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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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囚われの仮面全身タイツ



北の神聖王国の第二拠点。北の大陸に位置しているが東の大陸よりの場所で、気候も寒さは落ち着いている。【風避けの護符】が無くても十分生活できる場所に建てられてある。

粛清騎士団の居城である。


  -粛清騎士団 第二拠点-


しかしこの名は仮初めのようなもの。実際には拠点と呼ばれるような場所は、この建物の四割を満たない。残りの六割は、ほとんどが魔族を収容する檻なのだ。ここは北の神聖王国過激派の特別施設にして、魔族専用の監獄でもあるのだ。


そんな場所にイクオは閉じ込められていた。魔族ではないが、相当な罪をやらかしたのなら、人族だって収容していた。



なお、イクオが捕らえられてから、早くも一週間の時間が経過していた。




「・・・んあ?・・・・ふあぁ~・・・・」


「オイ・・・」


「んん?・・・オハヨ」


「オハヨじゃねえブサワ イクオ。何拷問中に寝てんだ」


「いや・・何か最近眠くってさ。スゲー眠気が止まんねーんだよ・・・」



特別情報収集室。

カッコいい名前をしているが、実態はただの拷問部屋だ。捕らえた者たちを傷つけ、情報を収集する。現在イクオは鎖でつながれ鞭打ちの刑を受けていた。



「いい加減情報を吐け。お前の相手をするのも疲れてきたんだ」


「そう言うなよ無精ひげ拷問官のおっちゃん。俺たちの中だろー?」


「どんな中だよ」


シュッ

バチーンッ!!


「イテーッ!!拷問し、される中。て、鞭打ってまで話させんなよ恥ずかしい!」


「照れるところ絶対に間違ってるから!」



毎日拷問を受けているから妙な顔なじみになってしまった。

鞭で打っても、水攻めしても、火であぶっても、イクオはアリアの居場所を一切はかないから拷問官も半分諦めているのだ。適当な拷問で仕事を済ませようとしているうちに、イクオと談笑する程度には仲が良くなってしまった。



「おっちゃん魔族に拷問するときは殺気立ってるのに俺だと適当じゃねーか?」


「俺の憎しみの対象は魔族だけだ。別に憎くもない相手に鞭打って楽しいわけねえだろ」


「魔族だと楽しいのね」


シュッ

バチーンッ!!


「アイテーッ!!」※本来は「アイテ」じゃ済まない激痛のはずです。


「ああ楽しいさ」


「イテテテテテ・・・・じゃあ俺がアリアを攫った事についてはどーよ。憎いとか許せねーとか思わねーの?」


「んん?そうだなあ」



ちょっと間を置く。難しそうに、と言うほど険しい表情ではないが、軽く思考するみたいに簡単に考える。



「長らく拷問官やってて生物の負の感情に敏感になっちまった。アリア様は退屈してなさっていたんだ」


「ほお?」



この男、割と鋭い。



「つまりアリア様は自分の意思でお前に付いていった。違うか?」


「はて何のことやら?」


シュッ

バチーンッ!!


「はい嘘ですカッコつけましたー!!痛いからやめてくださいー!!」


「お前絶対楽しんで拷問受けてるだろ!?」


「お前こそ天性のドSだよ!!」


シュッ

バチーンッ!!


「凄くイタイッ!!」




  ~数時間後~




「あぁ・・・眠い・・・・」



イクオは最近、謎の眠気に襲われていた。

拷問中ですら眠くなるのだ。自分の体に何かしらの変化、あるいは影響が及ぼされているか、イクオは想像していた。とにもかくにもこの尋常じゃない眠気にイクオは苦労していた。

現在は他の収容者と仲良く鎖でつながれて移動中だ。



「あの、眠そうですね・・・」


「お?お前『北言語』が話せんのか!?」



縦に並んだ列のイクオの一つ後ろにいる魔族が話しかけてきた。

随分と肌白い。髪も色白で、全体的にどうも白っぽかった。しかしそれ以外に特にこれと言った特徴は見られない。魔族にしては随分とシンプルな見た目だった。あと目が細くて瞳が見えない。



「お前、何の魔族だ?」


「!? 魔族とは呼ばないでください!魔族は蔑称です!魔なる族なんてとんでもない!誇りある『華の民』と呼んでください!!」


「うお!?悪い!まだ呼び方に慣れてねーから大目に見てくれ」

(言い返していくあたり、見た目はひょろひょろだが芯は強そうだな。魔族・・・おっと『華の民』としての誇りは本物だな。この女の子・・・・おんなのこ・・・・?)



