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二十一ノ怪 怪音、足音旅館

これは自分ケイジが小学二年生くらいだったでしょうか?…な、頃のお話です。

母親はよく入院していた頃があり、その度に父親が仕事に行く車へ厄介者の自分が同乗させられる…って事が何回かありました。そんな中、初めて泊まる事になった、とある古びた旅館での恐怖体験なのですがーー




何度かココへ連れてこられた事がありますが、父親の仕事に同行させらる長く退屈な時間。ここは京都の天橋立。あの股のぞきで有名な場所でもあります。観光では無いので、そんな有名な場所へ連れて行ってもらった事は一度も無いですが…

そして自分は必ず朝から海の砂浜に一人置いてけ堀にされ、父が迎えに来る夕方頃まで時間を潰さなければなりませんでした。まぁ仕事という名目とは別、大人の生々しいドロドロな情事もあった様ですが…


「暇だなぁ…。まぁ、家でタメ兄といるよりマシか…」


はい、どうぞこの可愛い男の子を誘拐して下さい…と言わんばかり。天橋立にある海水浴場で小学生が一人放置状態。冬は釣り道具が有り、夏は海水浴。今回は後者であり、日焼け止めクリームすら無く、顔や体は真っ赤、真っ黒くろ助。あれだけ放置されていて、よく北◯鮮スパイに拉致られなかったのが不思議なくらいだ、うん。

すると投げて遊んでいたビーチボールを拾おうと屈んだ瞬間


(ビリッ)


「あああっ!!」


まだ朝の時間帯。物凄い音と共に自分の短パンが縦に一直線、縫い目から思いっ切り裂けてしまいました。まさにストリー◯ングまっしぐら。

基本的に自分の衣服は全て兄弟からのお下がりで、長年に渡り使用され劣化していた部分がとうとう限界を迎えたという事でしょう…


「どうしよう…。どうしようどうしようどうしよう……」


自分の着替えは、何処へと消え去った父親の運転する車のトランク中。しかも迎えが来るのは空がオレンジ色になる夕暮れ時。この状態のままだと海で泳ぎっぱなしになるか、砂浜で尻を下に仰向けで寝っぱなしになるか、もしくは半永久的に三角座り。いや、気味悪って…


「トイレで大するには便利だけど…。はぁ…、仕方ない…。寝ようかな…」


雲一つ無い空、容赦無く照り付ける太陽。自分が寝ている砂地は、下手すれば一瞬で目玉焼きが出来上がる程の熱砂です。仕方無くそこへ人型の穴を掘り、試しに中へ入ってみると


「おお、快適、快適」


うーん、これは新発見。その上、身体に砂を掛け完全武装。もう誰も俺の睡眠は妨げられない!とかは言わず、すんなり寝ました。


「スー、スー…」


「……。」


…やがて。


「……冷たっ!?」


水嵩が増し、冷たい海水が足元を攻撃。

慌てて目を覚まし周囲を見渡したら潮が満ちて来ており、更に足下に置いてあったビーチボールは、何処かへと流されてしまっていました…。オーマイガッ…


「やばい、怒られるよ…」


しかし無常にも空はオレンジ色に。そして言ってるそばから父が迎えに来ました。やばい、どうしよう…


「おー、遊んだか?行くぞー」


「……。」


「ケイジ…。お前、何でケツ抑えてんだ?」


鋭い質問。取り敢えず父に短パンのお尻の部分が裂けて泳げなかったと言ったら大笑いされ、ついでにビーチボールの件も言ったら気にもしていない様子でした。良かった、良かった。


「あははは、今度来る事があったら予備持っとけよ?あははは…」


「……。」


それに対し黙って頷きましたが、また今度とか…。本当はココに来たくないのです…。朝から夕方まで、暇で暇で仕方がないし…。しかも父が迎えに来る頃、この浜辺は自分以外誰一人としていなくなるのですよ?こんな可愛い子供をほっといて、仕舞いにゃ警察来るぞ…?


「さぁ、さっさと行くぞ」


…と、どの口がそれを言う?はぁ…。もう、いいか…

…で、父に連れられ。とある旅館へと到着しました。ここは初めて見る旅館です。結構彼方此方が酷く傷んでいて欠陥住宅か老朽化の手本みたいな建物ですね…。そして中へ入ろうとした、まさにその瞬間


(あれ…?)


ゾワッ…と背筋に異様な違和感を感じた自分。そして、何気に旅館の二階の窓を見てみると…


(女の人?)


