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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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修行回 インヤンの【鬼神拳】


結論から言うと、インヤンの【鬼神拳】は、アリアとの相性が恐ろしい程高かった。

アリアの戦闘スタイルは【魔法】【剣】【拳】の三つだ。足技は基本的には無く、敵との距離や状況によってそれぞれを使い分ける。

【鬼神拳】は基本的に拳技を主とする。攻守ともども上半身に依存し、超絶攻撃力にものを言わせる剛の流派。上半身が屈強な鬼人族の肉体構造に沿って進化してきた流派である。



「ッフ!!!」



アリアの拳が空気の壁をぶち抜き、マッハを越えた。鞭を打つかのような甲高い音が響いた。


「マッハパンチ・・・ロマンだ・・・」

「アリアさんってホントどうなってんの?」

『精霊から見てもあれはバケモンだ』

「いよいよ人間離れしてきたのう」


「アハハ。皆聞こえてるよ?」


アリアはスキルをコピーするだけでなく、自分流にアレンジする。四天王三人に喧嘩を売られた時コピーしたインヤンの技は、比較的華奢な体であるアリアには不向きな豪快な技。もちろん真似はできるが、アリアの真のスペックを発揮すのはアレではない。

先ほど見せた超速の鋭い拳こそアリアの得意とするものであろう。


「もうちょっと速度を上げたいけど重さが足らない。ベースとなる【鬼神拳】の良さは残したいな」

「ふむ・・・ならば下半身の筋力が足らんな・・・。速度は全身の柔軟さをもっと生かせ」

「え、私の身体既に結構柔らかいと思うけど?」

「足らん。【気闘法】の呼吸をもってすれば、人体の可動域を越えた柔軟性を編み出すことが可能だ・・・。シェンマオの【巨神道】がいい例だな」

「あぁ!成る程」


インヤンの修行は主に【筋トレ】だ。

筋肉の配列が人族と鬼人族とではまるで違う。技より力な【鬼神拳】は、人族の非力な体ではそもそも再現が無謀なのだ。

アリアもコピーした当初はしばらく腕が使い物にならなかったらしい。


「シェンマオ師匠の【無槍鞭槍】みたいなアレね?」

「あぁ。ヌシなら両方の流派を使いこなせるだろう」

「じゃあそっちも意識してやってみる!」


(私のコピースキルは一つしかストックできない。一度コピーしたことのあるスキルをもう一度使うには、スキルの術式を思い出さないといけない・・・)


アリアは思考する時間に入った。

シェンマオの【巨神道】とインヤンの【鬼神拳】を同時に発動させようとしているのだ。【鬼神拳】は既に習得済みだから、今は【巨神道】を思い出そうとしている。

当然このスキル同時発動には、イクオの持っている【並列集中】を習得していなければできない芸当だ。


「おいおいおーい!俺のスキルー!!」

「いつの間にイクオさんのスキルを・・・」

『てか幾つスキルを同時発動させてんだよ。もしかしなくてもイクオの【並列集中】超えてねぇ?』

「俺のお株ゥー!!?」


今現在アリアは【鬼神拳】と【巨神道】と【輝ける魔氷の造形(ブリリアント・アイス)】。スキル以外で言うと、術式の思い出し、魔力の分割量、チャージ等々。計六つの思考を使いこなしている。

