表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

サードマン・スタンディング

 ゲートは簡単に開いた。

 あの手紙の送り主は、やはり父親だったのだろう。あるいは父親の依頼を受けた誰か、だ。


 岩盤がくりぬかれ、通路になっている。

 つるはしで掘ったものではなく、ドリルで掘ったものだろう。

 電気も来ている。


 それはいいのだが、鉱山のいたるところに、まるで誕生パーティーのような飾りつけがされていた。のみならず「財宝はこちら」と書かれたバカみたいな案内板。

 罠だろうか?

 もし罠だとしたら、いったい誰が?


 案内に従って進むと、ひときわ派手な飾りの一角に行きついた。

 テーブルの上に「子供たちへ」と書かれた封筒が置かれている。


 俺は警戒しつつ、その手紙を開けた。

 内容はこうだ。


マーガレット、ロバート、ベンジャミン、そしてクリストファー

私の愛する子供たち

おめでとう、ここがゴールだ

できれば四人が手を取り合って、この課題をクリアしたことを願っている

この世界は素晴らしい

もしかするとつらいこともあるかもしれない

けれども、お前たちには家族がいる

四人で力を合わせれば、どんな問題だって解決できる

今回の課題を通じて、そのことを知ったはずだ

メグ、素敵なレディになってくれ

ボブ、人に流されないように

ベン、みんなに優しく

クリス、ママを怒らせないように

手に入れた財宝は平等に分け合うこと

ズルはいけないぞ


 俺は丸めて地面に叩きつけたくなるのをこらえ、メグにも読ませてやった。

 するとメグは一通り読んでから、ぐしゃぐしゃに丸めて力いっぱい地面へ叩きつけた。

「なによこれ! いったいどういうつもり!? 私たちをからかってたの!?」

 読ませてもらえなかったエイミーは、けなげにも地面から紙を拾った。


 俺も今回という今回はあきれ果てた。

「きっと父さんは、俺たちがガキのままだとでも思ってたんだろう。成長を見届ける前に、別の家庭を作ってたくらいだからな。その結果が、みんなで仲良く宝探しだ」

 このクレイジーなレクリエーションを、きっと大真面目に考えていたのだろう。だからあえて遺言をのこさなかった。いったいどんな混乱をもたらすかも考えずに。


 さて、しかしまだ終わりじゃない。

 俺たちは、まだ財産の輸送手段を用意できていないのだ。

 あるいはその必要さえないかもしれないが。


 少なくともこの一角に金塊は見当たらなかった。

 あるのは、ファンシーな絵柄の小さなおもちゃ箱がひとつ。

 嫌な予感がする。


 箱を開くと、無造作に小さな筒がひとつ転がされていた。

 トイレットペーパーの芯じゃない。

 まさか万華鏡だろうか?


 おそるおそる覗き込んでみる。

 マイクロフィルムだろうか?

 細かい文字と数字が並んでいる。

 複数の銀行口座と、その関連情報。

 桁がデカすぎて即座に把握できないが、莫大な額だ。指示通りに申請すれば、いつでも引き落とせるようになっているらしい。


 俺はメグにも渡した。

「安心してくれ。ちゃんと金は手に入る」

「本当に?」

 彼女も中を覗き込み、それからエイミーにも見せた。


 ハッピーエンドってやつか?

