四十八ノ怪 無念の霊
頃は立冬。
ひとたび屋外へと出れば木々の紅葉が進み。ここ大阪の南河内の山々には、見渡すかぎりの紅が広がっています。
そんな大阪富田林に流れる河川、石川の川沿い。
季節の変化を目や肌で感じてはいますが、裏が山手で生茂る雑木林を通り抜け、ただ釣りに没頭する二人の若者がいましたーー
「へぇ〜、あの辺りも真っ赤っかだな?」
「紅葉の季節は涼しくて俺は好きだけど。それよりも今、全く釣れない方を気にしてくれよ…。………はぁ、ここもダメだな…。ケイジ、もっと奥に進むか?」
「…だな。…あっ!ワダ、あの大きな建物の前なんかいいんじゃない?」
「おっ、いいね〜」
高校生の自分と、同級生で友達の″ワダ″。自電車に跨り、この二人で大阪府の南側に流れる大和川上流、そのまだ川上の石川へと辿り着きました。
こんな遠い場所まで釣りをしにやって来ましたが、残念ながら現在その戦績はゼロ匹。今回の敗因は、基準を大物狙いで釣り針を大きくチョイスした所為だろうか?
取り敢えず林道を抜けて上流まで来てる事を再認識。そのまま川に沿って歩き川上を目指します。前を見ると砂利道の左手には山の大自然に囲まれた不気味に佇む謎の巨大建造物が視界に飛び込んできました。
「六階建ての窓枠に鉄格子…?…まさか刑務所!?ケイジ、アレって何かヤバくないか…?」
「だ、だな…」
中に誰かいるのかな?…って位そこは周囲に全く人の気配が無く。壁は薄汚れ窓には鉄格子と、かなり異様な雰囲気を醸し出している謎の建造物でした。しかしその前側は綺麗な砂利で舗装されており、まさに川と足場。釣りをするには絶好の場所だったのです。
「まぁ…、いいんじゃないか?釣りもし易いし」
「…だな」
…と、この時。この馬鹿な二人は何も気にせず、満面の笑みを浮かべながら釣りを再開します。後に恐ろしい怪奇現象が二人を襲うとも知らずに…
すると状況は打って変わって釣れる、釣れる、また釣れる。一投目にワダがいきなり50センチクラスの巨大ナマズを釣ったのを機に、数秒後に自分は40センチ超えの錦鯉をヒット。
ナマズは美味しいと言われてますが。今回は、とあるサバイバルな誰かみたく食べる目的では無いので即リリース。そして面白過ぎて浮かれていた二人が、その後2、3匹釣り終えたまさにその時でした。急に自分たちの背後から、背筋も凍る謎の咆吼が……
『ああああぁっ!!』
「!!!?」
釣竿を持ったまま目はパッチリ口は半開き。魂が抜けた様な間抜け顔で上半身だけ捻り、ササッと背後へ振り返る二人。
一体何処で?ここは動物園?猛獣?珍獣?まさかム◯クの叫び?話の流れ的にも″そろそろ出そう″って感じですが…。ワダと自分の二人は、しばらく背後をジー…っと見ていたものの、その後何も起こらず。先と同様、あの建物の外壁や格子窓しか見えません。
まぁ、壁の汚れが酷くて。それが人面に見えなくもないですが…。と、ここである一つの問題が浮上します。
自分もそうですが。彼ことワダ本人も心霊現象に対して、とても敏感な体質だったのです。やった、フラグ立ったし超ラッキー…
「ま、まさか…な…」
「だ、だな…」
さっきから「″だな″」しか言ってない自分。
いつも質問とツッコミの多いワダへの返事はこれがベストなんです。…ってか、最低だな俺。
そして視線は再び釣竿から垂れた釣り糸の先にある浮子に行く筈……なんですが。既に今は目の前にあるその浮子なんかより、まるで二人の後頭部に目が付いたんじゃないか?…って位、背後の建造物がやたらと気になり出したのです。
「……。」
