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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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隣で戦う覚悟


『何だ何だァ!?なんの騒ぎだこりゃァ!!』

「・・・轟音。誰かが争ってるみたい。変態(サラ)、魔力感知できる?」

『おう。エネルギーの強大さからして、こりゃ四天王複数が臨戦態勢だぜ』


アヤメ&サラ。現在は魔王宮の屋根裏部屋で隠密行動をしていた。しかし、下は大騒ぎになっており、多くの華の民が広場に集まっていた。


『オイオイ・・・こういうのは本来避難するものじゃねえのか?』

「四天王三人が誰かと戦ってるのよ。華の民は強者の戦いを見たがるのよ。これ程気をひかれる物事は無いわ」

(とは言っても不思議ね。何故こんな魔王四天王会議の真っ最中に?このタイミングで奇襲するなんて無謀なんてレベルじゃないわ)


アヤメは思考を巡らせる。しかし、その思考は存外早く結論に至った。

アヤメはアリアが魔王四天王会議に呼び出されたのを知っている。奇襲は考えずらいなら、アリアを呼び出したのはアリアをここで仕留めるためだという可能性が高い。理由はアヤメが一番理解していた。


「糞ッ!!」

『アヤメ、どうした』

「やられたわ。アリアとアタシが繋がっているのがバレたみたい」

『え!?アリアが何かヘマしたのか!?』

「いや、アリアさんが華の民相手に話し合いでミスをするとは考えずらい。きっとアタシたちが今まで出会った人たちの中に()()()()()()

『・・・裏切り者がいるってことかよ』


サラは見当がないようだが、アヤメは大方予想ができている。

しかし、そんなことは今はどうでもいい。この考えから至るに、アリアは現在魔王四天王の三人と戦っている可能性が高いのだ。幾ら北の神聖王国で名をはせたアリアとて、魔王四天王を複数相手にするのは自殺行為だ。


「アリアさん・・・ッ!!」

『おい、アヤメ!!どこ行く気だ!!』


アヤメは走り出した。

この事態を招いたのは自分が原因だと理解しているからだ。恐らくアリアが負けたとしても、アリアは生かされるだろう。それでも敵に捕まった捕虜がどんな目にあわされるのか、アヤメは学んでいる。

()()()()()()()()()()()()



  -・・・-



「数あるスキルをここまで使いこなす才覚。敵ながら天晴と言えるであろう。認めよう、ヌシは強い。」


インヤンは称賛を放った。本心からだろう。しかし、それに相対してインヤンの身には傷一つついていない。

防戦一方に見えた魔王四天王達だが、勘違いしてはいけない。彼らがまだ一撃も攻撃をまともに食らっていないという事実を。


「・・・動揺を誘うためにシェンマオ様の攻撃を真似したんだけどね」

「クカカッ。確かに驚いたさ。流石に技をコピーされたのは、長い生を受けたアタシでも初めてだった」


シェンマオはケラケラ笑ってアリアの言葉に返した。


「でも、お嬢ちゃんの攻撃は太刀筋から動きの癖まで完璧に再現しすぎるのさ。自身の攻撃はアタシが一番よく知っている。アタシだけではなく、この二人も結果は同じだったろうさ」

「・・・あぁ。俺たちは互いに争い合い高め合った仲だ。貴様程度の紛い物の技が俺たちに通用するわけがない」


アリアが狙いたかったのは意表を突くという一点だ。

しかし彼らは百戦錬磨の華の民。戦いは大小さまざまな想定外の連続であり、戦いに生きる彼らはちょっとやそっての行動では動揺してくれない。

これがアリアとの違いだった。アリアは故郷を出て実戦の場に出てからまだ一年も経過していない。アリアはイクオと同様に経験値の差が大きすぎるのだ。


「故にヌシはウヌらには敵わぬ。来い、アリア。ヌシに足りないものを教えてやる」


シェンマオとズァオスは下がった。静観するつもりなのだ。彼らはインヤンにこの場を任せるつもりなのだ。つまり、この問題はインヤン一人に十分対処可能だと判断されたと言うこと。

アリアにもそれが理解できた。そして悔しかった。


(ああ、まだ私は蛮勇の域を出ないのか)

「・・・一対一に持ち込んだこと、後悔しない事ね!!」


アリアは飛び出した。放つ技は【イェレミエフ流剣術】をベースに、先ほどコピーした【巨神道】を掛け合わせた新たな戦法。即興により組み合わせた新たな複合スキル。

当然未知の流派であり、インヤンは所見での対応を課せられる。


「ッ!!?」

(そんな・・・!?)


