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八十六ノ怪 黎明告げし門出

ある日突然。我が娘、長女″ヤカ″が父親である自分ケイジを手招きで呼び、小さく空嘯く感じに呟きました。


「パパ?わたし、今週末から友達おんなのことシェアして◯◯へ住む事になったから…」


「へ…?」


ホワイ?いきなり何を言っているんだ我が娘は?

当然、自分は聞いた後の返事に詰まります。


「もう、役所等の手続きは終わってるし」


娘の追い討つ「手続き終了」の言葉。

妻は知っていた様だが、父親ケイジサリにも内緒にしておいて、ヤカはそんな重大な話を煮詰まった状態でサラッと言ってのけました。

そして自分ケイジは頭の中が真っ白になるのと同時、当てどころも無く、その理由ワケを只管、散策している事すら理解が及ばない。軽いパニック状態に…


「……そっか」


その場で呆然と立ち尽くし、すんごい間を空けた割には、何だよ「そっか」…って。それだけか?

理由も分からないまま、聞かないままでしたが、我が子に言ってあげる、もっと良いセリフが有ったろうに。ホント、気の利いた事を言えんのか俺は、情けない。


「うん、そう…」


相手は″男性″か?いや、本人むすめは「ネットで仲良くなった″女の子″と一緒に」…と、後から付け足していた。


真偽は?本当のトコは分からなくて確証もないが、自分ケイジも昔は若くして家出した身でした。その経緯を知っているヤカには強く言えないのもあります。でも、やはり世間を知らなさ過ぎる我が子の事が親として心配なのは当たり前で…


自分は二十歳の頃家出したが…、ヤカは二十四歳。で、女の子で美人だし…、心配だ…


「…あ、ああ、頑張れよ」


「うん、ありあと」


頑固親父(自称)は、すんなり了解…

だって、家族を束縛するなんて自分のスタイルにそぐわない。いや…、もしかして俺はセクハラ親父だったか!?まさか、それが原因なのか!?


絶対に違う!…と、思う…。これについても確証は全く無い…泣


そして結局、まさかの引っ越しの荷物を電車で且つ、往復で何度も手運びすると言うので…


「引っ越し屋さんは?はぁ…、仕方がない。パパが車で荷物を全部運んでやるよ」


「…うん」


いきなり家に引っ越し業者が来たら怒られると思ったんだろうか?恐らくヤカは、自分ケイジに反対されると思っていて、″先に引っ越しの手続きだけ″を進めていたんだろう…

俺は、そんな聞き分けのない父親に見えてたのかな?逆に怒られなかったから、呆気にとられていた気もするが…




「ーーパパ、ありあとね」


「そんなのは構わない。もしダメだったら、いつでも帰って来ていいからな?無理せずに…、絶対に無理せずに…、取り敢えず頑張れ…?」


「うん…」


ーーそこは大阪市内のとある場所。ちゃんと下見したのか??ヤカは少し日当たりの悪い建ち並ぶマンションの一室を間借りしており、二部屋に分けてその″友達″と一緒に住むらしいが…

当然、女性同士のシェアハウスだから下着も干してあるだろうし、男親は部屋へ荷物を運べず、車で待機中。後は妻と次女に運搬作業を任せっきりでした。


「終わったよ、パパ」


そして、やっとこさ引っ越しを終えて…?って、俺は何もやってないじゃんか…。いや、往復運転はしたか?しかし…う〜ん…、ここは本当に女性オンリーなのか?実は友達ってのは…″彼氏おとこ″だったり?心配はそこだが…


「ありあとね」


「おう。ダメだったら気軽に、いつでも帰って来いよ」


「もぉっ、さっきもソレ聞いたし」


「そ、そっか…」


「けど…、ありあと」


「お、おう…」


こんな時に、小さなヤカを抱っこしていた頃を思い出していた自分ケイジ。今ではこんなに大きくなって…。ウホ…

それに併せて、マンション前に設置されている自販機で「引っ越しを手伝ってもらって悪いから」と、ジュースを買って渡そうとするヤカ。

両親共に我が子から奢ってもらう程、落ちぶれちゃあいないぞ?

…と、そんな感じに黙って妻に自分の小銭入れを渡しました。格好をつけたはいいが。こ、小銭、ちゃんと入ってるよね?足りてるよね?

