童貞驚愕! 奴らが童貞四天王……!
第三話です! よろしくお願いいたします!
探索者が職業として確立してから十年間の間、探索者ランキングは変動が激しかった。
探索者という職業が命がけのため、死亡していなくなるという理由もあるし、ある程度ダンジョンに潜ったら今後生きていくには十分な金額が稼げるため、早めに引退するものが多かったという理由もある。
そんな中、いつしか探索者の一位から四位が固定されてきた。
それは現在に至るまで約十年間に渡り続いており、死にもせず、引退もせず、ただひたすらダンジョンに潜る彼らのことをテレビや雑誌ではこう取り上げた。
ダンジョン四天王、と。
……ただ、そんな風に表向きはダンジョン四天王と呼ばれている彼らだが、ネット上ではその呼び方は浸透しておらず、主に童貞四天王と呼ばれている。
俺は主にネットでしか情報を仕入れていなかったため、宇津井さんが言ったダンジョン四天王という言葉だけでは思い出すのに少し時間がかかってしまった。
そんな様子を見て、宇津井さんが畳みかけてくる。
「ダンジョン四天王の方々の姿を見られる機会なんて滅多にありませんよ! これから探索者になる皆さんの良い目標になると思います! ぜひ! 一緒に! 見に行きませんか!」
圧がすごい。まあ別に断る理由もないので了承することにする。
「ええ、構いませんよ。どうt……ダンジョン四天王と呼ばれるほどの探索者の方たちも一目見ておきたいですから」
一瞬童貞四天王と言いかけた際に宇津井さんの圧が強まった気がする。どうやらNGワードのようだ。気を付けなくては……
「冬子、そういうわけだし一緒に行こうぜ。探索者のトップ陣、見ておいて損はないだろうしな」
「ええ、構わないわ。一緒に行きましょ」
そういうわけで俺たちツアー一行は探索者ランキングが発表される中央エリアへと移動していった。
中央エリアに着いた。かなり広い空間だ。エリアの中央に一段程高いステージがあり、その中央にモニターが四つ、四方を向くように配置されている。
ステージの周りには探索者と思わしき人混みがあちらこちらにあり、だいぶ賑わっている様子だ。
俺たちも空いているスペースに移動する。探索者ランキングが発表されるまでまだ少し時間があるようなので、どのような探索者がいるか少し観察することにする。
30歳越えの魔法使いと思わしき男、20歳前半くらいの非魔法使いと思わしき男、中には学生かと思わせるほど若い女など、案外様々な年齢層がいるようだ。
そうして観察していると、冬子がこっちを見つめてきていることに気が付いた。
「……どうした、冬子? そう見つめられると照れるんだが……」
「いや、なんかキョロキョロしてるなって思って。……さっき見てたあの若い子とか気になってるの?」
「特別気になる点はないな。見たところ魔法使いではなさそうだし」
「そう」
そういうと冬子はしばらく俺の目を見つめてきた。その後、何かに納得したのか、それならいいのよ、と言い目をそらし、俺がさっき見ていた若い子のことを見つめ始めた。
……あの若い子に何かあるのか?
そう考えた直後、アナウンスが流れ始めた。
『大変お待たせいたしました。ただいまより、今期の探索者ランキングを発表させていただきます』
いよいよ始まるようだ。さて、探索者として最前線を行く者たちを見せてもらおうか……!
そうして始まったランキング発表。第十位から発表されるようだ。
『まず、第十位……』
そうして第十位から第五位までが名前や年齢、探索者としての戦闘スタイルなどのプロフィールとともに発表されていった。
その発表を見て……なんというか……
「若い、な? 全員35歳を超えてない……」
「そうね? 探索者のトップ陣は40、50代の年齢が当たり前って聞いてたけど……」
俺も冬子も困惑していた。
中央エリアでは発表された面々が順に賞を受け取っている。その面々は紹介された通り、全員が35歳以下の年齢だった。
前に冬子が話していた内容だとトップ陣は40、50代が当たり前と聞いていたがこれはどういうことなのだろうか?
確かに探索者ランキングは入れ替わりが激しいと聞いていたが、第十位から第五位の順位の探索者がここまで若いとは思ってもいなかった。
「困惑しているようですね! 第十位から第五位の探索者がなぜこんなにも若いのかと!」
先ほどの呟きを聞いていたのか宇津井さんが話しかけてきた。
「所さん! 先ほどの探索者のトップ陣は40、50代の年齢が当たり前というのはネットでの情報でしょうか!」
「え、ええ。その通りです。ですけど、今のランキングを見るに間違った情報だったみたいですね……」
「いえ! 間違って等おりません! トップ陣は全員40、50代の年齢が当たり前! という情報で合っています!」
ますます困惑してきた。宇津井さんが言うには情報は間違っていないらしい。しかし、第十位から第五位の探索者たちは全員35歳を超えていない……まさか!
