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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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それがイクオだ!

執行の騎士の必殺技を紙一重でかわしたのはいいものの、風圧等で空高く吹っ飛ばされたイクオ。

ヒュルヒュルと飛んで近くの時計塔にぶち当たる。壁を壊して中に入ってしまった。


「・・・・っ!!ぶっっははぁぁああええい!!!」


瓦礫に埋もれていたが直ぐにはねのけて起き上がる。が・・・・・・・・・


「ぐぶっ!っつぅ・・・ひゅっ・・・ひゅっ・・・」


ドサリと膝をつく。そして血を吐く。当然だが避けきれてはいない。多くの攻撃をもろに受けたが急所だけは避けたという感じだ。

身体のあちこちから血が流れ出る。服もボロボロで小突けば息絶えると思えるほどその姿は弱々しかった。


(血が足りない・・・。水分も欲しい。でも動けねーな。こりゃ下手に動いたら出血し過ぎて死ぬ・・・・。サラやーい、どこ行ったんだよー・・・・・・)


思考も止まる。演算魔法を酷使し過ぎたせいだ。演算魔法は集中力を使い過ぎる。戦闘が終わり、気を抜いてしまったら今まで前借りした集中力は全て自分に跳ね返ってくる。心の疲労として・・・。


もはやイクオには動くのは愚か、思考することすらままならなかった。



「ひゅっ・・・ひゅっ・・・ひゅっ・・・ひゅっ・・・」




カタリッ


(っ!?)


「どうもー。元気ですかー?」


突如目の前に現れたのは銀髪の少女だった。銀色の髪に金色の眼。珍しい組み合わせだ。動きやすい服でオシャレなどは考えられていない装いだったがそれでも美しいと言わせる魅力があった。


「貴方の戦いを見ていました。凄いですね。あんな実力差の相手に勝ってしまいました。もう感激でビックリしてしまいました。」


手にはタンコブが沢山引っ付いているサラがいた。死んだような目でグッタリしている。しかし驚く力もイクオには無い。


「あぁ。確かにそれじゃあ喋れませんね。ちょっと待ってて下さい」


少女は剣を抜く。そしてその剣を指揮棒のように振る。指揮棒のような剣には魔力が篭っていた。こちらも聖剣程ではないがマジックアイテムだ。


「【神聖魔法Lv58 ハイヒール】」


イクオの身体は光に包まれる。身体の傷がみるみる回復する。

全快では無いが命に別状はない程には回復した。


「あ・・・あり・・・が・・・・」


「あぁ!全然いいですよ!傷は塞がったけど失った血と精神の疲労までは流石に治せません。無理に動いたら後に響きます。今は安静に」


クルリと回って時計塔の壊れた壁の方に向かう。そして再びこちらを向き直る。朝日が昇っていて彼女の背後から強い光が差す。イクオは思わず目を細める。



「はじめまして。私はイェレミエフ公爵家の三女。アリア・イェレミエフ。貴方の勇姿に惹かれて此処に立ち寄りました」


イクオの傍に立ち寄る。


「さぁ。貴方の顔はどんな風になっているのですかね?」


削れてしまったマスクを外そうとする。イクオは慌てる。仮面が外されれば自らのスキルが発動してしまい、また多くの人を洗脳してしまう。


「だっ・・ダメだ!その仮面を外しては・・・」


「てい!」


「ア゛ッ!?」


もう誰も【イケメン】のスキルの犠牲にさせたくなかった。イクオは申し訳ないと強く思う。


「へぇーとってもブサイクね・・・ゴメンなさいね」



何とアリアは平気だった。【イケメンLv100】は自身のレベル未満を強制的に魅了に落とす。彼女はレベルが100以上なのか。イクオはこの世界で初めて自分の顔をまともに見てくれた人と出会った。


「!?こっ・・・この顔を見て何も起こらないのか!?」


「?えぇ。何も・・・・。あぁなるほど。確かにこれは凄いスキルですね」


「!? !? !?」


「ふふっ。私は【鑑定眼】というユニークスキルを持っているの。貴方のスキルは全てお見通しですよ?」


イクオの頭はついていけてなかった。今までこの世界で感じてきた常識が全て覆るような感覚。イクオはこの状況を・・・・・


「スッ スゲェェェエェエエエエ!!?!??」


大いに楽しんでいた。精神的疲労は吹っ飛び、楽しさで頭がいっぱいになった。この予想外の連続こそイクオがイケメンよりこの世界で求めていたもの


そう


「ロマンじゃねぇーーかぁーーー!!!」


「えっ?」


「ロマンだよロマン!!この颯爽と現れ、めちゃくちゃ強キャラ感を出して次々と俺の想像を超えた力を見せつけてくる!

