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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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執行の騎士

首元に目掛けて振られた剣の切っ先。

イクオは上体を逸らす。


「ふっ・・・・くぁ・・・・・・」


演算魔法全開。限界までスローになった世界でイクオはギリギリの所でかわそうとする。


髪が切れ、仮面が削がれ、耳に掠る。


「ハアァ!!」


上体逸らし、そのままバク転。トタタッと音を立て着地する。


「フゥーー。間一髪」


「おや、かわされましたか。当てたと思ったのですが」


「なぁんのまだまだ!余裕のよっちゃんだ!」


「ついさっき間一髪って言ってたじゃないですか」


(執行の騎士とガチンコか。勝てる訳が無いな。とは言いつつもここは通路の長い廊下だ。隠れる場所もなければ仲間も遠い。何とかして隙をつくらねば)


レチタティーヴォは1歩で間合いを詰める。


「・・・っいぃ!?」


相手のまばたきの瞬間を読んだ攻撃だ。いくら古代演算魔法を操るイクオでも反応が遅れる。


「ふっ!!」


「オラァ!!」


振りかぶった腕に蹴りを入れて剣を振らせない。だがそれでは終わらない。弾かれた勢いを利用して回転し、再び逆方向から剣をスイング。


【跳躍】


「危なぁ!?」


またも間一髪で回避。

横薙ぎに振ったため、廊下の壁の窓ガラスがビキリと音を立てて切断される。


「ひゅう。普通ガラスって斬られたら割れるだろ。どんな精度で振ってんだよ」


「弛まぬ鍛錬です。その方法しか私は知らない」


斬られたガラスがずるりとずれ、窓の縁からこぼれ落ちる。けたたましい音を立てて次々と割れていく。しかし両者は静かだ。


「・・・だろうな。あんたはそんなタイプだ。精度はすげぇが美しさは無い。どっちかって言うと泥臭い努力の剣だ」


「馬鹿にしてます?」


「はぁ?最高じゃねーかと言ってん・・・っだ!!」


「それはどう・・・っも!!」


今度はイクオから攻める。跳躍を利用した蹴りを放つが、片腕で防がれる。


(知ってるよその程度で防がれるのはな!あんたとは真面目にやり合っても逃げ切ることすら出来ない!なら俺は小細工を使うだけだ!)


更に踏みつけた腕を跳躍。いきなり腕を使われ跳躍されたレチタティーヴォは驚き目を閉じる。イクオは消えた。


「っ!?・・・・・・・・・」


レチタティーヴォは左右を見る。もはや視認できる場所には居ない。しかし跳躍のスピードから、そこまで遠くには行けないとレチタティーヴォ判断した。


「スキル【嗅覚Lv21】」


臭いの後を辿る。


「・・・・・・・・・・・・そこっ!!!」


外側の壁と天井の端の方へ斬撃を放つ。振られた剣の切っ先から空気の刃ができる。


「【飛剣】!!」


放たれた斬撃は壁を貫き、外へ出る。外側の壁にへばりついていたイクオは、掴まっいる足場(かべ)から斬撃が出てくるとは予想もしていなかった。


「はぁ?ちょ!?回避ぃぃいい!!」


下からの攻撃に驚きながらもイクオはギリギリのところで察知。回避を試みる。


「っつうあ!いっってぇ!!」


今度は回避しきれなかった。壁の向こうからの不可視の斬撃。イクオは対応が遅れて腕を斬られる。


(くっそ早ぇ!並の小細工じゃ逃げ切れん!目に見えない所へ逃げても臭いで辿られるのか!?そもそも俺は戦闘初心者だ。経験の差があり過ぎる!)


飛剣によって崩れた瓦礫を踏みしめレチタティーヴォが闇の中から現れる。月光を浴びたレチタティーヴォの聖剣は青白く輝いている。


「もう終わりですか?」


通路から外の庭に出た。イクオの戦闘スタイルは【跳躍】を駆使した戦い方。壁の多い室内の方が戦いやすい。ちゃっちゃと逃げるために外へ出たのは間違いだったかもしれないのだ。



(時間を稼ぎたい。サラに連絡を入れたから救援が来るはず。そうなれば倒すことは無理でも逃げ切る可能性はかなり上がる。会話でまずは時間を稼ぎ、俺独自の走法を使う)



しかし外に出たからこそ使える戦い方がイクオにはあった。スタミナの回復と救援のための時間稼ぎを兼ねてイクオは口を開く。


「・・・・いやぁー強いねレチタティーヴォ伯爵様。流石は至高の三騎士に数えられるだけはある。ただ俺程度の木っ端を倒すのに些かやり過ぎではありませんか?」


「・・・・・・」


「それ。聖剣でしょ?あの教皇様から賜ったとされる[執行の聖剣 主よ私は誓いを立てる(スウェラノース)]。あんたからしたら俺なんぞ吹けば飛ぶ存在だ。そんなあんたがわざわざ聖剣引っ張り出してくるこたーいくら何でもやり過ぎでは?」


