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八十九ノ怪 狂気の″ヨシヘ″…後編

豪華な家庭菜園を見てまわり、無農薬の自家栽培野菜もしっかりと堪能。そして屋内へ入ろうとした時です…


「ケイジくん悪い。後でヨシヘを連れて、晩御飯の買い出しに行ってくれないか?」


「………あ、はひ、分かりました…」


妻方の叔父さんからの頼みに、微妙なタイムラグが発生。無難な返事をしたつもりが、焦りまくりーの、動揺しまくりーな自分ケイジ

まさに人選ミス。今日一番の無理難題ですね。はい…


そして一番下の息子ユトと次女サリは長女のヤカに面倒をみてもらい、お出掛けはヨシヘ対策として妻も一緒に同行してくれる事になりました。

これで少し安心………は、絶対にないっ!一分の気も許したらダメですからっ!

相手はあのヤバさで有名な″クレイジーヨシヘさん″…

恐らく、多分、きっと、間違いなく必ず何らかのトラブルが起きるぞっ…、まさに、なんて日だっ!


最初の行先は子供たちのたっての希望で、某回転寿司に行って先にお持ち帰り予約しておく事になったのです。

しかし、ここでも″ヨシヘさん″は奇人変人っぷりを思いっ切り発揮してしまうのです…


「ねぇっ、ねぇっ。店員さんっ!!これ、お金っ、お父ちゃんに怒られるから、先にとっておいてちょうだいっ!!」


店内で恥ずかしげもなく、片手で万札を振り翳すヨシヘさん…

この人の言っている意味は分かりますが、それは恐らく叔父さんが「ヨシヘ。せっかく招待してるのに、姪っ子夫婦に絶対金を出させるなよ」と言われてきたのでしょう…

しかも今は昼時。また店内混雑時にそんな大声で…、多分身内と思われて物凄い恥ずかしいんですが…


「あ、あのー…、お客様?当店は商品をお渡しする際に、お支払いしてもらうシステムとなっておりますので…。お代金を今渡されても…」


…と。店員のこれ以上も以下もない、当たり前且つベストなアンサー。


「もう、そんなん言わんと!お父ちゃんに怒られるから、早くお金とってちょうだい!!」


「お、お客様…?も、申し訳御座いませんが、″商品をお渡しする際の″お会計となりますので…」


「うちがお父ちゃんにっ、怒ら…ーー」


そこで我が妻が、混雑して立っている邪魔な客たちを両手で押し退け…


「ーーおばちゃんっ!!うるさいっ!!他所で買い物した帰りに、もう一度ここに寄って商品と引き換えに、お金を支払うだけの話やろっ!もうっ、無茶苦茶恥ずかしいから黙っときっ!!」


「うぅ…」


マイワイフの怒りの一喝…


一瞬時が止まったかの様に「しん…」とした現場で、お客さん全員が首を揃えて、こちらをガン見してきます…。あぁ、ハズカシイ…

兵庫〜神戸辺りだと、ド関西弁はやたらと目立つ気がしないでもない…

そして妻は叔母ヨシヘを完全放置したまま、旦那ケイジの腕を引っ張り、足早に店外へと飛び出しました…


「わたし恥ずかしないで?だって、こんな知らん土地、二度と来んからなっ。あの人たちとは二度と会う事もないしっ、ふんっ」


「だ、だな…」


しかし落ち着いて考えると「だな…」とは言ってみたものの、帰り際にもう一度この店に商品を引き取りに来なければならない…様な?気がしないでもない…泣


「ふんっ」


妻は完全に頭へ血が昇ってしまい、まともな判断が出来る状態なくて。そこへ合流せんと、慌てて階段を降りてくるヨシヘさんですが…


「なぁ、パパ?この人放って帰ろか?」


「◯◯ちゃん酷いっ…、そんな事言わんといて〜な…」


いや、だから、おたくら身内の揉め事で″自分ケイジを引き合い″にポンポン出さないでくれますか…?泣

この妻方の一族ばかりは、ホント困ったもので…


「オバさんも初めて来て分からなかったんだろうし…」


「はっ、何べんも来てるって、さっき自慢してたでっ!」


「はぅ…」


『いやいや、我が妻よ…。場の雰囲気くらい汲み取ってちょうだい…。他人さんや余所の実家で、あなたは気を遣わなくても平気なのかい?じゃあ自分ケイジの実家に行ったら、今と同じ事をしてみてあげようか…?』

…とは、怖いから絶対口には出さず…


「オバさんの″意図″は分かったので、僕は叔父さんの″意思″に従いますよ?」


と、やんわり言ったのですが…


いといし?そんなん、買うの聞いてへんわ…。どうしよ…、また、お父ちゃんに怒られる…」


オー、マイ、ゴォーッド……

まさかの日本語が通じないっ…!!


