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四十三ノ怪 闇夜の森

……zzZZ


(カタン、コトン…、カタン、コトン…)


『次はぁ〜終点〜、終点〜のぉ〜、借金地獄駅〜、借金地獄駅〜。停車の際は大量の借用書を〜ぃぇ〜、お金の借り過ぎに、ご注意下さぃ〜…ーー』


「……ん。あえ?ね…、寝てた?」


ここは人生最後の……いえ、ローカル電車のとある終点駅。

自分ケイジはある送別会で馬鹿みたいに飲んでしまい、電車の座席で魂が抜けた様に爆睡してしまいました。降りる予定だった駅を十ヵ所ほど乗り越してしまい、挙げ句に車内アナウンスは終点との事…

チラリ…と、見たスマホの時間は夜の十時過ぎ…。かなり飲んでしまったのか?頭の中は、まだまだグワングワンと回っている模様。


(プシュー…)


しばらくすると電車の片方のドアが開きました。乗り越したからには、来た路線を戻らなければ家に帰れません。しかも十駅も過ぎる間、自分は寝っぱなし状態。辿々しい足取りでホームへと降り。一応、肩から下げたショルダーバッグ内を確認しました。


「ホッ…。盗られた物は…………無いな…ぅえ…。良かった…ぉえ…」


終電前の電車内は、泥酔した人を狙ったスリや盗難事件が多発するのです。しかし、この日は運良く自分は何も盗られてはいませんでした。日頃の行いが良いから?うん、きっとそうだ。そうだと言って下さい…

しかし体調不良に気分は最悪。支離滅裂、頭痛地獄に借金地獄。ふらふら、ヨタヨタ、ヘナヘナ…と歩きながらリバース寸前。……おぇ〜……

一応横に置かれていたゴミ箱の上カバーを両手で外し、″寸前″どころかカウントダウンすら無く、口から波動砲を発射…。キュイーン…ごわぁあああ〜…


(キラキラキラキラ…)

※すいません、ごめんなさい…


それを目の当たりにした駅員さん。慌ててやって来て仕事も忙しい筈なのに、こんな相手にわざわざ背中を摩ってくれて…。ホントこんな情けないケチでセコイ酔っ払いに優しくしてくれてありがとう…

そして乗り過ごした旨を駅員さんに説明。「本当に大丈夫ですか?急いで戻られるなら、特に足元にお気を付けて…」と優しく言ってくれました……ぅぷっ


不適切な書き込みが多数。駅員さん、食事中の読者さん、本当にごめんなさい。…うぷっ…


「めーがーまーわーるぅー…」


普段、自分ケイジは酒を嗜む程度にしか飲みません。しかしこの日は仕事でお世話になったニタ先輩の最後の送別会。気持ち良くお別れしようと、トコトンまで付き合うと自分ケイジは決めていたのです。そしてその結果がコレ。コレが巷で言うところの『終電前の迷惑酔っ払い』ってヤツか?初体験だから何故かニッコリ……う″っ……


(キラキラキラキラキラキラ…)


「うふぅ…。ずっきり…。ぅ…」


すっきりと言えない時点ですっきりしてない事は明白…。そろそろ終電近く、横を通り過ぎる帰宅する方々の視線が痛い…


(も、もっと…、もっと…踏んだり蹴ったり、唾を吐き掛けたり、俺を蔑んだ目で見つめてくれぇ〜…はぁはぁはぁ…)


まさにご褒美…。すいません、嘘ついてました。

情けなくもリアルに赤っ恥を掻きながら一度トイレへと立ち寄り、うがいをしている前の鏡には、土色の顔をした自分が映し出されています…

やばい吐きすぎたか…?その後。電車を折り返しでリバースし、ゴミ箱でもリバースし、乗り換えた後はユラユラと電車に揺られ…うぅ…やっと目的の……箱…リバース…


『次はぁ〜闇金融駅〜、闇金融駅〜。現金お借りの際はトイチの利息がぁ〜…ぃぇ…、取り立て屋さんにぃ〜お気をつけてぇ…』


(カタン、コトン…、カタン、コトン……キキィ……プシュー…)


