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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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修行回 目的


イクオ視点ではないです。

じゃあ誰視点かと聞かれたらちょっとややこしいです。



『華の民』は基本的に陰口を言わない。真正面から憎悪を言ってくる。

じゃあ陰口の方がいいのかと言われればそうではないが、ただただ真っ直ぐに憎悪を向けられ続けるのも苦しいものがある。


でもそれはしょうがない事だ。アタシが華の民たちの誇りを傷つけたことは知っているし、誰もが愛してやまなかった人を、一番救いようのない形で殺したのは紛れもない事実だ。


でも、ときどき思う。そうやって買ってしまった転生者の業を、笑って受け入れてしまうイクオさん。

きっと彼は自分が謝っても許してくれない事を知っている。だから彼は恨みを一心に引き受ける覚悟をしたのだ。

自分はどうだ?と思う。アタシはここまでやっておいて、まだ皆に許されたいと思っている。



  ー・・・ー



「・・・四天王達の修行を受ける資格はない・・・か」


華の民がアヤメを残して歩いていく。これで何回目だろうか。華の民からその言葉を浴びせられるのは。

今日もアヤメは華の民からの糾弾を受け続けていた。憂鬱な気持ちになる。


「・・・さ、修行修行」


アヤメは傷つかないフリをする。そういう癖だ。

涙が枯れてしまうと、傷をついても吐き出し口が分からなくなってしまう。今アヤメには頼れる仲間がいると言うのに、どうすればいいのか分からなくなるのだ。

ため込むのは本当は良くない。でも、この傷ついた自分をどうすればいいのか見当もつかなくなってしまうのだ。


『またかアヤメ。逃げればいいじゃねぇか』

「・・・ダメ。悪い事をしたのはどう考えてもアタシじゃない。甘んじて受け止めないと」

『イクオなんざすぐ背中を向けて逃げてたぜ?お前の真面目さは美点だけど、ちょっとはアイツの不真面目さも見習え。この先耐えられなくなるぞ?』

「・・・パンツ吐きだせ変態」

『・・・モゴッ』


修行を下ろされ晴れて暇人になってしまったサラ。基本的にアヤメのそばをウロチョロするのは変わっていない。

アヤメが起こした魔眼事件に関してはノータッチを決め込んでいるのは、精霊が得てして人の憎悪に疎いからである。そんな自分がどんな言葉を投げかけたって、慰めにはならないことをサラは知っている。


『ゴクン・・・ズァオスが探してたぜ?今日は奴との修行の日だろ』

「飲ん・・もういいや」


アヤメに適性があった気闘法は、【獣神流】だった。どの流派も基本まんべんなく習得してはいるが、自身に合った流派はまさかの防御寄りだったのだ。


「アタシ基本避ける方が得意だと思ってたんだけどなー」

「・・・来たかミヤガワ アヤメ。うちのモンが失礼したな」

「知ってたんですか」

「あぁ。遅刻のお咎めは無しだ。さっさと熱油に身投げしろ」


※修行です。


「どりゃぁぁぁああぁあああ!!!」


どぼーん


「ぎゃぁぁあああぁあああああ!!!?」


『拷問じゃね?』

「修行だ。物理にだけ耐久上がっても意味ねぇだろ。魔法戦を考えんなら熱に対する耐性も上げとけ」

『ほう?いいこと聞いた。そうともアヤメはいずれ俺が魔法少女にプロデュースするのだ。魔法耐性はあげとかねぇとな』

(何言ってんだコイツ)


ズァオスとて、アヤメに対する恨みが完全に消えたわけではない。と言うか今でも恨みゴリゴリではある。しかしアヤメの才覚に惹かれるものがあるのもまた事実であった。

憎くもあるが、有望な弟子でもあったのだ。


「・・・」

『・・・まだ憎いか?』

「そうだ。恐らく一生な」

『まったく。イクオの件で北の大陸の人たちにも思ったが、何で感情なんて厄介なものを抱えてんのかねぇ生物ってもんは』

「北の・・・イクオの話か。そもそも転生者ってのは何故こうも恨みを買う?」

『知らね』


愛を汚された北の神聖王国の人々と、誇りを汚された東の華の民たち。

お互いがお互い転生者を憎みに憎んでいる。サラには生物の感情の大きな揺れが理解出来てはいない。けれど大きな感情が時に人を歪め傷つけるものだとは、知識として知っている。