(バタンッ…)


そして完全無視な妻は、無言で先に車へと乗り込みました…

おぃ、この空気のまま放置かっ!アンタの親戚だろ??このヨシヘさんはっ!!


「オバさん…と、取り敢えず車に乗りましょう」


「あ、うん。ケイジくん、ごめんね?」


「い、いえいえ。こちらこそ何かすいません…」


死ぬ程気不味い雰囲気のまま某回転寿司屋を後に。

次に向かう店は大手スーパーらしいのですが、関西では見ない店舗でした…と、そこでまた…


「ケイジくん!ここで右に曲がってっ!!」


と、再び大声で叫び出したヨシヘさん…

えーっと。ここは思いっ切り右折禁止ですね。はい…


「あの、オバさん?道路交通法上、ここでは曲がれないので…」


「えっ?何でっ!!」


「いや、だから道路交通法で禁止…」


「えっ?何でっ!!ここ曲がったらすぐやのにっ!!何で?ケイジくんっ、何でっ!?」


「だ、だから交通法上禁止…。取り敢えずUターン出来る場所を探しますから、もう少しお待ち下さい…」


「えっ?何でわざわざ遠回りするのケイジくんっ?何でっ!?」


自分は異世界転生してしまったのでしょうか…?

モンスターヨシヘさんに、何故か日本語が通じない…

と、そこでやっと妻が一喝…


「オバちゃんっ!うるさいっ!!アンタは″法律でアカン″って旦那ケイジがさっきから言ってるのに、その意味が分からんの!?アホかっ!!もう、一生黙っときっ!!」


「うぅ…」


「……。」


取り敢えずUターンした後。自分ケイジは駐車場へ素早く車を停め、道中ブルっていた携帯電話を確認…


「あ、母さんから電話入ってるわ…」


「え?そうなん?」


「……。」


先程の怒りの余韻か、少し睨み加減。妻の鋭いツッコミにも臆せず、デ〜ン…と身構えている自分ケイジ

実はオカンからの電話なんて真っ赤な嘘。

ごめんね??そして嘘をつくのは大っ嫌いでしたが…、今回の嘘は流石に神様も許してくれるだろう。

で、ハッキリ言っちゃうと…、あなたちち二人の空気が、俺には耐えられないんですっ!ざんねぇーんっ…!


「じゃあ、◯◯ちゃん。行こか?」


「はぁ…」


さっきまでの険悪なムードは何処へやら…

まるで一流女優みたくヨシヘさんは切り替えが凄く早い、早い…

いや。既にさっきまでのトラブルの記憶を、都合良く脳から全部消し去ったのかもしれない…


(はぁ…)


まぁ、後から嘘を追及されるのも癪なので。取り敢えず母親宅へ本当に電話を掛ける事にしました。もちろん履歴残しの為のワン切りで。


(ジリリリン、ジリリリン…)


うおっ、素早く切りつもりがコール音を鳴らしてしまった…

…で、案の定。母親から掛け直しの電話が掛かってくる事になってしまいます…


(ピッ…)


「うん…」


おい。久しぶりなのに「うん」って何だよっ、俺…


『久しぶりね、ケイジ?何かあったん?』


「い、いえ。番号押し間違えただけだから…」


『そうなの?あっ、そうそう、それからねーー』


(はっ…)


