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童貞集合! 集う同志たち!

「さて、早速宇津井さんの記憶から分かった好みのタイプを再現していくぞ! 冬子、モデル頼んだ!」


 飲みの席でターゲットを宣言した俺は、冬子とともに冬子の家へと移動していた。

 俺のユニーク魔法は記憶を見ることができるが、あくまで映像として見れるだけ……その時思っていることや話している声等は分からない。

 覗き見た好みのタイプを正確に冬子に伝えるため、また実際にどのようなものを用意すればよいかを確認するため、冬子にモデルになってもらうことにしたのだ。

 さすがに飲み屋で着替えたりは出来ないため、こうして移動することになった。


「別にモデルになるのはいいけど……帝也に絵で描けっていうのは酷な話だしね」

「酷とは何だと言いたいが、どうしても人物の絵はな……上手く書けないからなあ」


 昔から人を対象にした絵を描くのは苦手なのだ。どうしてもぐちゃぐちゃな絵になってしまう。

 おかげで学生の時は美術を成績を上げるのに()()()をする羽目になった。


「ちなみに、その好みのタイプっていうのは本当に正しいの? 帝也のユニーク魔法って記憶を映像として見れるのよね? 見るだけでどうやって好みのタイプが分かったの?」

「宇津井さんの記憶を見てみたら写真を見ていることが多くてな。その写真の大多数に同じ女が写ってたんだよ」


 別れ際に握手をしている時間でしか記憶を覗けなかったので、俺は記憶をコマ送りのように飛ばして覗くことで少しでも多くの情報を得ようとした。

 そうして見た記憶の中で、特に多かったのが写真を見ている時間だ。

 写真の多くには共通の人物と思われる女が写っており、おそらくこの女性に恋をしているのでは? と予測と付けたのだ。

 そのことを冬子に伝えると、冬子は納得は言ったものの疑問も抱いたようだった。

 

「ふぅん、なるほどね。確かにそれなら合ってそうね。でも、それならその写真の人と引き合わせればいいじゃない?」

「宇津井さんが好きでも相手も好きだとは限らないだろ? それに姿を知っているだけじゃ捜索のしようもないからな」


 推測になるが写真でしかその女のことを見ていなかったあたり、宇津井さんの片思いなのでは? と思っている。

 それを実らせるのは手間がかかるし、あくまで目的は童貞を失わせて魔法使いを辞めさせることだ。

 いちいち恋を実らせる必要はない、というと冬子も納得したようだった。

 さて、早速冬子に特徴を伝えていくとしよう。


「まず天辺から合わせていこう。髪型は……そのままで良し、黒髪ストレートだ。次に服装は……和服だったな。冬子、和服はあるか?」

「和服? 成人式の時に着たやつがタンスの中に入ってるけど」

「よし! 早速着替えてくれ!」

「今?」


 そういいながらも着替えてくれるようなので、いったん冬子の部屋から出ていく。

 しばらくして着替え終わったとのことなので部屋に入り、再び記憶から除いた宇津井さんの好みのタイプを再現していく。


「よし、髪型に服装ときて次はスタイルか? まあそれは雇う人をみて考えればいいか」

「そういえば雇うって言ったってどうするのよ。童貞を奪ってくださいなんて依頼で雇える人なんているの?」

「デリヘルか何かで雇おうかと思う。金を積めばオプションってことでいけるだろ! ナンパでもさせよう!」

「そう上手くいくかしら?」

「まあ何かしら結果は得られるだろ。やってみなきゃ分からないことだしとりあえず試そう」


 さて、少し話しがそれたが再現を続けることにする。

 帰りに寄り道をして再現に必要そうなものを買っておいたのだ。さてと……あったあった。


「はい、冬子。これを持ってくれ」

「これは……詰将棋の本?」

「ああ、写真に写っていた女は将棋をしていた。さすがに将棋盤を持たせるわけにもいかないし、とりあえず本を持たせる」


 というわけで冬子に本を持たせた。ふむ、いけるんじゃないか?

