童貞挑戦! 初めてのダンジョンはツアーにて
祝! 二話目!
よろしくお願いいたします。
「………………………えっ?」
今なんて言ったんだ? 冬子は?
俺の聞き間違いでなければ、30歳で処女だから仕事を辞めて探索者になると言ったように聞こえたが……
「……えっ? ど、どういうことだ?」
「分かるでしょ? 30歳で処女なのよ。魔法使いになったから仕事を辞めたわ、探索者になるの」
「い、いやいや! ちょっと待ってくれよ! 昨日あれだけ俺が探索者になるのに反対してたじゃないか! 命がけの仕事で危険だ、それより一緒に仕事を続けましょうよって! なんでまた急に……」
「事情が変わったのよ」
事情が変わりすぎじゃないか!?
わ、わからない……冬子の考えがわからないぞ……
い、いや、落ち着け俺……冷静になるんだ。
こういう分からないことが出てきたらやることは一つ。
分かるやつに聞けばいいのだ。
「い、いったいどんな事情なんだ?」
「それはね……」
「それは……?」
「さて、なぜでしょう?」
ええい、焦らしてくるなあ!
まあ、クイズにしているようなら触れちゃいけないようなことでもなさそうだ。
やばい事情ではなさそうなので少し安心した。
「クイズか……回答権は?」
「一回だけよ」
一回か、慎重に考えなくちゃな。
なんだ? 一晩にして探索者になることを決める理由……
昨日の晩にあったことと言えば飲みの席くらいのはずだ。その席でのことを思い出すこととしよう。
そうして思い起こしていると何かが引っかかるのを感じる。
冬子は事情が変わったのよ、と言ったが昨日話していた時にこんな感じの言葉を俺も言ったような……まさか!
「分かった! ユニーク魔法だろ! よっぽどのものが発現したな!」
「うーん、まあ理由の一つではあるわね。百点中一点ってところかしら?」
「全然じゃないか! ……答え合わせは?」
「そうねえ……」
そういうと冬子は少し悩んだ後こう告げてきた。
「いつか分かること……いや、分からせることだから保留にしとくわ」
「なんだそりゃ」
その後、何度聞いてもはぐらかされ続けたので今聞くことは諦めた。
いきなり仕事を辞めても大丈夫なのかとも聞いたのが問題ないそうだ。まあ、冬子はしっかりしてるしそこはあまり心配はしていなかった。
俺たちは一通りの魔法を買った後、続いて探索者向けの道具を買い、そうして探索者になる準備は済んだ。
腹が減ってきたので昼食を一緒に済ませ、帰路に就くことにした。
「じゃ、そろそろ帰るか」
「そうね、帰りましょうか」
「……なあ、冬子」
「なに?」
冬子が探索者になると聞いて、俺には言わなければいけないことがあった。
「競争になるな、どちらが探索者として一番になるのか」
「まあ、そうね。あたしもなるからには一番を目指すし、そうなるわね」
「ああ、だから宣戦布告させてもらう。……一番になるのは俺だ!」
「ふふっ、いつも宣戦布告してくるわよね。いいわ、今回も受けて立つ」
俺が宣戦布告して、冬子が受けて立つ。
初めて俺が冬子に負けて以来続いてきたお決まりのやり取りだった。
これをしなきゃ勝負が始まった感じがしないんだよな。なんというか、気が引き締まる。
そう思っていると冬子がこう言ってきた。
「……宣戦布告を受けておいて聞くのもなんだけど、一緒にパーティを組んでダンジョンに潜るっていうのはダメなの? そしたらパーティとして一番になれるんじゃない?」
「一応聞いておくけど、その場合のリーダーは?」
「あたしね。一番しっかりしてるもの」
「じゃあ駄目だ」
結局パーティを組んで一番になっても、一番の賞賛を受けるのはリーダーだろうしな。
俺も冬子も一番になると言った以上、どちらもその座は譲らないだろう。
「分かったわ。でも最初は一緒に潜らない? パーティのチュートリアルってことでどう?」
「ああ、最初の一回ならいいぞ、と言いたいところだが、実をいうと俺はこれに参加する予定なんだ」
そう言って俺はスマホの画面を見せる。
「魔法使い向けダンジョンツアー? こんなのがあるのね」
「ああ、昨日の夜にいろいろ調べていてな。ダンジョンの三層まで案内してくれるツアーだそうだ。どうだ、冬子も参加してみないか? まだ枠に空きがあったはずだ」
「最初くらい二人で潜ってみたかったけど……まあいいわ。そういうことならあたしも参加する」
良かった、正直なところ冬子が参加すると言ってくれて安心した。
ツアーとはいえダンジョンに潜るのに見知らぬ参加者たちとだけでは不安だったのだ。
心配事もなくなったのでツアー当日がより楽しみになってきた。ダンジョン、果たしてどんなところなのか……
その後、冬子の帰宅を見届けてから俺も帰宅した。
ツアーは一週間後だ。それまでダンジョンにつながる施設、通称ギルドの下見に行ったり、買った魔法の練習をしたりしながら過ごした。
そして、ツアー当日になった!