し、しまった…。ナガ兄同様、母親は超長電話のプロだった…

後悔先に立たず。しかも母親は親父に対する愚痴が再び益々加熱ヒートアップしてしまいます…

自分ケイジもダラダラと優しく悩みを聞いてあげるのも悪いが…、かなり遠方からの電話なのでリアルに後から幾ら通話料を請求されるのかが怖い…

だって母さん宅は、浪費親父の所為で万年貧乏ですから…


』それからね?あーだ、こーだ…』


で、すご〜く長話しなってしまってる気が…

と、そこでタイミングよく妻たちが帰ってきて…


「パパ?ごめんな?遅くなって…」


「ケイジくん待たせてごめんね?」


「あ、お帰りなさい…。母さん悪い、みんな帰ってきたから切るね、ごめんね…ーー」


と、そこで母親からの電話を強引に切り面目躍如。


「お義母かあさんは何て?」


「いや、いつもの親父の愚痴を只管聞かされただけだよ…」


「大変ね…」


一瞬デジタル画面に、携帯の通話履歴が30分超えなのが目にとまります…

ぐはっ…、何てこったい…。母さんケイジは今、遠方にいる事伝え忘れてたね…、恐らく電話代高くなってるからゴメンよ…。って、また後日。母さんから金の無心されるな…

ある意味、自分のついた嘘で本当に大変な事になってしまった一幕。おぉ、嘘の神様よぉ〜…、読者様みなさまも嘘や言葉足らずは絶対にいけませんよ?泣


そして例の件で超恥ずかしいから、寿司屋で出来上がりを素早く?引き取り、全く会話も無いまま、いざ叔父叔母宅へと帰宅。ホント、いや、マジで疲れてしまいました…


そして皆で寿司を皆で堪能した、その食後。リビングで自分ケイジは叔父さんと一緒に話をする事になり、ヨシヘさんは次女のサリと、この新築の目玉である大きなお風呂へと入る事になりました。


しかし…。叔父さんと二人で家庭菜園やパチンコネタで盛り上がっている最中…


『きゃあっ、オバちゃん冷たい!!』


風呂場の方からサリの悲痛な叫び声が聞こえてきました…。いくら心配したとしても、風呂を覗きには行けません…


『あ、熱いよっ、オバちゃん!!』


こ、今度は熱湯拷問か…!?我が子に一体何をしてくれてるんだヨシヘさんっ…!?

更に次の瞬間…


(ザッ…………パァーーンッ!!)


「またっ、あのアホめっ!かかり湯してから入らんかっ!!風呂の湯が勿体無いやろがっ!!」


叔父さん曰く、ヨシヘは何度言っても…


『満タンにお湯ハリして、一気にザップ〜ン…てしないと、お風呂に入った気がしないから』


かかり湯もせず、そう言ってお湯満タンのまま一気に浴槽へと飛び込み、大半の湯を無駄に流し捨ててしまうらしいのです…

…いや「らしい」じゃなくて「しまいます」か…

確信犯ですね、これは…


そして後でサリから風呂の叫び声の件を聞くと…


シャワーの水が出る先を向けられたまま、ヨシヘさんがいきなり水を出し、温かくなる前の冷水をサリが全身に浴びせ掛けられてしまったと…

浴室のドアもちゃんと閉まってなかったので、更衣場の床までもがビチャビチャになったらしく…


「このクソババアッ、アホめっ!!」


「うぅ…」


で、慌ててドアを閉めた後。

冷水で寒がるサリを温めようと、慌ててピピピーと水の温度を一気に上げたのは良いのですが、今度はお湯が凄く熱くなったのに「まだまだ、寒いから入っときっ」と言って、なかなか熱っつい浴槽から出してくれなかったとの事で…


「もう、わたしオバちゃんと一生お風呂入らへん!」


そう文句を言って顔を真っ赤に可愛らしく拗ねるサリ…。で、ヨシヘさんは必死に謝ってましたが…


「ごめんねぇ、サリちゃん…」


その後何事もなかったかの様に、長女ヤカは一人でそのお風呂を堪能。続いて自分ケイジたち夫婦、叔父の順でお風呂に入らせてもらいました。

いやぁ…、ホントにデカい風呂だったなぁ…


(色々な意味で遠い目…)


…と、そこで叔父の娘ミユ夫婦とお子さんの三人は、旦那さんの実家に帰るらしいので、ここで別れる事になります。


「じゃあ、ケイジさんたちはゆっくししていって下さいね?」


「あ、はい。ミユさん、◯◯さん、ありがとうございました。道中お気をつけて」


「は〜い」


「里帰り、道中気をつけやーー」


あのー…ミユさん?旦那さんの里帰りへ″ヨシヘさん″も一緒に連れて行ってくれませんか…?