 再現を続ける。

 

「よしよし、次にこれだ!」

「カメラ……?」

「カメラで何かを取っている様子を写した写真があったんだよ。おそらく女の趣味だと思う。紐をつけるから首から下げてくれ」

「将棋の本を持ちながらカメラを首から下げた和服の女……不自然過ぎない?」

「将棋をしに行く途中で写真を撮ろうとしていた。……そういうていでいこう」


 紐を通したカメラをネックレスのように冬子の首に掛ける。……少しごっちゃになってきた気がする。

 再現を続ける。


「ま、まあいいだろう。さて、次は……これだ!」

「ぺろぺろキャンディ?」

「ああ、嬉しそうにぺろぺろキャンディをなめてる写真があったんだ。はい、あーん」

「あーんって帝也、あんたねぇ。全く、あーん」


 冬子がぺろぺろキャンディを咥えた。……これは、あり、か?

 まあ、ありだろ!

 

「さて、冬子。俺が記憶から読み取れたのはここまでだ。ここから先は宇津井さんのSNSから情報を探っていこうと思う」


 ぺろぺろキャンディを咥えた冬子が何か言いたげにこちらを見ている。その視線を振り切ってSNSを確認した。覗き見た記憶からどんなアカウント名にしているかは把握済みだ。

 早速検索をかけて……ヒット! 何々……納豆が好き?


「冬子、宇津井さんは納豆が好きなようだ。これは俺の晩飯に使おうと思ってたやつだが……仕方ない。はい、混ぜて」

「ひょっほ! ほんはひほひふはへはひへほ!?」

「冬子、なんて言ってるか分からん」


 俺が納豆を渡したせいで両手が本と納豆でふさがっているうえ、ぺろぺろキャンディを咥えているせいで上手く話せないようだ。

 冬子の口からぺろぺろキャンディを回収して何を話しているか確認する。


「こんな人いるわけないでしょって言ったの! 見なさいよあたしの今の姿を! こんな人がナンパしてきたらドン引きでしょ!?」

「確かにこんな人はそうそういないだろう。でもだからこそナンパが成功すると思わないか? こんな人初めてだ! みたいな?」

「ないわ」


 ないかな? ないか。まあさすがに無理があったと思う。カレーとアイス、好きな食べ物を全て混ぜてもおいしいとは限らない。ただ好みのタイプの特徴を重ねるだけでは上手くいかないだろう。

 まあここからカスタマイズを重ねていけばいいだろう。さすがに納豆は削除しようと思う。

 ……ん? いま宇津井さんが最新のツイートをしたな。ってこれは!


「冬子! いたぞ!」

「いたって何がよ?」

「こんな人!」


 そういいながら冬子にスマホを見せる。そこにはなんと……


「えっ、うわっ、いたわ」

「だろ!?」


 黒髪ストレートの和服姿の女が将棋盤の前でカメラを首からかけ、手で納豆をかき混ぜながらぺろぺろキャンディを口にくわえている写真が投稿されていた。

 げ、現実にいたのかこんな人……!

 俺がそう戦慄していると冬子が何かに気づいたようだ。


「写真と一緒にメッセージもつぶやいているみたいね」

「あっほんとだ。何々? 好きなもの全部婚約者につけてもらいました?」


 ……婚約者?