『・・・アヤメ』

「・・・なにー?」


心頭滅却すれば火もまた涼し。

まだそんな領域ではないが、熱油の中でもアヤメは既に落ち着きを取り戻していた。まだやせ我慢の域を出ないが、完全に適応しきるのに一年もかからないかもしれない。


(イクオの言った通りだ。アヤメの魔力適性は間違いなく【火】だ。如何に天才アヤメといえど、このスピードでこの熱油に耐えられるのは適性が【火】でなければ説明がつかない)


『お前はやっぱ魔法少女になれ』

「い・や・!」

『俺と師匠との【仮契約】での力は一度見せたはずだ。師匠は適性が【火】じゃない。俺とお前が手を組んで【本契約】を結べば、お前はきっとアリアにも負けねぇ!』

「アリアさんにぃー?」


疑いの目。

アリアが強すぎるからビジョンが浮かばないのだ。いずれ超えると言う意欲はあるのだが、【本契約】を結べばすぐ並び立てるようになるという話は、どうも現実味がない。


『それに、お前華の民にメチャメチャ嫌われてんじゃねぇか。このままこの地に残るのはいいけど、華の民からの憎しみをずっと引き受けながらここで暮らす気か?』

「・・・」

『正気の沙汰じゃねぇ。あいつ等が強硬手段に出ないとは限らねぇんだぞ』

「・・・」

『今何のために修業してんだ?生き残るための力をつけるためだろ』

「・・・」


アヤメは静かに熱油から上がった。

下半身が酷いやけどに負われている。それでも裸足のまま砂利の上に降り立った。

静かにサラを睨むアヤメ。彼の言っていることは正しい。それは頭のいいアヤメには気づけるはずだ。それでも華の民たちの件ではアヤメは冷静にはなれない。


「だまれサラ。仮に華の民たちに殺されたとしても、アタシに後悔は無い」

『・・・ッ!』

「アタシにもやることがある。そう簡単に死ぬ気はないけど、それでも死ぬときは死ぬ覚悟はできてる」


分からず屋めとサラは思った。

サラだって500年もの間生きてきたのだ。そういうセリフを口にした奴はこの世界には掃いて捨てるほどいた。そしてどんな目に合ったのかもサラはこの目で見てきた。


『そう言った奴が何人死ぬ直前に後悔したと思ってる!自分の覚悟をうぬぼれるなよアヤメ』


いつの間にか口論になっていた。

ズァオスは後ろで腕を組みその様子をじっと見つめていた。サラの言い分は当然だ。華の民でさえ、死を直前にみっともなく命乞いをする者は一定数いる。

そう言った者たちはいわゆる『華の民』の恥さらしだが、それでも皆恐れているのだ。もしかしたら自分も土壇場で誇りを捨ててしまうかもしれないという事を。


「うぬぼれるな?じゃあ何?みっともなく生き恥さらして生きろとでも言うの?」

『そうだ。死ぬよかマシだ』

「アタシが嫌なのよ!!!」

『テメェが死ねば俺らだって嫌なんだよ!!!』


サラは自身の考えを改めた。

アヤメは生きたくて強くなっているんじゃない。もっとおどろおどろしく、そして残酷な結末の為に進んでいる。

見過ごすわけにはいかない。


『死にたがっているお前を救ったイクオの気持ちを、お前は何も分かっていないんだな!!何も学んじゃいねぇんだな!!』

「うるさい!!この命は無駄にはしない!!」

『だったら生きろよ!!意地汚くても生きろよ!地べた這いつくばってでも、泥水すすってでも生きろよ!無駄にしねぇってそういう事だろ!?』

「アタシは・・・ッ!!」


口をふさいだ。

別に論破された訳ではない。この先のセリフを打ち明けるべきか迷ったのだ。


「まだ死ねない・・・イクオさんに命を救われた時、アタシはアタシの結末を決めたんだ」

『・・・お前何が目的だ?』


アヤメは自分の目的を言いたくなかった。イクオについていく旅の果て、一体アヤメが何を望むのか。