…と、何度も喉元まで出掛かっているのを必死に堪えながら、玄関でミユ夫婦を見送りました…

…ってか、連れて行けっ!!


ふぅ…。ヨシヘの暴走ストッパーの一人ミユ…と、その旦那さんが運転する車が視界から消え…、そして自分ケイジも黒目が消えた白目のままリビングへと戻ります…


「あっ!」


…と、そのタイミングで急にヨシヘさんが…


「アイスを冷蔵庫に仕舞うの忘れてたわぁ…」


「ーー!?」


先の買い物の時に、ヤカの希望で箱入りチョコアイスを買っていたらしいのです…

何で持ち帰ってすぐ冷凍庫に仕舞わないんだこの人は!?常識や当たり前って言葉を知らないのか!?

叔父と話したり、みんなで風呂に入ったり、ミユ夫婦を見送ったり…と。その間も思いっ切り溶けまくっていたであろうアイスの箱の封印をヨシヘさんは躊躇なく解き…


(ビリビリビリ…)


「さぁ、◯◯ちゃん、ケイジくん。ヤカちゃん、サリちゃん、ユトくんも…。アイス溶けるから、早く食べや?」


「……。」


てか「溶けるから」じゃなくて「溶けてる」んじゃないか…?もう一度、冷凍し直すという選択肢は無かったのかい…?


…まぁ、食べれない事はないが。いや、食べるという感覚よりも、寧ろ″飲む″感じ…


結果は自ずと分かるでしょう。小袋入りのバー付きチョコバニラアイスは、バー部分が溶けたアイスで浸かり行方不明に。そして液体が落下したりして、子供たちの手や衣服、新築の床やカーペットまでも汚す羽目に…

風呂入った意味が無いじゃん…。多分、ミユちゃん夫婦が帰ってきたら激怒されるぞ…?こりゃあ…


「あー、何でやろ?」


「『何でやろ?』って、他人事かっ!このヨシヘばかりはっ。普通考えたら分かる事やろっ、!アホか、お前はっ!!」


「うぅ…」


痛いほど″アレ″なのは分かりましたし…

あのー、子供の服が汚れたままでいいから、もう、マジで…自宅うちに帰ってもいいですか…?


あ〜…、よく考えたら今日ここで一泊するんだなぁ…

まるで処刑場の断頭台に一歩、また一歩と、上っていく様が脳裏に過ぎります…。そしてここぞとばかり、ヨシヘは自分ケイジの胡座の上にチョコン…と座っていた息子のユトを強引に奪い去ると、ギュッと抱きしめながら、どっしりと自分の真横に座り込んだのです…


「ケイジくん、あのね?あのね?」


「あ…、はい…」


俺、急にヨシヘから話し掛けられて大丈夫かな…?ごく普通に自然体かな…?今、思いっ切り白目剥いてないかな…?滝汗


そこからヨシヘさんの、あの宗教信者ともだちの長〜〜い自慢話が始まりました…

他人の自慢話かよっ!…で、確か彼女とは家族ぐるみで喧嘩中じゃなかったのか!?奴の所為で大金をドブに捨てさせられ、家庭崩壊の危機に陥ったのでは!?

建前上″叔父叔母夫婦の金銭トラブルの件を知らない″…という事になっている…、であろう?自分ケイジ。もし今現在テレビの野球に没頭している叔父へ、この話が少しでも聞こえたりしたら大変だ…


「でね?◯◯ちゃんって凄く器用で…」


「へ、へー、そうなんですか?」


長話がズルズル、ズルズルと…

少し離れた位置にいる我が妻は、ヨシヘ+旦那をセットで完全無視を決め込む気だ…。こ、今回は助けてくれないのか!?…くっ…、許せないっ!!