やがて…、ワダの仕掛けに再び魚がヒットした瞬間…
「よしっ、キタッ!!」
(ガッチャン!ガッチャン!ガッチャン!!…)
「!!!?」
再び背後から、まるでゴリラが鉄檻から脱出しようとしてる様な?激しく何かを揺さ振る激しい金属音が
(くる〜り…)
(し〜〜〜ん………)
そ〜っと振り返っても、やはり視界には建物の壁や格子窓しか見えません。
もしかすると…この建物内側から?そうこうしている間にワダの仕掛けがプツリと切れてしまいました…。太い釣り糸が切れるくらいです。かなりの大物だったのかもしれません…
いや…、既に背後にはもっと恐ろしい大物が、この青年二人を狙っているのかも…
「ちょ、ちょい…、ワダ…。こ、ここで釣るの止めないか?」
怖がりな自分は素直にそう提案。何せ、自他認める超ウルトラ、スーパー、ヘタレ野朗なのですから。
そしてワダが沈黙のまま素直に頷くと同時に…
『ああああぁっ!!!ガッチャン!ガッチャン!ガッチャン!!』
「ひぎぃ!?」
少し涙目、二人は慌てて元来た道に向かって走り出しました。しかし道は二手に分かれていて「どっちから来たっけ?えーい右だ!」と。この二択を思いっ切り選択ミス。
更に追い討ちをかけるかの様に…怪奇現象、心霊現象!?…遠くに離れても例の建造物の中から…
『ひゃあああ〜………』
再び悍ましい謎の遠吠えが聞こえてきたのです…
自分たちの鼓膜から脳へと、トラウマ的恐怖を植え付けてくれた″アレ″。ホントに怖かった…
そして慌てて逃げた所為か道を間違え、更に違う雑木林の中の深みへと進んで行ってしまうのです。一体何処に自転車を置いたのか?それすら分からなくなってしまいました。しかもガラケーも無い時代。現在地は…空を見るか、己の天性の感に頼るのみ。…って格好良く言っても、要は行き当たりばったりって事ですが…
「さ、さっきの叫び声…、あれは何だったんだ…?」
「だ、だな」
「………ケイジ…、『だな』以外に何か言えよ…」
「そう…″だな″…」
「……。」
しかし二人は水辺に自生する背の高い野草に視界を遮られ、更に枝分かれしている林道へと…
まるで何か不吉な存在によって。その奥へと誘い込まれる様に進んでしまいます…
そこは左右両側に高さ2メートル以上の熊笹や鳩麦?ススキ等がわんさか生い茂っており。人や獣の通り道なのか、十戒の様に縦に真っ二つ、とても通り易い砂地の道でした。
「抜けた…?」
大自然の道を通り抜け、正面の足元に平で大きな岩がある遠浅の川場に到着してしまいました。
ふと川を見ると上から泳ぐ魚が見えおり、自転車探索よりも先に良い釣りポイントを見つけてしまいました。
う〜ん…、これって何かヤバいフラグが…
「おっ、魚が見えてる…」
「やるか?」
やっぱり…?止めておけばいいのにバカだから二人は意気投合、そのまま続投する事に。
だから、そろそろ読者様の期待的にも嫌な予感がするんだけどなぁ…
「ワダ?ここなら仕掛けの針を小さくして。オイカワや鮒狙いに変えたら、いっぱい釣れるんじゃないか?」
「″だな″」
と、ワダに『だな』をやり返され。ちょいムカッ…とした自分。
次からちょっと控えよう…と、少し反省したりしなかったり。そして改めて二人で釣りを再開したら再び大量にヒット。
釣った魚は全てオイカワでしたが。まるで熱帯魚の様に虹色でカラフルな色彩のある、とても美しい魚なのです。まさに釣り人の心を癒し楽しませる存在と言えるでしょう。
(…………。)
しかし、その時ででした。
二人が完全に油断しているこの場所へ、楽しむどころかあの世とこの世の境界線。