うっはーー!俺さっきまで瀕死だったんだぜ!?それがもうこれだ!!こんなに元気になっちまった!!」


イクオは超興奮していた。イクオはアニメや漫画のいわゆるお決まりのネタが大好きなのだ。それをイクオは特にハッキリとした区別も無くロマンと呼んで楽しんでいる。

イクオからしてピンチの時に現れ命を助けてくれたアリアはイクオにとっては正しくロマンな存在だった。


「・・・・ロマンって?」


「ロマン!?いい質問だ!ロマンとはな、俺の故郷では昔、貴族達が楽してお金を稼ぎ、平民貧民は過酷な労働を課せられた。平民貧民がそんなブルジョワジー的な文化から逃げたいという意思により新たな芸術的観点を生み出した。それをロマンと言う!」


「ふ、ふん?」


「俺の生まれた時代になればロマンの解釈も流石に変わってくる。しっかりとした定義は確かにないかもしれない」


アリアは少し困惑していた。さっきまで瀕死だった男が急に元気になりだし、そしてロマンという言葉の意味を熱弁し始めた。しかしアリアは困惑以上にそのロマンという言葉に興味を持った。アリアは思う。



(何だろう。ロマンという言葉。何だか分からないけど私はこの言葉がどうしても私にとって遠い価値観じゃない気がする。それどころか私に今必要な感覚のような気がしてならない)



アリアはついさっき思った疑問をそのまま口に出した。


「ねぇ。ロマンを感じる時はどういう感じがするの?」


「・・・おっ、何か素の喋り方になってきたな?その方がいいぞ。俺は言いふらしたりしねーからバンバン使いな!うーんそうだなー」


素の喋り方を言いふらされ、評判を落とされるかもしれないというアリアが危惧していた事はないらしい。

アリアは自分がいつの間にか素の喋り方になっていたことに少し赤面し、そして安心して話を聞く。


「俺が主にロマンを感じる時はワクワクした時だ。超自然的な景色を見た時。雰囲気のいい部屋に来た時。夜の街を走り抜ける時。カッコイイ登場ができた時。カッコイイ登場をされた時。とにかくロマンというのを目の当たりにするとワクワクするんだ!」


身に覚えがあった。夜に一人で月光の差す廊下を歩く時。気まぐれでスラムの人々にご飯を分けた時。王子様が囚われの姫を助けるお話を読んだ時。アリアは確かにその感覚を知っていた。


「私はロマンを求めてたんだ・・・・・」


「・・・何か悩みがあるなら聞くぜ?ロマンを感じたいのか?」


「え?」


「さっきも言ったが。ロマンとは辛い労働から逃げたいという意思で生まれた。言っちゃあなんだが『現実逃避』の先に生まれたものだ。それがどうした。辛い人間にはロマンが必要だ」


「・・・・・・・・・」


「嫌じゃないなら聞くぜ?何しろ勇気をだして相談するシュチュエーションも、その相談役も、俺は体験したいロマンの一つだ」


「・・・・・分かったわ。言ってみる」



アリアは話した。政略結婚の話を。殿方は自分で見つけると言っていたのに勝手に結婚相手を決められた事。それが貴族として当然の義務であることも含めて、アリアは自分が置かれている状況と、自分が抱えている心境を包み隠さず話した。



「アリア。俺は貴族で生まれたことは無いから、お前がどんな気持ちでその問題に向き合っているかは分からないし、無責任に分かると言うことは出来ない。ただ言えることがある」


「・・・・何?」



「お前のその話だと、貴族としての力と権力を全て捨てればお前は『愛の自由』を手に入れれる」



「・・・・・・・・・ふぇえ???」


またしてもアリアはついていけなかった。当たり前だ。貴族として生まれたからには貴族として生きろとそう教育されてきた。アリアもそう思っていた。しかしこの男は生まれ持った力を捨てろと行ってきたのだ。そんな事、アリアは考えたこともなかった。


「確かに貴族として生まれた力を持ったまま、自由を手にするのはいけないかもしれない。力のある貴族が力の無い民を羨ましがるのは失礼以外何でもない」


イクオは分かりもしない貴族の世界をペラペラ喋り出す。

(確かに俺は貴族のしきたりは分からない。しかし道理の通っているか通ってないかの話なら俺にも出来る!)