そして色々と難しい障害のある息子は、ジュース二本買ってもらってご満悦の様子。中二ながら手を叩いて素直に喜ぶのが可愛らしい。でも…″ヤカちゃんが明日からいなくなる″って事をちゃんと理解しているかは分かりませんが…


で、引越しの際。簡単な食材や別の色々な便利道具。生活必需品。更に部屋が狭いらしいので、折り畳みキャンプベッドも持って帰らせました。


「じゃあ頑張れよ」


「うん、ありあと」


こうして長女のヤカは、ここで新しい門出を迎える…





……筈だった。


(…ジリリリン!ジリリリン!)


そこから一週間も経たないうちに、妻の設定黒電話音が部屋に鳴り響き、携帯を振るわせます。カラスが鳴いていたから時間的には夕暮れ時だったか?


「ヤカ、お久しぶり。どうし…ーーえ?また、引っ越したの??」


「!?」


まさかの、また引っ越し…

長女ヤカはタイプ的に「突然」がよく似合う娘でした。

…で、ここからが問題となった引越しまでの経緯となるのですがーー



長女の″ヤカ″と、その友達″ユン″……とでもしておきましょうか。マンションへ引っ越しして、その初日の出来事らしく。シェアと言っていたのは女友達との二人暮らしだったみたいで。二人が、朝起きたら…


(カチャンッ!)


「もお、何?またお皿が落ちたし…」


「近くを電車が走ってるから、それで底揺れしてるのかな?」


その迷惑さを吐き捨てる様に呟くユン。それを宥めるかたちでヤカが原因を探っていました。


「電車は走ってなかったよ?プラスチック製の軽いのを選んだからいいけど…。こう、何度も落下すると…」


「建物が古いから、微妙に揺れているのかなぁ…?」


事は、そんな風に少しづつ起き始めていました。朝起きると二人の歯ブラシが洗面台に無造作に落ちていたり、玄関の靴がひっくり返っていたり。閉めていた筈の風呂の扉が半開きになっていたり、更には台所の小形テーブルが少し斜めに動いていたりと…


「ね、ねぇ、ヤカちゃん…。夜中に前の住人が忍びこんでるんじゃない?」


「や、やだぁ…」


下手すりゃあ警察沙汰。これでも親父ケイジに電話で相談してくれないなんて…。シクシクシコシコ……(コレが原因かっ!?)


そこでヤカが″勝手に実家から持ち出していたビデオカメラ″で、台所から風呂場に向け、朝まで隠し撮りしていたらしいのです。玄関にはコーナンで買っていた、木のつっかえ棒で扉は絶対に開きません。しかし…


「おはよー…、ヤカちゃん…っーーひぃ!?」


台所の床には持ち込んだ少量の食器が散乱。キッチン台の下扉も勝手に開いていて、風呂場からはチョロチョロと水の流れる音が聞こえてきました。


「す、水道を止めなきゃ…」


(キュッ…)


その日は歯ブラシは落ちてませんでしたが。これらの現象は、どー見ても、かの有名な……


「ヤ、ヤカちゃん、取り敢えずビデオカメラを確認しよっ?」


「う、うん…」


ヤカとユン。二人は部屋へと戻り、隠し撮りしておいた映像を確認する事にしました。で、早速再生してみると…


(ガガッ、ガガッ…)


ハンディカムの小さなモニター画像では分かり辛いのですが、誰もいない場所でテーブルを引き摺る様な音が何度も何度も聞こえ、よく見ると最初と早送りした後の映像では少しだけテーブルの位置がズレているのです。けど、ヤカはのんびりと…


「ほらっ、多分。電車が通過する際の揺れだよ」


「コ、コレって真夜中でしょ?」


「「……。」」


気持ちを改めて、二人は目を凝らし映し出される映像に再び没頭します。

すると今度はテーブルに置いてあったプラスチック皿が、何かで吹き飛ばされたかの様、勢いよく下へと落下していました。


「電車が…」


「そもそも電車の走ってる音、鳴ってないよね!?」


「「……。」」


そのツッコミの直後。風呂場の扉が大人一人分の広さまでゆっくりと開き、やがて蛇口の音が


(キュッ…、ジョロジョロジョロ……)


「「……。」」


この驚きの映像を見た後、二人は一瞬で場の雰囲気と共に凍りつき…


「電ーー」


「…車は″絶対に走ってない″から!!」


「「……。」」


次に映像は。そんな風呂場から、やんわり人型の白いモヤの様なモノがスー…っと台所に向かって歩いてきて、やがてフッ…と消え去ります…

オマケに、バタンバタンと映像に映っていない、何処かの扉の激しい開閉音までもが…


「「……!!?」」


その日は当然、二人ともネットカフェへ直行…

次の日の朝、すぐに再引っ越しの段取りをしたらしいです…


あの霊感の強いヤカにも見えなかったのか…?


