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八十七ノ怪 遼遠なる記憶の小片

忙殺か…

社内では目眩く襲い来る死仕事デスワークの無限地獄。そんな中、出張先への仕事は箱詰め状態から抜け出せる唯一の安息でもありました。

取り敢えず今回は。初めてお泊まりする事になったこのホテルの室内に、派手な向日葵ひまわりが描かれた絵の額縁がポツリと飾られていて…

某、有名画家のあの絵画にも似てるでしょう?いや、よく見てみると、違う、違う、全く違う。いや、そんな事はど〜でもいいか…

で、額縁それが…ほんの少し…、ちょい斜めに?微妙〜に傾いているのが気になっていたのです…


今回の事象…、事の発端は全て″そこ″から始まります。

ネタバレ的に、いきなりオチを言ってしまえば…

…って、言っちゃうの?それ、先に言っちゃうの??

結果。ちょっと悲しくて切ないお話になってしまうのですが…ーー




ここは、とある東京の一般的なホテル。

今回は自分ケイジの実兄である、ナガ兄の″会社仲間″が体験した心霊現象の話をさせてもらいます。


その会社仲間…。所謂、営業仲間かれの名前は″ユウヤ″。細身に短髪、身長は170センチ後半辺りと長身な彼。

ナガ兄とは同じ職場、同部署、同じくアラフォー世代。営業マンとして働いている彼は通例で予定通り、東京へと出張する事になったのです。

しかし、スケジュールは常にハードなブラック企業だったとの事で。デスクワーク中のナガ兄が、出発前のユウヤに声を掛け


「あー辛いっ…。ん?ユウヤ、また東京か?」


…と、ひと言。


「ナガも明日から静岡行きだろ?どっちもどっちだよ。…まぁ、ここでデスクワークしてるよりマシだけどな」


「あははは、そりゃ言えてる。しかし、どっちも出張先が遠いな…」


互いに出張とくれば遠方ばかり。

山積みされた地獄の処理作業を必死に頑張っているのに、ここで出世出来るのか?いつ給金が上がるのか?

安月給でハードにこき使われ、未来への展望が全く見えてこないこのブラック企業。

そんな扱いの万年平社員ユウヤは、ため息と共に利き手で頭を掻きながらロッカールームへと向かいます。するとナガ兄は彼の上げた腕を見て


「ユウヤお前、いつも″それ″付けてんのな?」


「ああ、これな?」


彼は数珠に似たブレスレットをいつも右手首に付けていました。でもそれは一般的な″じゅずだま″と違い、薄茶の木の幹の様な歪な模様が入っていて、綺麗な円形ではなく形もバラバラな不揃いだったのです。

確か「線香の香りがしていた」とナガ兄が言っていたので。お香の元となる、荒削りした白檀びゃくだん沈香じんこう欠片かけらを寄せ集めて作った特殊な物だったのかも知れません。


「俺が幼稚園に通っていた頃から、ず〜っと身につけてんだけど…、何で付けんだろ?経緯は忘れちゃったよ。でもさ?何かこう、コレを身に付けてないと凄い不安になる…ってかさ?変かなぁ、俺は?あははは…」


「なんじゃそりゃ…」


「じゃあな?行ってくるわ」


「おお、気をつけてな?」


ユウヤはそう相槌を打ち。余程デスワークが嫌だったのか、ナガ兄へ鷹揚に手を挙げた後、少し苦笑を見せながら部屋を出て行きました。


そして彼は通い慣れたホテルで予約しようと電話を掛けたのですが、火災報知器の不具合だったかな?そんな理由で宿泊予定だった日とホテルの改修工事日とが不運にも重なってしまい、他の行った事の無いホテルに宿泊する事になったのです。

まさに出だしから、幸先不安状態で…


「はぁ、ついてない…」


よって、値段が合う別ホテルへ宿泊する事になったのですが、ちょっと遠くて…


「テンションだだ下がりだな…」


人間という生き物は慣れに流され、同じ事を反復していた方が安心する傾向にあるとか何とか。


「ふぅ、今日は終了っと」


…と、そんなこんなで。ユウヤはその日の仕事をさっさと終わらせてきました。


「疲れたな…」


取り敢えず彼は慣れないホテルのベッドで、仰向けの大の字でゴロンと横になります。いつものホテルと比べるとクッションが硬い、室内が少し暗い、少し嫌な臭いが…と嫌な部分が色々見えてくるものですが…

