五十七ノ怪 謎の発光体
これは自分が有名ファーストフード店で久方ぶりに会った中学時代の友達″ウサギ″から聞いたお話です。男性なのに何故ウサギって渾名なのかは秘密…
…って、誰もこんな由来に興味ないだろうな…
取り敢えずですが「ケイジ、お前はこんな話好きだったよな?」が、挨拶よりも先の冒頭に。
自分は一体友達連中からどんな風に見られているのでしょうか?…と、改めて反省させられましたが…
出来れば最低最悪な変態扱いをして欲しい…はぁはぁはぁ………って、違う違うっ…違う…?
…は、話を戻して。今回は嘘か真か、彼が体験した摩訶不思議なお話をさせていただきますーー
聞けば、ここ数年前の出来事。
年号が令和になる少し前くらいの話ではないでしょうか?ウサギは仕事で既に和歌山に引っ越していたらしく、自分と出会った時は本当に偶々で、大阪の実家に数日間だけ帰省中だったとか。
一概に和歌山といっても、そのエリアはかなり広く。ピンポイントに説明すると、住んでる場所は大阪寄りの山の麓辺り?街からも遠く離れ、田んぼに囲まれた大自然の中にある長閑な平家に住んでいると言ってました。
「なんで、そんな場所にわざわざ引っ越したの?」
と、数少ない質問のバリエーションの中で、ありきたりな疑問をぶつける自分。
今の彼は記憶していた容姿とはかなりかけ離れており。メッシュ?ザンバラ髪?で茶髪にピアス…と。かなりのイメージチェンジしていたのです。う〜ん…、会話するのに少し抵抗が…
更に一番驚いたのが、身長も下から見上げる程高くなっており軽く180cm超えで、中学生の頃から凡そ25cmも伸びたとか?
思いっ切り抜かれちゃってるし…。でも、自分のが絶対脚は長いからなっ…。男前になっても絶対俺のがもっともっと男前だからなっ…………多分…
そして彼の引っ越した理由は
「職場が近いからだよ。俺今、美容師やってるんだよ、あははは…似合わないかな…?」
…と言ってきました。
派手な容姿は納得&キャラ変し過ぎはかなりビックリ。
「へぇ〜、そうなんだ…。何かカッコいいね?別人みたいだったし、声掛けられるまでウサギだって分かんなかったよ」
「あははは。むっちゃ、背ぇ〜伸びただろ?俺、かなりチャラくなったからなぁ」
過去、傍若無人な父の所業で引っ越し三昧だった自分。高校受験を控えていたので、引っ越し後に転校も出来ず。かなり家が遠くなってしまった上、通っていた中学校は自転車登校が不可だったのです。
こんな大事な時期に徒歩で片道二時間かけてまで通学する根性は無く。ウサギに頼んで自分の自転車を彼の家の玄関先へ駐車させてもらって、卒業迄の約二ヶ月間。学校まで一緒に通学した思い出がありました。あの時は彼とその両親に本当にお世話になって…
「チャラいと言うより…格好良くなったし、何か有名人的なオーラ?…を感じる、うん、感じる感じる。それにウサギ、今はモテるだろ?」
「いやいや、相変わらず世辞が上手いな?ケイジ」
世間で言うところの″イケメン″さん。ウサギは少し照れ笑いしながら「ない、ない」とばかり横に手を振ります。
そして店内のカウンター前で立ち話も何なので。二人は人気の少ない、二階にあるテーブルへと向かいました。
「あ、さっきの続きだけどさ…。あ、ここに座ろうか」
「ん?りょ〜かい〜」
彼が指差すカウンターの席に座ると。いきなりバーガー片手にウサギは前のめりになりながら
「あのさ…?実は…」
″グイグイッ″と前に出て、ある体験談を語り始めました…。この様子からしても、よっぽど自分に話したかったのか…
肝心な話の内容ですが…ウサギは引っ越して間もない頃。午前中に愛車で職場に向かおうと、まだ通い慣れない田畑に挟まれた砂利道を走行していたらしいのです。しかし急にラジオの音にノイズが入り…
(ザザ…ザザザザ……)
「…へ?」
それと同時、フロントガラス越しに前方を見ると。マイカーの約5メートルくらい先?右横にある畑から急に現れた掌サイズの″白い発光体?″が。直線的な動きでそのまま左へスーッと2秒程で通過し、消え去ったらしいのです。
これはまさに未知との遭遇と言っても過言ではないでしょう。
そして驚いた彼は慌てて車を急停車。車外へと飛び出し、キョロキョロと周囲を見渡したらしいのですが…
「ア、アレは一体何だったんだ…?」
でも、その謎の発光体はもう見当たらなかったとか…。偶々通りすがりだった生物の羽根等が日光に反射したとも考え難く、大きさは大人の手を広げた程度はある謎の発光体との事。
明るさも昼間に懐中電灯をこっちに向けられた感じでしょうか?表現が下手だし微妙でごめんなさい…
しかも薄っすらと見える本体は円筒形だったとか。想像するに、350mlのコカ◯ーラ缶みたいなモノが発光しながら車の前を横切った?…って、そんな感じかな…?
