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〜異世メン〜  作者: マルージ
第三章 誇りの風が贈る[後編]
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木漏れ日のナイフ


「・・・それだけ?」

「うぅ・・・はい・・・」


アヤメは粛清騎士団を脅していた。あれだけ苛烈だった粛清騎士団の心を折っている。

簡単な所業ではない。粛清騎士団は並の拷問では決して口を割らないだろう。アヤメが何故口の堅い粛清騎士の口を割らせることが出来たかは、彼女のスキルに秘密が隠されていた。


【洗脳魔法Lv10】


スキルのレベルの上限は、魂の容量を食う。【恩寵スキル】の保持者はレベルの上限突破ができない為、必然的にスキルレベルは10を越えないのだ。

それでも、アヤメはこの【洗脳魔法】を巧みに操っていた。


「誰からの情報?」

「・・い・・・言えないッ!」


アヤメは寸分の迷いなく、脚の骨をへし折った。


「ぐぁぁあああぁぁぁあぁぁああああ!!」


痛みにもがく粛清騎士。

アヤメは【洗脳魔法】を断続的に使うことによって、【スキル】の使用を悟らせないようにしていた。【洗脳魔法】を使っていることがバレてしまうと、「これは洗脳魔法だ、耐えなければ」っという、洗脳魔法に耐える理由を与えてしまうのだ。脳に理由を与えると、意志の力に一つ支えがつく。そうなるとLv10程度では洗脳を押し切れないのだ。


「言え」

「くぅ・・・ぅ・・・」


加えて、【洗脳魔法】で重点的に刺激するのは、自白や屈服といった効果ではなく、『痛み』や『恐怖』をより強く感じるように仕向けるもの。敵への尋問はこの程度の効果で事足りる。


(人を人とも思わないこの力を、幾度となく使ってきた。誰かを利用し殺す事しか役立ててなかったこの力。今度はアタシの大切な人の為に振るう。例えアタシが地獄に落ちようと・・・)

「さぁ言え」

「・・・情報を伝えたのは・・・・ッ」


「俺だ!」


木の影から気さくな雰囲気で声をあげた男。


「ゼノス・・・」

「敵意ビンビンじゃねえか、アヤメちゃーん?」

「アンタはいつか裏切ると思ってたわ」


フラフラと姿を現したゼノス。

彼は以前イクオが粛清騎士団に捕まった時、イクオや四天王達と共に脱獄を企てた者。脱獄の細部の計画を立てたのは彼である。種族が人族でありながら魔族の味方をする変わり者であり、東の大陸の軍師として名が知れている。


「おいおい冗談キツイぜ。先に俺たちを裏切ったのはアンタだろ?」

「・・・」

「戻ってきてくれよ。アンタは『鷹の目』でも期待のルーキーだったじゃねえか。みんな待ってるぜ?」


不敵に笑いながらアヤメを勧誘する。

彼の出自や経歴は東の大陸で細部にわたり細かく記録されている。しかし、それは表の世界での話。彼の本当の素性は、裏の世界であろうと謎に包まれているのだ。


「ぬけぬけと。相変わらずよく回る舌ね。アンタは『アイツ』とかなり深く関わっている。アタシが裏切り者の汚名を着せられているのは『アイツ』の思惑だって知ってるでしょ?」

「魔王様を『アイツ』呼ばわりとは・・・恐れ入るぜ。()()は解けたみてえだな。その調子だと、魔王様のお遊びがあろうとなかろうと俺たちを裏切っただろ?同じことさ」


以前シンユエとの邂逅で耳にした『鷹の目』という組織。

彼らの口ぶりから、アヤメがその組織に入っていたことが推測される。シンユエ、ゼノスも同様である。そして、アヤメが洗脳によりその組織に入れさせられていたことも。


「そうね。アタシはどっちにしろアンタらを裏切ってた」

「足を洗うと?」

「いや?イクオもアタシも、もう立派な犯罪者だから。その汚名は背負って生きるよ」

「ギャハハッ!んじゃ話を戻そうか。アンタなんで俺が敵に回ると思ってたんだ?」

「胡散臭いから。それだけよ」


黒の外套からナイフを取り出した。木漏れ日の光がナイフに反射して、金属の鈍い光が輝く。

アヤメの目つきが鋭くなる。暗殺者だった頃の目つきだ。


「経験上アンタみたいな男は信用しないのよ」

「俺とやる気かい?」

「えぇ・・・」

(ゼノスが素直に姿を現したのは、(粛清騎士)からこれ以上情報を漏らさない為。そうでなければわざわざアタシの前に姿は現さないだろう。ゼノスが困るとすれば・・・)


「フッ!」

「シッ!」


両者は同時にナイフを投げる。奇麗な直線を描いてナイフは空中で衝突する。大きな金属音を響かせる。

刹那、投げられたナイフの極小の陰に隠れて、アヤメは外套に手を突っ込む。敵の視線の向きと凄まじい投擲の技量が無ければできない芸当だ。

外套から取り出したのは煙だま。


(今俺にとってマズいことは敵の情報源(粛清騎士)を持ち帰られること。分かってるさ、お前が煙幕張って情報源を連れて逃げることはな・・!)

「させるかよ」


弾かれたナイフで手元を隠そうと、ゼノスには煙だまを取り出す事は読まれていた。ゼノスが投擲したナイフは二つ。衝突して落ちたナイフの後ろから二本目のナイフがアヤメの腕を狙う。

貫かれはしなかったが、腕に傷を負って煙だまを落とした。


(煙だまはフェイク。本命をどこかに仕掛けているはず。どこだ?)