やっぱりヨタヨタと何か掴めるものを探しもって駅を降りた自分。

相も変わらず視界はグルグル、グラグラと…。ただ、さっきキラキラを出したお陰か、吐き気が少し落ち着いたのは幸い。それからホームに設置されている椅子で少し休み


「まーわるぅ〜、まーわるぅ〜よ、俺より、ちきゅ〜うがぁ〜まわりすぎるぅ〜…」


気持ち良く歌いながら椅子に座ってますが、時間的にも深夜前。もう周囲に誰もおらず、自分ケイジへ冷たい視線を贈ってくれるギャラリーはいませんでした…。残念。

やがてフラフラッと立ち上がり、そろそろ三半規管は大丈夫か?改札を抜け流れる様な自然体で、バス停の待ち人の後列に並びました。


(……………。)


「はっ、そうだった!?」


しかしこれは昔の癖。実はこのバス停は実家行きだったのです。酔い過ぎて訳も分からずココへやってきてしまいました。って、何であんなクソ父親に会いに行かなきゃならないんだ!?また金を無心されるぞ!?

あ、引っ越してもういなかったな。わははは…

そして自分が本当に降りなければならなかった駅はまだ二駅も先…。何かもう、お金を払ってまで再び電車に乗る気力はもうありませんでした…


「さ、酒を抜く為に歩くか…」


トボトボと。普段なら車で何気に通り過ぎる、鬱蒼とした木々が生茂るこの砂利道。ここから先は道が二手に分かれていて、左は住宅街への道。右は近道ですが、大きな公園で落ち葉が埋め尽くす薄気味悪い森の中。怖くて晩に通る勇気は無く選択肢から即除外。


「って、おいおい…、勘弁してくれよ…」


しかし線路に沿った住宅街への道は大掛かりな道路工事で通行止めになっています。しかもこのタイミングで雨まで降ってきてしまいました。や、やっぱり日頃の行いが悪いからなのか?…ご褒美だぁ…しくしく…


(ザー…)


「くそっ、何て日だ…」


傘は持ってないので、片手を傘代わりに。効果の程は聞かないで下さい。そして工事の看板の指示通りの道を小走りに進みます。

…分からない…。全く分からないぞ…。知らないんだよ、こんな道はっ!だって俺は普段から車のナビに頼ってばかりな一般中年オヤジだぞっ!

ん?…ってか大雑把だぞ、あの工事の案内看板!住宅街を進むと二手、更に二手と道がアミダの様に分かれていて何が何やら。何でこの複雑な道案内が矢印一つなんだよ!頼みのスマホは防水じゃないし、今は見れないしっ!しかも知らぬ間にすっごい豪雨になってきましたが何か!?


(ザザー!!)


「………行き止まり……って、ここは公園?あの不気味な森への別の入り口じゃないか……。何てこったいっ!!」


しかし迷いに迷い住宅を抜けて、出て来た場所は例の真っ暗な公園の森。でも、そこの大木の下なら雨宿りするのに充分事足ります。それに雨除けが有ればスマホも使えますし、取り敢えず手前の大木下へ移動。


「えっと現在地は…っと。へー、こうなってるのか…って、ここの住宅街は行き止まりばっかりの迷路だぞコレ!?すっごい雨降ってるし、頭痛いし…、スマホを見ながらでないと、とてもじゃないがこんなの抜けられないな…」


地元ではない全く知らない道。雨に濡れてしまうのでスマホを見ながら住宅街を進む事は不可能。改めて恐る恐る森の奥を見てみる自分…。大量に生えている大木のお陰で雨に濡れなくて済みそうです。しかし月明かりもなく、その先はまさに漆黒の闇。そして既にこれが怪奇現象の伏線だったのか…


「ここからなら、一気に抜けれるんだけど…。むちゃ怖いな…。だ、誰か先頭切って先に歩いてくれないかなぁ……って、ん??」


すると森の奥にある十字路で、自分の家の方に向かって歩いて行く人の姿が見えたのです。あまりに暗くて性別までは分かりませんが。しかしこのチャンス、見逃す手はないでしょう。だって自分ケイジは自他認める、ヘタレで超怖がり男なんですから。エッヘン。


