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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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粛清と武闘のティーパーティー



「ふぅ・・・紅茶と言うのも実に素晴らしい。さぞ名の通ったブランドでしょう」


「さあ?そこら辺のを取って淹れました」



優雅なティータイムにしゃれ込む騎士二人。

落ち着いた雰囲気のある女性だ。粛清騎士団の拠点にいると言うことは騎士なのだろうが、服は軍服を彷彿とさせるようなピシッとした制服だ。長く伸びた髪は北の大陸では珍しい黒色だ。

部下に入れさせた紅茶を片手に、一時の休みを満喫していた。



「カグラ様!!」


「どうしたのですか?」


「今、粛清騎士拠点は魔族たちにより襲撃を受けました!!」



『華の民』の脱獄、そして襲撃。同時刻に起きたこの混乱に、ティータイムは突如として終わりを告げた。そしてそれは彼女のスイッチを入れるきっかけでもあり、粛清の始まりでもあった。

ティーカップがガシャンと音を立てて割れる。そして女性騎士の手がフルフルと震えだす。



「罪人が蔓延る・・・嗚呼」


「あの・・・副団長様?」


「切らないと。私が切らないと・・・可哀そうな魔豚どもをひき肉にしてやらないと・・・!ウヒヒヒヒヒヒ♡」



粛清騎士団副団長は今日も元気。




  ー・・・ー




「おらああ!!」

『グオオオオオ!!』



拷問官のオニ―サンだ。オジサンじゃないぞ?

地上は脱獄魔族と襲撃魔族であふれかえっていた。捕らえた魔族たちはことごとく脱走し、脱走した者が隣の牢をこじ開け、さらに隣をこじ開ける。そうやって魔族たちは芋ずる式に脱走していった。

粛清騎士団の拠点はもうてんやわんやだ。



「オッサン!」


「オッサンじゃない!」


「じゃあ四十歳のオニ―サン!」


「それはオッサンじゃねーか!!」


「それより地下牢の者どもが穴掘って脱出したぞ!捜索に割く人員が圧倒的に足りねえ!!」


「クッソ!脱獄と襲撃が全く同時刻に起こるって何の奇跡だ!絶対誰かの策略だろ!!」



(魔族たちはこのような策略を考えるのが下手だ。恐らく魔族側に()()()()()が得意な奴がいる。恐らく人族だ)



「戦争激化に伴って厄介な軍師を引き入れたみたいだな!」


『死ねい騎士公!これでもくらえ!!』


「『東言語』でしゃべりかけてくるな!!この蛮族野郎!!」



四十後半を過ぎた自称オニ―サンは適当な罵倒を吐き捨てて『華の民』の一人に蹴りを入れる。何かと蹴りは腰に負担をかけるので、あまりやりたくない手だそうだ。



「アイツツツッ・・・。とにかく魔族たちを外に出すなよ!どうせ脱獄野郎どもは首をはねるんだ!殺してもいい!!」


「させないよぉ!!」



拷問官のオッサン(オニ―サン)とモブ騎士、さっきまで戦っていた『華の民』もついでに巨大な足に踏みつぶされる。痛めた腰は絶叫をあげて砕け散った。ご愁傷様。

天井を突き破ってきた誰かの足は、そのまま天井の穴に吸い込まれていく。その足は遥か上にあるはずの屋上までつながっていた。

屋上の扉をけ破って入ってきた粛清騎士の男は戦慄する。



「貴様は・・・地下牢にいたはず・・!!」


「クカカッ!アタシは地上組の扇動を任されてんのさぁ」



流暢な『北言語』で話す女性の『華の民』が佇んでいた。粛清騎士が恐れおののく。彼女は魔王四天王の一角だ。



「粛清騎士の坊や。悪いことは言わねえ。ションベンチビラす前に逃げな」


「・・・魔族の女風情が!!なめるなぁあ!!」



種族は巨人。獲物は槍。

魔王四天王が一人『天穿巨神の』ソン シェンマオ

彼女は【固有(ユニーク)スキル】持ちだ。その力の名は【巨人の針と小人の槍(フル・スケール)】。自身の身体を大きく、もしくは小さくする。巨体になればなるほど身体スペックは比例して下がり、小さくなれば逆に力が集中し身体能力が上昇する。

彼女がひとたび能力を解けば、彼女の人間台の身長は巨人の天を衝く巨体に戻る。



「ああああぁぁ・・あ・・・ぁ・・・・デッッッカぁ・・・・・」


「百年早いよ坊や。出直してきな」



かかと落とし。

巨人の超サイズ足。それも【巨人の針と小人の槍(フル・スケール)】によりさらに巨大さを増した巨体の足。究極的な質量を持つ足が、粛清騎士団の拠点を真っ二つに両断する。倒壊する粛清騎士拠点から崩壊に巻き込まれた者の悲鳴が聞こえる。巻き込まれたものなど歯牙にもかけない豪快な巨人の戦いだ。