ヤカは「パパ?家賃の凄く安い部屋だったんだよ。」…と、自慢げに語ってましたが。事故物件&心理的瑕疵物件…という事を秘密で安く貸し出している賃貸なんてものは幾らでも存在するのです。今更な案件ですが…


「最悪ぅ…」


まぁ、妻の携帯が鳴ったのは再引っ越しが済んだ後の話。再びヤカがまだ実家にある、新たな引っ越し先へ持って行く荷物を取りに来た時…


「あの部屋は最初から何か…、ううん…、何でもない…」


ヤカは自分ケイジよりも霊感は強いです。なのに、何故″そんな部屋″を選んでしまったのか?恐らく焦っていて、ちゃんと下見もせず決めてしまったのでしょう…


「まぁ、今日は◯◯でたらふく食っていけ。遠慮すんなよ?」


「うん……、って、パパ?食べ放題なのに遠慮って何?」


「わはははは、気にすんな。大きくなれよ?…って事だ」


「もう6年間、身長は止まったままだよパパ。はぁ…」


「じゃあ、横へ身長を伸ばしーー」


「じゃかましいわっ!!」


(バコッ!!)


自分ケイジの、しょーもないネタに鬼嫁の唸る拳骨が頭部へ炸裂。


「ぐはっ…!?」


うぅ…、三途の川でウチの婆ちゃんが手招きをしてる…。…ん?あれ…「シッシッ」って、逆に、あっち行けってされてないか…!?

痺れる手足、震える脳、半分ほど霊界に身体が逝きかけて、我が魂は…


(バコッ!!)


「しつこい、ドアホッ!!」


黄泉から現実世界へと無理矢理再臨。

…ってか、マジで痛い。ホント痛い!こいつは俺を殴り殺す気か!?あの世の婆ちゃんに会った回数が三桁超えてるんじゃないか??それに、これ以上殴られたら馬鹿になるぞ。なっちゃうぞ!?…ん?馬鹿は更なる馬鹿へと進化出来るのか??


…と。そんなしょーもない事を必死に考えていたら、ヤカが自分ケイジの袖をクイクイと引っ張り


「ねぇ、パパの数珠ちょうだい?」


「ん?ああ、そうだな…」


昔、ヤカにあげていたちょっとイイ数珠を引っ越しの際、無くしてしまったらしくて。

能力の皆無…いや、一応、少し霊感の有るという事になっている?自分の見立てでも、長女の身体には霊が取り憑いている感はなくて、ホッと胸を撫で下ろしましたが、簡単なお祓いはしておいてあげるのです。


「パパ、痛い…」


「我慢しろ。さっき、俺があいつに殴られたのよりは全然マシだ」


「あははは…」


「パパ?何か言った?」


「い、いや。ウチの嫁様は、い、いつも綺麗だなぁ〜って…」


「当たり前やん」


「……。」


かなり怖い鬼嫁だが…、案外チョロい…


今回は焦ってか、事故物件に住んでしまった長女ヤカ。娘には、その時に一つ教えておいたのですが…

″高層ビルや電車等の普段から揺れる環境下ではない場所なら、賃貸の下見にコンパスや長い糸を持って行って、″何か気配の感じた場所にソレを置いたり、ぶら下げたり″して怪しい反応を調べる…って方法も有るぞ?″

…と伝えました。

要は「″何か邪なモノが居れば針や糸が振れる″」という事。コンパスが無ければタライに水をなみなみと入れて、軽い表面張力状態の水面に紙の切れ端を浮かせてみる…。あとはコンパスと同じ要領で…って、下見でそんなのをもっていけないな。うん。やっぱり馬鹿だな俺は


…って、誰が馬鹿やねんっ!!もしかしてっ、愛娘との同居人は野朗で、そいつが言ったのかぁっ!!…はぁはぁ…と、暴走すいません…


そして、オチがまさかの「大阪人はアホよりもバカと言われる方が無茶苦茶腹が立つ」という事で…。ついでに謎の同居人に対する本音がポロリッ!


と、取り敢えず読者様みなさまも住む場所は慎重にお選び下さいませ…。と、今回はここまで。ご静聴ありがとうございました。滝汗





完。

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