06.ドラゴンの紋章
ドラゴンの特徴といえば、威圧感のある巨大な翼、雄々しく生える一対の角、何でも切り裂く鉤爪に、炎ほとばしる鋭い牙…
って、書ききれませんね、これ…。
しかし、その書ききれないほどの特徴を見事に捉えた、完璧でかっこいいドラゴンの刺繍が存在するのです!
ものすごく難しいのは言うまでもないことですが、この刺繍があれば!
子供の中では間違いなくヒーローになれることでしょう!…
―――――超上級者向け、しかし見栄えは保証します!
究極難度の刺繍集!
念じた。
僕の体は、すぐにたくさんの輝く粒子に変わった。
その粒子は段々と人の形に集まって、最終的には…
「わぁ、リントだ!」
…人間のリントになっていた、らしい。自分では見ることができないから、よく分からない。
「よかったね、リント!」
そうだね。戻れなかったらどうしようかと思ってた。
「…あれ?喋れなくなっちゃった?」
あ、そっか。もう思考会話は使えないんだ。
久しぶりに口を動かし、シルの言葉に答える。
「大丈夫、喋れるよ。僕はちゃんと人間になってる?」
「うん!どこからどう見ても、正真正銘の人間のリントになってる!」
それにしては、テンションが変じゃないか?
「さっきのふわーっていうのが綺麗すぎて…戻したほうがいいかな?」
「んー、別に大丈夫かな」
目をキラキラさせているシルを横目に、僕は体の感覚を確認し始めた。
手をグーパーさせたり、足をブラブラさせたりする。
しかし異常はない。
「戻れたのか…」
ふと、紋章のあった右手の甲を見る。
そこには…
何もなかった。
驚いて、目を擦ってからもう一度見ようとしたら、目を擦ろうとした左手の方に見慣れない紋章があった。
「何だ、これ…?」
「ドラゴンじゃない?」
「うわ、びっくりしたな。考え事してるんだから…待った、今ドラゴンって言った?」
「うん、言った。そっくりだよ?」
そう言って、シルは刺繍のついたハンカチを見せてくる。
「ん、刺繍上手いなぁ、これ…。誰がやったんだろう?」
返事はない。
代わりに、「えっへん!」みたいな顔をしている。
もしかして…
「これ、シルがやったのか?」
「そうなんだよー!」
素直に上手いと思った。
本当に器用だよな、シルって…
しかし、なんで突然刺繍なんて始めたんだろうか?
そう考えていると、
「…あ」
一つの節に思い当たる。
「誕生日プレゼントか…!」
「その通り!というわけで、誕生日おめでとー!」
「ありがとう…!
これで、紋章がドラゴンだってことが分かった…」
「そっち…?ま、いいか」
「ということは…今念じればドラゴンになれるってことか」
「絶対にやっちゃだめだけどね」
誰がやるか。
「ドラゴンの時は人の紋章で、人間の時はドラゴンの紋章…
変身の紋章は、そういう仕組みだったのか…」
「何の話をして…――――!」
「あー、えっと…いいや、忘れて…」
説明、かなり面倒だし。
適当に逃れておこ…
「…?」
僕は、さっきの台詞の途中からシルの様子が変だということに気づいた。
さっきまでのシルは普段どおりで、ただのおしゃべり好きの女の子みたいだったが…。
今は違う。
集中し、あちこちに視線を飛ばして…
明らかに何かを警戒している。
まるでどこかに敵がいるような…
…まさか、本当に?
僕はシルの邪魔をしないよう、小声で話しかけた。
「何か、いる?」
シルは少しだけ、しかしはっきりと…
頷いた。
もし、もしも「続きが気になるかもしれない」とか「もっと面白かったらなぁ」とか思っていただければありがたいです…!
そう思っていただけたならば、ぜひとも助言、アドバイス、誤字報告、いやもうなんだって構いません!書いていただけると嬉しいです!自分にできる全力で活かしますので!
(今更かもしれませんが、助言とアドバイスは同じですね…どちらでもありがたいことに変わりはないのですが)