表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/95

五十二ノ怪 祟り祟られ、背後の老婆

これは最近、元号が令和になってからのお話。

大阪でも南方の柏原市国分辺り、とある二つの有名レストランでの出来事。

見知らぬ謎の老婆なのですが…、それぞれ別の日に別の場所で見掛けました。その人は少し陰のある人物でして、そんな老婆の背後には、悍ましきモノが取り憑いておりーー




「いらっしゃいませ〜…」


春うらら。

その場所はガードレール越しに側がブロック仕様の人工的な小川が流れ、周囲には舞い散る桜の花弁がやたらと目に付く場所です。そこから程近い有名百均ショップのダ◯ソーへ、スマホの何かのアイテム?が欲しいやら何やら。既に二十代の長女ヤカの頼みで買い物へ行く事になったのです。

店内は凄く広いワンフロアで品揃えも豊富なのに、立地場所が悪いのか客入りはいつも疎です。しかし今はコロナ禍。個人的には混雑しない店が好きなので、ここは丁度良い感じだったのです。


「やっぱり人が少ないな。いつもすっきり、清々しい店内だ…。ん…?」


するとどうした事でしょう?何度も買い物に来ているこの百均店で、急に「ゾワッ」と背筋へ悪寒が走りました。

霊とは無縁な場所で何故?ここで、こんな体験をするのは初めての事。取り敢えず周囲をキョロキョロと見渡すと、丁度通路横の棚の前にかなり年配の老婆がユラ〜っと不気味に立っていて…


(……。)


しかもその挙動がかなり怪しげ。買い物籠も持たずキョロキョロキョロキョロ、やたらと此方や周囲を警戒しているのです。

気にするなら普通は商品だろ?何故周囲を気にするんだ?

でも…実はそんな事よりも、自分は老婆に″取り憑いているモノ″の方が気になっていたのです…


(う、うわぁ…)


この老婆には自分ケイジの目にもハッキリと見える霊が、背後から″ガバッ″っと抱き付いていました…


「……。」


二人羽織みたく、両者共。あまりにも薄気味悪くて、自分はその場から急ぎ離れる事にしました。老婆は見た目にも年相応、地味で目立たない格好をしていますが。その背後にも負ぶさる形で、もう一人の悍ましき老婆の姿が、まさにダブル老婆状態…

取り憑いてるであろう老婆の方は、下半身が透けて見えず。背後から上半身だけで抱き付き、その絡めた腕はこの世の生を否定したかの如く青褪めていて…

そして白黒斑のソバージュがかった髪は不気味に垂れ下がり、その表情は陰り加減が酷くよく分かりません…


(俺は怖くない、俺は怖くないぞ、ちょい怖いだけだ…、俺は多分怖くなぁい…と、思うしかない…ドキドキドキ…)


そう、心の中でおまじないを掛け。情けなくも凄く怖くなった自分ケイジはそこから娘のヤカがいる20メートル以上離れていたスマホコーナーへと移動。しかも合流した霊感のあるヤカも″ソレ″に気付いていたのか、仕切りに老婆の方を何度もチラ見していました。


「パパ…。あの人、何かヤバいよ…?」


「ああ、わかってる…」


小さくそう呟くヤカ。やはり長女にも″アレ″がハッキリと見えていたのでしょう。自分は頼りなくて、怯えながら返事し頷きましたが。丁度、目の前に大きな角柱があり。その陰からこっそり覗き込む様に老婆の様子を窺っていました。でもその直後、二人は吃驚し言葉を失ってしまう事に…


『ーーっ!?』


老婆は肩より上しか見えない棚の向こう側に立っていて。急に持っていた袋に何か詰め込む様な仕草を見せた後、代金も支払わずに慌てた様子で小走りに店を出て行ってしまいました。

まさに一瞬の出来事。盗んだであろう手元は全く見えてませんが。しかし何かした可能性は非常に高いと思われます。万引きは現行犯、でもその老婆は老齢を感じさせない素早さで、瞬く間にこの百均店舗から消えてしまったのです…


「手元を見た訳じゃない…、後は店側の防犯カメラの判断だろうけど…」


「うん…」


不気味な何かに取り憑かれている老婆が、急に万引きらしき行動をして逃げ去る…なんて誰が予測出来るでしょうか?証拠も無くて、老婆が逃げ去った後も驚きの方が勝っていて店側には何も言えませんでした…


そして自分とヤカはモヤモヤっとした気持ちのまま帰路につきます。後でその事を妻にも話しましたが。老婆に取り憑いていた霊の方がインパクトがあまりにも強く。二人共、犯人像をハッキリと覚えてはいなかったのです。だからその説明はその背後にいた幽霊の特徴ばかりに。そして妻は呆れ顔で


「じゃあ、犯人ろうばの顔はどんなのだったの…?」


「ちゃんと顔は見ていない…。だって背中のアレの方が存在感凄くて、無茶苦茶怖かったし…」


「うん…」


「はぁ…」


それを首肯してくれるヤカ。もしかすると取り憑いていた″悪霊″から何かしらの干渉を受け、老婆はあの様な行為に及んでしまったのでしょうか?実際に手元を見たわけではありませんが…

しかし実は老婆自身が″諸悪の根源″で、他の人を酷く苦しめたり、まさか人殺しをしていたりして??

