しかし、左腕が斬りつけられ傷口から血が勢いよく流れる。

 

『ぐっ、やはり単体で勇者相手はキツイか。』

 

 ガーゴイルは斬りつけられた左腕の傷を右手で抑えながら呻く。

 

 そしてガーゴイルの身体の周囲が光り輝く。

 

 そこに追撃とばかり騎士はガーゴイルに袈裟斬りを行う。

 

 剣はガーゴイルを捉えた、がガーゴイルの身体はすぅと薄れていく。

 

『ちっ、転移か。待てネビロス!!』

 

『お前がこちらに来たとなると戦略を変えないとな。次に会ったときはコロス。お前もだ蜘蛛ヤロウ。』

 

 そう捨て台詞を吐いた後ガーゴイルは姿は完全に消え去った。

 

「どうなっとんねん、変な騎士が現れたと思ったら、次はガーゴイルが消え去るとか。もう意味分からんわ。」

 

 ため息混じりに愚痴を吐く蜘蛛怪人に向かって騎士は剣を向ける。

 

『お前も眷属のひとり、ではないようだな。何者だ?』

 

「はあ? そりゃこっちのセリフやで。お前初対面の人にもの尋ねる態度ちゃうやろ? まずお前から名乗れや。」

 

 蜘蛛怪人は騎士の剣など恐れることもなく堂々と反論を行う。

 

 少し気圧される騎士、剣を降ろして対話に応じる姿勢を示す。

 

『異形の者に説教されるとは。私はニール。ヴァールという国、いや君たちから見れば異世界からやって来た勇者だ。』

 

「はぁ? 勇者? 今どきRPGでも勇者なんざ流行っとらんで。」

 

『RPG、何だそれは?』

 

「RPG分からんか。そりゃそんな格好している世界ではなさそうやな。お前の世界で盤上で駒を動かして陣取りするゲームないか?」

 

『カラムというのがある。』

 

「そういうゲームがめっちゃ進化したゲームや。まあ、そんなことはどうでもええ。あのガーゴイル、お前がネビロスと言った異形の者はあれ一体何や?」

 

『あれは魔族だ。』

 

「魔族ときたか、ますますRPGやな。あれかニール、お前はあのネビロスっちゅう魔族を倒しにこの世界、地球にやって来たっちゅうわけやな。」

 

『多分そうなる。ただアイツだけではない、五体の魔族がこの世界に来ている。私はその魔族たちを倒すために来たのだ。』

 

「ちょっと待て、お前ひとりで魔族五体倒すんか? この世界かなり広いぞ?」

 

『いや、五体とも比較的近い場所にいるはずだ。』

 

「なんでそんな事を言い切れるんや。」

 

『奴らはこの世界に転生した魔王を復活させるために送られたからだ。』

 

「次は魔王が転生しているとか、もう異世界転生ものやんか。」

 

『何だその異世界転生ものとは。まあいい、この世界に転生した魔王は恐らく魔王としての記憶をなくして生活していると思われる。その魔王を目覚めさせるために魔法陣を構築して儀式で目覚めさせるのが奴ら魔族の目的だ。』

 

「いろいろ突っ込みたいが、その話はそこでストップや。」

 

 そう言って蜘蛛怪人は腰元から携帯電話を取り出して電話を掛ける。

 

「あ、ワシや。ターゲットは発見、すぐに戦闘となり一名を除き倒したが一名は逃げてしもうた。こっちも被害甚大で戦闘員は全員・・・死んどるかもしれん。すぐに回収を頼むわ。」

 

 そう言った後に蜘蛛怪人は携帯電話を直し、再度勇者ニールを見ると彼は訝しげな顔をしている。

 

「なんや、変な顔して。」

 

『いや、その板切れに話しかけているのがおかしくてな。』

 

「これはスマートフォンや。コイツを使えば同じ板切れを持っているヤツと話すことが出来るんや。」

 

『何? 異世界にはそのような・・・、いやそれは良いとしてお前の仲間なのだが、まだ息があるなら何とかなるかもしれん。』

 

「まじか? もしてかして回復魔法とか使えるんか?」

 

『そうだ。しかし、知っているということはこの世界にも魔法があるということなのか?』

 

「ないがなそんなもん。おとぎ話としてあるだけや、魔法があるんだったらワシがちょちょいとやっとるがな。」

 

『それもそうだな。では回復魔法を掛けてみる。』

 

『ヒール!!』

 

 ニールは呪文が唱えると、それまで倒れていた戦闘員の多くがうめき声を出したり、中には立ち上がる者も出てきた。

 

『・・・5名は残念なことになった。』

 

「いやいや、16名も助かったのなら御の字や。死んだ者はしゃあない、わしら悪の組織やからな。」

 