知らぬ間に、生ける存在を嫌悪し魍魎蠢く存在がその悍ましき姿を現したのです。
「……へ?」
こんな楽しい状況にも関わらず、横にいるワダの表情が急に青褪めてゆき…
「ケ、ケケケ、ケイジ……前…、ま、前を……前を見てくれ…」
「へ…?」
自分は釣りに没頭し過ぎており、″ソレ″に全く気付いてはいませんでした。
そして再び二人が川の方を向いた、その浅瀬の先の方。つまり川の真ん中辺りに年老いたお爺さんが立っていたのです。その顔は窶れており、思考や行動は全く窺い知れません。
「??」
やがて″ソレ″が、この世に存在してはいけない決定的な特徴を、ワンクッション置いてから二人にまざまざと見せつけてきたのです。
「足元…、川の水の抵抗が無い…?」
お爺さんが川の上に立っているのに、その足元の水が何の抵抗も無くすんなり流れているという事…
「こ、これって″アレ″だよな?ケイジ…」
「……。」
このお爺さんはグレーのチェック柄の厚手カーディガンを着ていました。冬にでも亡くなられた方でしょうか…?
いや…、こんな推察は今、全くもって必要無いから…
「ヤバい…俺まで目が合ってしまった…。さ、さっき、あの不気味な建物にいた霊か…?」
「わかんないよっ!そ、そんな事はどうだっていいっ、ケイジ……取り敢えず、に、逃げようっ!」
「″だ、だな?″」
「……。」
と、また言ってしまいましたが…
二人は慌てふためきながら釣り道具を鷲掴みにし、バッサバッサとリュック中へと放り込みました。しかし途中振り向くと明らかにその霊は、その間も此方へじわりじわりと近づいて来ており…
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!?)
「うわっ、来てるっ!?」
その場に餌やら多少の仕掛けを放置したまま逃げるしかなかった二人。
しかし唯一出口となる草に挟まれた道は、いつの間にか先回りしていた老人の霊が塞いでいたのです。
今回の霊が超ヤバい理由は″やたらハッキリ見えている″という事。
さっきの建物から追って来たにしろ、霊感の弱い自分にすらハッキリとその全身が見え執拗に追いかけられるのです。
早い話が、この霊は″今も世に未練や執着、その念が非常に強力″だという事。
確実且つ間違いなく、こんな霊に取り憑かれたら一大事です。
この手の霊にシンクロしてしまうと、しつこいの何のって一番質の悪い相手なのです…
「仕方ない…、ケイジッ!このまま川沿いを…!」
「″だなっ!″」
この際返事はどうでもよくなった二人。
そしてワダを先頭に川沿いから川下へと移動開始。
こ、これでいいのか?さっきの気味の悪い建物と反対の方へ走って逃げてるぞ…
「お、追って来てるか…?ケイジ…はぁはぁはぁ…」
「ワ、ワダ…あの類の霊は…、はぁはぁはぁ…で、でっ絶対見ない、はぁはぁはぁ…方がいい…。完全無視しよう…」
「わっ、分かった…」
一心不乱に猛ダッシュ中。
「ガッシャン、ガッシャン!」と。恐らく背中のリュック内の餌や釣具はシェイクされぐっちゃぐちゃに。
後で見るのが凄く怖いけど、そんな事より自分は走りながらも冷静に考えてました。この地に固執する地縛霊なら目を合わせずに無視し続けて、一定の距離をとれば途中から追って来なくなる筈。しかしワダが…
「うおっ!いるしっ!!」
って、考えた傍から…ん〜ウオッチングッ!もう見てたしっ!…ってか、ワダッ!俺は見ない方がいいって言ったよな!?「分かった」って何だよっ!全然分かってないだろっ!