こうやって仕事の後に一旦落ち着いてしまうと、思い出してしまうここ最近の悩みが脳裏を嫌でも過ります…


「はぁ…」


開口一言はため息から。

付き合いが長い彼女と一緒にいられる時間が少なく、最近仲違いばかり…

その理由として。今の職場の所為で幾度か「今からすぐ仕事に来い!」彼女との遊ぶ約束が反故になったり、休日のデート中に仕事の電話が何度も掛かってきて妨害状態になったり…と、上司らが容赦無く二人の仲を引き裂いてくるのです…

流石ブラック企業と言わんばかり。その職場は他の社員たちにも同様の被害を与えており、雰囲気も問答無用に最悪なカオス状態でした…


「はぁ…」


仕事を辞めるか、やらないか…?ウホッ……いや、間違えました…、辞めないか…?の二択でした…。はい…


この時代の携帯電話は″話し放題″のプランなんて存在しません。よって、彼女と仲直りしようと遠方から電話掛ければ、関西から関東までの通話料がモロに請求されてしまうは必然…


「はぁ〜…」


もう呼吸以外に、口から出るものと言えば重い溜息ばかり。そんなユウヤの視線は、部屋の天井から枕側の壁に飾られている、あの額縁へと移りました。


「大きな向日葵…。デザインは有名なアレに似せた紛い物か…」


そんな事を考えつつ幅80センチはあろう大きな額縁が、少し右下へズレているのが気になって、気になって…


「よいしょ…と、これで良し」


ユウヤはタイプ的に几帳面ではありませんが、今回そのズレが何かやたらと気になってしまって…

わざわざ手を伸ばし、その額縁を床のラインから見ても水平であろう位置へと直したのです。


「…ふっ」


…と。そんな不敵な笑みを浮かべたかは不明ですが…


彼は仕事の疲れを癒す為、その後はベッドで深い眠りに堕ちてしまいました。ですが…


「はっ!はぁはぁはぁ…」


急にベッドからガバッと半身を起こし、急に意識が目覚めてしまう事が数回あったとか。手に取った携帯の時計は、まだまだ深夜のど真ん中。じゃあ自分は何故、いきなり目覚める事になってしまったのか?

その記憶が無くて、ドキドキ・バクバクしている激しい鼓動の理由わけは有耶無耶に…


(パッ…)


取り敢えず部屋の明かりをつけ、しっかり深呼吸をするユウヤ。彼自身、霊的存在なんて信じす怖くもない。ある意味鉄人の様な人でしたが…

今まで色々なホテルに泊まってきましたが、今回ばかりは、感じた事の無い違和感?圧迫感?とでもいうのでしょうか?そんなのを感じたのは初めてで…


「はぁはぁ…、やっと落ち着いてきた……ん?」


しかし…


「また額縁が………ズレてる…」


東京では地震が多発しますし、自分が寝ている間に寝相が悪くて頭上の壁を手で叩いた可能性も否めない。

きっと、それらが原因でこの額縁はズレてしまったのだろう……と。その時彼は、そう自分に言い聞かせてていました。


やがて朝を迎え、慌ただしく戦闘服スーツに着替えると。その日も朝からバタバタ仕事、仕事、また仕事…と。再び何件もの得意先回りを頑張ります。


「よし、今日も頑張るか。あのデスワークよりはマシだ」


万年平社員と言われようが、既にユウヤは愚直に仕事をこなす社畜と化していました。

そしてやっと仕事を終え、再びあの部屋へと舞い戻って来たユウヤ。


「あー…、くそっ…」


さっさと風呂へ入りたかったのですが、仕事疲れで既に全身悲鳴をあげている状態。

会社の言いなりな自分に対し、陰鬱な気を全身に溜め込んだまま、ユウヤは先にベッドへ寝転がってしまいました。


「…あれ?」


すると、再びズレた額縁が視界に飛び込んできたのです。

やはり地震で建物全体の揺れが原因?いや、ベッドメイキングのスタッフが触れてしまった可能性も…

几帳面じゃないけど几帳面に、再び額縁を水平の位置に戻すユウヤ…


「よしっ…」


少し不機嫌な顔で、再度ベッドで仰向けになるユウヤ。そしてもう一度額縁にチラリと視線を向けた後。彼は気を失ったかの様に寝てしまいました…


………



ーーガバッ!!


「がっ、はぁはぁ、はぁはぁっ…」


それから、どれだけ時が経過したのでしょうか?