「さて、いよいよこの日が来たな!」
「テンション高いわね……」
俺たちはギルドに来ていた。人混みでにぎわっている広い空間の中央に何かが映し出されているモニターがどんと置かれており、その奥に受付のようなものが見える。
いよいよ探索者としてのスタートを切るのだと思うと高揚感があふれてくる。
俺のテンションがそんな風に上がっている反面、冬子は落ち着いた様子だ。
「そういう冬子は落ち着いてるな? 楽しみじゃないのか? ダンジョンの中がどんな風になってるだとかさ!」
「それは分かるけど、やっぱり命がけってのを考えるとちょっとね」
「ああ、まあそれはな……」
まあ確かに冬子の言うことも一理ある。ダンジョンの中は命がけというのは常識だ。
だが……
「でもまあ、安心していいんじゃないか? ツアーの説明に書いてあっただろ? 命の危険はありませんって。実際、魔法使いにとって命の危険があるのは三層以降の話らしいしな。今回のツアーはそこまで行かないし問題なしだ」
「それもそうかしら?」
「そうそう。それに、だ。分かるだろ? 魔法使いになって得た俺たちの力ははっきり言ってとんでもないぜ? 正直車とかにひかれても無傷でいられる自信がある」
そう、命の危険があるのはあくまで三層以降のダンジョンの話だ。
そこまでなら魔法使いでないものですら潜れるらしい。
それに、魔法使いになって得た力はとんでもなかった。行ける気がしたので包丁を手に突き刺そうとしたのだが、逆に包丁が折れたくらいだった。
後衛の俺でこれなのだから前衛の魔法使いだという冬子なら銃で撃たれても無傷なのではなかろうか。
「それより忘れものとかの心配をしたほうがいいんじゃないか? 大丈夫か?」
「大丈夫よ、帝也こそ問題ない?」
「ああ、もちろんだ」
そんな風に話しているとアナウンスが流れ始めた。
『魔法使い向け、三層手前まで行っちゃおうツアーにご参加の皆様。開始時間十分前になりましたので七番の受付前までお越しください』
「お、そろそろ時間みたいだな。行こうぜ」
「分かったわ」
七番の受付を探して移動することにした……あったあった。
見ると、ほかの参加者と思わしき面々が旗を持った男性の前に集まっている。
「はーい! 魔法使い向け、三層手前まで行っちゃおうツアーはこちらでーす! 参加者の方はどうぞこちらへー!」
「こんにちは、こちらのツアーに参加することになっている銅と所です」
「はいはい! 銅さんと所さん! 今名簿を確認するので少々お待ちを……はい! 確認取れました! まだ全員揃ってないので少しだけ待機していてください!」
「分かりました。ありがとうございます」
なんというか元気な人だなと思った。テンションが高い。
そんなことを思いつつ、言われたとおりに待機しているであろうほかの参加者の近くに寄っていく。
参加者たちは俺を見て、次に冬子を見てどよめきが起きた。
参加者たちは皆30越えの童貞だ。そんな中に現れた20代前半にしか見えない美人をみて驚いている様子だった。
そんな風に周囲を騒がせつつも少し待っていると、全員揃ったのか旗を持った男性が話始める。
「はい、皆さん揃ったようなので早速ツアーの説明をさせていただきます! 説明は私、宇津井栗田が行わせていただきます! どうぞよろしくお願いいたします!」
そう自己紹介をすると、宇津井さんはツアーについての説明を始めた。
「今回のツアーはダンジョンの三層手前までバスで移動するものとなっております! もしかしたら知っておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、魔法使いにとってダンジョンの一層、二層、これらの層では命の危険はございません! 魔法使いでない方もこの層でなら活動が可能なほどです! 安心、安全なツアーとなっております!」
そういうと聞いているか確認するようにくるりと見渡し、納得したのか説明を続ける。
「今回主に見ていただくのは一層、二層の環境と出現する魔物たちです! ダンジョンの中がどのような環境なのか、どんな魔物がいるのかを実際に見たり、倒したりしていただきます! はい、説明は以上となります! ここまでで何か質問のある方はいらっしゃいませんか?」
説明を終え、質問があるかを確認してきた。少し気になることがあるので質問をしてみる。
「はい、一つ質問があります」
「はい! 銅さんですね! どうぞ!」
「ありがとうございます。先ほどの説明に魔物とありましたが、ダンジョンの中に生息している生き物のことで合ってますか?」
「はい、あってます! 具体的に言うと魔物とは魔法を使う生き物のことです! ダンジョンの中には魔法を使わない生き物、魔法を使う生き物の二種類がいます! 魔法を使う生き物なので魔物と呼ばれているんですね!」
「なるほど、分かりました。ありがとうございます」
「はい! 質問があったらいつでも受け付けますのでどんどんしてくださいね!」
ダンジョンの中には魔法をつかう生き物もいるのか……やっぱり童貞何だろうか?