そう心で叫びながら…、誰かのお陰で更に事態はどん詰まり。今はまさに背水の陣状態…
「い、行き止まり……って…」
左手が川、正面右手には蒲や葦、ススキ等の植物が大量に生い茂り、たとえ草刈機があったとしても、そう簡単に先へは進めないでしょう…
…と、そこで二人が少しも迷わずに取った次なる行動とは?
「あかぁーん!!!」
(バッシャーンッ!)
思い切って川中へダイブ……と言っても、深さは膝頭程度の幅広い遠浅な川。
…でも脚が超凍えるっ、マジ寒いっ!これは何かの罰ゲームか!?
川の冷水に触れた足の皮膚は「冷たい」と通り越し「痛い」な痛覚へと変化。しかしそれを上回る「恐怖」がそれをも打ち消し、手に持った釣竿を杖代わりに死に物狂いで向かい岸…反対側の土手へと…
(バシャ、バシャ!バシャシャッ!!)
「足が…痛いぃ…、はぁはぁ…」
「ワ、ワダ…あの霊を見ちゃダメだ。はぁはぁはぁ…、む、無視したまま堤防の上まで…」
「うわっ、来てるぅ!!」
「だからっ、見るなって言ったっ…、ノォーッ!!」
幽霊さん。呪うならこの男だけにしてくれませんか…?
既に完全パニック状態のワダには、何を言っても伝わりません。しかし無我夢中で川を渡りきり堤防を必死に登り切った二人はその場で倒れ、息を切らせながら…
「はぁはぁ…、ケイジ…、お、追って来ないぞ…?消えた…はぁはぁ…」
「……はぁはぁ……ヒュー、ヒュー…」
上がった息では苦しくて返事も出来ず。ただ酷い顰めっ面に…
(少し落ち着いたか…)
ひと息つき、そこでようやく視線を堤防下へと向けました。
だって自分は喘息持ちだから…。それをカップルか夫婦?かは分かりませんが、目の前をジョギングしながら半笑いで通り過ぎていく人たち…
「ケイジ…?喘息大丈夫か?」
(コクリ…)
春と秋があまり好きでは無い自分。実はその季節、花粉等で喘息持ちにはヘルシーズンとも呼ばれ恐れられていて………嘘です。はい…
取り敢えず自分は救急用に常時持ち歩いている気管支拡張剤を吸引。やっと落ち着きましたが…
「ごめんよ、ワダ…。もう大丈夫だ…はぁはぁ…」
「俺こそすまない…。『見ちゃダメだ』って言ってたの、聞こえていたのに振り向いてしまって…。やはりパニックになると俺はダメだな…」
「ははは…」
更にジョギングしているお爺さんも此方をチラリ。よく見てみたら堤防上のこの道はジョギングコースなのか、遠目にも此方へ走って来る何人ものランナーたちが見えました。
「ワダ?靴とボトムス濡れてるし…恥ずかしいから、向こうに行かないか?」
「ん?…やらないか?」
「……。」
とは言ってなかったですが。取り敢えずやりません。
…と、雰囲気で書いてしまいました。すいません。…元ネタが分からない方々、もっとすいません…
「よいしょ…」
土手にある木材を横に並べただけの素朴なベンチへ男二人が仲良く「どっこいしょ」。
濡れた靴やボトムスの水っけを手で絞り取りました。その間も周囲の警戒は怠りません。ですがあのお爺さんはやはり地縛霊だったのか、川向まで追って来てはいなかった様です。しかしです…。ここで二人は改めて深いため息をつきました。それは何故か?
