08.魔法?何のこと?
〈詠唱とは?〉
現代の魔法には、詠唱が存在しない。
魔法の威力は均一で、いかに有効な使い方をするかが課題となっている。
対して昔々の魔法には、詠唱が必要だったらしい。
いわゆる古代魔法と呼ばれるものの類だ。
詠唱が正確であるほど威力が高まるとされていて、その威力も重要だった。
魔法を唱える時にいちいち詠唱などしていたら、敵に感づかれそうなものだが。
ともかく、古代魔法には詠唱が存在した。
これは様々な書物に記述のみられる事実である…
――――――新訂版魔法学・254ページ
「えーっと、ふいあ?」
「違う、ふぁいあ」
「はいあ?」
「違うって」
「ふぁいあ?」
「そう、そんな感じ。で、もっとそれっぽく」
「それっぽくって言われても…」
手の平を前に向け、それっぽく唱えてみる。
「ファイア」
パチッ!
手のひらから火の粉がはねた。
「うわぁ!」
驚いた。
「熱くない?大丈夫?」
「んー、大丈夫っぽい。でもさっきので蛇を焼けるの?」
「いや、あの時は火の玉が出てたから…もっと正確に唱えないといけないんじゃない?」
「うーん…まだ駄目か…。
ファイア!…
―――――――
僕は魔法を唱えながら、あの時のことを思い出す。
蛇の魔物をシルより先に見つけてしまった僕は、偶然にもその魔物と目を合わせてしまった。
メドゥーサではないけれど…蛇睨み、とか言うように蛇の目を見た生き物は竦んでしまうんだよね。
それは人間に対しても同じで、僕は気を失ってしまった。
…目が覚めるとその蛇の魔物が焦げていて、てっきりシルが倒したものだと思ったんだけど…
どうやらそれは違ったらしい。
本当は、僕が手のひらから火の玉を出して倒した…らしい。
しかもその蛇は裂け蛇で、断末魔で魔物が集まってきて…
それも僕が…よく分からない魔法で全部倒した…らしい。
気を失ってた(はず)だから、そんなことはないと思うのだけれど…。
まあ、シルがあそこまで言うのならそうなのだろうと、その場では納得し。
しかしこれを誰かに伝えるのは何かがまずい気がしたので、二人で相談して口裏を合わせることに決めて。
裂け蛇の断末魔を聞いてこっちに来た村の人に、あることないこと伝えて(人の姿に戻っていたので驚かれ、そのまま色々吹き込んだ)…
僕の家が崩れたこととか…
ここらへんの魔物を一掃してしまったこととか…
そんな多くの問題を解決して(時には誤魔化し)。
そして数日が経った今日に至る。
今日は、僕が魔法を使ったことの検証をしていた。
―――――
「ファイア!ファイア!ファイア!」
ポン。
「あ、ちっちゃい火の玉が出た!」
「ちょ、ちょっと休憩していい?」
「何?魔法って何かを消耗するの?」
「いや…喉が……」
「ああー、さっきから叫び続けてるもんね。はいどーぞ」
「なにこれ?」
「よくわかんないけど…魔法が使えなくなったら飲む薬らしいよ?」
なにそれ。
小瓶の中の液体は、緑と青を合わせたような色だった。
緑色の食べ物なんて僕は見たことがないんですけど…
ちょっと飲んでみる。
「苦っ!」
「え?そんなに苦いの?」
「うん、飲まないほうがいいよ…」
というか喉が痛いんだから普通の水を飲ませてよ。
そう思いながら、瓶の中の苦い液体を飲み干す。
これを飲んだら何か変わるんだろうか…。
「ファイア!」
手から出たのは、やはり小さい火の玉だった。
「うーん、変わってないかな?」
「えぇー…じゃあどうするの?」
「ちょっと発音を変えてみようかなー…?」
「リントくんは元気じゃのう」
「うわぁ!」
突然話しかけられて驚いてしまった。
「びっくりさせないでくださいよ、長老様…」
「できれば名前で読んでほしいものなのだが…」
「分かりましたよ、チョローさん…」
「ほっほっほっ。くるしゅうない」
「あんまり変わらないと思うんですけど…」
「そんな事はない。何かを呼ぶという行為は、その何かをどう思っているかが顕著に現れる。おろそかにしてはならん」
「じゃあ、チョローさんは僕を友達だと思っているんですか?」
「む?」
「だって、僕の事はくんづけで呼ぶじゃないですか」
「そこに気付くとは…やはり鋭いのう」
「せめて否定してくださいよ…」
目の前にいるお気楽な老人は、この村の初代長老、チョローさんだ。
ちなみに二代目は存在しない。
そしてその先も存在しないだろう。
そもそも、博識なチョローさんをみんなが敬っていたら、いつの間にか長老様と呼ばれ始めただけだ。
そもそもこの村では指導者制自体が使われていない。
「あはは!おもしろーい!」
「勘弁してよ、シル…」
「漫才みたいだった!」
「だから勘弁してって…」
本当に勘弁してほしい。
「ところで、二人は魔法の練習でもしておるのか?」
「あー、えー、え〜っと…」
シルがわかりやすい反応をする。
シルに嘘をつかせちゃだめだな…。
「まあ、そんなところです」
「む?リントくんは魔法の紋章を持っていたかな…?
わしがボケていなければ、世にも珍しいドラゴンの紋章を
持っていたと思うのじゃが…」
「そうなんですけれど…ドラゴンは魔法に長けているじゃないですか?なので、魔法が使えたりするんじゃないかと思い
まして」
「あの時のこと」が伝わらないように、言葉を選んで話を進める。
「なるほど、一理ある。しかし、魔法を独学で習得するのは
厳しいのではないのか?」
「確かにそうですね。さっきまで火の粉しか出ませんでしたし。魔法を使えるようになるのは厳しいですかね…?」
「結論を急ぐでない。独学でと言っているだろう」
「というと?」
「わしが教えようかと言っておる」
「えええっ!長老様、魔法使えたんですか!?」
いい反応をするシル。
僕も正直驚いたのだが、驚く反応をとれなかった。
「というわけで、どうじゃ?魔法、教わらんか?」
うーん…
「断ろうかなー…」
…
『なんで?!』
今回、ちょっと文字が多めです。
いつの間にかユニークユーザ数が100を超えてました。
数字としては大したことないんでしょうけど…
100人に自分の作った物が見られたと考えてみると何か感慨深い気がします。
ではいつもの文。
もし、もしも「続きが気になるかもしれない」とか「もっと面白かったらなぁ」とか思っていただければありがたいです…!
そう思っていただけたならば、ぜひとも助言、アドバイス、誤字報告、いやもうなんだって構いません!書いていただけると嬉しいです!自分にできる全力で活かしますので!