「俺の車は砂利道を40キロ近いスピードで走っていたんだぞ?車体にぶつかりもせず、並んで移動していたんだよ″ソレ″は…」
要は、その発光体が″車の速度に合わせ規則正しく平行移動しながら右から左へ飛んでいった″という事になります。可能性としてはプラズマや人魂。他にはよくテレビ放送されていた謎の発光体…所謂オーブを目撃した可能性も有りますが…
自分はそのいずれもが、その出現時に予測不能且つ不規則な動きをするものだと考えています。
よって直線で規則的な動きをしていた″ソレ″はまさに…。…と言う事で、自分とウサギは互いに同じ結論に至ります。
「アレな?俺、絶対に″UFO″だと思うんだ…」
「UFOだれ、それ…」
『あははは…』
彼と思いっ切り意見が被り、笑いました。
自分もエンジンや電力といった、物理的な動力を必要としない反重力的浮遊物に乗る宇宙人説を信じています。だって宇宙はだだっ広いし、果てしの無い未知の世界なのです。凄く発達した文明を持つ地球外生物がいても何ら不思議ではないでしょう。
しかし今回のUFOはジュース缶程度の大きさ。対象が小さ過ぎて…。無人船?偵察船?もとい、無宇宙人船?まぁ、タライみたく小さなUFOを見たって話も、多々聞いたことはありますので…
「へぇ〜…」
「へ?たったそれだけ?足りないなぁ…、足りないぞ?俺の知ってるケイジなら腹を抱えて驚く筈だっ」
それを言うなら抱腹絶倒…″無茶苦茶、大笑い″する事…だろ?何処に笑う要素があるんだ?…ってツッコめるな…
(フッ…)
しかし奴のペースに乗せられるのは癪だし、スルー気味にご回答。
「ウサギ?お前の目に俺がどう映っているか、大体分かった気がするよ…。でも確かに″ソレ″って、物理的にも不可解な現象だよな?とても興味深い…」
「だろ?お前なら絶対そう言うと思ったよ。でもな?これは一回だけじゃない。今までに四回も目撃してるんだ…」
「おおっ…!」
やはり簡単、そしてすぐに釣られてしまう単細胞な自分…
「そうそう、それ、それ、ケイジ。お前のその驚いてる様で全然驚いてない様な、その不気味で笑える仕草を俺は見たかったんだ」
「……。」
ウサギは未知なるUFOより、ありきたりな自分の仕草が興味深いのか?と、こんなどうでも良い話しは『どっこいしょ…』と横に置いといて…
彼は″同じ場所″で″同じ発光体″を四回も目撃していたとの事。
二回目は車の前方で、一回目より少し遠くに?
三回目は運転席側の右窓から見えて、背後から一気に追い抜かれて消え去ったとか…?
百聞は一見にしかずといいますが。想像しか出来ない自分は、今や空き缶とヤカンや鉄鍋みたいな多種多様なグッズが脳内を飛び交ってしまっています。
でも一応、本人に遭遇した″モノ″が霊的なものかの確認をしましたが。彼は遭遇時、身体へ謎の重みや肩凝り、もしくは倦怠感等を全く感じなかったとの事。ラジオのノイズも然り。そこで自分は
「前にいた職場で、部下だった沖縄出身のキンちゃんってコや、その近くに住んでいた事があるユウって後輩も。沖縄で何度もUFOを見たって言ってたけど…。当たり前の話しらしくて…。バッっと両手広げ、その巨大さをアピールしてたんだよなぁ…」
「月とスッポンポンの差があるぞ、それ」
ウサギよ…「ポン」を復唱するな。別の意味になるから。それに、そんな差は要らない…
本音、沖縄のUFO説はちょっと半信半疑だったのですが。でも会社にいた数名いた沖縄出身者も、口を揃えて同じ事を言っていたのです。
飛行物体のネタはメディア制限か…?