そんなことを思っていると別の参加者からも一つ二つ質問が飛ぶ。
宇津井さんは一つ一つ答えていき、やがて質問がなくなるとツアーの開始を宣言した。
宇津井さんの道案内の元、受付を超え奥の方へ進んでいく。そうして進んでいくと一つの大きな扉の前にたどり着いた。
中に入ると広大な空間が広がっていた。体育館くらいの大きさだろうか? その奥に謎のもやがかかった大きな穴が見える。
「はい! あちらに見える穴がダンジョンの入り口になります! あれを超えた先にバスを用意してあるのでそちらまでは徒歩で進んでいただきます!」
そういうと宇津井さんが歩き出した。そうして躊躇なく穴の中に入っていく。そうすると一瞬で宇津井さんの姿が見えなくなった。
正直ちょっと怖いのでためらわれるのだが……
ほかの参加者を見てみるとやはり不安を覚えているのかなかなか中に入ろうとしない。
「ね、ねえ帝也? 念のため手をつないで一緒に入らない?」
「お、おう、いい案だな! そうしようそうしよう」
冬子も怖いのか手をつなぐことを提案してきた。渡りに船だ。
そうして手をつないで穴の前に立つ。
「「せーので……!」」
掛け声とともに中に入ると視界がぱっと切り替わる。見ると、あたり一面の草原に一本の道が続いており、その道のわきにポツンとバスが置いてあった。
ここがダンジョン! なんというか……
「普通だな、田舎にこういう景色ありそう」
「そうね、普通……いや、普通じゃないわ。穴の中に入ったはずなのに日の光が出てるわよ」
確かに、穴の中に入ってきたのにもかかわらずこれは異常だ。上を見上げると太陽がさんさんと輝いていた。
「あれは迷宮の中の太陽ですよ! ダンジョンは穴から入れますがその先はこのような空間につながっているんです! ダンジョンでは層ごとにこのような空間がありますが、例外なくあの太陽が存在しているんですよ!」
先に入って待っていた宇津井さんがそう説明してくる。
ダンジョン、やはり謎が多いな。太陽まで存在するとは……
そうこうしているうちに他の参加者も続々と穴から出てきた。各々突然視界に広がった草原に驚いているのかあたりを見渡している。
「はい! 皆さん揃いましたかね! バスに乗る前に点呼を取らせていただきます!」
大体揃ったと思ったのか宇津井さんが点呼を開始する。
全員いることが確認できたのかバスに乗ることを促してきたので、誘導に従いバスに乗り込む。
冬子とは隣の席になった。外の景色が見たかったので窓際の席を冬子から譲ってもらった。
全員乗り終えたのかバスが出発する。
「はい! それではツアー開始です! まずはダンジョン第一層の第一エリアから見ていきます! その後、第二、第三エリアを巡っていきます!
そのあとはさらに奥へと潜り第二層に向かい、一層と同じく、第一、第二、第三エリアを巡ります!