「ラッキー、早歩きで追いかけよう…」


(スタコラサッサ、スタコラサッサ…)


まさに自分の大好きな他力本願。スマホの明かりを頼りに前進する自分。ザーザーと大きな雨音で先に歩いている人の足音は全く聞こえません。もちろん自分の足音も掻き消える程の豪雨。そして十字路に到着し、更にその人が行ったであろう先へと進み追い掛けます。


「確か…、こっちに行ったよな…?」


一体誰に聞いているのか?これは自分の恐怖心を紛らわす為の独り言。そして、進み、進んで、追いかけて〜。と、少し鼻歌。しかし一向にその人の背が視界に入る事はありませんでした…


「何処いった!?お、俺がストーカーとか思われたのか…?じゃあ、もしかすると若い女性?…だったら失礼な人だなぁ〜。はぁ…」


後を追い掛ける自分ケイジは気味悪がられたのでしょうか?そりゃあ、私はしがないオッサンですよ?けど、ちょっと斜め180度ズラして見れば、かなり男前に見えない事も無い…(180度だと反対に向くから見えないだろ!)


「あれは…、出口…か…?」


とか心の中で寂しく呟いている間に、出口前へと到着しました。遠目にも、その先は再び住宅街。降り頻る雨は落ち着く気配すら見せませんが、怖い森を抜け少し安心した自分はショルダーバッグに濡れたらダメなスマホを仕舞い込みます。そこでホッと一息、再び片手を傘代わりに走り出そうとしたまさにその時でした


(パキッ…)


「…?」


誰かが背後で、枝を踏んだ様な音がしたのです。それに対し濡れた衣服以上の寒気を感じた自分は、慌てて振り返り…


「!!!?」


「…あ、すいません…」


そこには恐らくあの道路工事で自分と同じ様に。ここを通り抜けようとしたであろう、若い男性が背後に立っていたのです。いつの間に!?


(びっくりしたぁ〜、幽霊かと思ったよ…)


「あ、いえいえ…。あなたも、あの工事で…ですよね?」


「は、はい、そうです…。勘弁してくれって感じですよ…」


『ははは…』


二人は恥ずかし気に微笑し合います。恐らく彼もこの道を通り抜けるのが凄く怖かったのでしょう。そして余程急いでるのか、片手をひょいと挨拶代わりで前に出し、自分ケイジより先に前へと進み出ました。


「すいません、じゃあお先に…」


「あ、はいはい…」


しかし自分を追い抜いた彼と出会った場所に、漆黒の森に薄っすらと全身が光る女性らしき存在が急にその姿を現したのです。見た感じは二十代位?ロングの黒髪に白っぽい服を着ていて。正確に言えば全身が少しぼやけており、自分ケイジの目にも″ソレ″がハッキリとは見えないのです…


「…え?」


ちょいっ!さっきの人っ!「ヘルプミー!」チラッと背後に振り返ると。既に先の男性は何処えやらと消え去り、もう見当たりません。

まぁ急いでいた様なので当然といえば当然ですが、しかし再び女性の方を見ると、救い?願い?何かを訴えかけているのか?そんな感じに、ゆっくりと此方へ真っ白な両手を伸ばしてきて…


(ーー!!?)


知らぬ間に自分はこの存在れいを認識し、シンクロしてしまったのでしょうか?闇に恐怖するのは人間の本質、準じて関連した存在れいを意識するのは必然的。よって、これは回避不能案件か!?

そして待った無し、彼女は明らかに此方へゆっくりと近づいて来ています。そうすると、残された選択肢は一つ…


「に、逃げぇーっ!!」


慌てて住宅街へ走り込む自分。振り返ると彼女は住宅街手前の森の中で立ち止まり、ジッと此方を見つめていました。何かで無念の死を遂げた彼女は、この森の念に縛られし地縛霊だったのか?


