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〜異世メン〜  作者: マルージ
第三章 誇りの風が贈る[後編]
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血肉の森を駆けろ!!


「・・・あそこ燃えてない?」

「ほんとーだ」


観客席にいるイクオたち五人(三人と二匹)は目を細めて遠くを凝視した。

明らかに火の手が上がっている。火を噴く魔物は確かに存在するが、それにしては妙な胸騒ぎがした。


「アリアさん、イクオさん。何か胸騒ぎがするって言ってなかった?」

「うん。まさにこんな感じ」

「感じるぜぇー?【演算魔法】で悪意をバリバリに感じるぜ」


いち早く原因を発見したのは、【巨神道】により視覚を強化したイクオだ。


「いたッ!!粛清騎士団だ!!」

「マズいのぅ」

「イクオ!ゲオルグ兄様は!?」

「ああ。間違えようもねー。この魔力、ゲオルグだッ!」

『最悪だァアア!!』


アリアはアヤメにアイコンタクト。

すぐさま意図を察知したアヤメは、一人だけ逆方向に走り出した。



「「「『「行くぞォ!!!」』」」」



全員が一斉に行動を開始した。アヤメは四天王を収集しに。他4人はアリアに続き『血肉の森』へと跳び込んだ。

打合せなど当然していない。全員が自分のすべきことが分かっているかのように、寸分の迷いなく行動に移した。


「着地は任せてもらおうかのぅ!!」

「任せたぜぇー!!」


イクオはピグを地面に蹴っ飛ばす。地面に到着したピグは全身に力を入れて、自身の弾力を極限にまで高める。地面に激突するはずのイクオとアリアは、順にピグの身体により衝撃を抑えられる。