「はぁ………。なあ?ケイジ…」
「ああ、分かってるよ………。取りに行かなきゃなんないよな?」
まだ自分たちのマイ自転車が視界の先、あの川向かいの林道辺りに置いたままなのです。やがて水を切り終え、鼻水を垂らしながら二人は自転車奪還というミッションを掲げ立ち上げました。
「取り返しに行くか?ズズッ…」
「だな?ズズズッ…」
その場で体を温めようと二人は立ち止まったまま軽くエアーランニング。
すると川向こうには遠目に″あの大きな建物″が見えていました。川を跨ぐ橋が架かっていて、その建物の頭上高くに看板が…
「……『◯◯内科・◯◯科、◯◯◯病院…』…」
「だ、だな…」
もう、どうでも良くなった「だな」発言。
そしてあの不気味な建物は実は病院だったのです。ただ一般的な病院ではなかっただけで…
取り敢えず川に架かる橋を渡りきりました。あの病院が右手に、その反対側にある林道に入りさえすれば、更に二択で先に間違った左側の道へ進めば自転車を発見出来る予定でした…。って、何かややこしいな…
「あの霊は川を渡り切ったらいなくなったよな?」
「だな?…もし振り返るなら。橋を渡り切ってからにしよう」
『おしっ、行こうっ!ズズッ…』
相変わらず鼻を垂れながら、そう声を揃える二人。
足場は歪み、かなり経年劣化している橋の上を少し速めに歩きます。しかしそこは吹き抜ける強風で濡れた足元が無茶苦茶寒くて。でもって更にあの幽霊に対しての恐怖がその痛覚を上回っており…
(ヤダなぁ…)
進むにつれバクバクと高まる鼓動。やがてあの二択の林道が見えてきました。焦る気持ちからか次第に歩く速度も増し、もう再び間違わない様に何度も確認します。
そんなこんなで、ようやく自分たちの自転車を視界内に捉えると…
「いない、いない、いない、いない、頼むからいない、いないでくれ、いない、絶対いない…」
「うわっ、やっぱいたっ!?」
「!!!?」
そんな淡い期待は無残にも掻き消される事に…
自転車を置いてあるその向こう側。待ってましたと言わんばかり、さっき遭遇したあの不気味なお爺さんの霊が立っていたのです。
案の定、此方に向かってゆっくりと近づいてきます…。その姿は″歩くのではなくスーッと、まるで地を滑る″かの如く…
「くっ…」
(ガシャンッ!)
幽霊と自転車とは少し距離がありましたが、解錠の手間的に車輪のロックを外している余裕がありません。だから二人は、仕方無く自転車を持ち上げ逃走する事に…
「ひぇ〜…、最悪だぁ…はぁはぁはぁ…」
「はぁはぁはぁ…、だな…」
自分の自転車は前輪ロック式。ハンドルを持ち上げれば後輪が勝手に回ってくれます。
しかし、それに対しワダは前後ダブルロック式。彼だけ自転車本体ごと両車輪を持ち上げ、担ぎながら走らなければならなかったのです…
「はぁはぁはぁはぁはぁ…」
今度は学習したのかワダは一切振り向かず、さっき渡ったばかりの橋の中程へと到着しました。しかし普段からゲーマーな彼の体力は底を尽き。自分もそれに合わせ、その場で足を止めてしまいます。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…」
もう二人は息も絶えだえ。それでも橋を渡り切るまで背後を見ないでおこうとしました……が。それすら許されない事態に……
『おい…』
「ひゃわぁ!?」
まさか、あのお爺さんの霊が自分たちを呪おうと声を掛けて来た!?しかし…、それにしてはリアル過ぎる若いオッサンっぽい声?そこで二人はそ〜っと振り返ってみると…
『おい、君たち…』
と、次はハッキリと声を掛けられていた事に気付きます。
振り向けば白黒ツートンカラーにクルクル回る真っ赤なパトランプ。…って、パトカー!?めでたく自分たちは自転車泥棒に見間違われ即職質に。
見たら分かるでしょ?片方だけが可愛い学生ですが何か?
…とか、そんな事を考えていると。病院側の橋の手前。つまり林道の前辺りに、あのお爺さんの霊が此方に向いたままずっと立っていて…
「!!!?」
お爺さんの霊は職質される二人の様子を寂しげに見つめています…。話の内容でも気になるのでしょうか?
