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八十三ノ怪 送迎の待ち人

「あーっ!イライライライラしますっ。あーっ、別れた旦那の事を思い出したら…、また腹が立ってきましたぁーっ!」


「っ!?……ドゥドゥドゥ…」


「『ドゥドゥ』…って、わたしはウマですか!?わたしはウマ女ってコトですか!?もう一つ、シカも付けてくれたりしたら絶対にキレますからねっ!?」


「ノォーッ!?…違うっ、違いますっ…」


「ホ、ホントですかっ!?」


「は、はい…」


職場での長閑だった筈…な、お昼休み。我が子の為に頑張るパワフルシングルマザーこと″キンちゃん″が突如怒りだしました。…ホワイ!?…その理由ワケとは…


「ケイジさん、ちょっと聞いてくださいよっ!元旦那あのおとこが離婚後、″養育費を毎月末5万渡す″…って事で和解したのに。ず〜っと音沙汰無いんですよ?離婚してからも私や子供に、ず〜っと迷惑を掛け倒したいんですかねっ!!」


何故、自分ケイジがキンちゃんに怒鳴られながら、近況報告されてるんだろ…!?

まさに、某サスペンス劇場のサウンドが脳内で鳴りっぱなし状態に…


キンちゃんは沖縄出身で、普段から青魚みたくサバサバしている人……違。要は常に前向きで、すっごく明るいタイプの女性でした。

…対して…彼女の二番目に結婚した問題の男こと、元旦那さんは、関東系の少し影があるタイプだったとか…?キンちゃんがこの人と再婚後、子供を孕ってから旦那さんが不倫している事と、莫大な借金を抱えていた事が発覚…

言わなくても結果は自ずと分かるでしょう…


「そ、それは酷い話だ…」


「でしょうっ!?」


″もっと人を見る目を養わなきゃ″…とか言ったりしたら確実にボコられるから、口を少しチャック…


休憩室では社員四人が食事していましたが、もう雰囲気はドロドロ昼ドラ状態か、お葬式モードに突入したみたいな…?ある種、霊的以上のゾクゾクッとした雰囲気が漂っています…


…で、心なしか残りの二人は少し顔を背け、必死に俯き加減。かぶりつく様に携帯画面を見ながら″無関係″をアピールしている気がするのです…


酷い、助けてくれ…


「あの男ばかりはっ!我が子の事なんてっ、全く可愛いいと思っていないんですからっ!」


「本当に辛かったね…。ベストなアドバイスなんて自分ケイジには難しいけど…。あまりカッカしていたら自分キンちゃんの体にも良くないよ?それに、子供は大人が考えてる以上に敏感だから、家では絶対面に出さない様に、いつも優しい笑顔でいてあげてね…?子供に罪は無いんだから…」


「…は、はい。そうですよね…」


「落ち込んだ時こそ、元気と笑顔が一番…。よしっ!じゃあ、元気づけに…美味しいものでも食べに行くか?」


…と。自分の言った、この何気ない軽い一言が仇となります…


『ちゃーっすっ!ありがとうございまーすっ!』


「…!?」


まるで打ち合わせたかの如く、室内にいた残りの二人タケ、オカちゃんが積極的に″ここだけ″会話へと参加してきました。

チキショウッ!お前ら…さっきまで″まるで葬式の参列者″みたいに黙してたろ!

…と心中で叫ぶが…。う〜む、言い出しっぺは辛い…

でも自分ケイジは現場の″責任だけ者?″をさせられていたので。(泣)本音、作業場のモチベーションは上げておきたかったり。


「おしっ。皆におごるから仕事が終わったらすぐに行こう。キンちゃん?焼肉…、◯◯◯ヴァイキングでどうだろ?近いし食べ物やデザートの種類も豊富だから、子供たちも呼んでおいでよ?凄く喜ぶと思うし」


「あ、ありがとうございますっ!親子で、店が潰れるくらい食べさせてもらいますねっ!!」


「あ、あははは…」


やっとこさキンちゃんの曇っていた陰のある表情から角が取れたのか、本来の彼女である、やんわりとした笑顔が戻ってきました。

そして流れ的に?この外食、もしくはその帰り道で″何か起きるのか!?起きちゃうのか!?″…的な雰囲気なのですが…、実は違います。汗



ーーそして仕事もラッシュ前の3時の休憩となり、再び社員が集う休憩室にて…



「ケイジさん?」


「ん…?なに??」


「昼休みはありがとうございました」


「ん?気にしたら負けだよ?人生は″図太く生きる″のが基本。あの″オイラの親父″を見習わなきゃね?周囲の人間は死ぬほどストレスが溜まるけど、本人は全く溜まらない…。いや、ある意味″周りの人はたまらない″…。うん、我ながら上手い…」


「あははは…。嫌です」


「あははは…。だろうね…」


そこでキンちゃんは自分のおでこに、そっと手を当てて。


「わたしのモチベーションは行方不明だし、色々とトラブルが重なっていて、少しカーッとなっていたと思います…。本当にすいませんでした。………で」


「で…?」


彼女のこの振りは…、何かとっても嫌な予感がする…


「この熱を冷ます為に。一つ、身近な″ヒンヤリとしたお話″…をしようかな?……と、思います。聞いてくれますか?」


「……いらない」


「実はですね…」


今、確かに確認したよね…?返事もしたよね…??