イクオは五つ。完全に超えられている。



「はッ!!」



アリアは全霊の拳を放った。アリアでしか為せない技だった。いや、仮にできたとしても両方の流派を熟知し、並大抵ではない魔力を誇る者でなければ不可能だ。

爆音が炸裂した。修行を始めて約一か月、アリアは生み出してしまったのだ。


「ワッハッハ・・・」

「うわっ」

『ヒェ』

「ブヒィ」

「・・・これが天才か・・・」



新たな【気闘法】の奥義を。



「・・・アハハ。これは凄いや」



一面は更地。目前に会った木や岩は、()()()()()跡形もなく消えて無くなっていた。

圧倒的重さを持った超速の拳。それを放った後は打撃というよりも『斬撃』。


「あ・・・頭イッテェ―ェエエ!!斬撃!?」

「イタタッ・・これって『ソニックブーム』!?超音速飛行するジェット機とかに起こる現象でしょ!?」

『てことはあの衝撃波は魔力によるモノではなく物理現象か!!』

「スキルによる【飛剣】とは格が違うぞい・・・?」


大音響によりサラ以外の生身の皆は堪らず耳をふさいでいた。

魔力によって構成された斬撃を生み出すのが、【飛剣】という神聖王国に伝わる剣術スキルだ。ピグの言った通り、物理的に衝撃波を生み出すのとでは雲泥の差がある。もはやアリアの技は人災の域に達している。


「・・・見事だ。だが実戦向けとは言えんな」

「そうね。溜めの時間が長すぎる。拳の攻撃で隙を生み出し、剣や魔法で追撃する私の戦い方とはマッチしない。何より広範囲を攻撃したいなら【魔法】の方が手っ取り早い」


そう。

実際アリアが広範囲魔法攻撃をポンポン放つだけで事足りてしまうのが現状だ。確かに驚異的な威力を誇る技ではあるのだが、【集中】スキルを割き過ぎて戦いに集中できない。溜めている間は完全な無防備と考えると、とても実践的な技ではなかった。


「しかしあの技は生かさねば勿体なかろう・・・。実践向けに改良できれば十分に脅威足りうるぞ」

「つまりあれを()()()()()()放てるようになれば問題ないってことね!」

「その通りだ・・・」


「こえぇーぇ」

「アレがノータイムで飛んでくるって・・・怖すぎるわ」


こうしてアリアは新技を編み出すことに成功した。

技名を後々考えるそうだ。


「で、俺らは何時まで【筋トレ】してなきゃいけねーのかな?」

「アリアさんはコピースキルに加え【怪力】スキル系統を使って何とかモノにしてるけど、アタシらはスキルをコピーできない上、筋力も足らない。まず師匠やアリアさんの土俵に立ってからじゃない?」

「・・・ここに来て地味な修行来たな。いや【気闘法】の呼吸も使ってるから全然異世界の修行だけど」


現在アリア以外の修行組イクオとアヤメは背中に岩をのっけて腕立て伏せをしている。

ズァオスの修行よろしく、筋力の成長を促進させる呼吸だ。魔力(気)の力で生物の常識を超えた筋力を身に着ける修行。半ば人体の改造の領域である。

だがイクオにとって好都合でもあった。


「俺の身体って足腰は鍛わってきてるけど、上半身はまだまだだからな」

「いや・・・ヌシの身体は下半身もダメダメだ」

「うぇ」

「随分と前世は平和な世界だったようだな」


背中に岩に加え、インヤンの腕の力がのし掛かった。数秒持ちこたえてはいたがあえなく撃沈。すぐに地べたを這いつくばった。

事実、インヤンの言う通りである。イクオは自身の戦法に体が追いついていないのだ。


「ヌシは自身の戦いに高度な戦法を求めすぎている。そうせざるを得ない状況だったのは理解しているが、身体を鍛えん限りには先の戦闘は不安だぞ」

「ぐぬぬ・・・」

(その通りだ。俺の【演算魔法】で導く回避の最適解に、俺の身体がついていけてない。【鬼神拳】の技の型を覚えるより前に、俺は身体を鍛えないと)