「つまり地位を捨てて、貰った鎧や剣を返し、名前すら返上して、平民アリアとして生きていくのならお前は自由だ!!」


イクオは強く息を吸う。


「すぅーーーーっ アリアァ!!!」


「・・・え?あ!はい!?」



イクオは気合を入れる。恥ずかしい。告白みたいなものだ。でもイクオには耐えられなかった。目の前にロマンに飢えている人がいる。

イクオは確信していた。この女は貴族の世界が似合わないと。貴族の世界が肌に合っていないと。


イクオは手を差し伸べ・・・・・




「俺とこの国を出ようぜ」




「・・・・・・・・・っ!!!??」


「俺の戦いはロマンだったか?」


「・・・・・分からない・・・」


「そうか。なら俺がもっと凄いロマンを見せてやる。北の神聖王国だけじゃない。西も!東も!南も!

中央でさへ!全世界が震撼するような!そんなロマンを!!」



アリアはまだ困惑している。想像を超えた発想の連続にアリアは困惑し続けていた。それでも


アリアは確かに興奮していた。胸の高鳴りを確かに感じていた。恋ではない。でもこのシュチュエーションは見たことがあった。



イケメンな異国の王子様が、囚われの姫をさらい、どこか遠くの国へ行く話。陳腐な話だがアリアこの話が好きだった。


【イケメン】な異世界人の全身タイツが、(国の政策に)囚われている姫を、どこか遠くの国へ連れて行ってくれる。全然陳腐ではないけどアリアは今までにない感動を肌で全身に感じた。

どこかで見たことがあるお決まりのネタ(シチュエーション)だ。



アリアはそっと・・・・・では無くガシッと強く掴んだ。

イクオは鼻を擦って照れたように笑う。アリアは嬉しそうに笑う。



「へへへっ!」


「ふふふっ!」



朝焼け・・・と言うにはもう日は昇ってしまっているが陽の光に照らされ、二人の心は一つの感動を強く共有した。


「アリア。俺はお前を必ずさらいに行く。いつ行けばいい?」


アリアは名前を呼ぼうとする。しかしそう言えば名前を聞いていなかった。


「名前・・・聞いてなかったね」


「・・・部沢 郁男。性がイクオで名前がブサワだ!」


「ブサワ イクオ・・・・・・。変な名前ね!

それじゃあ、イクオ!!」


「おう!!」


アリアはキリッとイクオの目を見る。ほんの少しの間だが、アリアはイクオを強く信頼していた。この二人のウマの合いよう、反りの合いようは異常だ。異常で最高だ。


「1ヶ月後、私のオペラの発表会がある。その時、私とレチタティーヴォの結婚式が上がる。この発表会にはこの国のトップである教皇様を初め、お父様やお母様と言ったこの国の重鎮が多く集まるわ!当然騎士の数も質も凄い事になる!!」


じっと見つめ合う。お互いの決意を確かめ合うように。アリアは請う。否、挑戦する。



「私をっ・・・・・さらって見せて!!!」


「おぅ!!!」



「深夜帯には此処に居るわ!聞きたいこと知りたいことがあるなら何でも聞きに来て!!」


「あぁー!!」


「それじゃあ!!」



アリアは時計塔の壊れた壁の穴からヒラリと飛び降りる。跳躍で滑走する訳でもなく、土煙も上げずに着地し走り出す。

その姿を見てイクオは固く決意する。


「ゼッテーにアリアを奪ってやる。レチタティーヴォ・アルハンゲルスキー!また戦うことになるだろうな。今度は逃げねぇ!正面からてめーを負かす!!」


時計塔から飛び降りる。

(血が足りない?知るか!精神の疲労?それも知らん!今俺は走りてーんだ!ロマンを感じてるからな!ワクワクして身体のうずきが止まらねーんだよ!)


【跳躍】【跳躍】【跳躍】【跳躍】【跳躍】【跳躍】

【跳躍】【跳躍】【跳躍】【跳躍】【跳躍】【跳躍】



「ヒィィイイイ ヤッ ホォォォオオオオウ!!!」



美しい姫と違って全身タイツの飛び降り方は泥臭い?



それがイクオだ!





サラ『あのー?』



遂に主人公とヒロインが出会いましたね。今はイクオとアリアの関係はこんな感じ。だんだん進んでいくし、お互いがお互いに対する感じ方もまた変化していきます。



(実はアリアは元々清楚系の性格にしようとしてました。  どうしてこうなった)

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