ゼノスはアヤメに目線を離さないまま、周囲を警戒する。

存外すぐに見つかった。それは、アヤメが最初に投げたナイフの柄にくくりつけられていた。


(閃光弾ッ!?)

「遅い!」


光が炸裂する。


(してやられた!後手に回るとアヤメちゃんには勝てねえな。先手を打っといてよかったぜ)


アヤメは粛清騎士を抱えた後、後ろに飛びのこうとした。

しかし、脚に糸が引っかかった感覚があった。罠を仕掛けられていた。


「チッ!」


上空から大量の矢の雨。男一人抱えた状態でこれを凌ぐことはできない。

アヤメは彼を見捨てた。矢の雨の下には粛清騎士一人が取り残された。


「あぐぁ・・あ・・・!」


おびただしい数の矢が背中に刺さる。即効性の毒矢だ。そうじゃなくても、そう時間もかからないうちに息を引取っただろう。

アヤメは舌打ちを最後に闇に消えた。


(咄嗟に左斜め後ろに跳ぶ癖、直ってなかったみたいだね。前もって罠を張っておいてよかった)

「・・・やっぱ正面からの駆け引きなら俺よりアヤメちゃんが得意だねぇ。俺は前持った準備が強いが、緊急時の対応力はアヤメちゃんには未だ敵わん」


へらへら笑いながら死体の処理にかかった。アヤメを逃したことに関して、ゼノスは特に何も感じてはいない。最初から逃す気でさえいたのだろう。

正面から読み合うような、騙し合う戦い。たった一手しか打ち合わなかったが、ゼノスは確かな手ごたえを感じていた。ただアヤメとじゃれ合いたかっただけなのだ。


(いたずらに遊んで飽きて捨てちまった事、魔王様はいつか後悔するかもな。アヤメちゃんならいつか本当に魔王様を・・・)

「・・・ま、有り得る話でもないな」



  ー・・・ー



「へぇーい!ズァオス師匠!こっちですよー!!」

「ッ・・・イクオか!」


援軍が走ってきた。先頭にはズァオス、そして後方には待機していた獣人族が大勢。

イクオはズァオスを出迎えた。


「【巨神道】は身に着けたな」

「ヘイ!」

「状況は」


イクオは現在司令塔として活躍していた。アリア、ピグ&サラを送り出した後、イクオは自陣に戻ってズァオス達を待っていた。

【仮契約】したピグの周りをウロチョロするのは危険すぎる。かといってゲオルグとアリアの戦いに混じってもイクオは足を引っ張るだけだ。実質イクオはこれしかやることが無かった。


「アヤメちゃんはどこ行ったか分からんが、通信機の連絡(イクオ製)が無い以上は問題ないみてーだ!問題はアリアと変態コンビ!」

「ヨンは?」

「・・・確認出来てねーです」

「そうか・・」


不安そうなそぶりは見せなかった。後ろに控えている部下たちに不安がる姿は見せられない。ズァオスは胸中で渦巻く感情を押し殺していた。

しかし、感情のキビを【演算魔法】で視認できるイクオにとっては、ズァオスの焦燥感などお見通しであった。


「感知能力に長けた俺が探します。ズァオス師匠はアリアと協力。他の皆はピグたちとは一定の距離を保ったまま粛清騎士たちを抑えてください。俺が運びます」

「・・・運ぶ?」


疑問を投げかけたズァオスにイクオはニヤリと笑った。


「俺には面白い技があるんすよ。試しに部下一人飛ばしますよ!」



  ー・・・ー



『ぜぇ・・・ぜぇ・・・』

「ブヒュ・・・ブヒュ・・・ブヒヒヒ」


粛清騎士十数名に囲まれているピグとサラ。

如何に耐久力が馬鹿になっているピグであろうと、粛清騎士多数を相手取るのは楽ではない。彼らは近衛騎士とは違う実戦のプロフェッショナル。個の実力が高い上、連携も隙が無い。

ピグは外傷はなくとも、体力を大きく消耗させられていた。


『わりい・・・師匠。ちょっと休む』

「ぬ・・マジか」


サラは【仮契約】を解いた。残存する魔力量がいい加減限界だったのだ。

霊体化して消えたサラを引き、今このエリアにピグ一人が取り残されていた。如何に無敵の耐久力を誇るピグでも、捕縛されてしまったら身動きが取れずに負けになる。


(どうしたもんかのう・・・逃げるのは簡単じゃが、こ奴らを野放しにするとアリア嬢の助太刀に行くじゃろう。流石にゲオルグ相手に粛清騎士多数を増やすのは悪手じゃ)

「・・・何とかワシ一人でこ奴らを抑えるしかなさそうじゃの」


ピグは構えた。

消費するスタミナを最低限に抑え、脱力した状態を保ち跳ね回る。数分しかかく乱できない苦肉の策だが、今はそれしかない。

ピグは動き出そうと身を乗り出した。その時。



「ぁぁぁぁあああぁあああああ!!??」



空から獣人族の男が降ってきた。

着弾。


「オオオおおおおおお!!?」

「ぬええええぇぇええ!!?!?」

「おわぁぁあああああ!!!」


次から次へと獣人族が遠方から飛来してくる。

援軍だ。それは間違いないのだが、その奇天烈な到着の仕方に、ピグは思わず噴き出した。


「まったく。イクオの奴め・・・。ワシの仕事は終いかの」


ふぅ、と大きな息をついた。

遠目からはズァオスと思わしき影が、叫びながらアリアのいる方角へ飛んでいくのが見えた。


アヤメの保持スキルです。

一つは秘密です。


【ナイフ術Lv10】

【隠密Lv10】

【器用Lv10】

【洗脳魔法Lv10】

【???・???Lv10】

【トーリマLv100】

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