「あ、そうでした!」


「どうしたの?ケイジくん?」


「今日、母の電話途中で切ったでしょ?かけ直すの忘れてました…」


「あー…、そうなんだぁ」


俺はホントに嘘が大嫌いなんだ!嘘じゃない、信じてくれっ!嘘は嫌いだが良い嘘はつく…って、訳がわからん!こ、これは我が身の安全を守る為の嘘。所謂、正当防衛…ってヤツですっ…


「ちょっと外で電話してきますね…」


「気をつけてね?」


「あ、はい。ありがとうございます…」


玄関の外に出るだけなのだが…、俺は一体何に″気をつけ″たらいいんでしょう…?…で、「分かりました」って何だよ?俺はさっきので一体何が分かったんだ…?

取り敢えず自分ケイジは、一番″気をつけたい″危険人物に該当する存在が″ヨシヘさん″なんだが…


「はぁ、早く家に帰りたい…」


そして自分ケイジが部屋から脱出する事によって叔母ヨシヘは次なる獲物を探す筈…

妻は既に頭カンカンで近寄れない、次女サリも冷水熱湯事件で完全トサカにきている、じゃあ残ったのは…″長女のヤカ″だけでしょう…

「うぅ…、こんな酷い父親でごめんな?ヤカ…」と、ウキウキしながら玄関から飛び出た自分ケイジ


「ここはホント真っ暗だな…」


山手で街灯も少なく真っ暗闇で、いつクマが出没してもおかしくはないこの環境下。

あぁ、やたらと大自然を感じるな…

近くの森がかなり薄気味悪くて、ある種の恐怖すら感じてしまいます…。…で、ここで「電話をしていた」という事で、あとは時間を潰すだけなのですが…


(プゥ〜ン、プゥ〜ン)


「痒っ!あーっ、痒いっ!!か、蚊、蚊ゆいっ!!」


やま″…といった具合に。山に行くと必ずこいつらが大量にいるのです…。この恐ろしき自然の法則は誰にも崩す事は出来ないですから…。って、マジに痒いっ…!


「ぐっ…、昼間はいなかったのに…」


日中、家庭菜園を見ていた時は全く刺されなかったのに、夜になるとやたら出てきたヤブ蚊たち…

仕方がない…、一旦家に戻るか……と。玄関のドアを開けた瞬間、屋内から


『きぃっ!!オバちゃんはいっつもそうやっ!!自分勝手で無理矢理ユトのーー』


『◯◯ちゃん。わたし、そんなつもりでやったんと違ーー』


あまりの大音量で、自分の鼓膜が破けてしまいそうな大声で口喧嘩中…

声からして″ヨシヘVSオレノヨメ″…

何が原因か全く不明な、終わりなき闘いが繰り広げられていました…


(キィ……カチャ…リ……)


我は完全なる無…

ひっそりと微かな音も立てず、闇に紛れ、再び屋外へと逃げ出した自分ケイジ


「しばらく…、蚊…にでも刺されとくか…」


(ワイワイ、ガヤガヤ、キィイイイー…)


