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六十ノ怪 俯く″人″

「パパ?あの人、疲れているのかな?」


とある通りすがりの大きな交差点…


「ぜんぜん動かないね?」


続けて、そう問いかけてくる我が愛娘。


「何処にいるんだい…?」


すると。自分ケイジの質問に対し娘の小さな人差し指は…


「ずっと下向いてて。ほら、そこだよ」


雲無き空に視界は至って良好。家族で乗り合う車内に、何かこう…確信めいた冷ややかな空気が流れました。


「へぇ〜…、そうか……」


「うん」


そこは歩道を道路側に少し出た車道上。自分の車が走行中…という事は、もちろん歩道は赤信号。


「危ないよね?」


と、心配する娘の言葉に対し


「もう…今は大丈夫だよ。その″人″なら」


「…?」


そう答えた自分に娘は訝しげな表情をみせます。だって、その歩道の信号機の下には小さな花瓶に入れられた花束が手向けられていましたから。

そこは横に大手ディスカウントショップとコンビニが向かい合わせで並んでいる場所で、更に高等学校まである少し道が複雑な三叉路なのです。


やがてその指摘された場所は走行するマイカーの後方となり、ルームミラーのみの確認となりました。しかし始終、自分の目にはその″人″の全体像や足元を視覚する事が出来ません…。すると


「ばいばぁ〜い」


ちょこんと可愛らしく助手席に乗っていた娘が。急に後ろへと振り向きざま、手を振っていたのです。


「ヤ、ヤカッ!やめるんだっ!!」


(ビクッ)


この頃。園児の娘に対し怒鳴る気が無くとも、危険な行為をしてしまった事に対し怒鳴ってしまった自分。

その理由を説明をする間も無く、目的のディスカウントショップ内にある駐車場へと到着してしまいます。そこで自分は深呼吸を一つ、素早く空き駐車場スペースに車を止め


「グスッ…」


「怒ってごめんな?ヤカ。だけどね?パパにはその″人″が見えないんだよ?この意味が分かるかい…?」


「……?」


その言葉の理解に至らない、そんな我が娘の頭を撫でながら


「その″人″は間違いなく幽霊さんだ。だからその″人″に手を振ったりして気に入られて。朝昼晩と、ず〜っとヤカの体にくっつかれたまま、その″人″が離れなくなってもいいのかい?」


寂しくトーンを落としオドロオドロしく、そう娘を説き伏せました。幼いながら意味が分からずとも、左右に可愛らしく首を横に振り振りしながら


「やだっ」


…と。その時は強めに言って、やっと娘は納得してくれたようです。


ここは関西にある堺の地。古くから稲作を中心に蔬菜や園芸栽培が主だったようで、″美しい原っぱ″…なんて洒落た地名の由来になったのかも知れませんね。そして、高校にもこの名前が入っ……


「だろ?友達や知ってる人になら手を振ってもいい。でも全く知らない″幽霊ひと″にはしちゃぁダメだょ?言う事聞かない子は、前がよく見えるパパの横に座らせないぞぉ〜?」


「え?やぁ〜だぁ〜っ」


「はははっ、分かったのならいい。ヤカはかしこい子だからなぁ?」


(バコッ)


「痛い…」


唸る妻の鉄拳、飛び出す旦那の目玉。

妻はこの手の話が大嫌いなのです…

…ってか、こんなに毎回毎回殴られたら俺がバカバカ幽霊になっちゃうよっ!


親子団欒な会話とは程遠いですが…


その交差点はやたら事故が多いのか。前を通る度、自分の首元に違和感がゾワゾワッと過ぎります…

ヤカが見てしまったのは花瓶を置かれている、亡くなったその″人″なのかは分かりません。しかし自分には″それ以外″にも色々と感じるものがあり、ここを通る度、いつも重く訴え掛けて来る様な強烈な違和感に襲われるのです…





完。

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