シェンマオは吼える。



『野郎どもぉぉオオオ!!!トンズラする前に騎士公どもに目にものを見せてやれぇぇエエエ!!!』



『ウオオオオオオオオオ!!!』

『ウオオオオオオオオオ!!!』

『ウオオオオオオオオオ!!!』



「【気闘法】・・・ふぅぅぅぅぅぅ・・・・」



息を吸う。吸い込む空気と共に魔力がシェンマオに収束する。大地を踏みしめ構えをとる。【巨人の針と小人の槍(フル・スケール)】によりさらに肥大化した巨体は、もはや巨人ではなく巨神と呼ぶにふさわしい。圧倒的巨体には迫力があり、一つ構えるだけで人々を圧倒する。


何かのスキルを発揮しようとした瞬間、跳び込んできた何者かに水を差される。



「させませぇぇん」


「んん!?」



一人の少女がシェンマオに衝突した。シェンマオの巨体にものともせず、首に向かって一息で跳び込む。凄まじい脚力だ。

抜かれた刃を手刀で受け止める。



「片刃の剣。アンタ、噂の粛清騎士団の狂戦士だね」


「ウヒヒ!出世して副団長になっちゃいました。マガツカゼ カグラと申します」



粛清騎士団副団長。ピシッとした制服の健康そうな顔をした少女だ。腰には日本刀を引っ提げている。長い髪と目は黒く、爛々と輝くその瞳は一種の狂気を感じさせた。

いや、この際ハッキリ言おう。絶対まともじゃない。



「ひぃ ふぅ みぃ ウヒヒヒヒヒヒヒッ!」



一人二人と『華の民』を指で数える。両手で数えきれないくらいの数を適当に把握した後、カグラはケタケタと不気味に笑う。



「嗚呼、信仰を忘れた哀れな魔豚たち。

祈りなさい。

救いは訪れます。

懺悔なさい。

贖罪は訪れます」


「クッカカカ!!自分が切りたいだけだろ?生憎神に祈った事なんか一度たりともなくてね」


「崇高なイム神様の考えを解さないなんて!なんて罪深い!!」


「アンタどんどん笑顔になっていってるよ」




マガツカゼ カグラ

出自は不明。半年前ほどに粛清騎士団に入団。その後目覚ましい戦果を挙げ続ける。稲妻のごとく出世し、粛清騎士団副団長に登りつめる。実力主義じみたところがある粛清騎士団だからこそこのスピードの出世だが、これが許された理由は勿論実力と武勲だけではない。

彼女は『狂信者』だ。その狂気じみた信仰の信頼があるからこそ、カグラは粛清騎士団の副団長になれたのだ。




「イム神の犬が、アタシの神はアタシだ!!」


「何と言う傲慢!!粛清です!!ウヒヒヒヒヒヒヒ!!」




「カァァ!!!」

【巨神道 無槍 鞭槍】


「天誅っ!!!」

【魔ヶ津神ノ太刀】



手が達人の刀を受け止める。

刀が巨人の手を受け止める。

どちらの攻撃も遜色ない破壊力を有していた。風圧は遥か彼方におよび、両軍のやじ馬は堪らず後方へ吹き飛ばされる。



「クカカカカカカカッ!!!」

「ウヒヒヒヒヒヒヒッ!!!」



シェンマオ、大きく【呼吸】をする。

【気闘法】における溜めの動作である。大気に流れる魔力を吸い上げる、東の大陸独自の戦闘法である。

溜めた魔力は自身の【固有スキル】につぎ込まれた。



「!?・・・巨人の巨体が消ました!?」


「隙ありだよ!!」



巨人の針と小人の槍(フル・スケール)

巨体を縮ませ人族女性の平均サイズになったシェンマオが目の前で構えていた。巨人の身体を見上げていたカグラ。上を向いていたため、シェンマオを一瞬だけ視界の外に置いてしまった。



「【金剛砂掌(コンゴウサショウ)】!!」



腕を鞭のようにしならせる。加速に加速を重ねた腕の先端は平手の型。面に込められたパワーは、華奢な体形をしているカグラをいとも簡単に吹き飛ばした。・・・否。



(打った音が小さいッ!奴め。自分から吹っ飛びやがったな?衝撃が吸収されちゃあの技も効果は薄い)



