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〜異世メン〜  作者: マルージ
第三章 誇りの風が贈る[後編]
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久遠の華の贈り物


「逃げなきゃ・・逃げッにげげ・・」


疲労困憊。

三日の間、水以外は口に含んでいなかった。体力の限界が訪れるのが異様なほど早く感じた。当然気のせいなどではない。自身の身体には圧倒的に栄養が不足しており、身体に鞭打つための燃料が足りていない。

華の民に力を付けさせるために毎日料理を作っているヨンが、そのことは一番理解している。


「ゼェ・・・ゼェ・・・もう駄目・・・」


ヨンは倒れ込んだ。

目の前には魔物がよだれを垂らして獲物を見つめている。逃げ場も体力もない。絶体絶命とはこのことだった。


「き・・【気闘法】っ・・!」


なけなしの魔力を絞り出して【気闘法】を発動させる。効果は微々たるものだが、少しだけ自身の身体能力が上がった。

魔物が大きな口を開けて噛みついてくる。


(カミキリバナの牙は鋭く、噛みつかれたら確実に肉をちぎり取られるッ!防御特化の【獣神流】でも僕の気闘法じゃ耐えれない!)

「かわさないと・・ッ!!」


ヨンは何とかして嚙みつきを見切った。魔物の突撃はヨンの頬をかすめ、背後にあった大地の壁に激突した。


「あれ・・・ダメだ、これッ・・倒れる・・・・」


ヨンは倒れて気を失った。

魔物はゆっくりと振り向き、牙の照準をヨンに合わせる。あと4秒あればヨンの命を確実に奪える。


「グルッ・・ググ・・・」

「・・・・」


魔物は上を見上げ立ち止まった。先ほどの突進でぶつかった時の衝撃で、壁に埋まっていた大岩が崩れ落ちてきたのだ。

魔物はひらりとかわすが、その大岩は地面に突き刺さった。大岩を中心に亀裂が入る。今踏みしめている場所の直下は空洞になっていたのだ。


「グォォォォオオオオオ!!!」

「・・・」


大きな穴が開いてヨンと魔物は地下深くに落ちていった。



  ~・・・~



「うぅ~ん・・・」


陽光が上空の穴から差し込む。薄暗く辺りが見えにくい洞穴でヨンは目を覚ました。


「あれ・・生きてる・・・・」


確実に死を確信したような状況だった。自身が五体満足で生きていると確信するには些か時間がかかった。

水の上に浮かんでいる。どうやら洞穴に流れ込んだ地下水に助けられたようだ。


「・・・うわぁ!!?」


直ぐ真横では、魔物が鋭くとがった岩塊に貫かれ、息を引取っていた。

何の奇跡か、ヨンは大量の食糧を手に入れるに至ったのだ。これからの問題は、ここを脱出しなければならない事だった。



  ー観客席ー



「アリアさんは随分と熱心に見てるわね」

「ん?そうね。頑張ってるところは見ておかないと」

「ヨンは空腹で死にそうにしてたけど、今日はどんな感じ?」

「何だか魔物に追われてたみたい。途中から見失っちゃったんだけど、どこ行ったんだろう」


森が良く見渡せる高所から、一部始終を眺めていたアリア。大岩が崩壊して土埃を上げていたため、ヨンを見失ってしまった。それからというものヨンは見かけなかった。それもそのはず、彼は地下にいるのだから。

アヤメはちょくちょくと様子を見に来ている。イクオは訓練に向かったようだった。


「頑張って作った爆弾は不発だったみたいね」

「うわっ気の毒すぎる」


何だかんだ誑し込んでしまったことへの負い目なのか、アリアはヨンの雄姿を見届けようとしている。ヨンはこの成人式で、恐らくアリアに告白する。アリアはそれを振らないといけないのだ。


(ヨンの頑張っている姿を適当に見るわけにはいかないよねー)

「とは言ったモノの、今は何してるかわかんない。流石に【感知魔法】も【魔力感知】もこの距離じゃ届かないし」

「お、見てんなぁー?」


イクオがやってきた。そろそろ四天王達に課せられた修行プログラムが終わる。つまり、四天王最強の男リーバロンの手ほどきを受けるときが近づいてきたという訳だ。


「【気闘法】、大丈夫そう?」

「あぁ。ちょっと【獣神流】が苦手だが、それでも基礎は叩き込んだ。後は俺の手で発展、応用させるまでだ。【巨神道】に関しては、アリア、お前にも負けねーぜ?」

「アハハッ!寝言は寝て言いなよ」


「ハァ・・・ここは公共の場なんだから暴れないでほしいな」


※公共の場だから迷惑がかかる、という意味ではなく、ドンパチ始めたら華の民が興奮しだして、一帯が大乱闘ス〇ッシュ〇ラザーズと化すからである。


「ッ!!」

「あーぁ?」

「どうしたの?二人とも」

「・・・私は勘」

「俺は【演算魔法】。森から悪意を感じる」

「・・・二人が言うなら確定ね。何か厄介ごとが起こるみたいね」



  ~四日目~



旧人類の遺物が散らばっている。非常に高度そうな技術が詰め込まれた興味深い遺物たちだ。今が成人式でなければ持ち帰っていただろう。


「・・・出口が無いなぁ・・」


当てもなくさまよっている。結構な広さがあるモノの、一日中歩き回ればある程度の土地勘はつかめる。見たところ出口らしいところは見当たらなかった。

出れる場所があるとすれば、ヨンが落ちてきた縦穴をよじ登るくらいだが、流石にやる気にはなれなかった。


「・・・どうしようか。カミキリバナの肉は全部燻製にしちゃったし、成人式には別の獲物を用意しないと」


幸運なことに、魔物を仕留めたことによって食糧問題は解決された。


「・・・ッ!!これは・・」


問題はヨンがたどり着いたこの謎の地下施設。恐らくここは旧人類が暮らしていた何らかの施設。

しかし。この部屋には恐ろしいことが一点。壁、天井、床、そのいたるところに文章がつづられている。


「・・・東の旧人類語。最近勉強する機会が増えたから、ある程度読めるようにはなってるんだけど・・・読めるかな?」


こう言った場所は旧人類の研究所と言ったのが相場なのだが、どうもそうには見えなかった。地下にあるだだっ広い空間。大きさ的には縦60メートル、横40メートルとかなりの広さにわたる。