「お〜い、聞いてますかぁ〜。″身近なトコ″って部分が絶対にいらない〜っ…」


「昔、道◯寺駅から石川の細い真っ赤な歩道橋を渡りーー」


話を強引に続けるキンちゃん。もう誰も彼女を止められない…


「ノォ〜ッ……」


ハッキリと断ったのに…。結局、彼女が体験したその心霊現象話を聞かされるハメになってしまいました…


…でも、やっぱり読者様は聞きたいでしょう…


そこは大阪府の南側、近鉄線の道◯寺駅で降り。大和川方向に向かって道なりに進むと、すぐに土手に突き当たります。そこには川を渡る赤いアンティーク調の玉◯橋があり、その橋を渡りきりれば川に沿った土手沿いの車道と信号機が見えます。


橋を渡り切った歩道の踊り場はかなり広く。道の向こう側…、正面には交番と水道局。左の道を見れば大和◯田線に続く長い一本道が続いています。その逆の右の道を見れば二本の″分かれ道″になっていて、要は車道が横向きの″Yの字″になっているのです。

普通ならその分かれ道を土手沿いのまま右に進みますが、実は今回のお題の道は交通量の少ない少し下り坂になっている寂しい左への道でした。


「確かあの辺りは…、いつも近くの企業団地の人が送迎待ちをしている場所だよね…?」


「ええ。わたしも昔働いていた職場がその辺りだったので、そこで待っていました…」


橋を渡り道路の横断歩道を渡れば水道局前で。そこで右へ向き、左側の緩やかな坂を下りていきます。この坂を下り切ると、今はやっていない?自販機の置いてある小さな食堂があるのですが…


「困った事に…、送迎車が来る待ち合わせ場所がその食堂前辺りだったんですよ…」


「そ、そこに″何かいた″の…?」


するとキンちゃんの眉は少し歪み、軽い溜息を吐いた後…


「そうです…。他の会社の人は平然と送迎車待ちで立ってますけど、いつも自販機の前辺りに″ソレがいる″んですよ…」


「……。」


彼女曰く。送迎車待ちのその場所に、グレーのスーツを着た髪が薄く表情が青褪めたサラリーマン風の″年配幽霊″?がいるとの事…


ここからは自分ケイジの勝手な想像ですが。恐らく… そのかたおのが他界してしまった事すら分からず、今でも真面目に職場へ向かおうと送迎車待ちをしているのではないでしょうか?


「わたしは気味が悪いから少し離れた場所で待ってましたが。他の送迎待ちの人が、その霊とよく重なり合っていて…。それが更に薄気味悪くって…」


「か、重なってるのに…。その霊は無反応なの…?」


「『″他の人も自分れいと同じ場所で一緒に送迎車を待ってるんだろうなぁ〜…″』程度にしか感じてないんじゃないですか?ただ何もせず、ずっとそこにいるだけでしたから…。けど…わたしは霊感持こんなちだから極力、近寄らず、無視していましたけど…」


「…そ、そっか。土手は通るけど…。そっちの元、玉◯山遊園地方面には行かないからな。安心だ、うん」


「え?あの辺りに遊園地があったんですか?」


「遠い昔の話だよ。遠い昔に寂れてしまった小さい遊園地…。沖縄出身のキンちゃんは知らなくて当然かも?…ただ、その遊園地内にも幽霊はいたんだよ?」


「え…?」


遠い過去の話なので、現在その場所は未確認なのでどうなったかは知りませんが…

その遊園地は閉園後、只の公園になったらしいです。少し山手、大自然に囲まれていて鉄棒やらブランコがあり…、50メートルと100メートルだったかな?錆びて全く滑らない、やたらと長い滑り台がありました…。滑る代わりにサビでお尻がまっ茶々…昔は色々と楽しめましたが。(笑)


そして遊園地がまだ運営していた頃、園内に入ってすぐ右手に小さなゲームセンターがあり。そこをスルーして10メートルほど進むと、左手に間隔おきに少し太い木々が立ち並んでいて…。多分、そこは桜の木だったと思いますが、数回遊びに行ったのは全て夏だったから違っていたらごめんなさい。

…で、そこの中程にある一本の木の横に。薄っすら半透明、頭がちょい天パな″オジさんの霊″がポツン…と寂しく立っていたのです…

表情は生気が無く目は虚、汚れが目立つ首元がのびた赤いTシャツ姿な酷いいでたち…。何もせずジ〜っと下方向を見ているだけでしたが、自分が″ソレ″から感じてしまったのは身震いするほどの酷い寒気と悪寒でした…

経験上、恐らく彼はこの遊園地内で″自殺者″した方ではないでしょうか…?その手段や過程までは自分には分かりかねますが…、自分ケイジが過去、自殺者のいた家で体験した体感に良く似ていましたから…


「へ〜…」


「『へ〜』…って、それだけ?」


「はい」


「じゃあ、今日のバイキングは無しね」


「ちょーっ、ちょーっと待ってくださいっケイジ様っ!凄く怖くて、わたし感動しちゃいましたっ!すっごく!はいっ!」


「あははは…。冗談だけど、どこにも感動する部分は無い…泣」


「てへっ」


「…あははは…」


もう三十代半ばのキンちゃん…

頭に少し手を当て″テヘペロ″はある意味怖い。だからもっと怖くする為に自分ケイジもアラフォーなオッさんのリアルテヘペロを…


ーー処理中モザイク


『……。』


その日の外食の時以降、皆から風当たりが冷たくなったのは何故だろう…?この理由ワケを理解した時、自分ケイジは全宇宙の真理というものを…ぶつぶつ……





完。

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