…で、屋外で蚊と戯れ30分くらいは喧嘩で妻が一方的に叫んでいた気がします…

そして、そろそろ頃合いか。自分は恐る恐る屋内へと戻りました。しかし、ホント彼方此方が痒い、痒い…

中では半泣き顔で妻に抱かれている息子ユト。そして、テレビを観ている叔父さんの横に、全泣きで顔も完全に崩れてしまっているヨシヘさんがいました…


「パパっ、遅いっ!」


「ああ、すまん…、何かあったのか…?」


「ねぇ、すっごい腹立つねんっ!なぁ?ちょっと聞いてくれるっ?」


あの…、一人で家に帰っていいですか…?涙


妻から聞いたトラブルの原因は、ほんの些細な事…

ヨシヘさんがユトを抱いていて、急に泣き出したからオムツを誰が変えるか?…で妻と揉めたらしいのです…

実はヨシヘさんは娘夫婦の子供…、要は″実孫″の世話をあまりさせてもらってなくて、代わりにユトの世話を凄くしたかったらしいのです。

まぁ、妻からしたら冷水熱湯事件の首謀者であるヨシヘさんに世話をしてもらって、万が一にもユトに何かあったら…と、凄く嫌だったのでしょう…

この双方の気持ち、共に分からなくはない…。でも、ヨシヘさんはトラブルばかり起こしますが、根は優しい人なのです…


「良い方に考えれば、どちらもユトの事を心配して世話もしたい…って事で。息子は凄く恵まれていて、幸せ者ですよ…」


「そうやな。取り敢えず、娘夫婦…ミユたちもヨシヘへ過剰にキツく当たってる感があるから、言い聞かせててみるな…」


…と。叔父さんと自分ケイジは口喧嘩する二人を、そう説き伏せました。


「ごめんな?◯◯ちゃん…。ユトが可愛かったから、つい…」


「もう、いいよ。オッちゃんも、旦那もこう言ってるし…」


そこで妻が再びユトを自分ケイジにグイッ…と押し付け…


「はい」


「……。」


こいつ…、オムツ替えで、あんなに息子を取り合っておいて…。いざオムツ替えるとなったら俺に押し付けてきやがるっ。ヨシヘも呆れた顔で見てるぞ?…コイツばかりはっ!!


「おー、パパがおむちゅ替えてあげるでちゅよ?」


「あぅ〜」


ちょいと息子は色々と問題がありまして。五歳過ぎても、数字や言語の理解、会話等が全く出来ませんでした。でも、可愛いものは可愛いのです。

やがて夜も更け、家族全員一室に布団で寝る事になりました。しかし…


「……。」


…だが、しかぁーし。明らかに…、この部屋の布団の並べ方と位置がおかしい…。八畳の部屋で縦に布団を並べれば、誰も問題無く夜中にトイレへ行けるのですが…


「寝る時の頭向きは、ちゃんとしておかないと災難に遭う…って、◯◯ちゃんが言ってたから。大人はこっち向き、子供はあっち向き。これでケイジくんたちも安心やろ?」


…サラリとマイオカルトを押し付けてくるヨシヘさん…

一体、何の縛りだよソレは…?いやいや、全部の布団が畳に対して凄い斜めになってるぞ?そして自分ケイジが言わずとも布団の向きを無言で徹底的に直していく我が妻…


「もおっ!◯◯ちゃん、これやったら家族に災難がーー」


「うるさいっ!オバちゃんと一緒に寝る方がモロ災難やわっ!!」


「うっ…」


オー…、ジーザス……


あの〜…、もう寝ませんか?夜更けに喧嘩なんてやめて下さい。子供たちも可哀想だし……と、心の中で寂しく呟いてる自分。情けない…

この時間帯。今みたいな状態のヨメへ下手に刺激を与えたら2、3時間は寝れなくなる可能性がある。しかも今は出先だ、明日帰る長距離運転の事も視野に入れ、絶対寝不足になる事だけは回避しないと…


最終的に凄く落胆した顔で横になるヨシヘさんと。布団をベストな位置に直し、まるで何もなかったかの様に目を瞑り横になっている我が妻。


他にも細やかなトラブルが色々とあったのですが、書ききると大変な事になるので今回はアッサリと…え?これで??


…で。大体予想通り、とんだ一日となりましたが。やがて我が意識は深淵の闇へと…ーー



(ズキッ!)


「痛い…」


オチなくて…。寝ていた自分ケイジの足の爪先辺りに、突如激痛が走りました。少し瞳を開くと、ボヤけた視界。寝た時と同じ、常夜灯のみの薄暗い部屋だから…、今はまだ夜中?


「あ、ごめんね?ケイジくん…」


誰だ?こんな時間に話し掛けてくるのは…?…って″ヨシヘさん″っ!?

そして、そう言ってる傍から横で寝ていたユトを抱きかかえ


「ユトくん、オムツ見てあげるね〜…」


「……。」


足を踏んだのはアンタか…

取り敢えず携帯で時間を確認すると、およそ朝方の5時過ぎ…?マジか?静かに寝ていたユトは、いきなり抱き起こされたもんだから、火がついたみたいに泣き出して…


『わぁああん!わぁああん!!』


結果として妻や他の子供たちも、そのヨシヘさんの暴挙で完全に起こされる羽目になってしまいました…


「もおっ、オバちゃん!何してくれてんのっ!!」


まさかの早朝から、妻の怒りのボルテージがMAX状態に…


なんて朝だっ!!


