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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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火事場の脱獄犯ども



「どうだ兄弟(イクオ)。何とか書けそうか?」


「もうちょい待て兄弟(ゼノス)。手錠が邪魔で本調子じゃねーんだ。もう少し我慢しててくれ」



牢獄の中で二人は肩車をしていた。ゼノスが土台になり、イクオが上で何かをやっている。ここの天井はゼノスの肩にイクオが立てればギリギリ手が届く高さだ。イクオは石でできた天井に爪を立て、文字を書き込んでいた。【スクリプト・ボム】だ。



「なあ兄弟(イクオ)。これ本当に効果あるのか?こんな魔力も感じないただの文字が爆発するとはとても思えん」


「そこは悪いが信じてくれ」



看守のコツコツと響く足音が近づいてきた。



(オイッ!看守が近づいてきたぞ!)

(待てよ兄弟(ゼノス)!この体勢で無理に下すのは危ない・・・って、うおぉ!!)



ドシィンッ!!



「んんん?何かやってるのか?」



イクオとゼノスの収容されている檻に顔をのぞかせる。

中には正座した二人がニッコリ笑顔で看守を見ていた。



「・・・やあ!どうかしたか?」

「俺たちなーんにも怪しいことなんざしてねーぜ?」


「そ、そうか?」


(馬鹿!兄弟!それじゃ逆に怪しまれるだろ!)

(こういわねーと面白くなんねーだろ!)


「何コソコソ会話してるんだ?」


「「いえっ?なぁーんにも♡」」



コツコツと足音が去っていく。

数日に分けてバレない様に準備してきた。こんなところでバレて努力が水の泡じゃ話にならない。

二人は肩の力を抜く。



「ふう。あぶねーあぶねー」


「バレるところだったぜ。まったく、ちゃんとしてくれよ兄弟(イクオ)


「へーへー。悪うござんした。よしっ!再開だ」



もう一度繰り返そうとゼノスがしゃがむ。すると地面に何か落ちてるのに気づいた。

袋に入れられた四角い物体だ。パラりと開いてみると、中から金属でできたキューブが出てきた。



「・・・・・何だこれ」


「あぁ?俺にもよくわかんねーんだよ。あとあまり袋から出してくれるなよ?」

(包む袋に【スクリプト・魔力遮断】をつけてるから包んでいるうちは大丈夫だけど、そうでなかったら【魔力感知】でバレかねん)


「ふーん?旧遺物か」


「だな。返してくれ。仮面の裏に入れる」


「そうやって持ち込んだのか。存外ざるだな」


(仮面外したら【イケメン】が発動するって脅したからな)



ゼノスはイクオにキューブを返却した。

イクオは袋に包み仮面と顔の間にキューブを入れる。【魔力遮断】効果持ちの全身タイツは没収された。今持っているまともに持ち物を隠せるアイテムがこれしかないのだ。仮面と顔の間をゴツゴツして鬱陶しいが、今は我慢する。



  ~・・・~



ゼノスの脱獄大作戦


①東の国と協力関係のゼノスが、ワザと捕まって内部で裏工作しまくる。

②待機していた『華の民』の軍が、既定の時間に第二拠点を襲撃する。

③イクオの【スクリプト】で檻を破壊させ、囚人たちも暴れまわる。内と外で粛清騎士団を翻弄する。

④実は陽動で、本命の地下牢組は地下をそのまま通って脱出。


この作戦の条件として、ゲオルグがいないことが大前提だ。ゲオルグが別の戦場にいて、第二拠点に留守の状態でなければこの計画は成立しない。奴がいるだけで真っ当な作戦は歯が立たない。



「・・・完了かー?」


「おうさ。ここまで掘れば何とかなる」



今度はゼノスの下準備だ。ゼノスは部屋の端っこにある小さな穴に腕を突っ込んで【土魔法】を発動させていた。石の壁越しでは【土魔法】は発動しない。部屋に穴をあけてそこに手を突っ込んで土に触れる。そのことでゼノスは魔法を発動させていた。