しかしインヤンは全てをさばいていた。アリアの剣を握る手や、剣の鍔など、氷魔法の付与が行き届いていない所を器用に撃ち落し、全てを一歩も動かずいなしている。

インヤンの周囲は次々に氷柱が立ち、周囲を氷の世界にしている。にもかかわらず彼は傷どころか、霜一つついていない。


「フン!!!」

「ッ!?」


インヤンはアリアの剣を真剣白刃取りする。ついには魔法の付与された場所にも触れた。アリアの剣はピクリとも動かなくなった。

インヤンは蹴りを放った。呼吸による魔力の吸収も行っていないただの蹴り。それでもアリアは数十メートル先まで吹き飛ばされた。体勢を立て直すためアリアは地面に剣を突き立てブレーキをかける。


「「「うおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」」」


いつの間にか周りには多くの華の民たちが集まっていた。

アリアは膝をついた。観衆の声は耳に入っていない。アリアの集中力は、今まさに迫ってきているインヤンに全て収束されていた。

インヤンは振りかぶる。


「【岩砕鉄】」

「この技・・・」


すでに見たことがある技。


(大丈夫!かわせれる!)


破壊の拳の連撃からなるインヤンの得意技。

受ければ再起不能は免れない。しかし避ければ相手に大きな隙が生まれる。死角をぬった攻撃を放ってくるが、それでも一撃一撃は大振り。アリアはかわせると踏んだ。


「壱掌!!」

身を翻してかわす。


「弐掌!!」

身をよじりスレスレで避ける。


しかし、


「参掌!!」

「えっ!?」


放たれた三発目は、アリアが立っている足場に向けて放たれた。魔王宮広場の中心に凄まじい轟音と共に巨大な亀裂が走る。足場の崩落によりアリアは大きく体勢を崩す。

しかし、目の前には四発目を構えたインヤンが待っていた。


「肆掌!!」

「・・・!」

(ダメだ、回避が追いつかない。負ける・・・)


アリアは悔しかった。

インヤンは手を抜いている。アリアを侮っているわけではなく、全力を出すに至らない存在だと判断されたからである。油断なく、堅実に、そしてアリアを傷めつけ過ぎない具合に手を抜いている。

それが悔しかった。だって・・・


(イクオなら手を抜かれなかっただろうなぁ・・・)









「ぅおりゃああああああああああああああああ!!!!」


アリアの全身全霊の拳がインヤンの破壊の拳とぶつかった。

インヤンは予測できていなかった。まさか真っ向から挑んでくるとは思わなかったのだ。そう考えるのも当然。素の身体能力で負けている上、【身体強化魔法】も遠く及ばない相手なのだ。インヤンの拳に真正面から勝負を挑んで無事でいられるはずがないのだ。


「う、・・・くぅううううううう!!!」


アリアの腕はグシャリと音を上げて潰れる。痛みに唇をかみしめて呻く。それでも捨ててしまいそうになった闘志をもう一度手繰り寄せ、インヤンを懸命ににらむ。


(これはただの拳じゃない!!)

「弐掌ッ!!」

「ぬ!?」


アリアは【岩砕鉄】をコピーした。氷魔法を付与した【氷の岩砕鉄】。インヤンが打ち合った拳から氷が広がっていく。動きを寒さで阻害されたインヤンの腹に、不可視の二発目が深々と食い込む。


「ゴハァ!!・・・ぬう!!」


三、四発目は無かった。今のアリアでは、まだ二発が限度いっぱい。それでもようやくまともな一撃が入った。


「・・・あばらの一本や二本はもっていけたかな?」

「見事だ。氷で動きを阻害されては反応できても避けることはできない」


インヤンは横っ腹を押さえる。膝をつくまでには至らなかった。まだ闘志も萎えてはいない。

シェンマオが声を発した。アリアの拳がインヤンに届いたのをこの目でしっかり見ていたのだ。明らかにえぐい一撃が入った。威力はインヤンから身をもって受けている。あれは一撃でも内臓に影響を及ぼす破壊の拳。


「インヤン!大丈夫か!?」

「フ・・ハ・・ハ。これしきの事」

「無理して動くと折れた骨が肺に刺さるよ。安静にしておくのが利口なんだけど?」

「フ・・ならウヌは利口ではなかったと言うことだ」


構える。そしてお構いなしに息を吸い込む。【気闘法】によって魔力を取り込んでいる。自身の体内で生まれる魔力をチャージするより、大自然に存在する魔力を取り込む方が体への負担が大きい。当然エネルギーの量が違うのだ。

インヤンは血を吐く。それでも直ぐに口を拭って再び呼吸を再開した。


「させない!!」


アリアは再び剣を振るう。

さっきまでとは戦い方が違う。本来の【イェレミエフ流剣術】としての戦い方に戻ったみたいだが、剣が時々地面に触れている。振り上げるとき、振り下ろすときに振り幅を大きくとってワザと地面に触れさせているのだ。


「・・・ッ!!」

「気づいた?でも遅い!」


インヤンはアリアの意図に気付いた。いつの間にか足元に薄い氷が侵食していたのだ。

氷の剣が地面をかすめる度に、その霜は範囲を広げている。インヤンを囲うように。そしてその霜に足が触れれば、自身の身体が足元から凍っていくのだ。


(ぬう・・・これでは【気闘法】の準備が整う前にウヌが氷漬けにされてしまう。ならば!!)

