12.『リント』
「二重人格なんて、ただの迷信に過ぎませんよ。
せいぜい、突然怒ったりする人がいるくらいで。
…おい、そこの雑用。挨拶ぐらいしろ!」
なんとこの人、客人との会話中に突然怒り出した。
たしかにこの豹変ぶりは二重人格のように見えるが、実際は怒りっぽいだけなんだろう。
一応、雑用の人にも話を聞いてみるかな。
あと、うちの研究所に誘ってみようかな。
―――――二重人格を探す学者の記録
SIDE:シル
「責任って…?」
「そのまま、責任。僕がドラゴンの紋章を持ってるから魔物が来るんだろ?」
「そうだけど…」
でも、ドラゴンの紋章を授かったのは偶然なんだから、リントの責任じゃないと思うんだけど…
…?
リントの様子がおかしい…
リントは、『だろ?』なんて言わない。
まさかと思い、リントの顔を覗き込む。
リントの目は…虚ろだった。
それに気づいたときには、もう遅かった。
「あ、ばれた。口調も気をつけないと、か…『teleport』」
「えっ?」
リントが謎の言葉を発した。
あの時のように。
それはつまり、魔法の発動を意味する…!
「?!」
自分の体が光に包まれ、細かい粒子に変わり始める。
「何、これ…?!」
「そこにいると危ないから、村に瞬間移動させる。
お前に死んでもらっちゃ困るんで。あ、ついでに催眠も掛けとくよ。『sleep』」
そんな意味深な台詞を言っている間にも、私の身体は細かい粒になっていく。
…訳がわからない。てれぽーと?瞬間移動?私に死んでもらっちゃ困る?
頭の中は?でいっぱいだ。
そもそも、私の頭はリントと違って悪い方。
こんな量の情報を、彼の言う『てれぽーと』が完了するまでに処理できるはずがない。
しかも催眠のせいで眠くなってきた。
そんな私が唯一導き出せた事は、たった一つだった。
こいつは、リントじゃ、ない。
「あなたは、誰?!」
「…」
『リント』かな。
その声を聞いた直後、私は意識を無くした。
◆◇◆◇◆
「んー…」
目が覚めた。
「ここは…」
私の家。
もっと言えば、私の部屋の床だった。
起きてみる。
…体の節々が痛い。床で寝るんじゃなかった。
次はちゃんと床で寝よう。
字が同じでわかりにくい…。
でも、それだけでここまで痛いかな…?
少し目が覚めてくると、自分が魔物と戦うときの格好をしているのがわかった。
そりゃあ痛いわけだ。
鎧を着けていなくて良かったと、つくづく思う。
でも、なんでそんな格好で寝ていたんだっけ…?
…
思い出せない。
思い出せないものはしょうがないので、窓を開けて日の光を浴びることでより頭を活性化させようと試みる。
窓の外では―――――
リントの家が、瓦礫の山になっていた。
「…リントの家、早く建て直せるといいなー…」
そんな感想を誰にともなく言って―――
「リント…?」
そこでようやく、昨日のことを思い出した。
「あーー!!魔物は?リントは?!」
◆◇◆◇◆
私はリントの部屋に走った。
今更だけど、リントが自分の家を崩してからは、リントとその母は私の家(もといお父さんの家)で生活している。
私のお父さんは魔物討伐隊の隊長なので、魔物の被害への対処も仕事だ。そのため、保護を請け負った。
また、単純に家の空きが誰よりも広かった、という理由もある。
部屋に着いたので、扉を勢いよく開ける。
そこではリントが…
寝ていた。
私と同じように、床で、昨日のままの服装で。
「起きろおおおぉぉ!!」
「うわああぁぁ?!」
一刻を争うので、叩き起こした。
あれ、いつものリントだ…?
昨日のあいつじゃない。
「な、何…何かあった…?」
「お忘れですか?!」
「………あったね。何か、あったね」
さすがリント。頭の回転が速い。
「魔物の群れ、どうなったの?!」
「…僕も、分からない」
「分からないって…覚えてないの?」
「うん…でもさ、魔物が来るのは阻止できたんじゃない?
現にこうして朝を迎えられているんだし」
たしかに。
ということは、あいつは魔物の襲撃を止めた…?
「ここで考えていても仕方がないし…また、あの洞窟に行ってみる?」
「…うん、そうだね。そうしよう。それがいい」
◆◇◆◇◆
その日の午後。
私達は、再び森の中へ向かった。
昨日と同じ道を辿り、あの洞窟を目指す。
…しかし。
洞窟が見つかることは、なかった。
遅くなってすみません。
不定期投稿が出てしまいました。
ちょくちょくこういう風に間が空くかもしれませんが、
気長に待っていただければ幸いです。
書きたい気持ちだけならたくさんあるので。
ではいつもの。
もし、もしも「続きが気になるかもしれない」とか「もっと面白かったらなぁ」とか思っていただければありがたいです…!
そう思っていただけたならば、ぜひとも助言、アドバイス、誤字報告、いやもうなんだって構いません!書いていただけると嬉しいです!自分にできる全力で活かしますので!