その間イクオはゼノスに【スクリプト・魔力遮断】を押し付けて魔法の行使をバレにくくしていた。



「【土魔法】はトンネル堀に最適だなー。便利なもんだ」


「【魔力行使阻害の手錠】があるから採用できないと思っていた手だった。兄弟(イクオ)の【演算魔法】のお陰だ」


「俺の魔力で【手錠】の魔力システムを解析できたからな。効果打ち消すことに成功したのはデカかったな。その分手間はかかるけど」


「それでも十分なおつりがくるさ。魔法が使える使えないでは大きく違う」



イクオとゼノスの脱獄準備は一週間で達成された。元々他にも脱出経路は用意されていたらしいが、イクオの登場でできることが大幅に増えたらしい。


設置に魔力が不要な魔法爆弾。

魔力遮断効果の付与。

演算魔法の解析能力。

そして石っころに演算魔法をかけた通信機。


魔法も連絡手段も何もできない状態で脱獄を計画していたのだから、寧ろゼノスの行動力と発想が凄いようなものなのでが、イクオの登場がもたらしたメリットは凄まじかった。この手の下準備には便利すぎる能力が揃いも揃いまくっていたのだ。



(毎度思うが俺の【演算魔法】の通信機能って何だろうな。演算と通信って畑が違う気がするんだが何故かあまり考えなくても通信機作れるんだよな)

「お?完了したな。中々時間かけたなー」


「まあ色んなところに設置していたらしいからな」


「おう。部屋を移動するときの往復時、廊下に一文字ずつバレない様に刻んだりな」



この一週間、何も大人しく捕まったままでいるほどイクオは静かな人間ではない。拷問を受けている期間中も、イクオとゼノスは着々と準備を進めていた。



兄弟(イクオ)が仕掛けてくれたこの囚人服の裏の文字。これに魔力を流し続ける事で魔力を遮断できるんだよな?」


「おう。【魔力感知】に引っかからないだけで【感知魔法】には簡単に引っかかるから、そこは間違えんなよ?」


「わかってるわかってるっ」



【魔力感知】は対象となる生物や無生物の魔力を感じ取るが、【感知魔法】は体温や電気を感じ取る。

いかにイクオが魔力を遮断しようと、体温や体臭といったもの自体は消せないのだ。



「この技術は大事にしろよ兄弟(イクオ)。広めちゃいけねえぞ?」


「了解だ。今はこんな状況だからお前に教えたが、お前も言いふらしたりすんじゃねーぞ?兄弟(ゼノス)



「・・・・・ッ!」



ゼノスは唐突に天井を見る。いや、正確には天井の先にある地上の人々に目を向ける。ゼノスは足早に部屋の壁に近づき、耳を当てる。ゼノスは生来耳がいいのだ。



「戦場に赴くのか・・・?それにしては焦りが目立つ」



話し声が慌ただしく、金属音がけたたましく響く。恐らくこの金属音は鉄製の『武器』。武器を持った粛清騎士たちが外へ走っていく。

出撃ではない。



「襲撃を受けてんのか?」



待ちに待った脱獄のチャンス。という話ではどうも終わらないようだ。二人の顔には焦りや疑問と言った表情が浮かんでいる。

ゼノスは舌打ちすると話し出す。



「規定時間と違う!明らかに早すぎる!!本来はこれより十時間後だ!!」


兄弟(ゼノス)!!」


「ああ。予定とはずいぶんと違うが仕方ねえ!!」



イクオとゼノスは顔を見合わせる。まったく同じタイミングでコクリと頷くと、イクオは天井に向けて跳躍する。そしてゼノスはほかに捕らえられている囚人の魔族たちに向かって『東言語』で叫ぶ。




『全員『気』を込めろぉおお!!』




『ウオオオオオオオオオ!!』

『オオオオオオオオオオ!!』

『オオオオオオオオオオ!!』



あるものは天井に、あるものは壁に向かって魔力を込める。壁にはイクオが書き渡した【スクリプト】の紙が張り付けてある。流し込まれた魔力に反応し、【スクリプト】は次々に光り輝きだす。

【スクリプト・ボム】は発現する。




「脱獄チャンス到来だぁーぁぁあああ!!」




『華の民』達は【スクリプト】で開けた風穴に一斉に跳び込んだ。爆発でできた穴はゼノスの【土魔法】で造り出した空間と繋がっており、ゼノスお手製の地下トンネルで集合できる。『華の民』は走り出した。

