14.金属のスライム
スライムとは、あらゆる物体との親和性が高い、謎に包まれた魔物である。
大きさは、基本的には両手で抱えられるほど。
その身体は丸だが、重力に逆らえず多少崩れている。
主に水場で発生し、生まれて最初に目についたものを取り込み、様々な形態へと変化する。
それは土であったり、草であったり、石であったり、木であったり…
とにかく多様だ。
時には珍種が見つかることもある。
また、討伐する際は形態によって臨機応変な対応が必要とされる。
スライムを如何に効率良く倒せるか。
それは、冒険者の素質を測る最適な方法だろう。
…余談だが、スライムを飼う文化のある街もあるらしい。
興味のある方は調べてみてはどうだろうか。
――――――魔物図鑑「スライム」編、冒頭
「ねえ、あれってスライムじゃない?」
シルは、崩れた洞窟から出てきた巨大な魔物を指して言う。
「言われてみれば、そうかも…それにしては大きくない…?」
その魔物の体長は、僕らの三倍ほどもあった。
が、よく見れば顔も腕も足も何もない丸い体から、スライムだと推定することはできた。
「じゃああれがスライムだとしてさー…あれって一体、何のスライム?」
「さぁ…?」
なんていうか、あらゆる鉱物をごちゃまぜにしたような色だな。
何色って聞かれると答えられない。
初めて浴びるであろう日光を好きなだけ反射して、ぎらぎらと光り続けている。
うん?
光を反射している?
「…あ」
「なにか思いついた?」
「あれって金属じゃない?」
「金属?」
「あー…金属っていうのは、銅とか鉄みたいな、光を反射したり熱して変形させたりできるもので…」
名もなき村にはそこまで普及してないからなぁ…金属。
しかもシルは鎧を着けないから尚更馴染みがない。
「裁縫の針って言ったら分かる?」
「ああ、あーいうのね。あれは『きんぞく』でできてたのね」
「ちょっと違う…!」
おおっと、話が関係ない方向に逸れてしまった。話を戻して…
「あいつをどうしよう…?」
現在の課題は、あの巨大な金属スライムをどうするかだ。
討伐して持って帰れば、絶対に村の発展に貢献できる。
けど、問題は…
「どうやって倒すかー…」
「えぇ?!倒すつもりだったの?!」
「え?あ、うーん、倒せればいいなとは思ってる」
「てっきり逃げるんだと思ってた…」
「いや、だってあれを持って帰れば村の文化が十年は進むし…
利益が大きいから考えるだけ考えようと思って」
「へー…よく分からないけど、倒すならさ…」
ドラゴンになればいいんじゃないの?
「…」
それだ。
◆◇◆◇◆
そういえば、僕はドラゴンになれるんだった。
自分からドラゴンになったことなんて無かったから、すっかり忘れていた。
まぁ、そんな時が来なければいいなぁと思わなくもなかったけど。
シルには退避してもらった。
ドラゴンは本当に大きいので、普通に危ない。
準備は整った。
なぜか何かを叫びたくなる衝動をこらえて、静かに念じる。
気づかれたくないし。
自分の身体が小さな粒子に分解され、一瞬で僕はドラゴンになった。
流石に鈍いスライムでも気づいたか、こちらに向かってくるが――――
もう遅い。
大きく息を吸い。
胸の中でそれを激しく燃やすのを感じて。
思いっきり吐き出した。
僕は炎を吐いていた。
それは業火。
たとえ相手が金属でも――――
燃やしてしまう代物だった。
◆◇◆◇◆
「わぁっ!」
シルが降ってきた。
どさり。
ちゃんと着地したので、特に問題はないらしかった。
僕は気づいたら人間に戻っていて、視点がいつも通りだった。
「なんでわざわざ頭の上に乗ろうとするのー…」
「楽しいから」
「子供かっ!」
「でもさ、なんで十秒で人間に戻っちゃったの?」
「そうするつもりはなかったんだけどね…」
僕にもよくわからない。
スライムを燃やしたら、いつの間にか人間に戻ってた。
「時間制限があるのかな?」
「時間制限?」
「うん。ドラゴンになっている時の方が、体に負担が掛かりそうじゃない?体の中の何かを使って変身しているのなら、それが切れたら勝手に人間に戻っちゃうんじゃない?」
「確かに」
ドラゴンが動くのと人間が動くのでは、必要な力が段違いだろう。
そのうえさっきは炎を吐いたわけだし。
例えば…食べたものの力で動いているのなら、僕は今ものすごい空腹に襲われているだろう。
そんなことにはならなかったけど。
「まぁ、細かいことは後で考えればいいか。今すべきなのは、あの金属スライムを村に持って帰ることだし」
「あー…真っ黒になっちゃってるよー…?」
「え、本当に?!溶かすぐらいにしておけばよかった…!」
今見ると、先程までぎらぎら光っていたスライムの体は、水溜りのように広がり、ほとんどの部分が黒に変色していた。
「やりすぎたー…」
金属が燃えるだなんて思わなかった。
金属の加工は熱して行うと聞いていたんだけどなぁ。
手順を間違えたかな?
「うっわぁ…もったいない…」
「とりあえず、色が変わってないところを持って帰ろうよ。
結果としては、あの時逃げるのより全然良かったんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど。…そうだね、そうやって考えよう。そのほうが幸せだね」
こういうときは、気にしないのが一番だ。
そんな前向きな(現実逃避の)ことを考えつつ、僕らは金属スライムの回収を試みるのだった。
あー…今回、某有名RPGの三作目みたいですね…。
それ以降の作品は激しい炎がメタル系に効かなくなりましたけど。(何の話だよ)
突然ですが、ここにはふと思いついたお話の設定でも書いてみようかと思います。一言で。
「竜を見つけし者よ、今こそ願いを言うがいい」
「ボクと友達になってください!」
「は?」
って話…三言だな、これ。
神龍みたいなことをしている竜に、所々変な子供が友達になろうとする話です。
既にあったらごめんなさい。