更にヨシヘさんの余計なひと言が、妻の逆鱗に触れてしまいます…


「あれ?ユトくん、オムツ全然濡れてないね?」


(プチンッ…)


何処かで、何かが、思いっ切り″断線″した音が聞こえた気がしないでもない…。さて、俺は寝直すか…


「朝も早よからっ、オバちゃんはっーー!!!」


長女のヤカ、次女のサリは凄く賢い。頭から深々と布団を被りミノムシ形態の完全無視体制だ。俺も真似するか…


「なぁっ、パパからも!文句言ったって!!」


オー、ジーザス…

自分ケイジを引き合いに出すんじゃないっ!!″と………言ってないから伝わらないか…。しくしく…


「すいません…。寝直しませんか?」


「ケイジくん、ごめんね…?」


「いえいえ…」


「ほんま、最悪やわっ!!」


「まぁまぁ…」


俺は今、何か重要な分岐点に立たされてる気がする……ってか、そもそも俺は無関係&足を踏まれた被害者…


そしてこの後ヨシヘさんは、再び朝方6時過ぎに皆を起こしに来たのです…

え?妻がどうなったかって?もちろん、まるで天変地異の如く再び怒り狂ってましたよ。はい…


そして最後に子供たちはヨシヘの朝の手料理をハッキリと断り、朝食はファーストフードがいいと行ってしまいます…。その時のサリの台詞が…


「ヨシヘのごはん、いんない。マクドがいー!」


…と、名指しで文句を言う始末…

流石にこれには自分ケイジも黙っては…


「これっ、サリッ。オバちゃんに失礼やろっ」


「ひぅ…」


しかし横から妻が強引に割り込んできて…


「サリは昨日、オバちゃんにエラい目に遭わされたからなっ!出先でもうんたらかんたら!!朝方もどーたら、こーたら!!ーー」


右手人差し指はフラフラと宙を舞い、やりどころも無い。オマケに口をパクパクさせたまま、自分ケイジの威厳は何処へやら…

今日もやっぱり…、なんて日だっ!


そして車には全員乗れないので、ドライブスルーでお持ち帰りする事に。しかも車内のメンツは昨日と同じヨシヘ、妻、自分ケイジの三人。もう、嫌な予感しかしませんが何か?


「ケイジくん?お金はウチで払うからな?」


「あ、はい。分かりました。気を遣わせてすいません…」


最初はこんなやり取りだったのですが。


「ーー…で、あとは単品のポテトLサイズ2個で終わりです。」


『かしこまりました。では復唱しますねーー』


…と、店舗マイクへ注文を終えた辺りから…


「じゃあ、ウチが払うからな?ちょっと車止めて?」


「…え?」


「払わな、ウチがお父ちゃんに怒られんねん!」


「いや、混んでますし。会計窓口がまだなんで…」


「だから、お金は払うからな!ウチが払うんやって!」


「そ、それは分かってま…」


「ちょっ、くるまをとめてぅぇ〜っ!!ケイジくんっ!く、くるまをとめてぇ〜っ!!」


「っ!?」


そして、突然後部座席のドアが開き…


(ガチャ!!)


「…え?」


(ガガガ…、ガギャッ……)


ここは狭小ドライブスルー…

車のドアは店舗側壁コンクリート部分へ勢い良く接触し、豪快に大破…


「走行中の車のドアは絶対開けない」と、わざわざ口にしなくとも、大人なら普通に分かると思うのですが…


ここでようやく、冒頭での話に戻ります…

自分うんてんしゅはハンドルを握ったまま顔面蒼白…。血の気がサ〜っと完全に引いてしまい、頭部の血液が全て何処かの部位へと出張中…


「あれれ?ケイジくん…、車のドアがちゃんと閉まれへんわ…。何でやろ…?」


見て分かりませんか?貴女あなたの所為でドアが完全変形し、アニメでいうところの″最終形態″とやらに進化してしまってるんですよ…?