「という訳だイクオ」

「あい」

「ヌシに技の型は教えん」

「えぇーぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?」


カルチャーショック。

【鬼神拳】は火力特化のロマン砲だ。ハッキリ言ってイクオが一番興味があった分野なのだ。しかし型を教えてくれないとはどういうことなのだ。

勿論抗議。


「ちょっと待てよインヤン師匠!確かに俺は回避のビジョンに体が追いつかねーけど、技を一個も教えてくれないなんてあんまりだぜ!」

「・・・それ程ヌシの回避術は高度だ。正直一年間のウヌの修行全てを筋力強化に費やしてもまだ足らん」

「そんなー・・・」

「ウヌの【鬼神拳】は諦めろ。それほどヌシの【演算魔法】を買っているのだ。ヌシなら【鬼神拳】の型を教えるよりこちらの方がよく伸びる」


そんなことを言われては断るものも断れない。事実、格上との戦闘を今後とも続けるのであれば、【演算魔法】をもっと活かすのは当然の帰結だ。


「ミヤガワ アヤメ。貴様は身体は弱いが呼吸はうまい。半年ほどあれば技を教えてやろう」

「・・・はい」



  ~・・・~



「筋肉は裏切らん」


ラ・インヤンの家系の者は皆言うらしい。こう言っては何だが脳筋種族なのである。

事実インヤン率いる鬼人族の肉体は凄まじい。雄々しい筋肉を美とする文化もあってか、割と上半身裸で生活する者も多く、集落は筋肉でまみれている。

日に焼けて黒く光る肉体なのも相まって、ボディビルダーが蔓延る筋肉村なのである。


「・・・このポーズが?」

「モスト・マスキュラァーァァアアア!!!」


イクオが調子に乗ってきた。

修行も半年に差し掛かったころの話である。見る見るうちに鍛え上げられるイクオは、遂に筋肉ナルシストに目覚めた。前世は完全にもやしボディだったイクオだが、今生は最高の肉体を手に入れつつある。なればイクオのテンションが急騰するのは至極当然のことである。

そう、筋肉はロマンであった。


「ぬぅ・・・素晴らしいポーズだ。何と迫力のある・・・」

「こういうのもあるぜインヤン師匠。アドミナブル・アンド・サイ!!」

「これは・・・腹筋か!」

「それだけじゃないぜ。サイとは脚という意味だ!」

「成る程、鬼人族とは言えど、脚の筋量(バルク)をもっと育てねば」


「・・・アヤメちゃん。あれ何やってるの?」

「見ちゃ駄目よアリアさん」

(ってかいつの間に前世の言葉バルクを広めてんのよ)


男なら一度は憧れるであろう。ボディビルダーのポージング。

生粋のロマン主義者であるイクオがその憧れを抱かないはずがなかった。イクオはポージングのほとんどを把握していたのだ。


「「サイド・チェストォォォォオオオオオオ!!!」」


「・・・」

「・・・」


こうしてインヤンはマッスルポーズを習得するに至った。後に鬼人族の間で大流行することになる。

ボディビル体系が蔓延る鬼人族の筋肉モリモリ村。イクオの投入により、以前よりまして筋肉具合に拍車がかかるようになるのだ。



「「ダブルバイセップスッ!!!」」



(はぁ・・・。サラとは喧嘩しちゃったし、華の民たちの視線は相変わらずだし。どうなるのかなアタシたちの東の大陸生活・・・)


アヤメは心の中でため息をついた。

ここは風が心地よい風の大地、東の華の国。

誇り、食らい、戦う彼らは今日も日々の鍛錬を忘れない。



「早く強くなれよ兄弟(イクオ)。じゃないとこの国、滅んじまうかもしれないからなぁ」



星の胎動のごとき大きな力と共に、歴史は動いていく。今こそ歴史に名を刻むとき。

『東の華の国編』。それはイクオが大陸に名を轟かす英雄になるまでの物語。




  ~修行開始から一年後~





今回のまとめ

①アリアは【鬼神拳】の才能があった!

②イクオはひたすら筋トレすることになった!

③結果、筋肉ナルシストに目覚めた!


修行回はこれにて終了です。修行が終わるわけではありませんが、一先ずこれ以降は『東の大陸編 後編』に移行します。

元々は北の大陸編と同じくらいの尺にするつもりでしたが、まさか前編後編に分かれてしまうとは。

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