ユウヤは先日と同じ様にいきなり半身起こし目覚める事になってしまいました。

見ればスーツを着たまま寝てしまった様で、呼吸は荒く息苦しい状態が継続中。

…″何故、自分は突然起きてしまったのか?″その理由わけは、やはり思い出せません。そして彼は一つの、ある変化に気付きます。


「あ、熱い…?」


小さな頃からお守りとして、ずっと手首に付けていたあのブレスレットが、熱く熱を帯びている事に気付いたのです。


「何んで…?…あっ…」


すると彼は再び額縁が斜めにズレている事に気付きました。しかも今度は傾いている角度が非常に大きく、謎の第三者が手を加えた様にしか思えません。しかし今現在も、この″部屋は完全密室″の筈なのに…


「……。」


そこで彼は、生まれて初めてその悍ましい何かを感じ取ってしまったのか…

この薄気味悪い額縁を″壁から外し、床へ置く″事にしたのです。


「薄気味悪いな…、何だよこの額は………え?」


その際、額縁の裏側を見る事になってしまったのですが…

そこには複数の、あまりにも仰々しく、リアルで不気味過ぎる悪霊退散の御札が幾重にも貼られていたのです…


神社にある一般的な厄除け等の御札は全て、念の浅い印刷で量産されたモノ。でも、そのリアルな御札は手で触ると文字の墨の部分に沿って和紙が少し変形しており、明らかに″手書きされたリアルな御札″だったのです。

これは誰が何処をどー見ても、″呪われし霊″や″悪霊″対策だと理解に至る事でしょう…


「……。」


流石にここまでお膳立てしてあげれば、いくらユウヤが幽霊を信じていなくとも、ある種の畏怖・恐怖で放心状態になる筈…


…え?ならない?マジで…?


改めて携帯電話で時間確認をすると、今は夜中の1時過ぎ。かなりの時間、眠ってしまっていたようです。


「悪霊退散…って何だよ…」


更に自覚は無かったのですが、恐ろしい夢を見たからか全身の衣類は既に冷や汗やら何やらでビチョビチョ状態。

そこでユウヤは何か分からぬ存在に恐怖しながらも、着替えも兼ねて風呂でシャワーを浴びる事にしたのです。しかしその際、風呂から鳴る音とは全く違う別の物音が室内の方から何度も聞こえていたらしくて…


(ピキッ…、パキッ…、コッ、コッ…)


壁や天井の軋み?何かで小突く音?状況的には人の気配がアリアリで…


「な、何だよこのホテル…、建て付けが悪いのか?」


ほぼほぼ…ポルターガイスト現象ですね、はい。

風呂から出たユウヤはそれでもビビる事なく、額縁を部屋の窓の下辺りにそっと置きました。

「ズレるなら、ここで好きなだけズレてくれ」という事でしょうか…?


そして彼は再び、仰向けの大の字になって深い眠りへと堕ちて逝きます……が。今度は…


「が、かはっ…!?はぁはぁはぁ…」


天井を見上げたまま仰向けの状態で目覚めてしまいます。ただ…、先と全く違うのが、透明の見えないその何かが″自分の首をずっと絞めている″という事…


全く見えないのに、締められてる首への圧迫感だけが凄くて。オマケに誰も頼んでもない全身金縛りまでもがオプションで付いてきました…


「かっ、ぐっ…かはっ……」


やがてユウヤは部屋の入り口付近…

部屋の明かりがかろうじて届いている通路側に、一人の老婆が立っている事に気付きます。


「……だ、誰…だっ!?」


しかし老婆からの返事は無く。彼女は、まるで床を滑るように、こちらへと近づいて来ました。そしてユウヤの真横に立つや否や、さっきまで感じていた首への圧迫感が金縛り共に、嘘のように消え去ったのです…


(スー…)


やがて老婆は何かを語り掛けてくる訳でも無く、そのまま全身が背景の壁へ溶け込む様に消え去ってしまいました…


「……。」


ユウヤの目の前で一体何が起こったのか?

