表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/95

七ノ怪 幽体離脱と、その境界線

これは自分ケイジが高校生だった頃の話。


他者の体験談等から一概には言えないのですが、多種多様。様々な幽体離脱情報がネット世界を錯綜しています。そんな中、今にも先にも一度だけ体験したこの現象。

恥ずかしながら後日。ネットサーフィンして書かれている幽体離脱方法を試行錯誤し色々試してみましたが、全てその過程で爆睡に至りました。よって体験後から現在に至るまで、残念ながら二度目の幽体離脱はまだ実現してません。


そして今回の話は、その一回だけの体験談へと移りますーー





二桁に及ぶ引っ越し三昧な自分。その時は部屋が有りましたが二畳ほど…。狭い、狭い、超狭い。あ、実は物置を部屋にしてました…。だから横に箪笥を置けば、″ギュギュッ″っと、まるでホルマリン漬けの死体が寝ている様です。……って、すいません、嘘ついてました。見た事ないです、はい…


そして兄弟である次男のタメ兄は世間で言うところの、すぐに″キレる″タイプの人間でした。先日も部屋から500円が無くなったとかなんとか、母親に「あー、腹が立つ!!」と、当たり散らしていたのです。はぁ…、怒る時の金額がセコ過ぎる…

部屋へ入り宿題も終わらせ。そんなこんなでホッと一息。やっとこさ落ち着いて聞けば、またまた隣の部屋からタメ兄の怒鳴り声が嫌でも耳に…


「俺の横の部屋に怪しい奴がおるからなぁ〜!あ〜、鬱陶しいっ!」


と、兄は横暴にそう声を荒げる始末。聞こえてるよ?あ、名指しを聞こえるように丁寧に言ってくれているのか。それは、どうもありがとう。


(はぁ、いつも理不尽な八つ当たりばかりして…。そんなだから、タメ兄が車を止めている駐車場で知らない誰かと喧嘩した後。恨まれてるその誰かにマイカーの窓を全て割られる事になるんだよ?)


と、心の中で格好良く言い返す自分ケイジ


ホントこのタメニィに関わり合うとロクな事が無い。それに兄の金が無くなった日。俺の方が家に帰ってくるの遅かったですからぁーっ、ざんねーんっ!


すると言ってるそばから自分の部屋のドアが勢いよく開き、タメ兄が乱入してきました。だから部屋が狭いんだって、何故入ってくるの…


「お前だろっ、返せよっ!」


「はぁ…、違うけど?証拠は?」


「お前は部屋が近いだろっ!」


すんごい理由だ…。そんな小銭、こんな酷い文句言われる位ならタダであげようか?それに名誉毀損、不法侵入諸々、本気で法律とか勉強した方がいいんじゃないですか?…と、やはり心の中で格好良く言い返す…


「酒飲み過ぎたとかで、勘違いしてるんじゃない?」


「なにぃっっ!!」


そこで、ここぞとばかりに自分ケイジの胸ぐらを掴み右手を振り上げたタメ兄。そんな兄に


「その日は部活後、友達の誕生会にそのまま行ったよ?帰ってきたのもアンタより後。よーく思い出して下さい。それでどーやって盗むの?友達や母さんに確認してもらっても同じ事を言うと思うけど?はぁ…、もういい?」


「ぐっ…」


ぐうの音も出ないタメ兄はクラッシュされたかの如く顰めっ面。小さくブツブツ言いながら扉を叩きつける様に閉め、自分ケイジの部屋から出て行きました。

自分が悪いのに俺の部屋のドアに八つ当たりなんて御門違いだ。その上、謝罪すら無いし。恐らく酒癖の悪い兄の勘違いだと思いますが、彼は家族全員が認める″癇癪かんしゃく持ち″。所謂、爆弾人間。

もうこれ以上、ヤツとは関わり合いたくないのです。


「あーっ、くそっ!何か腹が立つっ!!」


兄は連日こんな調子だから、呆れ返りと脱力感が凄い…

…と、その時でした。自分は学業・バイト疲れも相まって、ふわぁっと身体が痺れだし。顔は下向き加減に意識がフッ…と遠退き。ふらふらっとバックで部屋の片隅へと下がった自分は壁を背に、そのまま″ストン″とその場に座り込んでしまうのです。

気を失ったのか?いや、違う…。明らかに自分ケイジの意識が有り、その視点がおかしいのです…

そう。今、見ている自分の視界には…


(誰かいる…)


なんと座り込んでる自分の頭上へと、視界が飛んでいるじゃありませんか。部屋の隅っこの天井辺りから?とでも言えば分かってもらえるでしょうか?

そしてこの経験で一つ分かった事があります。″霊体には脳が無い所為か、ボーっとその場をただ見続ける事しか出来ない″のです。ただひたすら誰とも認識出来ず、自分の頭部てっぺんをボーっと眺めているだけで…


(……。)


あーだ、こーだと考える事なんて一切出来ません。ただただ…、その視線の先を見続け。時間の境界線も分からない世界で、ホケ〜っと眺めながら、ゆっくりと時だけが過ぎて行き…


(バンッ!!)


「あー、鬱陶しいっ!腹が立っ!!」


…と。そこで、突然テーブルか何かを叩きつけながら怒り狂う兄の声が。いや…、本当に気が狂ってるのでしょう。


するとその怒鳴り声が聞こえた途端。急に視界が頭上からスッ…と、座り込む自分の体へと戻り。まるでビデオ編集で繋げたかの如く、一瞬で見えていた景色がガラリと変化してしまいました。

要は頭上にあった視界が猫背で屈み込み、自分の股間をずっと眺めている気を失っていた?元の身体に戻ったのです。目覚めはもっと良い物を見たかったですが…。そして、思考が徐々に追いつき回復してくると…


「え?え?何あれ?さっきまでのアレは…?」


しかし手足や身体の痺れは多少あり、それを気にして身体を摩ろうとした矢先。


「ホンマ、鬱陶しいなぁっ!くそっ!」


(ガシャンッ!)


今度は何かを壁に投げつけた音と共に、兄は再びそう叫んでいました。しかもこの後も、よく似た同系の遠吠えを何度も叫んでいましたが。『八つ当たりしても物は反撃して来ないからな?』と心の中でニヤリ。

取り敢えず触らぬ何やらに祟り無し?黙って無視し続けましたが、自分は貴重な体験をさせてもらったと思います。意識?思念が飛ぶ?とでも言えばいいのでしょうか?離脱中は考える事が一切出来ず眺めているだけでした。

そしてこの話はタメ兄にはしていません。またトラブルの引き金にでもなったら大変だからです。ひょっとしたら、メディアやSNS上で簡単に幽体離脱出来ると語ってる方々は、本当に考えたり悪さしたり出来るのでしょうか??幽体…思念体で思考を持つのは不可能な気がします…。この答えを自分が死ぬまでに解き明かせれば幸いなのですが。今でも凄く気になる自己体験談でした。





完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