「……。」


しかし大雨で全身ずぶ濡れに。幽霊ソレを眺めている余裕なんて自分ケイジには全くありません。

まだまだ家まで距離があったので、フラフラと千鳥脚ながらも一生懸命に走り。やがて自宅の玄関先へと到着しました。しかしここに来ても背筋へ急な寒気が


(ゾワッ…)


「な、何っ!?」


振り返っても、そこには誰もいません…。しかし女性あれは一体何だったのか?身体に憑かれた時の、あの特有の重み等はありませんが…


(ガチャ…)


「……?」


夜遅くに帰ると既に家の中は真っ暗けっけ…。そう言えば真っ暗で門灯ついてなかったな…。いや、門灯だけじゃなくて…せめて通路ぐらいは灯りをつけておいてくれよマイハニー!!

…と、心の中で愚痴を叫ぶ自分ケイジ。取り敢えず怪奇現象の後で怖くて怖くて…、部屋や風呂の電気を明々と付け、大声で鼻歌を唄いながらシャワーを浴びました。起きてるのが自分一人で凄く怖いっ!でも、お湯をかぶっている最中に再び寒気が…


(ゾワゾワッ…)


ま、まさか、さっきの幽霊に憑かれていたのか!?


「……っいっ、くしゅんっ!!」


濡れ過ぎて?身体が冷えた所為で?嚔と共に鼻水も酷い!幽霊じゃなく、風邪が原因だった様です…

寒気の原因は雨、風呂から上り、トイレも済ませ…はぁ、やっと就寝。落ち着いた時間は既に日付が変わった深夜一時頃。疲れや風邪気味という事もあり自分ケイジは一瞬で夢の世界にいざなわれました。すると…


(ここは…)


その日の夢の中、侘しいオレンジ色の空に疎らな雲が流れています。そんな夕暮れ時に一人。何故かあの″幽霊を見た森の中″に一人で立つ自分ケイジがいました。

しかしそこは無音の世界。何気に目をやった視線の先、悲壮な顔で何かから必死に逃げる女性の姿が、彼女はまるで空気の様に自分をすり抜け、それを追うフードを被るパーカー姿の謎の男性も同じ様に通り過ぎていきました。

今の自分は無の様な存在。この謎の世界に干渉する事は叶いません。やがて彼女は遠くの方で腕を掴まれ転び、そこへ馬乗りになった男が、取り出した刃物か何かを頭上高く振り上げ一気に……


「!!!?」


(ガバッ!)


「はぁはぁはぁ…」


…と。その恐ろしいタイミングで自分は目を覚まし、半身ガバッと飛び起きました…

でも、確か怖くて部屋の灯りはつけていた筈なのに、今は真っ暗に。何故?あれ?消したかな…?しかし、この恐ろしい夢は″あの地縛霊″が助けてほしく、自分ケイジに見せたのかも?…と、思ったまさに次の瞬間…


(ガガッ!)


真横で自分腕をグッと掴み、血塗れになりながら倒れているその女性ひとの姿が!!


「ひぁっ!?」


(ガバッ!…テイク2…)


再び飛び起きた自分ケイジ。ドキドキドキドキ…激しい不整脈!?身体は鉛の様に重い。

やっぱり取り憑かれてしまったのでしょうか?しかも、今はもう朝?雀たちがチュンチュン、楽しそうに屋外で囀っています。


「ズズ…」


いや、″憑かれたんじゃなくて、疲れたんじゃないのか…?″

鼻水を啜り再び横になる自分。週末の送別会だったので今日はお休みです。しかし先の幽霊といい、さっき見た夢といい。彼女は未だ自分の死を受け入れず、シンクロしてきた自分へ救いを求めに来ているのでしょうか?


ただあの森の前を通る機会があり、入り口で此方へ向いてる彼女の足らしきものが薄っすら見える事がありました。やはり気になって見てしまう所為か…?

実はネットでこの公園で起きた事件を色々と調べましたが、女性が関係する事件等の記事は一切掲載されていないのです。犯人らしき人物はジーンズに灰色のパーカーでフードを深く被った人物…。だから顔はハッキリと分かりません。同様に、被害者らしき女性の顔もぼやけていて…

これは自分の恐怖する心が生み出した勝手なビジョンなのでしょうか?もしくは本当に実在する事件なのか?ひょっとすると未解決事件なのかもしれませんが…。もしそうなら、その死体はあの薄気味悪い広大な森の中で今もずっと発見されるのを待っているのかもしれませんね…




完。

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