って、そんなワケ無いだろ…
そして警官は五十代位の方と二十代位の方の二人がいて、パトカーから降りて来たのは若手警官でした。しかし自分たちの視線は″あの霊″の方を向いたままで…
「君たち、こっちを見なさい。…何で声を掛けられたか分かるかい?」
と、若い警官の方から普通にそう質問されました。
でも年配の方は一瞬自分たちと同じ方を見て、此方へと向き直したのです。でも質問は続けられ、取り敢えずパニック状態のワダは放置し…
「はぁはぁ…。あ、はい。じ、自転車の事…はぁはぁ、ですよね?」
「そうだね。でもこの辺りは非常に盗難事件が多いんだ。悪いけど君たちはそれを自分の自転車だと証明出来るかい?」
(ゴソゴソ…)
「はぁはぁはぁ…」
(カチャンッ!)
リュックから自分の自転車の鍵を取り出し、警官の目の前でロックを外してみせました。息が上がっていましたが、もう一度気管支炎の吸入薬で何とか持ち直します。
取り敢えず詳細までは言いませんでしたが、二人が年寄りの幽霊に遭遇し逃げてきた主旨を説明…
「ほ、本当かい…?」
「…は、はい。でないと、鍵を持ってるのに鍵の掛かった自転車を担ぐ必要は無いですよね…?」
(カチャン、カチャン!)
と、そこでワダがやっと担いでいた自転車の鍵を解錠。その間も五十代位の警官は黙々と自分の話を聞いてくれていました。
やがて自転車泥棒の疑いも晴れ、もう一度お爺さんの霊がいた方を見ましたが。もう何処へと消え去った後。それが逆に怖さを倍増させたのか、ワダは周囲を怪し気にキョロキョロと見回していて…
…って、また別の職質されるぞオイ…
「時間を取らせてしまって本当にすまない。これが私たちの仕事だから理解してほしい。そしてここから家が凄く遠いんだよね?道中、気をつけて帰るんだよ?」
「お気遣い、ありがとうございます。いえいえ、あんなの誰が見ても怪しいでしょうし…。お仕事頑張って下さいね」
…と、最後の簡単な挨拶を交わした直後。ずっと黙っていた年配の方の警官が、そこで初めて口を開きました。
「確か時効になったかな…?だからこれは単なる私の独り言だが、この近くに親子二人暮らしの男家族がいたんだ。しかし年配の父親が行方不明なのに捜索願いも出さず、その父の年金をずっと不正受給していた息子が逮捕された。近所では喧嘩の絶えない親子だったとか?それがある日を境に突然喧嘩の声が家からパタリと聞こえなくなったらしい。逮捕後も息子は黙秘を続け。結果、父親の死体が発見されなかったので殺人事件にはならず…。確かその老人は灰色のカーディガンを良く好んで着ていたとか…。そして″ここ″で君たち以外にも″ソレ″を見た人が沢山いるんだよ…。だから君たち。″ソレが見える″のなら、もうここへは近づかない方がいいよ…?」
「……。」
そうサラッと言ってパトカーに戻ったその年配警官。
初めて聞いたのか、若手警官の方は凄く驚いていた様子でした。
推察するに、ココでその息子に殺された老人は今も発見されず何処かに埋まっているという事でしょうか…?時効…って、更にもっと昔の話なら。下手したら世紀跨ぐかも?…は、無いか…
ただ自分やワダはあの警官に言われた通り、その周辺には一切近寄らなくなりました。この世に未練を残せし、幽霊と化してしまった老人。
リアルな話、実の息子に殺されたか遺棄された、その本人だったのでしょうか?その″無念は計り知れない″でしょう…。これについては確証は無く、予想しか出来ない話ですが…。と、今回はこれで終わりです。
完。




