表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜異世メン〜  作者: マルージ
第三章 誇りの風が贈る[後編]
69/74

ヨンの孤独の戦い

新章開幕!

前回はちょっと展開がグダっていたので、今回はスピーディーにテンポよく行きたいですね。前編に比べて内容は濃くなる予定ですが、何とか頑張ってまとめていきたいです。



獣人族の村。灼熱の時!


「ウオォォオオオオオオオオオオオ!!!」

「ぐがぁぁぁあああああああああっ!!!」

「アァァオォォオオオオオオンンッ!!!」


既に獣化を済ませた獣人のオスたちが、我こそは王者であると示すがごとく、高々と雄たけびを上げた。

東の大陸を探して、これ程にまで熱狂的なイベントは少ないであろう。


【獣人族の成人式】


それは年に一度行われる獣人族の狩猟祭。

大物を狩った者は多くのメスを想うがままにできるのだ。そう、獣人族は一夫多妻制だった!


「モテるぞォォォオオオオオオオオオオ!!!」


「凄い気迫だーぁ!」

「ヨン。大丈夫?」

「え、えへへ・・・全然」


周りの獣人たちの気迫に呆気を取られるヨン。

もう既に尻込みしているのだが、今回ばかりは仮病で休むことはできない。何故なら・・・



(僕は・・・今回の成人式で、アリアさんを惚れさせてみせるッ!!)



初恋の相手であるアリアが見ているからである。

惚れた女の人に自分のカッコいいところを見てもらいたい。今回ばかりは戦いが嫌いなヨンでも重い腰を上げざるを得なかったのだ。

初恋に浮かれた恋愛初心者のヨンでも流石に見ればわかる。アリアは自分からアタックしないと見向きもしてはくれないだろう、と!


「ヨン・・・」

「お父ちゃん!!」

「・・・正直お前がここまで修行を頑張るとは思ってもみなかった」

「え」

「お前がやる気を出してくれた。その事実だけでも、ミヤガワ アヤメ含む奴らを俺の家に招いた甲斐があったというものだ」


ズァオスは相変わらず難しい顔をしている。彼の愛情は空回りをする。なんだかんだコミュ障なのはヨンとの血のつながりを感じる。

厳しい修行はヨンへの愛情の裏返しなのだ。それがヨンを戦い嫌いにさせた一助になってしまった。


「・・・『血濡れの娘』を惚れさせて来い」

「うん・・・ッ!」


ヨンは会場に歩き出した。

イクオたちは見学席へ向かう。別れ際にイクオたちは声をあげた。


「ヨォーンッ!!頑張って来いよぉー!!」

「頑張れぇぇぇええ!!」

『モテモテになって帰ってこぉおい!そして美女のパンティーを俺に献上しろよぉぉおお!!』

「辛かった修行を思い出すんじゃぞッ!!そして悦べば活力が湧いてくるぞぉおおい!!」


「ヨーン頑張ってねぇーーーーッ!!」


「アリアさん・・・皆・・・ッ!!」


全員が手を振って応援しくれている。修行が開始され早一年。イクオのタドタドしかった東言語も、今ではすっかり流暢になるまで時は流れていた。

長く暮らしを共にした仲間たちからの応援は何よりもうれしかった。そして何よりあそこにはアリアがいる。


「頑張る・・・頑張るぞ・・・ッ!!」


獣人族のプロポーズは、成立されれば即結婚。婚姻の儀など無く、即効成立の電撃結婚文化。強いて言うなれば個人のコミュニティで宴があるくらいである。

つまり、この成人式を乗り越え、アリアの了承を得ることが出来たなら、夢の夫婦生活へ一直線である。

目から炎が燃える。アリアの心をキャッチするべく、ヨンは会場に歩みを進めた。



  ー観客席ー



「気づいてるんでしょアリアさん」

「え、何が?」

「とぼけないで下さいよ。ヨンがアリアさんに惚れてる事よ」

「え、あ~アハハ・・・・」


バツが悪そうな返事だ。勘が鋭すぎるアリアだ。ヒロインの癖に全然鈍感じゃないのだ。

アリアは正直困っていた。レチタティーヴォと同じ感じだ。自分はもっと旅をしたいから告白されたとしてもアリアは振るだろう。いわばヨンが一緒に旅に出るなんて暴挙に出ない限り、ヨンの願いは叶わないのだ。


「アリアさんのことだからどうせ振るんでしょ?期待させるだけさせといてズルズルここまで来てしまったのは、ヨンだけの責任じゃない。その事は分かってるよね?」

「うぅぅ・・・」

「早いうちに振っときなさいって何度も言ったじゃない」

「でも・・ちょっと可哀そうだし」

「ワッハッハ!!!妬くぜヨン!俺はアリアに可哀そうって思われたこと一回もないってのによ!!」

『可哀そぉー・・・』

「なんて言うか、イクオは別に擁護するような相手じゃないもん。何かヨンはほっとけないんだよね」

「あーわかるわ。俺とは違うそそっかしさだよな」

『そそっかしいの自覚してるんかい』


あんだけボロボロになっといて全然心配されてないイクオぇ

なんだかんだ言ってアリアは自分が人たらしのすけこましであることを自覚している。基本的には善良なアリアは、そう言ったことに後ろめたさを感じることもある。


「傷にならないうちに振っときなさいよ!」

「・・・うん・・わかった・・・」

(よしッ!)