そこには自分の母親くらいの年齢でしょうか?女性が何故か此方をジッと見ていたのです。そして父は自分の手を取り、強引に旅館の中へと引っ張って行かれ…


「何ボーっとしてるんや。俺は疲れてるんやぞ?サッサと来んかいっ、面倒かけんなっ」


「うん…」


この父親おとこ自分けいじは、本当に血が繋がってるのか?扱いが雑っ!


(はぁ、こんな事に慣れてる自分って…)


そして旅館の中に入り出迎えてくれたのは、かなり年配の老婆でした。一瞬ですがその人の足下に『チラッ』…と、もう一人の影が見えた気がしたのですが…


(あ、あれ?気のせいかな…?)


この状況から、お察しの通り『″ここにも″』いるのか?もしかすると、いつもの霊的ご挨拶か…?

取り敢えず案内されたのは外から女性が見えた、あの部屋だったのです。


(ゾッ…)


少し悪寒を感じましたが、中は綺麗さっぱり整理整頓されており無人でした…


(さっきの女性ひとは一体どこへ…?)


二階へは細い一つ階段のみで、一切その女性とすれ違ったりしていません。だから納得いかず首を傾げていたら、急に父が自分ケイジの手を引き浴場へと連れて行かれました。要は海水浴で汚れている身体を洗え…って事でしょう。だから体を洗いました。洗いましたよ?しかし、痛い、痛い。皮膚は全身真っ赤っけケロイド状態です。そんな中、横で石原裕◯郎の歌を歌う父…


「しのびあう〜恋を〜…。つつむ夜霧よ〜、ホニャララ、ラララァ〜。夜霧ぃ〜、夜霧ぃ〜…」


古いし所々歌詞ごまかしてるし。

身体の痛みと色々な心の痛み、その酷い歌声が響いてくる鼓膜の痛みで拷問されてる感じがしましたが。

風呂に入るとやたらと血流が良くなった全身を巡ります。


(オー、ノォー、ヨーコー…)


と、そんな事は言ってないですが。やがて気分スッキリ、肌がヒリヒリと、そんなこんなで。あの妖しい部屋へと戻りました。

ふと、窓から見た外はもう真っ暗なっていました。すると父が本人の白パンツと自分ケイジの穴空き海水パンツをいつの間にか手洗いしていて、窓の外に干していました。


(頼むから、頼むから…。そのパンツの穴を建物側に向けて干して下さい…)


そんな心の叫びは当然無視。穴が外向きに晒し者になった我が海水パンツ、酷い…。しかもソレを持って帰ってどうします?縫って、またソレを自分に履かす気ですか?ソレを…はぁ、はぁ、はぁ…何か興奮してきました。

…と、取り敢えず綺麗に父親の白パンツと並んでソレは窓の外で風に靡いていますが、その後


「ケイジ、ちょっとタバコが切れや。買いに行ってくるから先に寝とけよ」


…と。自分はまたまた放置され、一人この部屋に取り残される事になってしまいました。しかもクーラーは無く扇風機のみ。挙げ句、骨董品並みのソレはカタカタガタカタカタと不気味な音をたてて……むっちゃ怖い。


「この部屋、何か怖いんだけど…」


あまりに怖いのでテレビを見ようとしましたが…


(有料や、ないかーいっ!)


金を持って無いし、また心の中で叫んでいました。

…ですが。まさに、そのタイミングで…


『ヒタ…、ヒタ…、ヒタ…』


そんな足音が自分の耳へと聞こえてきたのです。裸足で歩く様な音?自分は慌てて周囲を見回しますが、もちろんこの部屋に誰もいません。ですがまた…


『ヒタ…、ヒタ…、ヒタ…』


ある一定間隔で、誰かが部屋を歩いてる様な音が聞こえてくるのです。明らかに廊下側ではなく、この部屋の中で聞こえてきました。

恐怖を感じた自分はすぐさま布団へと潜り込み、丸くなって父の帰りをまだかまだかと待ち続ける事に。

やがて…


「ふぅ、流石田舎やなぁ。近くにタバコ売ってる店あらへんがなぁ…。もう疲れた、今日はさっさと寝よか」


そう、ふてくされた台詞を吐きながら父が帰ってきました。さっきまで布団に潜っていた自分は、真夏という事もあり、汗塗れになりながら父に体験した怪奇現象の事を説明します。ですが…


「アホな事を言うてんと、さったと寝ろ!俺は眠いんやっ!」


と言って話を聞く気も無く電気を真っ暗に。父はさっさと寝てしまいました…


(ぐごー、ぐごー…)