一連の流れをこの部屋で垣間見ておいて、未だに彼は怪奇現象、超常現象、心霊現象…それら物理的に説明が困難なモノは信じてはいませんでした…

ただ、この後ホテルのフロントに行って正直に体験した事を説明すると、すんなり部屋を代わらせてもらえたとの事です。

ホテル側も覚えがあったからでしょうね…


…………


そしてユウヤは出張から戻り、いつもの関西の営業所でナガ兄と久しぶりに会いました。

と、その時…


「ナガ、お前も帰ったのか。お疲れさん」


「……あ、ああ…」


ナガ兄はユウヤを見た瞬間、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていたらしくて


「お、俺の顔に何か付いてるのか?」


「い、いや…。そうじゃなくってさ…、後で茶店にでも行かないか?そこで話すよ…」


「??…ああ、わかった…」


実はナガ兄の目には、ホテルにいた謎の″老婆″らしき存在がユウヤの背後に立っているのが見えていたらしいのです…

それが″良いモノ″なのか″悪いモノ″なのかは霊感の強いナガ兄でも分かりません。もしかして彼はホテルにいた悪霊を持ち帰ってしまったのでしょうか…?

取り敢えず茶店に行って二人は話し合いをし、ナガ兄はユウヤに「一度、知人の霊媒師に見てもらえ…」と勧めた様で、彼もそれを了解しました。



そして、やってきた霊媒師は中年の女性らしいのですが、自分ケイジはその方の詳細を知りません。

ですが、その霊媒師とユウヤとの会話内容は粗方ナガ兄から聞いてはいましたーー



場所は小さな喫茶店へと移り、二人掛けの小さなテーブルに対面で座ります。霊媒師はパーマ頭に少し小太り、フリーサイズ以上のデカい赤Tシャツにチェーン付きの眼鏡…て、どこぞのタレントか?

そして、先に声を掛けたのはユウヤで


「あの〜…、見てもらう前に言っておきたい事があって…」


「はい、何ですか?」


「俺は…、幽霊なんてものは信じてはいなくて…。実は、祓う、祓わないだの、こんな事を頼んでおきながら、半信半疑だったりしますので…」


ですが、彼女はそんな失礼な事を言われても


「信じる、信じないは本人の自由ですから。わたくしは気にしませんよ?うふふ…」


霊媒師は優しい笑顔でそう返します。でもホテルで老婆の霊を現行犯的に見ておいて、未だ信じないと言い切るユウヤも凄いと思いますが…

でも一応彼は、その老婆が一体誰だったのか?…を聞いてみようと思っていたのです。


「失礼な上、変な事を言ってすいません…。俺、嘘ついたり、遠回しに話しをしたりするのが苦手なんで…」


「はい、そう聞いております…。正直を恥じる必要は御座いませんよ」


「…え?」


この霊媒師は一体誰に「聞いた」のでしょう?二人の会話は、まるで″ここに第三者″がいるかの様に進行していきます。

やがて彼女は目を瞑り、彷徨う様に両手を前に出しながら


「宿泊先…。そう、その宿泊先で″初めて老婆″を見たんですね?」


「え?いやいや…、お、俺は何も言ってませんが…」


「『いやいや…』…とは、わたくしが間違えましたか?これは困りましたねぇ……」


「い、いや。違わない…、違わないですけど、どうして″老婆″だと分かったんですか!?」


「…でも会ったのは初めてじゃありません。だって…、ずっといますよ…。今も、あなたの背後うしろに…、昔から、ずぅ〜っと…」


「ーー!?」


全てを見透かされた様で、完全に言葉を失ったユウヤに霊媒師は更に語り掛けます。


「その老婆はあなたの事が心配で、心配で…、ずっと守ってくれてるんですよ?祓うなんて、とんでも御座いません」


「……。」


ここまで驚かされていて、まだ心霊現象の類いを信じていない自分ユウヤがいて。しかし彼の口からは、次なる言葉を必死に選んではいますが、驚きのあまり一向にその会心たる反撃の言葉が出てきません。だから彼女は