「……帝也。もしかしてだけど記憶の中にあった写真の女の人ってこの人なんじゃないの?」

「……俺が見たのと一致するな。そうか、婚約者の写真を見ていたのか……」


 しばらく沈黙が流れる。気まずい雰囲気になってしまった。それを振り払うように俺は叫んだ。


「……解散!」





「反省会します!」


 いったん解散した俺たちは反省会を開くべく、俺の家へと移動していた。

 各々服装を着替えたり飲み物を用意したりして準備が整ったため、開始の宣言をする。

 まずは……


「今回の悪かった点! なんでしょうか!」

「事前の調査が不足してたわ。それに尽きるんじゃないかしら」

「はい、そうですね! 記憶から見た映像に頼りきりでした!」


 まずはそれだろう。SNSを調べれば婚約者がいることは分かっただろうにそれを怠っていた。ユニーク魔法に頼りきりだった面がある。


「くそう、ユニーク魔法を使える場面が来て浮かれていたか? 頼りきりじゃだめだな……」

「そうね、帝也のユニーク魔法は映像として見れるだけだもの。情報の裏付けも必要よ」


 そうして反省点を洗い出していく。ユニーク魔法に頼りきりだった点、準備が足りなかった点など一通り洗い出したところで次に移行する。


「よし、じゃあ次は良かった点! 俺から一つ上げると好みのタイプはだいぶ再現できていた点は良かったと思う」

「まあ、それはそうね。まさかこんな人がいるとはね」


 冬子は改めてSNSに投稿された写真を見ながらそう言った。実際俺も驚きだ。途中から少し悪ふざけも入っていたのだが……まさか正解だとは。


「しかも婚約者だとはな。なんで写真でしか見ていなかったんだ?」

「遠距離恋愛中らしいわ。SNSに投稿した写真もわざわざ送ってもらったみたいよ」


 冬子がSNSを見せてくる。確かにそのようなことが書かれているメッセージが投稿されていた。

 遠距離恋愛のためお互いに写真を送りあっているらしい。記憶で見た写真の数々も宇津井さんがリクエストしたもののようだ。


「ありがとう。なるほどな、そういうことか……」

 

 そうしてよかった点も洗い出していく。一通り話した後対策として下記のようにまとめた。


 1.記憶から見た情報の裏付けを取ってから行動を開始する。

 2.童貞を奪う必要のある相手か確認してから行動を開始する。


「まあ今回の反省点の対策はこんなものか」


 とりあえずまとめ終わったので次回から活かしていくことにする。にしても、疲れた……

 魔法使いなので肉体的な疲れはない。しかし精神的に疲れた。少し休憩をすることを提案する。

 冬子も同意見なのかすぐに了承した。互いに酒を飲みながらだらだらと過ごしていく。


 そうして過ごしているとスマホが震える。また宇津井さんのツイートか? そう思いつつスマホを確認する。

 ……おおっこれは!


「冬子、これを見てくれ!」

「なぁに? ……これって」

「ああ、ついに来たぞ! DCVHのメンバー募集に応募してきた人が!」


 DCVHのアカウントにDMが飛んできていた。そこには確かにこう書かれていた。

 DCVHの活動に興味があります。面接を受けさせてもらえませんか? と。





 DMが飛んできてから数日が経ったころ、俺たちは面接を行うため馴染みのカフェに来ていた。

 店内には俺たち以外に人はおらず、相変わらず繫盛はしていないようだ。

 面接が始まる時間までまだ少しあるのでコーヒーを注文しながら待っている。出てきたコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れてかき混ぜていると冬子が話しかけてきた。


「それにしても……よく応募が来たわね」

「そうだな。俺もちょっと疑問に思った。今まで来なかったのに急に来たしな」

 

 何かきっかけでもあっただろうか? 面接で聞いておく内容に含めておくか。

 そう思いつつ雑談をしていると男女二人組が来店してきた。

 男の方はがっちりとした体形をしており、角刈りの髪型で黒いスーツを着ている。

 女の方はなんというか全体的に小さい。ボブヘアーの髪型で服装は男と同じくスーツであった。

 おそらくこの二人が面接を希望した二人組だろう。一応確認を取る。


「すみません、DCVHの面接に来た飯島丸尾(イイジママルオ)さんと馬場(ババ)つみれさんでしょうか?」

「はい、その通りです! 本日はよろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします」


 合っているようだ。飯島さんはずいぶんと元気がいい。存在感にあふれているように見えた。

 馬場さんは少しおどおどとした口調だ。それに、なんというか影が薄い感じがする。

 そこにいるのにいないような……?

 そう考えつつ二人を席まで案内する。片方の席に俺と冬子が、もう片方の席に飯島さんと馬場さんが座る形になった。


「少し飲み物でも飲んでから面接を開始しましょうか。飲み物は何を頼まれますか?」

「ウーロン茶でお願いします」

「わ、私はコーヒーで……」


 注文してからすぐに飲み物が届いた。この店のいいところだ。

 二人が飲み物を少し飲んだのを見て、早速面接を開始することにした。

 

「さて、準備も整いましたのでこれからDCVHの面接を始めさせていただきます。本日はよろしくお願いいたします」


 よろしくお願いいたします! と二人とも返してきた。さて、何から質問するのだったかな。

 事前に用意しておいた質問リストを確認する。知りたいのは上を目指す意思があるか、簡単に魔法使いでなくなってしまわないか、その二点だ。

 その二点さえ問題なければ合格にしようと思っている。次の応募者はそうそう現れなさそうだしな。

 さて、まずは……自己紹介からか。


「まずはお互いに自己紹介から始めましょうか。まずは私から、私の名前は銅帝也、30歳の探索者で、DCVHのリーダーです。そして私の隣にいるのが所冬子。DCVHのメンバーではありませんが協力関係を結んでいるものです。冬子、自己紹介を頼む」