壁一面に描かれた文字と広さに目を瞑れば、他に変わった物はなかった。


「【究明者の差し出す右手(ハンド・イン・ハンド)】・・・・・・・壁の材質は解析できない物質。色々と混ぜ込まれた『合金』。だけどこの『合金』自体は見たことがある。これは極限にまで強度を高める為の・・・」

(もしかしてこの広い部屋全部の壁がこの合金でできている?なんて場所だ。まるで怪物でも閉じ込める為にあるみたいじゃないか)

「・・・ヒェ」


旧人類の技術力により作られた、ただただ強度を高める為の『合金』。新人類の時代のどの物質よりも高い強度を持っているだろう。そんなもので隔離されていた怪物が、ここにかつて暮らしていたのかもしれない。

そう考えると、被害妄想甚だしいヨンにはとても耐えられない想像だった。


「しかもこの文字、きっと素手で削ってる。旧人類の金属を素手で削るなんて。出ようと思えばすぐに出れたのだとすれば、隔離に意味はなかったのかもしれない・・・・考えるのやめよう。怖すぎる・・・」


ヨンは再び文字を読み始めた。

図形も含まれていたことから、何らかの技術や知識が記されているみたいだが、専門用語は残念ながら解読しきれない。

大まかな内容しかわからないが、それでも旧人類の知識には大いに興味がある。ヨンは燻製肉を片手に読み進めていった。



  ~五日目~



「・・・・あッ!」


丸々一日かけて読んでしまった。

成人式のことも忘れて没頭してしまうほどの内容がそこには記されていた。しかし、現在は成人式五日目。残りは今日も合わせて後三日しかない。


「じ・・・時間が無いッ!!?」


爆弾の製作や罠の設置も考えると、時間ギリギリでも間に合わないかもしれない。何しろ捕らえた獲物は持ち帰らなければならない。

三日ではあと一声時間が足らない。そもそもここから脱出する目処すら立っていないのだ。


「・・・ひとまずここから出ないと・・ッ!ええっと・・・」


視界不良の暗闇だが、ヨンは一生懸命に目を凝らす。ヨンの獣人の元となった魔物の特性もあり夜目は聞く方である。

ヨンは目を細くして辺りを見渡す。


「・・・ダメだ。一度スキルで見たけどやっぱり脱出口が見当たらない。そもそもここは隔離施設だから出ることに困難な造りなんだ」


自分が崩落に巻き込まれた縦穴から再びよじ登って脱出する以外の道は無い。

しかしこの縦穴、元々あった空間に穴をあけて繋げただけ。つまりは壺状になっているため、よじ登るのに絶望的に向いていない。


「・・・どうしよう。僕の力じゃ合金を破る事なんて絶対出来っこないし・・・」


途方に暮れてしまった。脱出できるビジョンがどうしても浮かばない。

イクオの跳躍力があれば、穴に向かってひとっ跳びで脱出できるのだが。


「はぁ・・・」


ヨンは尻もちをついた。手を地面に置いてくつろぐ体勢に入った。



この一つの尻もちが、ヨンの人生を大きく変えてしまうことになる。



「・・・?」


ヨンの右手のひらに何かが触れる。

手のひらに触れているのは何の変哲もないただの木の根。しかし、その時にヨンの【固有スキル】が突然発生したのだ。


「なッ!?えッ!?・・・うぅ・・・ッ!!」


強制的に発動されたスキルに魔力を大きく持っていかれる。解析する物質の魔力が大きければ大きい程消費魔力は大きい。ヨンは今まで感じたことのない魔力の消費に動揺する。

得られた情報はたったの一言。


【世界樹の根】


「・・・・・・・・・は?」


ヨンは根の繋がっている先へ一心不乱に走り出した。

世界樹の根は超合金の壁をぶち破り外につながっている。よく見れば人一人ギリギリ通れそうな穴になっていた。


「で・・出れるのかな・・・」


狭い。

身をくねらせじりじりと前へ進む。世界樹の根が続く先へと必死になって進む。脱出できるかもしれないという希望はあるが、それよりも世界樹が見れるかもしれないという期待の方が大きかった。

このことが事実なら、東の大陸には世界樹が二本あることになる。


「・・・うぐぐ・・・プはッ!!」


ヨンは抜け出した。

ちょっとした空間になっていて、日の光は差し込んでいなかったが、何故か明るかった。目の前には銀色の木が生えていた。北の大陸の世界樹に比べたら圧倒的に小さかった。一般的な木の大きさと何も変わらない。


「凄い・・・歯が銀色だ。日光を必要としてないんだ。葉緑体が無くて葉から緑色が消えてる!」


例えて言うならば、霞を食べて生きる木。仙樹とでも言えよう。


「でも何でここらは明るいんだ?」


ヨンは探索を始めてみる。と言っても木を中心にぐるりと回ってみるだけだ。それだけでこの空間の探索は終わってしまう。

見回ってみればすぐに分かった。


「・・ッ!実が生ってる!?【世界樹の実】だ!!」


白銀の葉をかき分けてみれば、金色に輝く世界樹の実が生っていた。


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