口では言い現せない強烈な違和感を持つあの老婆。それなりの恨みを買っている人物なのかもしれないですが…


そして、この件があってから約三ヶ月程経ったある日の事。

頃は蝉が鳴き始める初夏へと移行します。私生活でも色々あり、自分は仕事を休職してお金には細かくなっていた時期でもありました。そしてその老婆の事なんてすっかり忘れ、あの老婆を見掛けた百均店近くにあった激安レストランへ食事しに行く事になったのです。

ここではワンコイン500円程出せば定食にドリンクバーが付いてくる、ジョ◯フルという名のよく行く馴染みのレストランでした。

※この店は最近閉店しました…


「まったく、早く入口を自動ドアにしてくれよ…」


自動ドアが当たり前の昨今。

このレストランに入るには重い二枚扉があり、取手を渾身の力で引っ張りけなければなりませんでした。

自分が手前の扉を開けたままにし、更に長女ヤカが奥の扉を同じ様に開けてくれて、その間に残りの家族がゾロゾロと店内に入って行くのです。見事なコンビネーション…って、ただ店に入っただけで大袈裟な…


「お好きな席へどうぞ〜」


はいは〜い、お好きな席に座らせてもらいますよ。

この時は五人家族だったので、四人テーブルの空きが二つ必要でした。

しかし空席の加減から皆は一度に座れず、社会人の長女ヤカと大学に通う次女サリがレジから反対側、奥の席へ先に行かせました。

その後は、しばらくして席が空いたので、妻と小学生の息子ユトと自分ケイジの三人は出口付近の席に座りました。

でもその背後…。横の席は空席のまま、一人分の手付けずの食事だけが不気味に残されていて…


(ドリンクバー…にも誰もいないな…?この席の客、トイレにでも行ってるのかな…?)


やがて自分、妻、息子の注文を終え、延々と続く料理が来ない辛く待ち遠しい時間へといざなわれて…。って、だからいちいち書き方が大袈裟だって…


「あー、水が美味いっ!」


自分はドリンクバー付きのセットは頼まず、男らしく水をがぶ飲み。

タダは美味いっ!俺には混ぜ物なんて必要無い!

…と、書いてみたり。早い話が只の″どケチ″です。取り敢えず″実の親父から受けたトラウマが原因″…という事にしておきましょう…


やがて食事が運ばれてきて、流れ的にも食べ始める事になったのですが…


「ふぇ…?」


しかし何か変なのです…。こう、体全体がゾワゾワってする感じ…とでも言えばいいでしょうか?

手に持つ箸が微妙に震えていて。嫌でも自分の身体が変調をきたしている事への理解に至ります。そう、それは強烈に″背後から″感じてきて…


「ーー!!?」


ふと背後へ振り返ると、あの料理だけ置いてあった席に謎の老婆がポツンと一人座っていたのです。自分の頬には大量の冷や汗が伝い、そして遠くに座っているヤカに目をやると


(……!!)


自分と背中合わせの老婆に向かって、何度も「パパッ!アレ!アレ!」と、必死且つ一生懸命指差していました。


…そうです。この老婆は先日見た″背後に不気味な霊が取り憑いていた万引き疑惑のあるアノ人物″だったのです。

後頭部しか見えないので此方からは老婆の顔が全く見えません。ですが、背後にいる不気味な霊は前回と全く同じ。しかも思いっ切り隣りの席なので、その人との背と背の間隔は約80センチ程?とかなりの近距離だったのです…


(も、もう…、耐えられない…)


恐らくその不気味な老婆の霊と自分ケイジの身体が接触している可能性が高く、何かをきっかけに此方へとシンクロし、自分ケイジが取り憑かれてしまう事にでもなったら、それこそ一大事です…


「ト、トイレ行ってくる…」


「?…パパ?ユトも行く〜!」


料理はまだ完食していませんが、もう、そんなの後回しです…

あー、そうですよっ。俺はむっちゃ怖がりなんですよっ!