「…!?」


恐らく某アニメの、の◯太より早く寝てしまった父。もはやギネス級の新記録だ。こんな感じ、完全に先を越されてしまいました。


(怖いょ…怖いょ…)


こんな時、人間は逆に目が覚めて眠れなくなるものなのです…。何故か足音は止んでいましたが。再び布団に包まった自分は必死に寝ようとして


(…暑い…)


(羊が…ー匹)


(暑い、暑い…)


(羊が……ーー匹)


(暑い、暑い、熱いっ…)


あまりの暑さに少し息継ぎ…と。そこで、芋虫状態の布団を小さく開けた自分の視界に月夜の光に照らされた畳上で…


「…誰?」


静かに部屋中を歩く時きまわる女性らしき人の素足が見えたのです。しかも見た感じ透けており、横に寝ている父親の姿がその背後に透けて見えてて…


(…っ!?)


はい、間違いありません。確実に何かの霊でした。


既に頭はパニック状態。再び自分たちの周囲をその足がゆっくりと歩き回っていましたが、何をする訳でもなく、ただ『ヒタ、ヒタ、ヒタ…』と…


(怖い怖い怖い怖い怖い……)


死に物狂い?必死に?頑張って寝ようとする自分。どれだけ時が流れたでしょうか?しかし足音は止む事を知りません。

ですが、自分は長時間布団に潜っていた所為で…


「コホッ…」


ヤバイと思うよりも先に埃で?咳をしてしまったのです。するとそれに合わせ、あの悍しい足音がピタリと止み…


(…あれ?)


ひょっとして咳払いに驚いて幽霊は何処か遠くに逃げてしまったんでしょうか?その状態で十分ほど待ち、ソーっと布団の隙間から外を覗くと…


『ばぁ…?』


言葉では無く息が止まってる感じ?

ホケーっと口を開けながら、まるで屍の様な真っ白の顔をした女性が畳に寝そべり、素の表情で此方をボーッと眺めていたのです…


「いゃああああっ!!!」


ーー


……っと、そこで自分は目を覚ましました…。…あれは夢か現実か?いつの間に寝てしまったのか?

まるで風呂から出たての様に身体中から汗がダラダラと流れ落ち、心臓は素早く叩く太鼓みたくバクバクと高鳴ったままで…


「…いくらなんでも、アレはないでしょ…」


そこで不機嫌な父親の声が横から聞こえてきて。後を追う様に意識がハッキリとしてきました。気付けば外は明るく、既に朝食前の時間になっていました。


「あ、あれは一体…」


あまりに汗だくだった為、自分はもう一度朝風呂に入らせてもらう事にしました。クーラーが無い旅館も問題がありますが…。そして夜中の出来事が何だったのかわからないまま、宿で出された朝食を食べ、次は帰宅の準備に取り掛かりました。


「……。」


しかし部屋にいても。もう、あの謎の足音は聞こえません。もう明るいから?


「ケイジ、いくぞっ」


「うん…」


宿の女将にお別れの挨拶とばかりに頭を下げ、足取り重く旅館の外へ出ましたが。その自分が見た幽霊はどことなく、ここの女将に似ていた気がします。もしかすると娘さんか親戚の方なのかもしれません…。そして、何気にもう一度見た二階の窓には…


(あ…)


自分の穴空き海パンと父親の白パンが干されたままで。その奥に、あの女性がずっと此方を見ている姿が見えました…。それが何かダブルで迷惑を掛けている気がして…


(夢じゃなかった…?でも、ごめんね…幽霊さん…)


自分は父に干したパンツの事を黙ったまま車に乗り込みました。だって、いい加減新しいのが欲しかったし…。けど、自分が体験したあれは夢じゃなかったのです。どうせこんな話、父に言っても怒られるだけ、時間の無駄ですから言ってません。


すると車を運転しながらな、その帰り道。かなりの距離を走行した後で…


「あ!!!」


と、父親がいきなり


「ど、どうしたの?」


「パ、パンツ忘れたっ!!!」


ニヤリと笑う自分。生まれて初めて″してやったり″…と、父親に反撃出来た気がしました。そして再び自分は心の中で謝り…


(幽霊さん…。変なモノで外を見辛くしてごめんなさい…)


その後。数回、同じ様に天橋立に連れて行かれましたが、よほど恥ずかしかったのか。二度とその民宿へ連れて行かれる事はありませんでした…。…と言うのが今回のオチに。最後まで読んでいただきありがとうございました。(ぺこり)





完。

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