言えない。それを言えば、仲間のお人好したちは、絶対に自分を止めるから。


「・・・」

『・・・』


アヤメは後ろを振り向いて歩き出した。自身の身体を治療すべく、アリアのもとに向かったのだ。

はたから見たらアヤメがサラに言い負かされただけに見えるだろう。それでもサラは実感していた。大事な事をはぐらかされたこと。


『アヤメの意思は変わってないな。結局アイツの目的を聞けずじまいだったな』

「・・・」

『どうしたズァオス』

「何でもねぇ」


殺したいほど憎んだアヤメ。華の民の羨望の的であった吸血族の集落を滅ぼした殺戮者。いたずらに滅ぼしたアヤメという存在を、きっとズァオスは一生許さない。

しかし、彼女の心に触れてズァオスは動揺を受けていた。


(血も涙もねぇろくでなしだと思っていた。なんだありゃぁ・・・ただのガキじゃねぇか)


急に自分が情けなく思えてきた。自分はあんなに幼い子供に本気で殺意を向けていたのかと。

子供相手にムキになって、寄ってたかって彼女の心を傷つけて。まるでみっともないのは自分たちの方ではないか。


「認めねぇ・・・認めねぇぞ俺は・・・・ッ!」

(何で俺たちが悪者みたいになってんだ。ふざけるなミヤガワ アヤメ!事の発端は全部テメェだろ!何でお前が被害者ヅラしてんだよ!お前は加害者だろ!)


彼女を憎みたいという自身の本心を、良心が邪魔をする。

いっそズァオスもアヤメも正真正銘のクズだったら楽だっただろう。ズァオスは自身の憎しみに抗う方法を無意識に探していた。自分の甘さに反吐が出そうだった。

バロンがアヤメに対して何の憎しみの感情を抱いていないのが分かった気がした。



(あんなガキに憎しみを抱く方がよっぽど子供だとでも・・・?)



ズァオスにとっては分かりたくもない事だった。



  ー・・・ー



「アヤメちゃん。何かあったの?」

「アリアさん・・・いや、変態と喧嘩しただけ」

「あらら」

「あららって・・・まぁいいけど」

「慰めてほしかった?」

「違う!!」

「アハハッ」


身体に包帯を巻いてくれる。相変わらず回復魔法は使ってくれず、応急処置だけだ。

発言も厳しい。


(何だかんだアリアさんって他人に厳しく自分に甘いよね)

「?」

(いや、自分にも厳しいのか?そこらの境界線がこの人あやふやなんだよなぁ)


自分への厳しさにアリア自身がついていけてないだけです。


「アリアさん」

「・・・何?」

「・・・アタシが死ぬって言ったら止める?」

「止める。アヤメちゃんに嫌われてでも止める。死別なんて別れ方許さないから」

「ひっ」

(他人に厳しいのは絶対に確かだこの人!)


素直に嬉しくはあった。自分のことを大切に思ってくれている。その事実が聞けただけでも人は安心できるのだ。孤独には耐えられないのだから。

それでもアヤメの目的のためにはその優しさは不要なのだ。このままだとアヤメはいつかイクオたちの気持ちを裏切るだろう。アヤメの目的は生きる事じゃない。


(魔王を殺す・・・)


復讐を果たし因縁に決着をつけた後、華の民の手で殺されること。

それこそがアヤメの目的なのだから。



アヤメのキャラクターコンセプトは『異世界復讐』ものです。


元々復讐者として書く予定はなく、魔法少女というコンセプトだけが独り歩きしてたキャラクターでした。いつの間にか闇深いロリキャラ路線に入ってしまい、気づいたら魔王絶対殺すガールになってしまった。

今後魔法少女属性すら追加されるとなると、もうこれ分かんねえな。


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