「ええ、分かったわ。……初めまして、所冬子です。帝也と同じく30歳の探索者で、DCVHとは協力関係を結んでいる間柄です」

「ありがとう。……さて、今回の面接での進行は基本的に私が務めさせていただきます。質問の方も私からすることが多くなるでしょう。よろしくお願いしますね? さて次はお二人の自己紹介をお願いします。まずは飯島さんからどうぞ」


 そう促すと飯島さんは少し咳ばらいをして喉を整えた後、元気よく自己紹介を始めた。


「はい! 私の名前は飯島丸尾と言います! 一週間前に探索者になりました! 魔法使いとしてのタイプは前衛です! 改めて、本日はよろしくお願いいたします!」


 元気にあふれた自己紹介をしてくれた。話し方からしてダンジョンの神を信ずる会の信者なのだろうか? そう思いつつ馬場さんにも自己紹介を促す。


「は、はい、私の名前は馬場つみれと言います。昨日探索者になったばかりです。魔法使いとしてのタイプは同じく前衛です。よ、よろしくお願いします」


 すこしおどおどとしながらもしっかりと自己紹介をしてくれた。少し緊張しているのか?

 とりあえず自己紹介は終わった。面接を進めていく。


「はい、お二人ともありがとうございます。では早速質問をさせていただきます。お二人はなぜ、DCVHに参加しようと思われたのでしょうか? 志望理由をお聞かせ願いたいです。飯島さんからお願いします」


 さて、二人はどんな理由でDCVHに入ろうと思ったのだろうか? 探索者として上を目指す理由さえあればよいが……

 そう思いながら訪ねたが、飯島さんから帰ってきた答えは予想外のものだった。


「はい、ハーレムを築くためです!」


 ……ハーレム? ど、どういうことだ? DCVHに参加する理由として、まさかハーレムなんて言葉を聞くとは思わなかった。

 もしかして何か勘違いをしているのだろうか?


「ハ、ハーレムですか? 失礼ですが飯島さん、DCVHの活動を勘違いされていませんか? 童貞、処女を散らしてライバルを弱体化させ、探索者として上を目指す、というのが主な活動です。ハーレムとは結び付かないと思うのですが……」

「いえ、合ってます! ランクを上げてハーレムを築けるくらいの財力と権力が欲しいのです!」


 どうやら勘違いをしているわけではないようだ。

 探索者は稼げる仕事だ。財力を手に入れるには申し分ないだろう。

 権力はどうか? それも可能だ。探索者の持ち帰るものは権力者ご用達のものもある。ランク入りするほどの探索者になればつながりも得られるだろう。

 

 そう考えると案外納得のいく理由だった。しかし、それらを得られるランクに到達すれば辞めてしまうのだろうか? と思った俺は追加で質問をしてみた。


「ありがとうございます。なるほど、確かにそれならハーレムを築きたいという理由でも納得できますね。ただ、ハーレムを築けるほどのランクですか……どれくらいのランクを目指されているのですか? ハーレムの規模によっても違うと思うのですが、どうでしょう?」

「そうですね……実を言うとハーレムの規模は決まっていないんです。人類は何十億といますからね。出会いもその数あります。それに対応できるランク、と考えてランキング四位以上、ダンジョン四天王の座は狙ってますね」