地面に刀を突きたてる。地面を切り裂き減速し、速度が収まるや否や走り出す。

刀から墨のような魔力があふれる。筆を滑らせたような軌跡となる。弧を描くようにシェンマオに接近し、目にもの速さで通り過ぎる。



「【三光(サンコウ)】!!」



カチンと音を立てて刀を鞘しまう。

一瞬の静寂の後、シェンマオに三つの斬撃が襲い掛かっていた。音は完全に一つだ。超高速の三連撃は最早切られたことすら気づかせない。



「・・・ツゥ!」


(狙ったのは首と背と足。堅いですね。どれも切断するつもりで切ったのですが決定打にならない)

「信仰の刃を受け付けないとは!異端は滅殺しなくては!!」


「納刀は間違いだったんじゃねぇのか!?」


「ッ!!」



カグラは刀を納刀している。今無防備な状態を叩かれたら危ない。カグラはシェンマオに比べて耐久力は高くない。



「獲った!!!」



手刀がカグラの首に目がけて振り下ろされる。

隙をついた一撃。かわせるものではない。シェンマオはこの一瞬に確かに勝利を確信していた。手刀により首を断ち切るイメージが確かにあった。





「・・・・・・・」




そのイメージは一瞥でかき消された。カグラの目線が明らかに冷たく、静かに、鋭く、そして残酷になった。

シェンマオは恐怖した。死の予感ではない。コイツは何か特大な爆弾を抱えている。そう思わせるような恐怖だった。シェンマオは距離をとった。




「・・・・・残念ですがここで終わりです」


「あん?」


「どうやらあの男はこれを視野に入れていたのですね」


「・・・誰のことだい?」


「えー確か・・・ゼノス、でしたっけ」




影に覆われる。ここいら一帯は突然にして、太陽から降り注ぐ陽光が雲に遮られた。

シェンマオはカグラが言っていたことを理解した。ゼノスの考えていた策は、かの男がここを通過することを視野に入れてでの作戦だったのだ。

シェンマオは一つ呟いた。



「・・・魔王か」


「んん?自身の大陸の王様なのに様付けじゃないんですか?魔王四天王を名乗っているではありませんか」


「・・・魔王は『華の民』の矜持を解さない。冷酷に命を奪うだけの災害だ。そんなものに様付けなど必要ないだろ」



魔族は蔑称。魔とは邪なものを表す。故に東の大陸にいる者たちは『華の民』を自称する。我らは『誇りある華の民』である、と。

だと言うのに東の大陸最強格を張る四人が『魔王四天王』を名乗るのは、この大陸の王が邪な者であることを自覚しているからだ。

故に魔王は『華の王』と呼ばれない。魔王に誇りは無い。『魔王四天王』とは、東の大陸の最強格四人の称号でもあり、誇り無き者に仕える裏切り者だという呪いでもあるのだ。



「アタシ達の内の誰かが魔王を打つまでアタシ達は『魔王四天王』のままだ。いずれアイツを殺す。そしてアタシが王になる。誇りある『華の王』として、この大陸に君臨する」


「ふぅん?そっちはそっちで色々大変ですね。ま、精々頑張ってください。粛清すべき魔豚が勝手に喰い合ってくれるなら、それに越したことはありません」


「魔豚言うな。『華の豚』と呼べ」



豚はええんかい。



「無駄話をしている場合ではありませんね。スゥ  総員撤退ッ!!!」


『野郎どもぉぉお!!撤収だぁぁぁアアアア!!!』




【魔王の足跡】

魔王の通った後は荒れ果てた荒野と化す。魔王は移動の際に特殊な魔力を放ち、そのときに発生した磁場は超特大の嵐を巻き起こす。これは魔王の暇つぶしである。暇を持て余した魔王が、おもむろに積み木を崩す子供が如く、環境や生命を破壊しているのだ。悪意を持って襲い掛かる災害。魔王は人々が培ってきた歴史や、大地の美しさや生命の尊さを、事も無げに破壊する。




暴風雨により木々は引き抜かれ、山は土砂崩れで更地となる。

雷が雨のごとく降り注ぎ、豊かな大地は燃え盛る。




粛清騎士団跡地。

最早面影はなかった。山も、川も、木々も、全ては無に化した。荒れ果てた何もない大地が遥か彼方まで広がった。

ゼノスが脱獄作戦を決行していなかったら、囚われていた『華の民』たちは全滅していただろう。粛清騎士団は『華の民』達を置き去りにして逃げていただろうから。




  ~・・・~




「・・・・・・・おのれ魔王め」




前線から帰ってきたゲオルグたちが、更地となった粛清騎士団拠点の跡地を見て立ち尽くしていたことは想像に難しくない。

ぺんぺん草一つも生えない荒れ地に ヒューウ と風が吹いた。




投稿が遅くなりました。

脱獄作戦編はもう少し時間を取りたかったですが、展開を考える度にどうしてもグダりそうになってしまいました。想定より早く切り上げて、ちゃっちゃと先の展開まで進みます。

何はともあれ申し訳ない。

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