 蜘蛛怪人は頭をかきながら感謝の意を伝えた。

 

『その、悪の組織というのは何だ? 悪いが君の見た目も魔族めいているのだが。』

 

「誤解を覚悟して言うならワシラはそっちの世界で魔族に該当する存在や。」

 

 そう答えた途端、ニールは剣を蜘蛛怪人に向ける。

 

「そういうのはええねん。剣を収めろやニール、ワシラは少なくとも今は対立する状況ではないやろ。」

 

 それを聞いて逡巡するニール、少し間をおいて剣を降ろした。

 

 そこに後始末に来た別働隊の戦闘員たちがぞくぞくとやって来る。

 

「Eーっ!! 、蜘蛛怪人さん後始末に来たんやけど、全員死んだって聞いたんでっけどけっこう生きてますな。」

 

 戦闘員Dが最初に聞いた報告内容と違うことに首を傾げていた。

 

「あんときは全員死んだ思ってんけど、生きとったわ。それでも5名ほど残念なことになったんやが・・・まあ運命やな。」

 

 それから別働隊の戦闘員たちは助かった戦闘員たちの救助、死んだ戦闘員たちや同時に倒された敵たちの回収を行った。

 

 

「ふと思ったんやが、あのガーゴイル、ネビロスと言うたか。あれは魔族としてあの異形のモノは何や?」

 

 蜘蛛怪人は回収されていく異形のモノの死体を指さして尋ねる。

 

『あれは眷族だ。魔族は人や亜人に欲望を叶える契約を持ちかける。その契約を行うとその欲望は叶えられるがその代わりに魔族の命令に従う存在、眷族となる。そうなったモノは心のありようも変わってしまうから元には戻せない。この眷族たちは恐らくこちら側の人を契約によって眷族にしたんだろう。』

 

「怪人のわしが言うのもなんやが、気持ちの良いものではないな。」

 

『・・・君は見た目は魔族に近いが考えは人間よりだな。』

 

「悪の組織や言うても人間社会を混乱させたり滅ぼすのが目的やない、人類を裏から支配するための組織や。」

 

 蜘蛛怪人は少し感慨深く言った。

 


「ところでニール、お前今後はどうするんや?」

 

『そうだな。この様子だと五人の魔族は眷族を増やして組織的に行動していると考えられるから地道に潰していくしか無いかな。』

 

 そう言うとニールはため息をこぼした。

 

「仲間は来てないんか、戦士とか僧侶とか?」

 

『私ひとりだ。この世界に来れるだけのレベルを保有している者は私だけだった。』

 

「おいおい、それ無理ゲーやろ。」

 

『それは分かって入るが、だからといって魔王が復活するのをほっておいたらまたヴァースが魔族に侵攻されてしまう。』

 

 ニールは手を握りしめて答えた。

 

 少し黙考する蜘蛛怪人、そしておもむろにニールに提案を行う。

 

 

「ニール、お前ワシらと組まへんか?」

 

『はぁ?』

 

 ニールは大きな間抜け声を上げるのだった。

 

 

『ちょっと待て、私がお前たちに従うということか?』

 

「ちゃうちゃう、ちゃうねん。魔王を倒すまで協力せえへんかという話や。」

 

 蜘蛛怪人は手を振りながら答える。

 

『君たちは悪の組織だろ、一時的とはいえ勇者の私が悪の組織と協力するなど考えられん。』

 

「お前、状況読めてへんやろ。お前がどんだけ強いかは知らんがこの世界に隠れ潜んでいる魔族と眷族をたったひとりで相手しとったら魔王復活を阻止できへんで。それでもええんか?」

 

『そ、それは・・・困る。』

 

 よし、もうひと押し、と蜘蛛怪人はさらに説得を試みる。

 

「わしらは魔族にシマを荒らされて困っとる、お前は魔王復活を阻止したい。ならわしらが組織力を使って魔族を探す、お前は見つけた魔族を倒す。ウィンウィンやろ?」

 

『なんだ、そのウィンウィンというのは。』

 

「お互いメリットがあって損はせいへんという意味や。」

 

 それを聞いたニールは考えてしまう。

 

 勇者が悪の組織に協力してもらうなどあってはならないことである。

 

 しかし、今そんなプライドなど何の役にも立たない。

 

 1分ほど考えたニールは答えを出す。

 

『分かった。お前たちに協力を仰ごう。』

 

「よっしゃ、交渉成立や。魔王を倒すまで仲良くしようやないか。」

 

 蜘蛛怪人は手を差し出しニールに握手を求めた。

 

 ニールは複雑そうな顔をしながらもそれに応じる。

 

 

 こうして勇者と悪の組織との魔王復活阻止のための戦いが始まるのであった。

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