「なぜ情報が間違っていないにも関わらず第十位から第五位の探索者である彼らはあんなにも若いのか! 答えは単純です! 彼らはトップ陣ではありません! ネット上などでトップ陣と呼ばれているのはダンジョン四天王の方々だけなのです!」
なるほど……そういうことだったか。そう納得していると宇津井さんがさらに話を続ける。
「もしかしたら知っているかもしれませんが、探索者ランキングというのは入れ替わりが激しい! 死亡や引退によってコロコロと変わります! それは十位から五位の彼らも例外ではありません! 今発表されている彼らですが、去年までは誰一人として十位より上にはいませんでした! そのくらい入れ替わりが激しいものなのです!
……しかし、何事にも例外はあります! この後発表される四位から一位の探索者たちこそがその例外! ここ十年間不動の順位を保っているダンジョン四天王の方々なのです!」
宇津井さんが熱く語っている。そんな宇津井さんの話を聴いてますます納得できた。なるほど、確かに十年間不動の地位を気づいている四天王たち、十位から五位とはいえ去年までは十位より上にはいなかったものたち、それらを一くくりにまとめてトップ陣の探索者とは呼ばないだろう、と。
そうなってくると気になるのがダンジョン四天王だ。唯一トップ陣と呼ばれる彼ら……果たしてどのような存在なのか……
そう考えているとアナウンスが流れ始めた。いよいよダンジョン四天王の発表のようだ。
『それでは第四位を発表させていただきます』
ここからがトップ陣、ダンジョン四天王! 果たしてどんな奴らなんだ……?
『第四位、45歳、西野夢見さんです!』
そのアナウンスが流れると同時にステージの中央に穴が開き、床がせりあがってきた。
それと同時にステージの一角から歓声が上がる。
「うおおおおおおおお!!!」「キタキタキタ!」「二次元特攻! 西野さん!」
歓声を受けながらとうとうダンジョン四天王の一人が姿を現した。目を凝らしてその姿を見る。
45歳と紹介されていたが見た目は30代前半くらいの男のようだ。十中八九若返りの薬を使用しているのだろう。
それ以外に目を引くのはやはり……
「なあ冬子、西野さんが来ている服に描かれてるのってブリキュアだよな? あのアニメの」
「合ってるわ。あれは間違いなくブリキュアよ。ブルーの子の方ね」
ブリキュア。正式名称はぶりっこ! 魔法少女ブリキュア。魔法使いなのに少女を名乗るのはおかしい! という批判を浴びながらも俺たちの子供時代から現在に至るまで続いている人気アニメである。冬子と一緒によく見ていた。
そんなブリキュアのキャラクターが描かれたTシャツを着て、五分刈りにしている頭にはバンダナを巻き、様々な缶バッジをジーパンに張り付けたその姿。
まさに、古き良きオタクファッションといった着こなしをしているのが西野夢見という男だった。
「デゥフフ、毎度のことながら表彰されるのは照れるものですなあ。いやー皆さん! どうもどうも!」
そういってステージの上から手を振る西野さん。さらに歓声が沸いた。だいぶファンがいるようだ。宇津井さんもファンの内の一人なのか手をブンブンと振りながら歓声を上げている。
「あの人が四天王の一人、西野夢実さん……なんというか古典的なオタクって感じの人だな」
「そうね。今時じゃすっかり見なくなったタイプね」
そんなふうに冬子と感想を言っていると宇津井さんが話しかけてきた。どうやら解説をしてくれるようだ。
「あの方こそ西野夢実さん! あの方はアニメオタクでしてね? 特にはまっているのが見ての通り、ブリキュア! ダンジョンで得た収入の半分をブリキュア関連のものに使っていると聞いていますよ! また、潰れかけのアニメ会社への寄付なども行っており、その行いから根強いファンもいるんです!」
「解説ありがとうございます。なるほど……だからあんなにも歓声が上がっていたんですね」
「ええ! その行い! 強烈なキャラクター! そして探索者としての実力! これらに惹かれる人は多いんですよ!」
確かに強烈な人だ、ファンがつくのも頷ける。
45歳であるなら魔法使いとしての実力もとてつもないものになっているだろう。
『続きまして、第三位を発表させていただきます』
西野さんの表彰が終わり、続いて第三位の発表が始まった。
……いきなりからだいぶ強烈な人が出てきたので、次はどんなのが出てくるか結構楽しみである。
『第三位、48歳、手島右京さんです!』