「・・・はっ。貴方は、私やアリア様が仕事で国の外に出ている間とは言え国家転覆をたった一週間で起こした人間だ。私は貴方を見くびったりしませんよ」


レチタティーヴォは聖剣を構える。聖剣の魔力は使ってはいない。しかしそれは慢心ではなくイクオの出方を伺っての行動。下手をすれば国を崩壊させかねない相手を前に、レチタティーヴォは冷静だった。


(だろうな。俺を弱者だからと見くびる奴はこの国には居ない。真面目らしいあんたなら尚更だ)


「それに、聖剣は常に持ち歩いています。貴方が相手ではなくとも私は聖剣を抜く」


「聖剣乱用ってか?そんなに使って大丈夫かよ」


「・・・・・・さっきから話しかけているのは私の気を引くためか・・・もしくは救援のための時間稼ぎ?どちらにせよ貴方と会話することはもう無い!!」


走り出したレチタティーヴォを相手にイクオは後ろ向きに跳躍する。そのまま屋敷の壁にへばりつき



「これは疲れるからできるだけ使いたくないんだけどな!【跳躍】【跳躍】【跳躍】ぅ!!」



掴まっていた壁を、壁スレスレの軌道を描くように、そして片足で交互に(・・・・・・)跳躍する。それを連続で行い壁走をする。



  シュタタタタタタタタッ



「始めて見ますが噂以上の変態機動ですね!逃がしません!」


「変態言うな!褒めてんのかそれ!?」


「敬意を評して貶してます!!」


今度はレチタティーヴォがスキル使用。飛剣の派生スキルにして上位スキル。



「【千乱飛剣】!!」



飛ぶ斬撃が散開する。イクオは壁に張り付くように走りながら斬撃を右へ左へかわす。しかしかわしながらもイクオは着々と上へ進み、レチタティーヴォから距離をとっていく。

レチタティーヴォは考える。



(まずいですかね。この男は想像以上に機動力に長けている。救援を呼ばれるかもしれない以上、時間をかけるのは不利を招く。やむを得ないな)



聖剣を中心に魔力が集まる。

聖剣は神聖王国が保有する国宝級のマジックアイテム。神聖王国三本の聖剣のうち一つの力を、レチタティーヴォは使おうとしていた。

イクオはスピードを上げる。その聖剣の能力はこの国に一年もいれば否が応でも耳に入る。


(想像以上に聖剣の力を使ってくるのが早い。もう決めるつもりだな?制限時間まで逃げるのがベター!)




『私は《切断》を執行する』




レチタティーヴォの聖剣の能力。

それはレチタティーヴォが何かを「する」と宣言すれば一定時間内に必ずそれがレチタティーヴォの手によって遂行されること。制限時間は宣言した内容によって変わり、また対象も決めることは出来ない。

避ける方法は二つ。


一つは身代わりを用意すること。

もう一つは制限時間まで逃げきること。


「一目散に撤退だぁああ!」


「させません!」


そしてこの聖剣の付属の能力はこの宣言が発動している状態はレチタティーヴォが強化魔法とは比にならないほど強化されること。何がなんでも遂行せよと聖剣がブーストをかけるのだ。


「はっ、早!?」


イクオが今まで離した距離はたった一歩で詰められる。


「はぁ!!!」


聖剣のスイング。今度の攻撃は《切断》を遂行させようと聖剣が働きかけるので謎の引力に身体が吸い寄せられ、命中する可能性が格段に高い。

渾身の力で跳躍する。



「おぉぉうらぁ!!!」



回避。レチタティーヴォの聖剣を振った跡が凄まじい音とともにバックリ割れる。さっきまでの精巧な剣とは大違いに派手だ。


「めちゃくちゃじゃねーか!?さては使いこなせてないな!?」


「よく知っています!!私もまだまだという事です!!」



(謙虚なもんだな!自称まだまだのお前に危うく殺されかけたよ!!くっそ、逃げ切るのは荷が重い!!身代わりも無い!!これ本当にヤベーぞ!?)