跳ね返るように、イクオとアリアは再び上空に打ち上げられる。


『師匠ォオオオ!!』

「【仮契約】か!承知じゃわぃ!!」


サラの着陸と共に、二匹を中心に爆炎が巻き起こる。

爆発を背後にイクオとアリアが、ヒーローの登場シーンよろしく、颯爽と着地する。


「【魔力感知】【感知魔法】全開ッ!・・・捉えた!」

「北へ走れぇ―ぇええええ!!!」


地面を蹴るたびに風圧と轟音を携えて爆走するイクオ。

【固有スキル】を発動させ、周りを凍り付かせながら走るアリア。

サラの魔力を借りて、ジェット噴射で木を蹴散らし進むピグ。


スピーディーに、パワフルに、血肉の森を駆ける。


「ゲオルグ兄様には私が当たる」

「大丈夫・・・じゃないなアリア。今のお前でも勝てねーぞ?」

「分かってる。でも四天王が集結するまで誰かが時間を稼がないと」

「アリア嬢以外に任せられんのう・・・」


ゲオルグはたとえ血を分けた兄妹だろうと容赦はしない。歯向かうなら半殺しにされるだろう。

アリアはそれを承知で囮を買って出た。東の大陸の修行でアリアは以前とは比べ物にならないレベルで強くなっている。だとしてもゲオルグには遠く及ばない。


「大丈夫。必ず戻ってくる。それにイクオの件でも、私は兄様に一発入れないと気が済まないの!」

「た、頼もしすぎ・・・ッ!」

「じゃあワシらは粛清騎士共の撃破じゃ!」


イクオが大きく跳躍し、アリアたちの前に立つ。


「【震脚】ッ!!」


大きく足を踏み鳴らす。【震脚】は大地から大量の魔力を吸い上げる【気闘法】の技の一つ。脚力が強く、地脈の魔力を感知しやすいイクオにピッタリの技と言えよう。

地面から大量の魔力を吸収し、【気闘法】の構えをとった。


「足貸すぜマゾ豚とパンツ畜生!お前らなら先についても死なねーだろ!!」

「『助かるッ!』」

「私も飛ばしてイクオ!!」

「任せろぉー!!」


イクオ。ピグに向けて渾身の力で【跳躍蹴り】を放つ。


「おぅrrrらぁ【人力・豚キャノン】ッ!!!」

「ブヒヒヒヒヒイイイイイィィィィィ・・ィィ・・・・ィ・・・・・」

「次弾装填ッ!!」

「だぉrrrらっしゃい【人力・ロマン姫キャノン】ッ!!!」

「アハハハハハハハハハハぁぁぁぁぁ・・ぁぁ・・・・ぁ・・・・・」


ついでにアリアも吹っ飛ばす。

イクオは風向きや空気抵抗等々を正確に【演算】し、寸分の狂いなくアリアたちをすっ飛ばした。

ピグとサラは粛清騎士団のど真ん中。

アリアは・・・



「・・・愚妹が・・ようやく顔を見せたな」

「お久しぶりですゲオルグ兄様。私は祖国に牙を剝く所存です!」



ゲオルグの真正面だ。


「生き残ってくれよアリア!俺は他にやることがある!合流する前にくたばってくれるなよ!?」



  ー・・・ー



「インヤン師匠!!」

「ミヤガワ アヤメか。どうした」

「粛清騎士団による襲撃を受けました!既に出場者数人が怪我を負っています!!」


アヤメはズァオスに連絡を取った。

少なくとも四天王全員がそろうのは厳しいようだ。シェンマオの巨人族の村はここから遠く、片道に三日はかかる。インヤンも今から向かうには時間がまだまだ必要だ。


「チッ・・俺が向かう。ゲオルグはいま誰が対応してる」

「アリアさんです」

「意外だな。奴の祖国の兵だろ」

「いや・・・アリアさんは割とそういうの躊躇わないかと・・・」

「・・そうだな」


ズァオスは腰を上げた。

ザワザワと全身から毛が生えてくる。顏周りから鬣が生えていき、鼻が前に突き出て獅子の顔になっていく。体格も、気迫も、別人のように増していく。


「騎士公共を血祭りにあげてやれ!!野郎ども、行くぞォォォオオオオオオオオオ!!!」


ズァオスの方向と共に獣人たちは一斉に獣と化していく。毛を逆立たせ、牙を剥き、爪を光らせ、天に向かって雄々しく叫ぶ。



「「「「オオオオオォオォォォォォオオオオオオォォオォオオオ!!!!」」」」



土煙を上げながら一斉に走り出す獣人たち。獣人は全員で払い、もぬけの殻となった広場には、アヤメが取り残されていた。


「・・・きな臭い。さては『鷹の目』が・・・?」


アリアは今回の襲撃の裏に何かあるのではないかと踏んでいた。イクオとアリアが感じていた何者かの悪意は、どうやら粛清騎士団の気配とは別物に思えた。あれは殺気ではなく企みの気配だと。

裏で糸を引いているモノの気配を感じる。


「胡散臭い・・・ゼノス、聞いてんでしょ?」


返事は無い。

何の確証もない勘だった。言わばアヤメのカマかけだったわけが、空振りに終わったようだ。そもそもここにいなかったのか、はたまたアヤメの策に引っかからなかったのか。


(どっちでもいい事ね。アタシはアタシにしかできないことをやる)


アヤメは黒い外套を羽織り、建物の影に姿をくらました。北の大陸で怪盗まがいな泥棒ごっこをしていたイクオより、アヤメは圧倒的に暗躍が得意だ。


「ギャハッ・・・油断ならんぜアヤメちゃんよォ。危うくカマに引っかかるところだったぜ」



  ー・・・ー



「【偉大なる誓の十字(グランド・クロス)】ッ!」

「【定まらぬ氷盾(バリアブル・バリア)】ッ!!」


炸裂する光。

砕け散る氷。

ゲオルグの一撃を耐えるには、【固有スキル】一つでは些か無謀だった。

アリアは衝撃波で吹き飛ばされる。剣を地面に突き立て持ちこたえるが、ゲオルグはスピードにものを言わせ追いつく。


(ヤバい!地面に剣を刺したままじゃ!)