そして第三層の入り口まで進み、今回のツアーは終了となります! 途中に休憩エリアがあるのでトイレなどはそちらで行ってください!」
そう説明されている間にもバスは進んでいく。道なりに進むとやがてぽつぽつと人影が見えてきた。
そのうちの一つが何かと戦っているようだ。バスがいったん停止する。
「おや、探索者の方が戦っているみたいですね! 少し見ていきましょう! 戦っている相手は角うさぎ! この草原に住む魔物の一種です! その鋭い角をどういなしていくかがカギになりますね! まあ魔法使いには効かないんですけど!」
あれが魔物か。戦っている探索者は魔法使いではないのか、小型のバックラーで攻撃をしのぎつつ戦っているようだ。
あっ、倒した。バックラーで角を押さえつけて首にナイフを突き刺しての決着だった。
「おお、やりますね! 魔法使いではないのに見事です! と、まあこのように探索者は魔物を倒してその素材を得ます! 探索者がお金を稼ぐ方法の内の一つですね!」
倒された角うさぎは溶けるように消えていった。あとには角のみが残る。
ダンジョンの生き物は倒すと何かを残して消えると聞いていたが、実際に見てみると何とも不思議な光景だ。
「さて、第一エリアはこのようなエリアになっております! 先ほどの角うさぎのような弱いモンスターが主に生息していて、先ほどのような魔法使いでない探索者の方でも活動が可能なんです! 魔法使いの皆様はおそらくかかわることの少ないこのエリアでしょう!」
そう宇津井さんが説明をした後バスが再び出発する。その後、第二、第三エリアを巡っていった。
生息している魔物は羊やオオカミのような姿をした魔物だった。どれも魔法使いの敵ではないらしい。
そうした魔物たちはバスを見ると一目散に逃げていった。宇津井さん曰く魔法使いの魔力におびえているとのことだ。角うさぎだけは例外で魔力を感じ取ることができないらしく、魔法使いを見ても逃げはしないようだ。
そうこうしているうちに第二層の入り口までついた。ここで休憩タイムに入るらしく、バスが停止する。
約十五分ほどの休憩時間の後、宇津井さんがこう言った。
「さて、第一層を見て回ったわけですが! ここでそろそろ実際に魔物を倒してもらおうと思います! 魔法使いの皆様ならどうとでもできる魔物を持ってくるので少々お待ちください!」
持ってくる? 手で運んでくるのか?
そう疑問に思っていると宇津井さんがふわっと浮かび上がった。飛行魔法を使ったようだ。
そしてあたりを見渡すと何かを見つけたのか、その方向に一直線に飛んでいく。
少しすると帰ってきたのだが……何やら大量の角うさぎとともに飛んできた。何かしらの魔法で浮かばせているらしい。
「はい! 持ってきました! 皆様にはこちらの角うさぎを倒してもらおうと思います! 倒し方はなんでもいいです! 腕を一振りするだけでもたやすく死にますよ!」
そうして各々の前に浮かんだ状態の角うさぎが運ばれてくる。角うさぎは一切反応を示さない。無抵抗の生き物を殺すのにはだいぶ抵抗があるのだが……
他の参加者もそう思っているのか戸惑っている様子だ。
そうして固まっていると隣でぴぎゅっという音が聞こえた。見てみると、冬子が無表情で角うさぎを仕留めていた。
「ふぅ、こんな感じね。確かに腕の一振りで死ぬわね……ん? 帝也、どうしたの? なんか固まってるけど」
「え、あ、いやなんでもない」
隣であっさりと角うさぎを仕留めた冬子を見てだいぶハードルが下がった感じがする。
他の参加者もそう感じたのか各々角うさぎを仕留め始めた。俺もそれに続き、氷結魔法で角うさぎを凍らせて仕留めた。
そうした様子を見て宇津井さんが満足そうにうなずく。
「はい! 皆さん見事です! 特に所さん! 戸惑いもなくあっさりと仕留めるとは才能がありますよ!」
「どうも、ありがとうございます」
あっ! 一番を取られた! 覚悟の差で負けた!
そう俺が悔しがっていると宇津井さんが話を続けた。
「このように第一層の魔物は魔法使いにとっては敵となりえません! 角うさぎも魔物なので魔法を使ってはいるのですが、角を固くするという魔法しか使えません! 第一層の魔物はそのようなちょっとした魔法しか使えないのです!」
第一層は本当に弱い魔物しか出ないらしい。魔法使いでなくとも倒せる魔物ばかりだという。
なるほどな、と思っていると宇津井さんがバスに乗るように促してきた。第二層に移動するようだ。
そうして再びバスは出発した。道の先にダンジョンに入るときに見たのと同じような穴がある。第二層の入り口のようだ。バスが穴に入っていった。
第二層に入ると目の前に広がったのは森だった。うっそうとした森の中心に道が続いている。
「はい! ここが第二層になります! 見ての通りの森です! 第一層で活動している非魔法使いの探索者たちですがこの層では一気に見かけなくなります! というのもこの層の魔物はより強力な魔法を使ってくるからです! しかし、やはり魔法使いの敵ではありません!」
宇津井さんがそう説明していく内にもバスは進んでいく。
「非魔法使いでは敵わなく、しかし魔法使いの敵ではない魔物たちが出現するこのエリア! ではどのような探索者が活動をしているのか? と疑問に思った方もいるかもしれません! その答えはそのうち出会うでしょう……おっ! ちょうどいいところに!」
何か見つけたのか宇津井さんの指示でバスが停止する。見るとひとりの探索者が戦っているようだ。
……魔法を使っている?
