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五十八ノ怪 お線香

こんにちは。

あ、でも…この閲覧が朝や夜だったらごめんなさい。


さて、読者様方々はどうでしょうか?一度くらい「″有り得ない場所で焚かれた線香の香りを嗅いだ事″」はありませんか?

…と、唐突に変な質問をぶつけてすいません。でも、聞かないと話が進まない気がしないでもないから続行で…

その回答を脳内の片隅にそっと置き、続きを読んでもらえたら幸いです。

例えば一般的なデパートの食肉コーナーで、終電間際の誰もいない列車内で、はたまたアイスクリーム屋さんの座席で食べる時に…ふと周囲から仄かに線香の香りが…。別のタバコでってバージョンも有りますが今回は前者のお話で…


その体験談を語る者として、実は自分ケイジは今までに二桁くらいか、それに近い数を経験してきているのです。唐突に…が大半を占め、記憶も有耶無耶になっていきます。最近の出来事やイベント事で記憶に残っているものなら今でもハッキリと覚えていますが…



少し話は外れ。昔の仕事柄、自分は漢方の原料販売に携わり、結構詳しかったりします。ほんの一部を紹介すると、防已ボウイ黄耆オウギ甘草カンゾウ地黄ジオウ茯苓ブクリョウ…と。他にも多種多様。加工別に取り扱っていた品種数は千をも超え、最後に挙げた茯苓は別名、松塊マツホドと言って。白い菌核が茶色い皮に包まれたサルノコシカケ科の菌の一種。見た目、まん丸おはぎ?その体積に対し比重が重い、重い…。簡単に言えば、乾燥椎茸と水分を吸った″元″乾燥椎茸程の差くらいでしょうか。それを含め黄耆や甘草も色々な処方に配合されていて…

…と、脱線気味にうんちくを一欠片語りましたが。これらの充填じゅうてん作業…所謂、袋詰めの作業工程に自分は従事していたのです。

そしてその流れで、飲用では無い燻香料くんこうりょう沈香ジンコウ白檀ビャクダン等々…。所謂、″線香″の原料等にも精通しており。それらの良し悪しを原料的に嗅ぎ分ける事にも長けていましたーー




「今日も一日お疲れ様でした〜。明日もまた、よろしくお願いしますね〜」


自分ケイジはその日の仕事を終え自宅に帰ろうとしました。しかし空気はかなり湿気を含み、残念ながら降ったり止んだりの中途半端な雨天候。

更に俗に言う″雨男″のレッテルを貼りまくられているという事もあり。帰宅時、会社の建物から駐車場へ約10メートル程の距離にある愛車へ乗り込もうとしますが、落雷を伴った大雨にいきなり遭遇。ほんのちょっとの距離なのに…


(ザザザァー!!ピカッ!ゴロゴロゴロニャーゴ…!)


「なんてこったいっ!オーッ、マイッゴォ〜ッ…」


ああ…、わたくしめは神に見捨てられし存在か。まるで海に落とされたみたく、服はずぶ濡れビチャビチャに…。雨も滴るウホッ、イイ男…って。若かりし頃、先輩方に本当に沖縄の海へ落とされた事がありますが…


で、何故自分はこの日の事をハッキリと覚えているのか?まだ八歳で、珍しいエイプリルフール生まれで幼く可愛い我が愛娘。長女ヤカの誕生日前日だった事もあり…

またまたうんちくですが、学年は四月一日と四月二日で学年が分かれるって知ってましたか?三月と四月で分かれている…とかじゃないんですよ?…ん〜、霊体験とは無縁で…どうでもいいか、こんな話…


「うーっ…。さ、寒い…」


濡れた服の湿気の所為か、やたらと曇る車内側のフロントガラス。エアコンをガンガンかけますがガラスの曇りは取れても、服の方が一向に乾きません。

幸先不安なまま予約していた娘の誕生日ケーキを買いに行く事に。

この日、自分ケイジの母親からヤカに何かプレゼントしたいから一緒に買い物へ連れて行ってほしいと頼まれていました。

実家近くで乗車してきた母…。久しぶりに会ったけど、ちょいと化粧が濃くないかい…?車内は今、湿気の他にその化粧品やら香水の香りがやたら充満しています。


(マ、マイマザーよ…。喘息ぜんそくもちの自分ケイジには、ちとキツいんだぜベイビー…)