レチタティーヴォの攻撃はこれでは終わらない。これはスキルではなくただの斬撃の一撃に過ぎない。つまり連撃が来る。


「ハァァァアァアァァアアアアア!!!」



【身体強化魔法Lv45】


【怪力無双Lv31】


【心眼Lv43】


【アルハンゲルスキー流剣術Lv64】


【・・・・・・・・・・・・



数々のスキルが重なり合い、凄まじい魔力量の空間ができる。もはや演算魔法や感知魔法が無くとも肉眼で認識できるほどの魔力量だ。レチタティーヴォの魔力は聖剣に収縮され、大気中の魔力すら聖剣を中心に渦を巻く。




「やっ  やべぇぇええええ!!!」



傍から見てもその魔力はイクオを屠るには充分過ぎるほどだ。頭をフル回転させる


(今から逃げるのは無理!演算魔法で切り抜けるしか無い!どうする!?どう使う!?今まで通り感知だけに使うだけではダメだ!演算魔法に出来るのは元来は感知ではなく計算だ!!)


イクオの今の体感時間は1秒が10秒以上に長くなっていた。しかしイクオの言う通り、演算魔法は計算をしている時の体感時間が一番長い。


(演算魔法にできること・・・いや、そもそも魔法の使い方は何だ?)





『適当に思いついた詠唱でも叫んどけ』





サラの言葉がよぎる。


(適当に?最初に魔法を発動させた時、俺はあれが適当に喋った言葉が偶然魔法の詠唱だったと思っていた。でももし偶然に俺が決まった詠唱の型を言い当てたのなら、サラは俺が魔法を初っ端使えたのに驚くはずだ。つまり詠唱は適当が正解・・・・・・)



「否っ!!俺自身のイメージが正解!!!」


イクオ、計算を開始。



【演算魔法Lv3→4→5】



レベルが急上昇していく。演算魔法の真の使い方に気付き、イクオの計算スピードは1秒を50秒にまで引き伸ばす。


(視えたぁ!!)




そしてレチタティーヴォは、今まで磨き上げてきたスキル達を組み合わせた攻撃をついに解放させる。





「複合スキル【偉大なる誓の十字(グランド・クロス)】」




剣の間合いの中は全てが塵と化す。

高密度の魔力を纏った聖剣の連撃は、一撃ごとに強烈な光を放つ。放たれた十字の光はレチタティーヴォを中心に巻き起こり、大きな十字架を空に突き上げた。


巨大な光で出来た十字架の柱がレチタティーヴォの屋敷を中心に、夜の街を激しく照らす。その瞬間は夜は光に包まれた。





戦いの後の庭はもはや美しかった跡形もない。レチタティーヴォから半径約十メートルの範囲は全てが焦土と化し、風圧で瓦礫も巻き上がり。屋敷は全壊とは言わずとも半壊していた。


荒れ果てた庭の中でレチタティーヴォは握りしめていた拳を開く。

手には[風避けの護符]が握られていた。


「《切断》が執行されたのは相手のポーチか・・・・」


執行の剣の定める対象は術者の望む結果にできるだけ近くなる。しかしイクオは対象から最後の最後で逃れた。その事により対象はイクオではなくイクオのポーチへと変わったのだ。

レチタティーヴォは辺りを見渡す。暫く魔力や臭いといった痕跡を確かめた後・・・


「奪還成功。捕縛もとい断罪は失敗。逃げられましたね・・・」


残念と言ったような、屈辱と言ったような、なんとも言えない苦難の表情を浮かべた。

レチタティーヴォはあの時間違いなく全力を出していた。レベルの差は50以上もあったし、何も知らない人からしたら大人気ないとすら取れる実力差だった。しかしそれでも逃げられた。


「・・・悔しいですね・・・・・・」


(やはり適わないのだろうか。アリア様に。法の騎士様に。そして断罪の騎士様に。私はこれ以上何を工夫すれば、あの方達と肩を並べられる程強くなれるのでしょう)


レチタティーヴォは才能の差に苦しめられていた。どう努力しても、二人の至高の騎士とアリアに適わないのだ。彼は才能が無い。弛まぬ努力の末、彼は力と地位を手に入れたが強くなればなるほど彼らの実力の差に打ちひしがれてしまうのだ。


「おぉ主よ、我らが慈悲深き神イム様よ。私はどうしても才能の差を思うと悲しみに囚われてしまいます。どうか私が一時の間、悲哀の姿を貴方様の前に見せてしまうこと。お許しください」


悲しみの中、日は昇った。

執行の騎士こと

レチタティーヴォ・アルハンゲルスキー。


めちゃくちゃ頑張ってるけど伸びない人。でも男爵家生まれなのに努力で伯爵まで登りつめたかなりやべー奴。いわゆる努力の天才。


実力的には神聖王国のNo.4。

充分強いんだけどそれより上の壁が高い。




執行の騎士「強くなりたい」

法の騎士「くっ殺せ!!」

断罪の騎士「魔物ぶちころす」

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