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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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修行回 シェンマオの【巨神道】


「巨人族ってデケーェ・・・」

「ついに来たかひよっこ共。カッカッカ!!」


軽快な笑い声の裏には姉御肌のようなカリスマの声色。

髪色は実は青色。長い髪を後ろにまとめている。肌は少し色黒で美しくも屈強な女性の筋肉。

そう。魔王四天王序列3位。ソン・シェンマオである。今回はシェンマオに教えを乞うべく、巨人族の集落にやってきた。


「おっ?パンツ畜生。お前まだ修行に残ってたのかい。東の大陸(ここ)じゃ本調子は出ねぇだろ」

『あぁ。ぶっちゃけ【気闘法】はとっくの昔に研究済みで興味はねぇが、アヤメを勧誘するまでは付き合うことにしたぜ』


「なーアリア。アイツ等って知り合い?」

「昔サラがシェンマオさんのパンツを盗んで半殺しにされたらしいよ?」

「納得」



  ~・・・~



「アタシらの【巨神道・気闘法】は感覚器官をより鋭くする。基本的に戦う相手がチビしかいねぇアタシらにとって、敵を察知する能力はどうしても必要に駆られた。チビはすばしっこいからな」

「はい!【獣神流】みたいに防御力を上げようとは思わなかったんですか!?」(アリア)

「耐久勝負だと獣人族には勝てねぇ。奴らにはない武器が必要だったんだ」


体格が大きいというのは究極のアドバンテージ。しかし、それが絶対ではないのが異世界。

体重、筋力、質量もろもろの物理法則は、魔力によって覆せるのだ。人間台の大きさであっても巨人は投げ飛ばせるし、小さいのに巨人より重い者も存在する。

優位性の域を出ない以上、巨人族を上回る者などいくらでも存在しうる。


「体格が大きいと速度が下がる。一挙一投足が範囲攻撃なアタシらだが、それでも攻撃が当たらねえ。アタシらの祖先たちは、攻防一体の『技』を欲したんだ」

「へーぇ?てっきり体格を生かした戦法だと思ったが」

「残念ながら耐久は獣人族に、筋力は鬼人族に、アタシらはそれらでは敵わねぇ。スピードはそもそもアタシらに向いてねぇ」


勿論巨人族も鍛えれば彼らに遜色のない筋力、耐久力を培うことはできる。しかしこの大陸、強くなる努力は大前提だ。種族特徴で負けている分、彼らの専門分野で打ち砕くのは無謀と言っても過言ではない。


「器用貧乏?」

「ぶち殺すよアンタ」

「ワッハッハ!・・・すまん」

「カカッ冗談だよ」

(嘘コケぇーぇぇえ!メチャメチャマジな顔だったぞ!?図星なだけあって巨人族の村ではこの言葉は禁句だな・・・)