そんな自分の心の叫びは棚に置いといて…。なんだかんだで取り敢えず母は、とある店舗で買い物を一通り済ませると、再び車に乗り込みます。


「ケイジ、いつも無理言ってごめんね?明日になったらヤカに『コレ、おばあちゃんからだよ?』と言って渡してやってね?ホント、手間掛けるね…」


「いや、大好きな母親そぼからのプレゼントだったら、ヤカは凄く喜ぶと思うよ?」


自分たち親子は車内でそう何気ない会話をしていました。するとその時。何故か急に、線香を焚いた香りが周囲に漂ってきて…


「母さん?今、何か…線香の香りがしなかった…?」


…と確認。母は訝しげな表情で自分の服の袖口を嗅いだりしていましたが


「今もまだ、線香の香りが車内に漂っているんだけど…」


「や、やだ、わたしの所為?そんなイヤな匂いなのかしら…」


「いや、母さんを乗せた時の化粧の匂いと全く違うから…」


車は駐車場にまだ止めたままだし、窓も閉まっていて外気設定は完全遮断中。でも万が一、外からの可能性も考え


(うぃーん…)


「くん、くん、くん…。違うか?」


雨の為、窓を半開して確認しますが。車後方にある店舗の大型室外機の変な臭いプラス、雨独特の土臭さ?…しかしませんでした。


「ゴホッ、ゴホッ…くさい……。ん?」


でも窓を閉めた瞬間でした。背後からスーッと首元へ″あの″違和感が…。まさかと思い、運転席側から身を乗り出して。後部座席周辺を犬みたく、鼻を前に″クンクン″嗅いでみると…


「あ、ここだ…」


と、ご回答…。


「…!?」


明らかに後部座席で漂っている線香の香り。自分ケイジは普通に言ったつもりでしたが、母親の顔は次第に青褪めていき


「ケイジッ!やめてっ!!」


「ご、ごめん…」


何故?聞いた事の無いくらいの母の怒鳴り声。すぐ謝罪したのですが。長男のナガ兄と自分ケイジは小さな頃から何も無い場所をジ〜っと見つめていたり。普通に話す霊的会話に、母親はいつも困惑の表情を隠せない様子でしたから…


そして今回は悪い方で、その予感が的中してしまいます…。まさにその日の丑三つ時の出来事。母親の実の兄が家で亡くなったと訃報が入ったのです…


「ケイジ…。こんな夜中にごめんね?兄さん…、いえ、あなたも知ってる◯◯伯父さんが軒先で倒れてたらしくてーー…」


まさに寝耳に水な話。驚き半分、平常心も半分。自分には何かしらの覚悟は出来ていたのかもしれませんし。もしくは伯父さんとは片手ほどしか会った事が無く、面識が無かったからかは分かりませんが…


「そ、そうだったんだ…。母さん、気を落とさないでね…?」


可能性としては伯父が亡くなった後に部屋で線香を焚かれ。それを纏った霊体や思念体が母親いもうとに会いに来ていたのかもしれません。これについての確証は全く無いですが…。でも母は更に驚きの事実を口にしました。


「あのさ…?ケイジ」


「うん。何…?」


「あなた昨日、線香臭いって言ってたでしょ?」


「そうだね…」


「覚えてないかもだけど…。伯母あねが亡くなった時も、あなたは私に同じ事を言ったのよ?」


「え…?」


と、母からそう言われました。実は今回の件で二回目だった事実。その日から遡る事、数年前。癌を患っていた伯母が意識不明に陥ったと連絡が入り。母親は急遽、大阪から新幹線で東京まで向かう事になるのです。

でも母は子供たちに「急用」とだけ告げ。出掛ける理由までは教えてくれませんでした。もちろんその原因は「妻は常に家にいるものだ」と古い考えが口癖の鬼祖母とダ◯親父の所為でもあります。

そして、いつもずっと行方不明の親父とアルツハイマーの鬼祖母には内緒で。冷蔵庫の仕分けした食事を食べてほしいとだけ母は言い残し、身支度を急ぎました。そして母が出掛ける際、何気に自分ケイジ


「母さん…?お線香臭いよ?お出掛け前に仏壇でお祈りしてきたの?」


と、そう言ったらしいのです…が、これについては全く記憶に無く…


「……。」


結論から言うと…

伯母は他界していて、その死に目には会えなかったとの事。よって母親は自分ケイジから不意に「線香の香りがする」と二度目の″死の予告″をしてしまったから。辛く悲しい過去がフラッシュバックし、パニック且つ狼狽え自分を怒鳴ってしまったのだと言っていました。

それは本当に死の予兆か死の宣告か…。しかし人が亡くなったからといって、必ずしも同じ現象が起こるとは限りません。もし、これを読んでいる読者様の中で、同じ体験をされた方がいるなら。もしかすると″身近な人が亡くなった″可能性を示唆しているのかもしれませんよ?

だって、ほら、今もあなたの周囲には今も線香の香りが…


…と、今回はこれまで。ご静聴ありがとう御座いました…(違)





完。

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