「先生ーーーー!!!」「右手を見せてーー!!!」「漫画読んでます!!! ファンですぅ!!!」
歓声とともに姿を現した手島さんはやはり紹介された年齢とは見た目がだいぶ違った。20代後半くらいの女に見える。かなりの美女だ。先ほどの歓声から察するに漫画家でもあるようだ。
「あらあら、どうもどうも。どうぞ私の右腕、ティファニーをみていってくださいねぇ」
ふわふわとした長いブロンドの髪の上にベレー帽をかぶり、分厚い眼鏡を掛け、つなぎを着た姿。
それだけならただの漫画家といった風貌だが、それだけで終わらせないのはひときわ目を引くその右腕だった。
その右腕は様々なパーツで作られた機械のようなメカメカしい外見をしていた。ワキワキと指に当たるであろうパーツを動かして手を挙げている様子からかなり精密な動きができる用だ。
「あの方こそ手島右京さん! その美貌! かっこいい右腕! 漫画家としての腕! そして探索者としての実力! それらの要素から四天王の中でファンが一番多い方です! 四天王の方々にはすべてファンクラブができるほどのファンがついていますが、その中でも群を抜いて多いです!
そうそう、右腕はユニーク魔法で作られているようですよ! 名前はティファニー! 雑誌のインタビューで語ってました!」
西野さんに負けず劣らず強烈な人だった。ティファニーて。あのメカメカしい右腕に付ける名前か?もっとこう、ゴンザレスとかのほうがよさそうなものだが……
『続きまして、第二位を発表させていただきます』
二位……これらを上回る人物……そろそろおなか一杯になってきた。俺こいつらの童貞か処女を散らさないと一番になれないの? やばくない? やばい
『第二位、50歳、神成信夫さんです!』
「教祖様ーー!!!」「俺を導いてくれーー!!」「神、神、神、神、神、神ぃ!!!」
やばそうな歓声とともに姿を現したのは20代前半の見た目をした男だった。法衣をまとったその姿はまさに教祖といった風貌だ。首につけてあるチョーカーには何やらDのような形をしたアクセサリーがついている。
「皆さん! ダンジョンは神がもたらした恩恵なのです! ダンジョンに関することはすべて神のおかげです! 私が第二位になれたのも神の恩恵でしょう! どうぞ! ダンジョンの神を信ずる会をよろしくお願いいたします!」
話し方がなんとなく宇津井さんに似ている気がする。
「あの御方こそ神成信夫様です! ダンジョンは神がもたらしたのだという素晴らしい教えを説いているダンジョンの神を信ずる会の教祖様なのです! ダンジョンは神の恩恵! 同時に発現した法則も神の恩恵! そのような教えです!
教義も素晴らしいものばかり! 汝、ダンジョンを愛しなさい! 汝、童貞と処女を愛しなさい! 汝、話すときははきはきと元気よく話しなさい! これは入信するっきゃない!」
どさくさに紛れて入信を進めてこないでほしい。宇津井さんの話し方は宗教の影響であったようだ。様とかつけてるあたり、だいぶ熱心な教徒らしい。
『最後に第一位の発表となります』
これらを超える人物がいるのか……マジでどんな人物なんだ……。だが、ここまで来たら腹をくくるしかない。
覚悟を決め、ぐっとこぶしを握り締めて第一位の発表を待った。
『第一位、53歳、相島初男さんです!』
「あの時助けてくれてありがとうーー!!!」「ナイスガイだぜーーー!!!」「英雄様ーーーー!!!」
今までの歓声とは毛色の違う、なんというかヒーローショーで聞くような歓声とともに姿を現したのは……紹介された年齢通りの見た目をした老人の男だった。若返りの薬を使用していないようだ。
しかし、その肉体は引き締まっており、肉体に老いは感じられない。
髪をちょんまげでまとめ、着物を着流し、下駄をはいたその姿はまるで何かの達人であるかのようだった。
「ふむ、見世物になるのはどうにも慣れんわい」
そういいながらただ佇んでいる姿は正直かっこいい。男として憧れるものがある。
「あの方こそ相島初男さんです! 探索者における頂点! 生ける伝説です! ダンジョンの中は知っての通り命がけの場所ですが、その中で人助けをできる余裕があるほど強い! ひたすら強い! 最強です! 戦い方も豪快で見ていて気持ちがいい! 助けられた人やその強さに憧れる人が続々とファンになっていっているようです!」
……そうか、最強か。今探索者で一番の栄誉、そして賞賛を思うが儘にしているのは彼のようだ。
いずれ俺がその座に至る……!