「なるほど、ありがとうございます。向上心が感じられる良い目標だと思います」

「ありがとうございます!」


 ダンジョン四天王の座ともなると当面は引退の心配はなさそうだ。

 聞きたいことは聞けたので次は馬場さんの志望理由を聞こうかな、とそう思っていると何やら飯島さんが俺と冬子を交互に見ている。

 何か言いたいことがあるのかと思い、訊ねてみる。


「飯島さん?どうされましたか?」

「あーっと、面接とは関係ないことなので後で大丈夫です!」

「遠慮せずにおっしゃってくださって構いませんよ。雑談で場を温めることも大事なことだと思いますから」

「そうですか? では、まず冬子さんにお尋ねしたいことがあります」


 冬子に話を振るようだ。さりげなく面接の話をメモしてくれていた冬子だが、話を振られて飯島さんの方を向いた。


「はい、なんでしょう?」

「所冬子さん! 結婚を前提にハーレムの一員に加わっていただけないでしょうか!」

「嫌です」

「そうですか! 諦めます!」


 ……ちょっとハイスピードすぎてついていけない。今何が「銅帝也さん!」

 混乱していると俺にも話が振られた。


「結婚を前提にハーレムの一員に加わっていただけないでしょうか!」

「駄目です」

「……なぜ冬子が答えたのかは分かりませんが、まあその通りです。そっちの趣味はありませんのでお断りさせていただきます」

「そうですか! 諦めます!」


 いきなり告白されて断ったらすぐに諦めた……言葉にするとこういうことだが唐突すぎて驚いた。

 いったい何がしたかったのだろうか? 冗談とか? 少し混乱していた俺だが先ほどの飯島さんの話していた内容を思い出し、もしかしてと思う部分があった。


「……先ほど、人類は何十億といますからね。出会いもその数あります。っとおっしゃっていましたね。もしかして、出会いを逃さないために会った人全員に告白しているのですか?」

「まさか! 気に入った人だけですよ!」

「そ、そうですか。その割にはすぐに諦めましたね?」

「一人ひとりにこだわっていては時間が足りませんからね! 過去は振り返らないんです!」

 

 先ほどの告白は冗談でもなんでもなく本気だったらしい。そしてあっという間に過去になってしまったようだ。いや、まあいいんだけども……

 どこか納得のいかない気持ちになりながらも、この様子ならハーレムを築けるのは当分先になりそうだと思った。

 ハーレムを築く前に童貞を失っては意味がないので引退もそうそうしなさそうだ。とりあえず良かったということにしておく。


 ……さて! 気を取り直して馬場さんの志望理由を聞こうかな!


「ありがとうございます。さて、次に馬場さんの志望理由をお聞かせください」

「は、はい、私は丸尾君のハーレムの一員なんです。ですので、丸尾君の夢を手伝うために一緒に応募しました」


 馬場さんはおどおどとしてはいるものの、どこか誇らしげにそう答えた。

 飯島さんの夢を手伝うというのだから探索者として目指すランクも高くなるだろう。そこは問題なしだ。

 しかし、あの告白で成功したのか? 

 まさかハーレムの一員がすでにいるとは……案外あの告白は成功率が高いのか?


「なるほど、ありがとうございます。他者の夢を手伝う。素晴らしいことだと思います」

「あ、ありがとうございます」

「ちなみに、お二人はどのように出会われたのですか?」


 あの告白で成功するならハーレムも案外簡単に築けてしまうのかもしれない。俺としてはそこが気になる点だった。

 ハーレムということは人が多く集まるということ。もしかしたらその中に財力や権力を持つ人がいるかもしれない。その場合、探索者を辞めても問題がなくなってしまうかもしれない。

 推測に過ぎないが十分にあり得そうだと思った。飯島さんが探索者を辞める場合、おそらく馬場さんも辞めることになるだろう。


 もし飯島さんが馬場さんにあの告白をしたとき、二人が初対面に近い関係性であったなら……あの告白の成功率を高く見積もる必要があるだろう。

 せっかく応募してきてくれた二人だ。そのような形での早期な別れは避けたいが……


「小学校のころからの付き合いで、幼馴染なんです。ハーレムの一員になったのは高校くらいですけどね」


 幼馴染! 奇しくも俺と冬子と同じ関係性だったようだ。昔からの付き合いだったからこそハーレムに加わったのだろう。

 ということであればそうそうハーレムは完成しないだろう。長い付き合いになりそうだ。良かったよかった。

 そう考えていると冬子から質問が飛んだ。


「失礼、あたしの方から質問をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「は、はい、大丈夫です」

「ハーレムの一員とのことですが、そちらについて納得しているのでしょうか? 飯島さんのことを独り占めしたいと思ったりしませんでしたか? 自分だけのものにしたい、一生閉じ込めてしまいたいと思ったことは?」


 なるほど、いい質問だと思う。

 さすがに冬子が言うように一生閉じ込めてしまいたい、とまではいかないと思うが飯島さんのハーレムに対して納得がいっておらず、自分だけが結ばれたいと思うのは不思議なことではない。