「ヨンが告白してきたら振る!!」


「ちがあああう!!」

「告白を待つスタイルはヘタレた()の理論だぜ・・・」

「てか一年たった今じゃ今更じゃろう」


尚、この告白云々の話が、後々大きな事態を巻き起こすことになってしまう。

非常に情けなく、非常に救いのない事態を・・・






簡単ルール説明

・一週間にわたるサバイバル!当然のように食料等々は現地調達。

・自分がこれだと思う大物を狩り、それを持ち帰ることでその時点で終了することが出来る。しかし、大物を献上した時点で記録され、再び狩りに出ることは許されない。

・大物を狩ったが納得できなかった場合、献上せずにサバイバルを続行できる。しかし規定時間内に献上できなければ記録なしで失格となる!


「簡単なルールじゃ。じゃが過酷じゃの」

「俺が【セカンドルーツ】でさまよってた森だな。一週間近くあそこには世話になったが、とにかく食うものに困る。かなりの難易度だ」

「魔物のレベルも高いから人族の間では立ち入り禁止区域に指定されてるわ。ほんとよく生き残ったわねイクオさん」

「・・・皮肉にも【恩寵スキル】のお陰だ。大量の魔力を持ったハートに代わってなければ、俺は死んでたと思う」


獣人族の成人式の舞台は、東の大陸屈指の危険地帯。『血肉の森』

魔物や動物のレベルアベレージが40~50を超える領域。肥沃な大地で育った果実は多くの獣を呼び寄せ、匂いにつられた肉食獣たちが我こそはとテリトリーを張っている。

果実や肉にありつこうと思えば、凶悪な猛獣との戦闘は避けられない。戦えるものしか生き残れない過酷な大地である。


今まさに開始の合図は鳴り響いた。これから一週間。獣人たちの人生をかけた大勝負が始まった。



  ~一日目~



「ひぃ~やぁぁぁああああああああ!!!!」


「あぁー」

「あぁ」

『あーぁ』

「あちゃ~」

「ありゃ」

「・・・・ッ」


別に強くもない魔物に必死の形相で逃げるヨンに、イクオたちは頭を抱えた。ズァオスが後方で怒り爆発寸前なのがかなり気になる。


「ダメだったわね・・・いや、薄々気づいてはいたんだけど」

「あの魔物はここの食物連鎖の底辺だぞー?大丈夫かーぁ?」


この試合。実はパッと大物を狩ってパッと試合に抜けるのが必勝法である。

というのも基本的にベストコンディションは初日だからだ。日数が立てば体力が消耗され、実力を発揮できなくなるからである。

加えて大物を狩って欲をかいて献上せずに森に残ってしまった場合、狩った大物が腐ってしまい献上できないケースもある。

自身の体調が整っている初日にどう大物を狩るかが今試合の鍵なのである。


「だと言うのにーぃ!!」

「おぉおぉ。アヤツ避けるのだけはうまいのう」

「でも身を翻して避けるのは体力を使う。攻撃が来る恐怖に慣れないうちは精神も摩耗する。・・・これハッキリ言って絶望臭いよ?」


ヨンが魔物から逃げきった頃にはへとへとに疲れてしまっていた。

有力候補は次々と大物を狩って大会から上がっている。結局この日、ヨンは川の水以外口にすることなく終わってしまったのだ。



  ~二日目~



「んぐッ んぐッ・・・・ぷはぁ」


ヨンは確信していた。自分の実力ではこの森の生物たちに太刀打ちできないと。ここの魔物たちのレベルには、一年の修行では到底ついていけそうにない。正攻法で狩るのは現実的ではない。

だからと言って諦めたわけではなかった。ヨンは口を拭った。


(落ち着け・・・イクオさんの旅の話を思い出せ)


共同生活をしている中で、ヨンはイクオたちの旅の話を聞いた。北の大陸で起きた出来事や、東の大陸での騒動。イクオは何時だって絶望的な状況の中にいた。彼の話は今の自分にとってかなり参考になる。



(いいかヨン。絶望的な状況に陥った時、まずすべきことは冷静になる事だ。次に手札の確認。自分は何ができるのかをよく思い返せ)

(手札?)