「フンッ!!」

「セイヤッ!」


アリアは咄嗟に剣を手放した。

そして体を捻るようにゲオルグの剣をスレスレでかわし、ボディに向けて。


「【鬼神拳】ッ!!」

「ぬ・・ッ!」


鎧を陥没させ、みぞおちにアリアの拳が深々と突き刺さる。

しかし、ゲオルグは吹き飛びすらしない。上手く体を後退させ衝撃を流したようだ。不意を突くような攻撃はイェレミエフ家には通用しずらい。勘が良すぎるからである。


「どうだ兄様!私も強くなってるんですよ!!」

「先ほどの咄嗟の判断はまぐれだろぅ?」

「うッ」

「偶然は強くなった証明にはならん。だが、我が気に食わないのはそこではない」


ゲオルグの瞳が鋭くなった。


「貴様。なぜ魔族の技を使っている」

「・・・魔族じゃなくて『華の民』ね」

「【スキル】による猿真似ではない。貴様は【気闘法】を習得している。穢れた魔族の穢れた技を」

「無視ですか」


辺りの気温が寒くなった気がした。

憎い魔族に向ける目だ。根絶やしにするまで止まらないというゲオルグの冷酷なる殺気。それがついにアリアに向いていた。


「魔族に教えを乞うたか愚か者・・・!貴様には仕置きが必要だと思ってたが生温い。死んで後悔するなよ!」

「ハァァ!?うるさい馬鹿兄!!」

「ば・・ッ!?」

「私だってその頭の固さはずっと前から気に食わなかったのよ!!」


今度はアリアから仕掛ける。

ゲオルグの技は恐ろしいほど多くの【スキル】を併用している。戦いながらコピーするアリアの戦い方では、コピーすべき【スキル】が多すぎるゲオルグには通用しない。

つまり、アリアは手持ちの武器でしか戦えない状態だ。だがそれはある意味都合がよかった。


「氷の鬼神拳【氷砕鉄】ッ!!」


インヤンの得意技【岩砕鉄】のアレンジ版。アリアの身体でも負荷を最低限抑えるように改良された新技。

オリジナルに比べて威力は落ちるものの、その神髄は付属効果にある。


(これはインヤンの複数回にわたる破壊の拳の技。かわすこと自体は問題ない。だがアリアのアレンジとなれば・・・)


ゲオルグは魔法障壁を身にまとってかわした。わざわざ防御と回避を同時に行ったのは、本人の勘であった。

その勘は当然のように当たっている。


「壱掌ッ!!!」

「ッ・・・!」


かわしたはずだが魔法障壁に多大なる負荷が感じ取れた。この攻撃は【氷皇魔法】が感じ取れる。それも凄まじい威力の凍結魔法だ。

ゲオルグは背後が銀世界になっているのを感じ取った。今自分の背後は全てが凍り付いている。


「手ごたえ無し!弐掌ッ!!」


再び放たれる凍土の拳。二発目もかわされたが、魔法障壁が吹き飛んだ。


(魔法勝負では流石に勝てんか。間に合わせの魔法障壁では太刀打ちできんな)

「だが、それがどうした。貴様の魔法なぞ、真正面からねじ伏せれる!」

「やってみてください!参掌ッ!!」


三発目。

この攻撃は避けようとダメージを負う。避けた上から凍結魔法が押し寄せ、身体は凍てつき体温や体力を大幅に奪う。避けた上に障壁を張らないと無傷では乗り越えられない技なのだ。

しかし、それは一般的な対処法での話。ゲオルグは避けない。


「ハアッ!!!」

「ッ!?」


ゲオルグはあろうことか、拳一つでアリアの【氷砕鉄】に挑んだのだ。ゲオルグの凄まじい膂力の乗った拳がアリアの拳と激突する。

負けたのはアリアだ。腕ごと後方に弾き飛ばされ、魔法による氷魔法の衝撃波は、ゲオルグの拳の風圧だけで押し返された。アリアの【氷皇魔法】ははじき返され、アリア自身に牙を剥いた。


「いったぁぁあああ!?さっむぅぅううう!!?」


腕がグシャグシャに骨折し、身体にも霜がつきだす。宣言通り、ゲオルグはアリアの大技の一つを、小細工無しでねじ伏せてみせた。


(骨折が何だ!寒いのが何だ!!)


アリアは歯を食いしばった。


(氷砕鉄が敗れる事なんて承知の上!デコイなんだから!)

「動け私の身体!!肆掌ッ!!」

「肆掌だと!?」


ゲオルグは四発目を想定していない。それはインヤンが研鑽に研鑽を重ねて至った境地。一年のちょっとやそっとでアリアが到達できる領域ではない。


「くッ!!」


ゲオルグは咄嗟に防御の体勢をとった。【氷砕鉄】をまともに食らったらどうなるか、イェレミエフ家の勘に頼るまでもなくわかる。

もし直撃すれば氷漬けにされた上で、超パワーでたたき割られる。絶対にまともに食らっては駄目な技だ。


(かかったッ!迂闊ね兄様!)

「フッ!」

(フェイント!?)


アリアは攻撃を寸止めでとどめた。

当然アリアは四発目など放てるわけがない。しかし騙されたゲオルグが見せた一瞬の隙。アリアは決して見過ごさない。



「これは! イクオの分だ!!!」



ゲオルグの眉間に拳が突き刺さる。



「ぐぅう・・・!!」



体勢を大きく逸らし、衝撃を腰で吸収する。吹き飛ばしはできなかったものの、間違いなく大きなダメージになった。

初めて、初めてゲオルグにまともな一撃を見舞うことが出来た。


「ざまぁ見ろ!これが華の力だ!!」


クシャクシャの腕で渾身のガッツポーズだ。

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