そう決意を固めているといつの間にか表彰が終わったようだ。
『以上で今期の探索者ランキングの発表を終わります。お帰りの際は忘れ物等内容ご注意ください。それでは、お疲れ様でした』
「終わったな……強烈だった……」
「そうね……あの人たちがダンジョン四天王……」
ダンジョン四天王。予想以上の奴らだった。ネットで童貞四天王ってよばれてる割には処女も混じってるし……
奴らの童貞と処女を散らすにはだいぶ……苦労しそうだ。
そう考えていると宇津井さんが解散を告げてきた。もうこれ以上のイベントはないらしい。いろいろ解説してくれたし、別れ際にお礼と、これから探索者としてよろしくお願いしますと伝え、握手をして別れた。
解散後、昼飯を取るには遅くなってしまったので昼と晩の飯を兼ねた飲みの席を冬子と設けていた。
個室でツアーのことや探索者ランキングのことについて話していると唐突に冬子が質問をしてきた。
「で、どうするのよ」
「何がだ?」
「どうやって四天王の童貞を散らすかって話よ。前に話したみたいには上手くいきそうにないじゃない?」
確かに、記憶を覗いて好みのタイプをぶつけるだけでは上手くいきそうにない面々ばかりだった。
正直、一人では到底無理だろう。
「まあ、一人では無理だろうな……やれることに限界がある」
「そうよね? 一人じゃ無理よね? だから提案があるんだけど……」
「奇遇だな、俺も冬子に提案があるんだ。たぶん同じだろうしせーのでいうか?」
「いいわよ」
二人でせーのといい同時に言う。
「「俺 (あたし) と同盟をくまないか (しら) ?」」
やっぱりか。一人で無理なら二人という話だろう。冬子も一番を目指す以上何らかの形で四天王を蹴落とす必要がある。そこまでは協力できるはずだ。
そうして同盟の内容について話し合った結果、以下のようになった。
1.四天王の童貞と処女を散らすまでは協力関係を結ぶ。
2.協力関係を結んでいる間はパーティを組む。
3.協力関係はダンジョン内だけではなくダンジョン外でも有効であり、四天王の童貞と処女を散らす工作活動でも協力する。
4.あくまで合法の範囲でことを進める。
「さて、この内容で問題ないか?」
「ええ、問題ないわ。……帝也、おそらく困難な道になるわ。でも二人なら乗り越えられると思うの。一緒に頑張りましょ!」
「ああ、俺たちが組めばどんな困難だろうと乗り越えられるだろうさ」
ワンツーコンビと呼ばれた俺たちは息もぴったりだ。四天王の童貞と処女もきっと散らせるだろう。……だが!
「冬子」
「ふふっなあに? 同盟結成の乾杯でもする?」
「確かに俺たちが組めば四天王の童貞と処女を散らすこともきっとできるだろう。だが、より楽にするための提案が俺からもう一つある」
「何よ? その提案って」
「ああ、それはな」
そう言って俺はスマホを取り出した。
「もっと人数がいれば楽に行くと思わないか?」
「……まさか」
「そう! 俺たちの仲間をSNSで集う! 志をともにする仲間を、だ!」
一人より二人、二人より三人、三人よりいっぱい! 数は力である。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あー、えっと、そうよ! 工作活動もするんだから大々的に活動するのは良くないわよ! 人数もなるべく少人数で、あたしたちだけでやるべきだわ!」
「俺たちのやろうとしていることはなんだ? 童貞と処女を散らそうってだけだ。何も法律を犯そうとしているわけじゃあない。
合コン、ナンパ、婚活、パパ活……俺たちははあくまで合法的にことを進めるんだ。誰にも咎めることはできないさ。それに工作活動をするのにはやはり人手がいるからな。ちょっとした組織を作る必要があるだろう?」
「うっ………! それは、そう、ね……」
「そうとも!」
冬子も納得したようなのでここに組織の結成を宣言させてもらう。
「今ここに宣言する! ダンジョン童貞処女狩り組織! DCVHを結成する!」
~TIPS~
探索者の力関係は下記のようになっている。
魔法使い>童貞処女を散らした魔法使い>30歳になる前に童貞処女を散らした非魔法使い
これらの力関係は絶対である。