(戦闘に関係なくてもいい。スキルじゃなくったっていい。自分の持つ専門知識や、趣味で得意な事。利用できそうになくても何でも全部思い出せ。地面に書き出したら確実だ)

(うん)



「僕の武器は【ユニークスキル】と『手先の器用さ』、【料理】スキルと・・・あとー・・」


汗を拭う。

先日はとても情けない姿を見せてしまったが、挽回のチャンスはある。格上と戦うには頭を使わなければならない。


「・・・これだ!」


ヨンはおもむろに旧人類の遺物を拾い上げた。

新人類の時代は始まって500年ちょっと。朽ち果て切っていない遺物たちはまだそこら中に眠っている時代だ。用途が分からないガラクタでも、ヨンには使い方が分かる。


「【究明者の差し出す右手(ハンド・イン・ハンド)】ッ」


一心不乱に遺物たちを組み合わせ始めた。

旧人類の遺物は大量の魔力を内包しているケースがある。そう言った物は、組み立てて機能を持たせることは困難だが、壊すことは容易だ。壊され多量に放出される魔力に指向性を持たせることが出来れば、爆弾に作り替えることが出来るのだ。


「・・・・うぐぅ・・」


当然リスクがある。スキルを使うには魔力がいる。【ユニークスキル】などもってのほかだ。当然消耗は加速し、自身の首を絞めることにもなる。

この日は組み立て作業だけで日没を終えた。幸い魔物たちには見つかることは無かった。



  ~三日目~



「できた・・・即席の『爆弾』・・・!」


夜なべ。

目の周りは真っ黒のクマになっている。ヨンは三日目にして超不健康になってしまった。ハッキリ言ってマズい。長時間魔物の住まう森にいるという事は、精神に大きな負荷をかけ続けている事につながる。

今日、どんなに小さくても狩りを成功させなければ、ヨンは間違いなく棄権を余儀なくされる!


「森の深層へ行かないと・・・えへへ・・・・」


フラフラした足取りで森の奥深くへ歩みを進める。その様は生まれたての小鹿より頼りにならなそうであった。


「・・・カミキリバナ」


カミキリムシをそのまま獣にしたような見た目の魔物。毛皮や外殻の色は非常に不気味で、その姿は危険さをヒシヒシと表していた。


「はぁ・・はぁ・・・・怖い、怖すぎる・・・ッ!」


過呼吸になる。

目の前にいる魔物がこの世の全ての終わりを具現化した悪魔見えて仕方なくなる。ヨンは確信した。この魔物はいずれ世界を滅ぼす魔神だと!


「はぁ・・・こ・・殺される・・・ッ!」


過呼吸が加速する。頭がくらくらして倒れそうになる。

魔人などと言う陳腐な言葉では収まりきらないのかもしれない。このアビスの化身は支配権を宇宙にまで伸ばし、いずれこの世の全てに悪逆の限りを尽くすだろう!


「あぁ・・・血に飢えているんだ・・・きっと脳みそにコオロギを埋めつけられるッ!」


身をよじっているこの獣は、きっと体をほぐし準備をしているのだ。全てを鏖殺せんとする者がこの身で編み出した悪逆のストレッチ!(毛づくろい)


「はぁぁあああ・・・・生きたまま生皮はがされて晒し物にされるッ!!」


あぁ今まさに大きな口を開けて血を求めて轟こうとしている!いや、そのまま自分の首元に嚙みつき喉を引き裂かれるかもしれない。はたまた口から全てを破壊するビームを放ってくるかもしれない!(あくび)


「ああああああ!ダメだ!勝てない!きっと僕は熱線で骨すら残せずチリとなって消えるんだあああああ!!」


もしかしたらこの獣は自分だけじゃ飽き足らず、次なる標的を求めるかもしれない。いったい誰が狙われる?父のズァオスか?イクオか?それとも愛しのアリアか?


「だめだ・・・ここで逃げたらアリアさんが狙われる!アリアさんの平和は・・・」



勇気を出して起爆スイッチに手をかける。

深く深呼吸して相手の動きを見る。爆弾を設置したポイントまであと5メートル。

4・・・3・・・2・・・1・・・


「アリアさんの平和は僕が守るんだァァアアアァァァアアアアッ!!」



パスん



「・・・・・・」

「・・・・・・」


起爆ボタンを押したのに爆発はついぞ起こらなかった。

何故か。この新人類の時代。科学による爆弾兵器が普及していない時代において、『不発』という現象はあまり広まっていなかった。

大声を出したことによりこちらをじっと見ている獣。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・・・・・あの、奇麗な歯並びですね」


「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

くぁwせdrftgy(よく噛んでひき肉のハ)ふじこlpぇあぁああ(ンバーグにされるぅぅ)あぁああああああああ(あぁああああああああ)ああああああああああ(ああああああああああ)!!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