「ユウヤさん?その老婆…、いえ。あなたの″お婆さま″の事を覚えていないんですか?」


「お、俺が…?あの老婆の事を…?」


そこでゆっくりと霊媒師は瞳を見開き…


「腕飾り…、大切にされているんですね?」


「どうしてそれを…」


虚を衝かれ、更に深く混乱するユウヤに


「でも、今日は身に付けて来なかった…。何故ですか?」


ユウヤはまだ、この霊媒師には何も言っていない、何も教えていない。しかし、まるで付き合いが長いかの様に、ピンポイントで自分だけが知り得る情報を言ってくるのです。


するとユウヤは、その背後。誰かから両肩を優しく触れられている感触がし、それと同時…


「老婆…じゃない、…あれは、あれは俺の″ばあちゃん″だっ…。小さな頃、いつも傍にいてくれて、凄く優しくて、皺だらけだけど、手がとても温かくて……」


「思い出されましたか…?」


「は、はいっ」


幼少の頃の思い出。祖母の顔はうろ覚えでしたが、恐らく間違いない。で、あのブレスレットをしてなかった理由は…


「あ、それから…。腕飾りは持ってはいるんですが…。何か変な熱を感じてから、気味が悪くなって、このサイドバッグに入れっぱなしにしてたんです…」


「…そうだったんですね。でもね…?また身に付けてあげて下さいね?折角、お婆さんから頂いたた御守りなんですから。うふふ…」


「俺が…、ばあちゃんから貰った…?」


「″そう言っておられますよ?″」


「っ……」


ユウヤは小さな頃、父方の優しい祖母と同居していたのですが。両親の離婚がきっかけで、成人するまでの間、ボロアパートで母親と二人だけの貧しい生活を強いられる事になります。悲しくも、その別れ際に祖母が大事にしていた、あの腕飾りを手渡されたのでしょうね。

でも、その後は。生活費を稼ぐ為に母親はいつも仕事に出ており、鍵っ子の彼は一人で家にいる事が多かった様で。

しかも、節電のために薄暗い部屋で、街灯の明かりを頼りに、頑張って勉強をしていたとか…。夏場は冷や風呂…。冬は暖房器具の代わりに服の厚着で踏ん張る。…と、こんな環境で生活をしてきたのなら″幽霊なんて怖くない″と言われても頷けます…


でも理由わけを知らずとも、自分ユウヤの手首にはブレスレットがあって。どんなに寂しくても、いつも、いつも暖かく元気づけられている様な気がして


ーーと、ここで茶店での二人の会話に話を戻し


そして最後に、霊媒師は言いました。


「宿泊先で、″良からぬモノから守られていた″時に。霊的な祭具、護符等に触れたりしませんでしたか?」


「いえ…、そんな………、あっ…」


そこで額縁の裏の御札に触れた事を思い出し


「見えたきっかけは″それ″。お婆さまは″あなた以外の事″も、ず〜っと心配されておられますよ?それは今でも…」


「お、俺以外の…??それって…」


「よく考えたら分かる事ですよ?うふふ…。じゃあ、″拝見料″という事で…、ここのコーヒー代を支払ってもらっていいですか?」


「え!?そんなのでいいんですか?」


「いえ〜、わたくしも凄ぉ〜く温かい気持ちにさせていただきましたので…。では、さよなら〜…」


「……あ、ありがとう……ございます……」


半分背を見せ、首を引く様に頭を下げた霊媒師は颯爽とこの店を後に。

ユウヤは、まるでキツネにつままれた様、呆然と見送ってしまいました。彼女の歳を感じさせないキャピキャピした感じが、彼には何か心地良かったようで。

そして、すぐに霊媒師かのじょの言葉の意味を理解したのか。後日会社で


「ナガ、悪い」


「どうしたんだ?いきなり改ったりして…」


「俺、この仕事辞めるわ」


「へ…?」


その助言が元で、ユウヤは歳が九つ下の彼女との結婚を真剣に考える事にしたらしく。いきなりナガ兄に仕事を辞める旨を伝えました。


「いやさ?俺の彼女の親父が経営する◯◯で働く事にしたんだ。儲けの少ない小会社だけどな?でもさ、ーー」


その時のユウヤの表情は爽やかで活力に溢れていて、それがひしひしとナガ兄にも伝わってきました。


「そっか……、羨ましいな。頑張れよ?」


「ありがとうっ」


「あ、霊媒師との話。良かったら聞かせてくれないか…?」


「ああ、あのさ……ーー」


ユウヤは祖母の事を思い出してあげたり、いつまでも祖母から心配されない様にする事で、その恩返しが出来る気がしたのです。

そして、それからは再び祖母の姿を見る事は叶いませんでしたが、辛い時、悲しい時、そんな時にこそ身に付けている腕飾りを見て元気を出し、思い出してあげるらしいのです。


やがてナガ兄も時を同じく、その職場を退職してしまいますが、この話を兄から何度も何度も聞かされました…

ずっと見守ってくれている優しい祖母の霊…

いつ亡くなられたかは不明ですが、両親の離婚後、離れ離れになる孫を凄く心配している様子がひしひしと伝わってきますよね…。羨ましい…


…ってか、自分ケイジ鬼祖母ばあちゃんも、ちったぁ〜見習えよ!いや、見守る…ってよりも、自分ケイジに取り憑いてるかもしれん…。ひょぇ〜…


…と、今回はここまで。ご静聴?ありがとう御座いました。笑





完。

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