シェンマオは槍を取り出した。


「アタシらの【気闘法】は拳ではなく武器がメインだ。アタシの得物は槍。まぁ全般使いこなせるがな」

「私は魔剣」

「アタシはナイフ」

「肉弾戦」

『魔法』

「よし、イクオは自分に合う武器を探せ。サラは武器が持てねぇから別の修行だ。前二人はアタシんとこに来い」



  ~・・・~



「ホアチャチャチャチャ!!アチョォーォォォォオオオ!!ブベッ!!」


ヌンチャクをメチャクチャに振り回すイクオ。

振り切ったヌンチャクが後頭部を通過し自分の顔面にヒット。次。



「ドリャァーァアアアア!!あごしッ!!」


トンファーが肋骨にダイブ。次。



「ほげぇーぇえええ!!!」


手裏剣が眉間に刺さる。次。



「チョエヤッ!! ハァあ あ ぁ」

鉄扇が手を滑って足の小指に着弾。次。


「オブブブ・・・ギブギブ・・・」

流星錘が首に巻きついた。次。


「ぶへぁ!」


「アがッ!」


「うげっ」「ブフッ」「ギぇえ!!」

次。次。次。



  ~・・・~



「シェンマオ師匠」

「なんだいイクオ」

「・・・心が折れそうです」


イクオには武器の才能がこれっぽっちもなかった。

武器、それはロマン。イクオだって使ってみたかったのだ。しかし、イクオは東の大陸の武器を何一つ使えなかった。絶望的に使えなかったのだ。

厨二心をくすぐられるような魔剣を使いこなしたい人生だった。


「ミヤガワ アヤメから聞いたよ。テメェら異世界人はスキルが合計五つしか習得できねぇらしいねぇ。スキルの枠はとっておきな。何なら肉弾戦をそのまま強化した方がいい」

「【巨神道】は武器を使う流派だろ?肉弾戦の修行もできんのか?」

「当然学べるものはある。感覚強化が最たるものだが、・・・・見てろ」


シェンマオは大岩の前に立った。高さおよそ7メートルはあるであろう大岩に構える。巨体からギシギシと音が鳴る。とても人体から出るような音ではない。

刹那、シェンマオが小さく足を上げたかと思えば、強く強く地面を踏み鳴らした。


  ズンッ


「おぉーお!?」


信じられない光景を見た。踏み込んだ足場から亀裂が入り、そこから膨大な魔力が溢れてきた。

大気中から魔力を取り込むならいざ知らず、突然足場から魔力が溢れてきたのだ。


「ゼァ!!」


掌底突き。

凄まじい威力が内包されているのが分かる。足場から火山の噴火が如くあふれ出した魔力を、全てその一撃に収束させている。

イクオは掌底突きの風圧に目をふさいだ。目を開くと驚いた。シェンマオのの目前にあったはずの大岩が、跡形もなく粉々になっていたからだ。


「すげぇーぇえええ!!?」

「・・・【震脚】と呼ばれるもんだ。空気から【気】を取り込むのが【呼吸】。だがコイツは【地脈】から【気】をくみ取る」


平たく言えば大地の力を借りるのだ。

【地脈】、別名【龍脈】は、大地を流れる魔力の奔流。星は【恩寵スキル】の五倍ほどの膨大な魔力を持っていて、それらは【地脈】を通り世界を廻っている。

先ほどシェンマオが見せた【震脚】は、【地脈】を通る膨大な魔力のほんの一部を借りる技である。


「星の力を借りるわけだ。体への負担は【呼吸】の比じゃねぇ。当然【呼吸】みたいに体の中で留めることはできないから、得た気はすぐに使わねぇといけねぇ。だが、ハイリスクな分威力は見ての通りだよ」

「星の力か・・・体ぶっ壊れねぇ?」

「ごくわずかだ。調子に乗って【震脚】で溜め続けると体爆発するぞ」


冗談ではないみたいだ。目がガチだった。

使い方としては、魔力を事前に『保存』する【呼吸】とは打って変わって、攻撃の直前に放つ『溜め』の所作。一瞬で臨界点まで溜めて一瞬で全解放する。この爆発的な火力が【震脚】の強みだ。


「ロマン火力だなー。是非とも習得したい」

「【跳躍】を多用しているところを見るに、アンタは脚力が武器だろ。【呼吸】よりこっちが性に合っているかもな」


地面を踏み鳴らしてみる。

見様見真似だ。当然地面に亀裂は入らなかったし、魔力も手に入っていない。やはり最初から使えるわけはない。何時かはこの【震脚】一つで、大地の大いなる力が肌で感じられる時が来るのだろうか。

イクオは胸を膨らませた。


「あとアタシが教えられるものはコイツだ。この技を見てみろ」


シェンマオは巨大な槍を構えて【槍術】スキルによる技を発動させる。


「【鞭槍】ッ!!」


鞭のようにしなる槍。不規則に舞う槍先が空を切り刻む。

シェンマオの得意技で、非常にかわしづらいのが特徴だ。見切るのには至難の業が必要だろう。


「槍を持っているときはこうだが、不測の事態で槍を持てなかったとする。そんなときはこうだ」


槍を地面に刺す。

そしてスキルを発動させる。イクオは【演算魔法】で捕らえた。槍を持っていないにもかかわらず、シェンマオが【槍術】スキルを発動させたことを。


「【無槍 鞭槍】ッ!!」


威力は当然落ちたが、それでも先ほど放った技と同じものが放たれた。シェンマオの腕が鞭のようにしなり、抜き手が空を切り刻む。

恐らく見掛け倒しではないだろう。あのシェンマオの手刀は、恐らく触れた物を斬れる。


「すげぇーぇ!!」

「まだまだぁ!!【無槍 鞭槍】ッ!!」


今度は脚で【槍術】スキルを発動。鞭のようにしなる脚が、近くにあった岩を切り刻みバラバラにする。

腕だろうと脚だろうと【槍術】スキルを発動させる。非常に特殊な光景だった。


「武器が無いなら全身を武器にすればいい。【気闘法】の【呼吸】による人体を改造する修行は、身体を武器のごとく作り変えることが可能だ。アタシの場合全身を鞭状に、手足の先は刀に変化させた」