…で、更に息子はドリンクバーを飲み過ぎたのか一緒にトイレへついてくる事に


「よ、よし。ユト、行こうか?」


「パパ、行く!」


目を合わせ無い様、意識もしない様。自分はその老婆の横を素で通り過ぎトイレへと向かいました。しかし身体に感じた悪寒が酷く、今も頸や脇下辺りが汗まみれになっているのがわかります…


「ユト、こっちでトイレしようか?」


そう言って男子トイレの便座のある個室の方へ入りました。息子は実は少し発達障害があり、色々と出来ない事が多く、その世話をするのは自分の役目になっていたり。ある程度大きくなった今でも息子は可愛いくて、その介護的世話焼きは一切苦にはならないのですが


「終わった?もう出ないか?」


「出ないか」


息子の返事はいつも復唱、要は「OK」の意。サッとボトムスを上げ、次に自分が用を済ませます。そこでホッと一息…


(あの婆さん…。もう、店を出て行ったかな…?)


しかし相変わらず首筋には変な違和感が継続中…

戻ろうにも老婆は自分の席の真後ろにいるのです。本音。こんなつまんない事で、あんな霊に取り憑かれた日には目も当てられませんし…

…と、その後。トイレで約10分程時間を潰したでしょうか?確認も含め仕方無く席へと戻る事にしましたが…。老婆は食事を終えた今も席に座ったままの様で…、何をするわけでも無く…、ただ入り口の方をボーッと眺めていました…


(バアさん…、さっさと会計済まして出て行けよっ…)


「…ママ?悪い、ユトを頼むわ。で、ちょっとヤカのトコへ行ってくる…」


「!?…ええ」


また不気味な老婆と老齢の霊と楽しいツーショット接触?


断る…


自分は席には戻らず、再び妻の横へ息子のユトを座らせ長女のいる席へと向かいました。そして娘の横に座った直後


「パパッ…。アレ、絶対にこの前の人だよっ」


「ああ、分かってる。あれじゃ席に戻れないからな…」


「あ、あんな薄気味悪いの、絶対絶対絶対にっ持って帰らないでねっ」


「わ、分かってるよ。だからこっちに逃げてきたんだろっ」


二人は声を押し殺しながらヒソヒソとそう会話します。その間もドリンクバー好きの次女は、そんな二人の会話を気にも掛けずバンバンおかわりしまくってましたが…


(ホント、サリはよく飲むな…)


か細い身体で十回越えのドリンクをおかわり、凄まじく元を取る頑張り屋さん…。ドリンクバーの大飲み選手権ってないのか?とか脳内で想像していると、急に長女が…


「あ、パパ?あのお婆さん、お金も払わずそのまま店を出て行ったよ?」


娘にそう言われて振り返ると、既にそこにあの老婆はいませんでした…。同時にヤカや自分の身体から悪寒の様な嫌な感覚は取り払われ、普段通りの状態に戻ったのです。


「わ、悪いなヤカ?じゃあ席に戻るわ」


「うん。パパ、またね?」


スッと席に戻り、残りの食事を口に運ぶ自分。


「冷たい…」


料理が冷めているのは当然。あの取り憑かれていた老婆の所為なので少しイライラ…。更に妻が自分に凄く優しい言葉を掛けてくれて…


「『冷たい』って。アナタが料理放っておいて、どっか行ったからでしょ?バカじゃない?はぁ…」


う〜ん、辛辣。出来れば店内に響く位に怒鳴りながら且つ、すんごい痛いヒールで踏んだり、蹴ったり殴ったりで、お、お願いします。はぁはぁはぁ…違


「でもね…パパ?」


と、色々な妄想をしている最中に邪魔をする妻。


「ん?な、何?」


「アナタの後ろのお婆さん。お金も払わず店を出て行ったわよ…?わたし、びっくりしちゃって…」


「!?」


うん。老婆のテーブルに伝票残ったままだな…

しかし正直な話、あの老婆がいなくなってホッとしていた自分がいました。しかし万引きした様な?ついでに食い逃げって…


「あ、あははは…。あのさ?実は…」


そこで初めて妻に、万引き犯らしき幽霊が取り憑いていた老婆が″アレ″だったと伝えたのです。とても霊感のある人間には耐えれないレベルの違和感?とでも言えば分かってもらえるでしょうか?しかし、ペチンッ…と妻に頭を叩かれ


「アナタ?霊が憑いてるって知りながら、わたしとユトをここに放って行ったの!?」


と、そう怒られました…

痛い…。だってこの場所で″俺だけご霊と接触″してたんだよ!?離れたテーブル向かい側なら多分?いや、かなり大丈夫だよ…。恐らく…?


そして自分たちが会計するまでにあの老婆が帰ってくる事はありませんでした。

状況的にもホボ食い逃げ確定。人間のクズっぷりはあの父親に匹敵するかも?

しかし実は少し安心していたり。あの取り憑いていた霊は″般若の様な表情で背後から食い入る様、ズッとあの犯罪者の老婆を睨みつけていた″のです…

恐らくその怨みの根深さときたら…。だから″あの霊″が他者に取り憑くなんて事は無いと思われます…。ああ…、クワバラ、クワバラ…




完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