ゼノスはイクオ仕込みの通信機に魔力を込める。地上の檻につながっている『華の民』達に連絡を取る。



『聞こえているか!?』


『ゼノス殿!?聞こえている!!』


『予定変更だ。【スクリプト】で檻を破壊しろ。今すぐ作戦を開始する!このことを地上の檻にいる『華の民』達に通達してくれ!』


『了解した!!』


『こっちはこっちで手が詰まりそうだ!地上の扇動と誘導はお前に任せる!!』



兄弟(ゼノス)!!まだか!?」


「通話完了だぜ兄弟(イクオ)!!今すぐにでも行ける!!」



ゼノスも天井にあけた穴に、イクオの肩を借りて跳び込む。イクオも【跳躍】で後を追った。



「地下から爆発が聞こえたぞ!!」

「囚人たちはいるかあ!?」



後にやってきた看守たちは、もぬけの殻となった魔族たちの牢屋を見て立ちすくんだ。ここにはとてつもない凶悪な魔族が収容されているのだ。

その中には、かの『魔王四天王』も含まれているのだ。



  -・・・-



兄弟(ゼノス)!このトンネルどんどん地下に進んでいってるが大丈夫か!?」


「大丈夫だ。ところでイクオ。地上ではここが何処かわかるか?」


「は?えーと・・・北の大陸と東の大陸を繋ぐ大地の近くだ」


「ふむ・・・七十点だな」



脱獄のために全力ダッシュしている最中だが、ふとした不安からイクオはゼノスに質問した。当然だ。地上に向かわずいつまでも地下に進んだらマズいことが起きる。


酸素だ。

追っ手を撒くために来た道は【土魔法】で塞いでしまった。魔法でトンネルを掘りながら進んでいる以上、ここは何時までも密室だ。ここで大量の時間をかけることはできない。空間内の酸素が枯渇して窒息してしまう。

ゼノスはイクオの問いの答えの続きを話し続ける。



「北と東の大陸の繋ぎ目まではいい線だが、もう少し詳しく言おう。『戦線高速路上フロントライン・ハイウェイ』の近くだ」


「ほーぉ?その表記の違いに何か意味があるのか?」


「ギャハハッ!兄弟(イクオ)。それが実は大問題なんだ」



ゼノスは【土魔法】でトンネルを掘りながらイクオに解説する。見事な並列作業だ。別段作業効率を落とすこともなく、ゼノスは饒舌そうな口を開いた。



「道路が多いってことは、旧人類の時代ではここはもっぱら移動用の道として使われていたことを意味する。ここ『戦線高速路上フロントライン・ハイウェイ』では、住宅らしき建物は何一つ見当たらない」


「見るだに高速道路だしな」


「高速道路・・・が何かはいまいちわからんがな。とにもかくにも、超絶栄えた『旧文明』が、何も移動用の道を地上だけに作るなんて規模が小さいと思わないか?」



イクオは何かひらめいた。しかし、ひらめいたものを口に出すより早く、ゼノス達脱獄者一行は目的地にたどり着いた。

ゼノスの掘り進めていたトンネルは、別の空間に開通する。ガラガラと音を立てて崩落する瓦礫に乗り、脱獄者たちはトンネルと繋がった空間に降り立った。



「な?」



この空間には空気が満ちている。それなりの大きさで、ゼノスの作り出した急増のトンネルとは段違いに整備されているトンネルだった。風化具合から、これは『旧人類の文明』に建てられたものなのだろう。


この大陸の架け橋を繋ぐ道は何も高速道路だけではない。



「おーぅ・・・まさか『旧人類の地下鉄』にトンネルを繋げるとは・・・」



ゼノスの作り出した急増のトンネルは、地下鉄につながった。脱獄者たちは再び逃亡の為、地下鉄の線路の上を走り出した。




ゼノスは人族です。魔族(華の民)でもないのにこんなところに捕まっているのは訳があります。ただ、東の大陸で『華の民』の軍を動かす権力を持っているのは明らかですね。

ちなみに人族ってだけで、種族が普通の人間って訳ではないです。いったい何の種族なんでしょう。

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