そして脳裏には高額な″修理費″の三文字が走馬灯の様に駆け巡ります…


「あっ、そやっ。ケ、ケイジくん、わたしがここのお金払うから早くとめてぇ〜!!でないと、お父ちゃんに怒られるからっ!!と、とめてぇ〜っ!!」


「…いや、ちょっと待っ……」


「ケイジくんっ!お金払うから早くとめてぇっ!!ほらっ、これお金っ。早く受け取ってっ!!ほらっ、これっ、ほらっこれっ!!あー、もおっ、ウチが車から降りて支払ってこよかっ!?」


「……。」


運転中ずっと後部座席から運転手の自分の顔面辺りに目一杯片手を伸ばし、パタパタと万札を振り回してくるヨシヘさん。

そこで、やっと妻がブチ切れて…


「もうっ、さっきから″オバちゃん″が一番うるさいっ!!!ドライブスルーは、お金を支払うのは一番最後って決まってるのっ!後ろに座ってる人がわざわざ″車から降りてお金を支払う″とか、そんな話聞いた事無いわっ!!何の為のドライブスルーやのっ!!アホとちゃう??むっちゃ恥ずかしいし、もうやめてっ!!それにっ…旦那ケイジも運転中に、そんなんされたらココで事故ってまうわっ!…で、アンタが壊した車のドアッ、どないしてくれるのっ!この、ドアホッ!!」


「うっ…」


この後、気分的にはもう十年越し的な疲れが…


そして妻はヨシヘさんの金銭トラブルでの引っ越し事情を知っており、叔父夫婦にお金が無い事も分かっていました。だから車の修理の件は叔父には内緒にし、家から少し離れた場所へ車を路駐する事に…


自分ケイジの車の修理代が元で、世帯分離や離婚されでもしたらたまりませんからね…

おっと、一応自分は″その件を知らない″…って話になっていたんだ…。要は妻の指示に従ってるだけ…って事にして…


「オバちゃん?オッちゃんに車のドアの事は言わんでええからな?黙っとくんやで?」


黙ったまま、真っ青な顔で何度も頷くヨシヘさん…

もう、見てられないよ…


「なぁ?パパ?」


「ん?」


「これくらいやったら、タダで車を直せるな?」


「あぁ、友達に頼んだら一発で直るわ」


…もちろん、これは嘘です…

″叔父夫婦と娘夫婦の仲が拗れない為の嘘″…という意味でしたから…


そこでヨシヘは涙がポロポロと…


「もう…、泣いてたらオッちゃんにバレんで?帰ったら絶対に泣き止みや?」


再び真っ青な顔で黙って何度も頷くヨシヘさん…



そして車の事はちょっと遠回しに「別の所に停めた」とだけ伝え。叔父たちとは玄関先でのお別れとなりました。ついでにケーキが中に入ってる箱をヨシヘさんから土産物としていただき


「オジさん、オバさん。こんな土産や色々なご馳走をありがとうございました。子供たちにとっても楽しい思い出になったと思いますので」


「いやいや、ヨシヘが迷惑ばかり掛けてたと思うけど。そうケイジくんに言ってもらえたら招待した甲斐があるわ」


叔父の言葉がズキリと的を射抜く…


「そんな事ないですよ。本当にありがとうございました。ほら、お前たちもお礼を言って…」


教えていた通り、我が子たちは


「「トマト美味しかったしぃ、楽しかったぁ、ありあとー」」


…と。


「いえいえ〜…」


そこでヨシヘが笑顔で謙遜…。横目に妻のイラッとしている顔が見えたので、自分ケイジはもう見ない…。そして最後に…


『また、遊びにきてね〜』


…そう言われ。


「そ、その時は、またお願いしますね…」


しかし、その軽い言葉と平行しながら心の中では…



″二度と来ませんっ!!″



…と絶叫。ある種、冷水&熱湯風呂の被害者であるサリもそう思っていた事でしょう…


そして…変形したドアの修理費は13万超え…。数ヶ月にも及ぶ妻の家族への八つ当たりが続く始末に…と。かなり尾を引いた今回の件…

嘘のつき方にも色々とありますが、結局はロクな事がない…。読者様みなさまも″つく″際は細心の注意を払って下さいね。


で、恐らく初日。ヨシヘがスーパーで買ったであろう土産の箱入りケーキは、何故か中身がグチャグチャにミックスされていて、貰い物だし文句も言えず…

そして子供たちと一緒に、色々なケーキの多種多様に味が入り乱れた粉砕ミックスケーキを美味しくいただきましたとさ。めでたし、めでたし…


ーーどこが、″めでたし″やねーんっ!

幽霊なんかより、ヨシヘさんの方が数百倍怖いわっ!!

ついでに、なんて日々だっ!!


…と、今回はここまで。長々と読んでいただき、まこと、恐縮で御座いまっする。泣





完。

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