 その場合、案外あっさりと魔法使いではなくなってしまい引退する……そんなこともあり得るだろう。

 そんな考えとは裏腹に馬場さんはあっさりと否定した。


「ひ、独り占めしたいと思ったことも確かにありましたけど、今は違います。丸尾君は言ってくれたんです。私を一番に愛してくれるって。それで納得しました。それに、丸尾君は小さいころからずっとハーレムを築きたいって夢を持ってたんです。それをずっと隣で見てきたから……応援したいんです」

「……なるほど、ありがとうございます」

 

 どうやら冬子は納得したようだ。

 さて、まだ自己紹介と志望理由を聞き終えただけだが、概ね聞きたいことは聞けたと思う。

 理由はどうあれ探索者として上を目指す意思もあり、そうそう魔法使いでなくなることもないだろう。

 正直合格でいいと思うが、念のためあと一つだけ質問をしてから面接は終わろうと思う。


「ありがとうございます。さて、実をいうと今のお話の中で聞きたいことは大体聞けました。ですので、あと一つだけ質問をして面接は終了したいと思います。

 ……お二人はなぜ、数ある組織の中でDCVHを選ばれたのですか? 志望理由ではお二人が探索者として上を目指している理由は聞けました。しかし、他の組織に参加しても上を目指すことはできたと思います。なぜ、DCVHだったのでしょうか?」


 実をいうと探索者として上を目指そう! という活動を行っているグループは数多くある。SNSで見るだけでもパーティを組みませんか? という小規模なものから、サークルに参加しませんか? あの大手企業がバックについてます! という大規模なものまで様々だ。

 DCVHはつい先日結成したばかりの歴史の浅い組織であり、これらと比べると魅力は今一つだ。

 応募者が来なかった理由の一つでもあると考えている。それらと比べていったいなぜ? という思いがあった。


「それは……DCVHのやり方が、一番現実的だと考えたからです!」


 飯島さんが腕を組み、少しだけ答えに悩むようなそぶりを見せた後、そう答えた。


「他の組織ももちろん検討しました! 上を目指す、ダンジョン四天王を超える、という目標を掲げる組織も数多くあったので片端から見ていきました! しかし、その方法として挙げられているのは共にダンジョンを探索し、探索者としての功績をあげるといったものばかりでした! 

 ……ダンジョン四天王は最低でも45歳を超えた物ばかり! 三つも年が違えば戦いにすらならないほど魔法使いの実力は差が開きます! そのような存在に対抗する手段として、ただダンジョンをともに探索するといった正攻法ではだめだと思ったのです!」


 飯島さんは手を膝に置き、体を前のめりにして話を続けた。


「ではどうする? と考えていた際に目に入ってきたのがDCVHのアカウントです! 童貞、処女を散らしてライバルを弱体化させ、探索者として上を目指す……邪道だと思いましたが、このような方法ならダンジョン四天王に対抗できると思ったのです! 

 ……ただ手段が手段なので最初は架空のネタアカウントかと思ってました! 探索者としての活動内容が記載され始めたので本物だと分かり、つみれと一緒に応募しました!」


 飯島さんがそう言い終えると馬場さんもうんうんと頷いている。


 ……なるほど、納得がいった。

 俺もDCVHの対抗馬になる組織がないかSNSでチェックしていたのだが、同じ手段で上を目指す組織は一つもなかった。

 DCVHのやり方が必ずしも正解というわけではないが、ダンジョン四天王を超えるならこの方法が一番だろうとも思う。

 その部分に賛同して彼らは応募してきたようだ。……それにしても最初はネタアカウントだと思われていたのか。やはり活動実績は大事だな。


「ありがとうございます。とても納得のいく理由でした。さて、聞きたいことはすべて聞けました。面接の結果ですが……お二人とも合格です! DCVHのメンバーとして心から歓迎します!」

「おお! ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます!」


 こうして、DCVHに新たにメンバーが二人加わったのだった。

                ~TIPS~

 童貞、処女が失われると魔法使いでなくなるが、童貞、処女の基準はどこにあるのか?

 長年そのことについて研究してきた童貞の博士により、下記のように判明している。

 

 1.男同士、女同士で性交渉を行った場合でも魔法使いでなくなる

 2.恋のABCと呼ばれるものがあるが、Cを行った場合は確実に魔法使いでなくなる

 3.複数回行う、複数の対象と行うなど、場合によってはB、またはAの行いですら魔法使いでなくなることがある


 童貞、処女が失われたと判断される基準があまりに曖昧なため、この法則、そしてダンジョンを生み出した神が判定しているという噂もある。

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