「ハアッ!!!」

「!?」


インヤンは足を踏み鳴らした。地面が陥没し、霜は亀裂に阻まれた。アリアは二度も同じ手は通じまいと跳躍し、後ろへ距離をとる。

インヤンは踏み込んだ足で前へ飛ぶ。踏み込み一つで跳躍しているアリアに接近した。


「スゥーーーーッ セイッ!!!」

「【定まらぬ盾氷(バリアブル・バリア)】ッ!!」


突如としてアリアとインヤンの間に氷の壁が出現する。氷の壁はインヤンの方向におびただしい棘が生えていて、素手で攻撃すればインヤンもダメージが入る。

インヤンはお構いなしに氷の壁を殴り壊した。氷を突き抜けた拳がガード越しに炸裂し、アリアは後方に吹き飛ばされる。


「ガ八ッ!!! ふぅ・・・ふぅ・・・」


血を吹く。アリアの身体はイクオよりは頑丈だが、それでもインヤンの攻撃を何発も受け止めるのは限界がある。口から血を流し、荒く息をする。

グイっと腕で口についた血を拭い取り、インヤンを睨む。


「インヤン。手ぇ貸すか?」

「要らぬ。一人で片を付ける」


四天王はアリアの並々ならぬ闘志に触れた。仮にインヤンを倒したところで、後ろにはまだ二人もの四天王が控えている。以前変わりなくこの絶望的状況は続いているのだ。



「イェレミエフ家の女はぁぁぁああああ 挫けないッ!!!」



闘志揺るがず。彼女は勝つ気でいる。十分な勝算も、決定的な切り札も、現状を打破する手がほとんど残されていない状況だとしても、彼女は剣を握る力を緩めない。


(決して諦めない男の背中を見た。絶望的状況に屈しない男を見た。私はその姿に憧れたんだ!私に足りないのは覚悟だ!いつか・・・いつか・・・!!)


踏み込みに力を入れる。力を入れた足場から亀裂が入り、同時に魔力もアリアの周りで踊り狂うように舞う。彼女が本当にコピーしたいのは闘志だ。かの男のような、決してあきらめない逆境の覚悟。

今のアリアでは足らない。実力じゃなく、資格が足らないのだ。



「イクオの隣で戦えるようにッ!!!」



飛び出した。口元に浮かんでいた笑みは消えている。彼女は全力だ。もはや取り繕ってもいない。今この瞬間を恥も外聞も投げ捨てて縋り付くことだけを考えているのだ。

インヤンは不意に思った。この少女に手を抜くことは無礼だと。その考えにインヤンは従おうとした。


「全力で迎え撃ってやろう。【剛腕無双】と呼ばれたウヌの由来は、今から放つの技から始まった」

「インヤン!?」

「馬鹿野郎ッ!!ソイツを殺す気か!!」


(死んだらそれまでのこと!今この刹那に生きる我々には些細な問題だ!生死の有無の問題など!!)

(死んでから考える!!)


「食らうがいい我が必殺。【鬼神流 奥義】の力を」

「第六のユニークスキル。【解放】ッ!!」


次の一撃で勝敗を決める気だ。インヤンにとって有利だった状況を、インヤンは投げ捨ててアリアと同じ土俵に立ったのだ。

アリアは今まさに最高の一撃をもってインヤンに挑もうとしている。ならばインヤンがとるべき行動もただ一つ。防御をかなぐり捨てて、同じく全身全霊の一撃をもって彼女に報いる事。



「【絶叫羅漢】ッ!!!」

「【私の為の御伽話エピック・オブ・アリア】ッ!!!」



正拳突き。

袈裟斬り。

姿はシンプルだが、エネルギーの違いは今までの戦いとは比較にならない力が発生していた。他の四天王も、集まった華の民たちも、全員が迷いなく防御の姿勢をとった。まともに巻き込まれればただでは済まない。


そう思った。





「・・・不発・・・?」





静寂としていた。轟音も、何らかの倒壊の音も何も聞こえない。

インヤンの全身全霊の拳はいなされていた。

アリアの小世界を内包する一太刀は、上回る魔力でねじ伏せられていた。

中心には誰かがったっている。


ボロボロの服に、痩せこけた体。今にも吹けば倒れそうな弱々しい姿。二人の攻撃を同時にいなしたと言われても信じられない。それでも、目の前の光景はそう表していた。



「アリア。頑張ったな。後は任せろ・・・」



仮面にスカーフ。ボロボロのタイツ。様相が変わっても見間違えるはずがない。

いつも見ていた背中だった。アリアは息をのんだ。



「貴方は・・・イクオじゃない。誰なの?」



アリアは息をのんだ。この男は、誰の目から見ても危険だった。

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