「おそらく戦っているのは元魔法使いでしょう! 相手は森イノシシでしょうか? 頑張っていますね!
皆さんご存じかと思いますが魔法使いは童貞、もしくは処女を失うと弱体化します! しかし、魔法使いになる前に童貞か処女を失ったものよりは強いです! そういった探索者がメインの活動場所としているのがここ、第二層です!」
見ると確かに魔法を使ってはいるがどこか弱弱しい。氷結魔法を使っているようなのだが一瞬で氷漬けにすることはできないのか、じわじわと森イノシシの手足が凍っていくのにとどまっている。
しかし、森イノシシの攻撃は障壁魔法に阻まれて届いていないようだ。遠からず決着がつくだろう。
「皆さんもいつか魔法使いでなくなってしまった際にはここで活動することになるでしょう! 私としては末永く魔法使いでいてほしいのですがね! さて、第二層を巡っていきましょうか!」
バスが出発していく。第二、第三エリアをあっさりとこえ、とうとう第三層の入り口までたどり着いた。
「はい! 第三層の入り口につきました! 通称魔法使いの壁ともいわれる場所です! 第三層以降は魔法使いでないと攻略不可能と言われており、魔法使いとそれ以外を分ける壁のようなのでそう呼ばれています!」
魔法使いの壁、か。探索者として一番になるには絶対に超えないといけない壁だなと思う。
この先にいるのが魔法使いの探索者、俺が蹴落とすべき対象が活動している層か……
そう考えていると宇津井さんがツアーの終わりを宣言する。
「はい、お疲れ様でした! これにてツアーは終了となります! 帰りですが、こちらを使います!」
そうして示されたのはまた穴だった。
しかし、ダンジョンの入り口などとは少し違いがあり、もやがかかっていない。
穴の先には驚いたことにダンジョンの入り口があった空間が見えた。
「これは転移門というダンジョンから発見された道具の一つです! 効果は設置した二点間の空間をつなぐというものです! 攻略済みの各階層に設置されており、ギルドの入り口までつながっています! では、行きましょう!」
宇津井さんがそう宣言し、転移門の中に入っていく。
……ダンジョン、思った以上に広大な空間のようだ。いろいろ道具を買いなおす必要もあるかもしれない。
そう考えながら続いて転移門に入る。その先で宇津井さんに案内され、最初に集合した七番受付の前まで戻ってきた。
「はい! 皆さんお疲れ様でした! ここで解散となります!」
宇津井さんが宣言した。どうやらここで解散のようだ。
「帝也、この後どうする?」
「そうだな、昼飯でも食べに行くか? 長時間バスに揺られたから腹が減ってきた」
「賛成、行きましょ」
冬子とこの後の予定を話しているとアナウンスが流れ始めた。
『探索者の皆様、中央エリアで今期の探索者ランキングが発表されます。ぜひ、こぞってお越しください』
探索者ランキング! ちょうどこの後発表されるのか! 蹴落とす対象が順に並ぶのだ、これは見に行くしかないぞ……!
俺がそう思っていると、宇津井さんがこう言いだした。
「おおっ! そういえば今日でしたか! どうでしょう、皆さん? ツアーはここで終わりですが、せっかくだし一緒に見に行きませんか? ダンジョン四天王の方々も来られるでしょうし、行く価値はあると思いますよ!」
ダンジョン四天王と聞いて一瞬頭に疑問符が浮かぶ。ネットで見たことあるような……
そうしているうちに思い出す。ああ、童貞四天王のことか、と。
~TIPS~
ダンジョンは今のところ日本にある一つしか発見されていない。
そのため、かつてはダンジョンを巡り戦争が起きた。
後にダンジョン戦争と呼ばれるそれが治まったのは、一人の童貞のユニーク魔法のおかげである。
その魔法の効果により、今日に至るまで世界は平和を保っている。