 だがすべての問題が解決したとは言いがたい。


 莫大な財産が手に入る。

 その取り分は、ライバルが減れば減るほど大きくなる。


 いま俺に護衛はいない。

 しかしメグにはエイミーがついている。

 彼女の判断次第で、俺の命は消し飛ぶ。


「お兄さま」

「うん」

「このお金のことなんだけど……」


 坑道の壁が固いせいか、いちいち声が反響する。

 緊張しているのは俺だけだろうか。


 メグはこう続けた。

「私も、受け取っていいんだよね?」

「は?」

「えっ?」

「違う。いや、違わない。ちゃんと半分ずつだ。そういう約束だったろ?」

「う、うん……」

 俺の対応がマズかったせいで、逆に不信感を与えてしまったかもしれない。

 だが、争う意思はない。


 エイミーがかすかに息を吐いた。

「お嬢さま、よろしいのですか?」

「うん。だってお兄さまと半分こなのよ? 幸せなことだわ。ここまで来て争うのもバカみたいだし」

 もしかすると彼女は、当初の予定とは違う選択をしたのかもしれない。


 *


 ドアを開くと、死体が増えていた。

 いや生きているのか。

「ゾーイ! 大丈夫か!? ゾーイ!」

「平気よ、大きな声を出さないで……」

 ボロボロにされたゾーイが、なんとか声を絞り出した。

 腕を折られたようだ。

 ひどいことをする。


 行く手に立ちはだかっていたのはボブとマーヴィンだ。

「お、お前っ! ベンを殺したな? 許さないぞ!」

 ボブは巨漢を盾にして、なんとか強がっている。

 どちらかといえば、俺はボブを助けてやったはずなのだが。


 するとエイミーを盾にしたメグも、同じように言い返した。

「そっちから仕掛けて来たんじゃない!」

「僕はなにもしてない」

「ベンがしたのよ」

「ちょっと待ってよ、メグ。なんでそんなに怒るの? 冷静に話し合おうよ?」

 ゾーイを袋叩きにしておいて、なにが話し合おうだ。


 とはいえ、いきなり仕掛けても勝算があるかは怪しいところだった。

 マーヴィンは全身に鋼鉄のプレートを装着し、重武装していた。ところどころ出血はあるのだが、まったく気にしていない様子だ。

 痛みを感じていないのだろうか?


 メグも溜め息だ。

「あなた、冷静に話せるの?」

「ひどいよ。き、君は僕のことが好きなんだろ? なんでそんなこと言うんだよ?」

「はぁ?」

「ベンが言ってたんだ。メグは僕のことが好きだって。だからあの夜も一緒に寝てあげたのに。急に泣くからびっくりしたよ」

「この豚……」

 メグはエイミーの服を強く握りしめた。


 だが、これでハッキリした。

 ボブがメグを襲ったのは、ベンの誘導だったのだ。ヤツは救いがたいほど底意地の悪い男だった。間違いなく地獄に落ちているだろう。


 俺は小声でエイミーに尋ねた。

「どう攻める?」

 いまのマーヴィンは重戦車だ。

 よほどうまく撃たない限り攻略できない。


 エイミーは肩をすくめた。

「二手に分かれて背面から攻めましょう」

「誰が動く?」

「私は、お嬢さまの盾になる役目がありますので」

「オーケー。幸運を祈ってくれよ」

 走るのは得意でも苦手でもない。

 マーヴィンは銃を有していないが、ガントレットのようなものを装着している。あれで殴られたら骨折はまぬかれないだろう。


 ボブが地団駄を踏んだ。

「なにコソコソ喋ってるんだ! お前たち、僕のこともベンみたいに殺す気だな!? マーヴィン、やっちゃえ!」

「んーっ! んーっ!」

 命令がくだされた途端、急に興奮し出した。


 俺は頭を空っぽにしてとにかく駆けた。

 弧を描くように、マーヴィンの背面へ。するとマーヴィンもこちらへ向きを変えた。鬼ごっこでもしているかのように。


 銃声。

 エイミーの射撃は、金属装甲にカァンと弾かれた。

 するとマーヴィンは、今度はエイミーに興味を示した。俺はその背後をとって射撃を加える。だが、装甲が分厚い。ヘタすると正面から攻めるより厳しいかもしれない。

 だがさすがに、膝裏は無防備。

 狙いを定めて、銃弾を撃ち込む。


「がはぁっ」

 のけぞった。

 俺はさらにトリガーを引く。

 巨大な体が傾いて、ずんと片膝をついた。

 チャンスだが、しかし弾切れだ。


 俺は岩を拾い、マーヴィンのヘルメットの上から思い切り叩きつけた。ガァンと鈍い音。手にもビリビリと衝撃が来る。だが倒れない。二度、三度と振り下ろす。

 何度も繰り返していると、やがてマーヴィンは動かなくなった。


 パァンと銃声がした。

 もう終わったはずでは?

 誰が撃たれた?


 慌てて周囲を確認すると、ボブが腹から血を流して倒れていた。

 手には銃が握られている。

 落ちていた黒服のを拾ったのだろう。

 撃ったのはゾーイ。


「がひッ……痛い……痛いよ……なんで……」

 ボブは地べたをはいつくばり、穴の開いた袋のように血液を垂らしていた。


 もし父の希望通り、四人が力を合わせていたら……。

 誰も傷つくことはなかったかもしれない。

 みんなで遺産を分け合って、楽しく生きていけた。

 だが、そうはならなかった。


 俺は思わず声をかけた。

「ボブ、君は人に流されないような生き方をすべきだった」

「なにそれ……パパみたい……」

 そうだ。

 パパの言葉だ。


 メグも近づいてきた。

「ボブ、苦しい?」

「苦しいよ……助けて……」

「助けてあげる」

「えっ……」

 メグは拳銃を握りしめていた。

 か細い指。

 トリガーが引かれ、撃鉄が落ちた。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