「昼でもUFOが頭上に来ると、辺りはまるで夜の様になる」…と。まさか国内未発表の米◯兵器??でも現代の飛行物体みたいな騒音も無く空中に静止するって…、今の科学では絶対に不可能かと…。まさか一般メディアでUFOが摩訶不思議な存在でも、沖縄なら当たり前な存在なのかもしれませんね…
「ケイジ、アレだよアレ。人間と猿みたく、宇宙人の個体にも大小の差が有るんじゃないか?」
「だとすると…。巨大なら巨人が乗っているのかなぁ…?」
「それはなくないか?だって、地球上の軍が管理する戦艦や空母はデカいけど、船員は小さいだろ?だから、必ずしもそうとは言い切れないかもよ?」
「そう言われればそうだな…」
そこで一息、区切りを入れた自分。
そうです。
彼はまだ″四回目″について語ってはいなかったのです。何を勿体ぶってるのでしょうか?人間、言いたい事は言わないとストレスで頭が白髪化するからね?
…と、別の色々なヘヴィストレス経験者は心の中でそう呟きます。そしてその表情を見たウサギは、我が心中を察したのかニヤリと笑うのです…
「……で、ウサギ。してやったりなドヤ顔はいらないから…、あのさ?四回目は…?笑ってないで言えよ…、ってか早く言えっ」
ウサギは両手を広げて″やれやれ…″感をアピール。そして残りのバーガーを一気に頬張り完食。続きドリンクで軽く喉を潤わせてから
「実はさ?四回目が凄いんだ…」
(ゴクリ…)
改めて前のめりスタイルで。やっとその時の体験談を語ってくれたのです……が、内容は自分が″ゾッ″っとするものでした。
「…き、消えない…」
それは再び車前方に現れた謎の発光体が、ウサギの愛車の急停車に併せて完全静止。此方の様子をジーっと″観察″していたらしいのです。
いつもはスーっと消え去るのに、発光体はいつまでたっても前方の空中でピタリと止まったまま。軽く2分は経過していたとか?ある種の恐怖を感じたウサギは車を降りず、ハンドルを強く握ったまま″ソレ″を眺める事しか出来ませんでした。
「ま、まさか何かされる…!?」
大体パニックになってる時は状況の把握が遅れるもの。逃げもせずじっと見ていると、発光体は車にゆっくりと接近してきたらしいです…。その時ウサギは死すら覚悟したらしく、観察?興味?好奇心?まるでこの宇宙人が人間に関心をもって眺めている…?…とでも言えばいいのでしょうか?
そんな未体験な状態のまま、ウサギは震え、恐怖と戦いながらも何とか携帯電話を取り出し
「…!?」
やがて近づいてきた発光体は車のボンネット上でピタリと静止。少しずつ、まるで振り子の様に左右へ交互に動き始め。最後、振り絞ったピンボールの球の如く、弾かれた様に飛び去ってしまいました。
スマートフォンは左右に揺れ始めた頃から動画で録画してたようですが。その動画には何の存在も写っていなくて。ただ只管、自分の怖がる声と、前方にある砂利道しか写ってはいなかったとの事…
「……なんで?」
ちなみに、その動画を見せてもらいましたが。確かになぁ〜んにも写っておらず「うわ、うおっ、いいっ!?」と、訳の分からないウサギの叫び声しか特筆するものはありませんでした…
もしかすると宇宙船の仕様は保護色?菜園や動物園みたく、宇宙人からすれば″人間も観察&監視対象″なのかもしれません…
悩んだウサギはこのUFOの件を、こっそり地元の方々に聞いたらしいですが。誰もが知らぬ存ぜぬで、まさか未知なる存在はウサギだけが観察対象だったのでしょうか?もしくは余所者のウサギを村八分に…?…は、流石に無いかもしれませんが…
自分に腹の中に溜め込んだ有耶無耶を吐き出せてご満悦な上、スッキリした様子のウサギ。今度、車にドライブレコーダーを設置予定だとか。新たな進展があれば連絡するとか言ってましたが…
「ウサギ?これは俺の意見だけど…。″謎めいた未知なるモノ″に対して、あまり首を突っ込んだ行動は控えた方がいいんじゃないか?ドライブレコーダーのみで、気付いてないフリをする方が得策だと俺は思うよ?万が一…だってあるだろうし…。あまり無茶はするなよ…?」
「……!?」
まさかの忠告に我を取り戻したのか。ウサギのイケメンが恐怖で一瞬ブサメンに歪みました…。そして彼は黙って小さく頷き
「き、気をつけるよ…」
…と、最後に一言。あれから連絡は一切来ないですが…、彼は再び謎の発光体に遭遇出来たのでしょうか?まさか既に宇宙へ連れ去られていたり、脳をいじられていたりとか…?
でも、このままだとオチが全く無いので…
強引かもですが午の刻前、キンキン、キラキラとしたウサギの茶髪に反応したUFOが″仲間と勘違い″し、何度も遭遇するハメになったとか?凄いぞウサギ!アンタは凄いっ!……ほんに、お後がよろしいようで…
…って、何てオチだっ!
完。