別に関節が増えたわけではない。しかし腕の柔軟さが常人離れしている。まるで軟体生物が如く腕がしなやかにしなる。

そんな脱力された腕の先は、力みに力んだ手刀。鋼が如く頑強に見える手刀は、確かに刀といっても差し支えない。


「本当に体が『武器』になってる・・・こりゃ【スキル】が発動しない方がおかしい程だ」


巨神道の十八番が感覚強化や震脚だけではない。

この全身の武器化も巨神道ならではだ。全身を武器に作り替え、武器スキルを発動できるようにする。如何なる状況下でも最高のパフォーマンスを発揮するのだ。


「さぁ。イクオ。お前の武器は何だ?」

「・・・」

「強靭な足から放たれる蹴りか?それとも壁も天井も縦横無尽に走り回れる走力か?」


イクオの手持ちの武器は少ない。だからこそ明確にわかる。【巨神道】の修行で何を習得すればいいのか。

イクオが武器にすべきスキル。イクオが最初に習得した、自分の体の一部とも言える原点のスキル。


「跳躍スキルだ。思えば俺は腕でも跳躍スキルを発動させることが出来た」

「そうさ。アタシの修行を終えたとき、アンタの跳躍は足や腕では収まらないのさ」


この修行で鍛えることは三つ。

一に【感覚強化】の気闘法を習得すること。

二に【震脚】をマスターすること。

三に全身の武器化に成功すること。

イクオは四天王三人の修行の中で、【巨神道】との相性が一番良かった。イクオはこの修行で最も力を付けたと言っても過言ではない。



  ~・・・~



「・・・【感知魔法】とも【魔力感知】とも違う・・・。これが感覚器官を強化する【身体強化魔法】・・・」


アリアは持ち前のユニークスキルで次々と【気闘法】を自分のモノにしていた。

アリアのスキルの習得方法はまずコピーし、そのスキルを自身の魔力になじませる。そのことによって、コピーにより再現したスキルではなく、自身の【スキル】として習得している。

『コピー→保存』の流れがアリアのスキル取得方法である。


「【感知魔法】は自身の視覚や聴覚の乗った魔力を辺りに散布するものだったけど、これはあくまで感覚の強化。自身の耳や目の性能がそのまま上がった感じね」


利点の違いといえば、【感知魔法】は障害物(防音素材や遮蔽物)をある程度無視することが出来る事と、【気闘法・感覚強化】は感知を自身の肉体でできる事。

後者の利点は分かりずらいが、魔力を解して感知するのと自身の身体ですぐさま察知するのとでは、身体の慣れが違うのだ。

つまり、【感知】を戦闘に転用できる。


「【感知魔法】は隙が大きいからなー。戦闘中に発動させるなんて無茶なものだったけど、これなら訓練次第で実戦に使えそう」

「・・・アリアさんもう習得したの?早いよ」

「いや?習得はまだ。これからコピーしたスキルを私自身の魔力になじませなきゃ」


アヤメは悔しそうな目でアリアを見る。

アヤメは何を隠そうかなりの負けず嫌い。自分が天才過ぎで周りで自分に勝てる者などそういなかったというのに、そこで現れたアリアが才能も何もかも自分より上なのだ。

何かと対抗心を燃やしていた。


「えぇい!アタシも頑張らなと・・・サラは何してんのよ?」

『・・・そういや俺、武器にする身体がそもそも無かったわ』


サラ、精霊のにつき修行脱落


サラとピグは気闘法を覚えさせません。何故かと言うと、彼らの戦闘が単一で戦うより誰かと組ませた方が面白くなる存在だからです。アリア、イクオ、アヤメの三人がかなり情報過多な存在なので、二人にはできるだけシンプルでいてもらいましょう。

まあ【震脚】するたびにお腹がタプンタプンするピグは絵面的にギャグで面白いかもしれませんが。


今回のまとめ

①【巨神道】は主に感覚器官を強化する【気闘法】だぞ!

②【震脚】という溜めの所作を覚えるぞ!

③極めれば全身至る所でスキルが発動できるので、イクオは全身【跳躍】マシーンを目指すぞ!

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