男の娘である。



「で、何の『華の民』なんだ?」


「あ、しまった。・・・・ひ・・・人族です・・・」


(もうおせーよ)



割とアホの子なのかもしれない。

わけあって『華の民』であることを隠しておきたいらしい。まあ監獄なんてところで他人の隠したい事情を掘り起こすのも嫌な話なので、イクオは感情も読まずに無視してあげた。

『華の民』の男(の娘)は話をそらそうと話題を元に戻す。



「そんなことより眠そうでしたが、大丈夫なんですか?」


「んあ?うーーん割と大丈夫じゃないかもしれん。起きてて目が覚めてる時間帯が約4時間30分。眠くなって寝る時間帯が約2時間48分。これを一日中ずーっと繰り返してる。随分と生活リズムが変だ」


「結構具体的な時間ですね」


「こういう性分なんだ」

(ホントは【演算魔法】の練習なんだがな。説明もめんどくせーし、こう思わせとこう)



鎖でつながれた囚人たちはそれぞれの牢屋に移動される。拷問による情報収集室からいったんは解放されて、自身の牢屋に戻されようとしている時だ。

部屋の移動の際に、イクオは看守にバレない様にちょっとだけ足の爪で床に傷をつけた。



「どうかしました?」


「いんやー?なんでも」

(こうやって移動してる際に、一本ずつ線を継ぎ足して文字にしてんだよ。【スクリプト】をジワジワ設置していって脱獄の準備を進めてんだ)



当然ずっと捕まっている気なんてサラサラないので、イクオはこうして着々と脱獄の下準備を人知れず整えていた。

なお、脱獄未遂の刑罰は死刑。流石は粛清騎士団。容赦がない。



「名前、何ですか?」


「んー?」


「あ、いえ、すみません。迷惑でしたらいいんですけど」



急に内気になって謝りだした。

そっちの気はないイクオだが、少しだけカワイイなんて思ってしまった。



(コイツ男だよな。少なくともアリアよりは色気あるぞ。アリア見た目は奇麗だけど中身が蛮族だからな。いや、そこが好きなんですけどー)




  -・・・-



「へっ・・・くしゅん!!」


『アリアさん?どうしたんすか?』※東言語


『いや?何でもないよー』



(・・・何か馬鹿にされた気がした・・・?)



  -・・・-



「あの?」


「ん?ああすまん。勝手に脳内で惚気てた」


「恋人いるんですか!?」


「いーだろー」



恋人ではない。



「俺は部沢 郁男(ブサワ イクオ)お前は?」


「僕はレイ シンユエ。またどこかで会いましょう」


「おう。お互い生きてたらいいな!」


「え、縁起でもないこと言わないでくださいよ」



謎多き男の娘と、監獄で顔なじみになった。

今後何かしらの接点があるかもしれない。運が良ければこの監獄から脱出できるかもしれない。そうなれば外で彼と再び出会うことができよう。



  -・・・-



「入れ」



牢屋の中に叩き込まれる。

ここは地下牢。割と尋常じゃない罪をやらかした者や、東の国でお偉いさんだったりして情報を多く持っている者などが収容される。重要度の高い囚人が入る場所だ。

『国家転覆罪』は当然のように『尋常じゃない罪』に該当した。



「あー痛かった。(マル)ッ!」


『ガハハッ!!また派手にやられたな兄弟!!』

『さっさと仲間の居場所を言っちまえばいいのに!!』

『お前の拷問が俺たちの中で一番しんどいんだ!よくやるぜ兄弟!!』


「ワッハッハ!!何言ってのか知らんが取り合えず笑っとけ!!」


『相変わらず『東言語』通じねえのは不便だな兄弟!!』

『ガハハハハ!!』


「ワッハッハ!!」



周りで野次を飛ばしているのも、名を大陸に轟かせた傑物どもだ。地下牢行きなものだからなかなかの顔ぶれだ。そこんじょそこらの騎士では相手にならない実力者だろう。

彼らもまた粛清騎士の拷問を受け、仲間の情報を吐かせようとされている。



「早く仲間の情報を話して楽になれってよ」


「お、通訳サンキュ!!」



イクオの牢屋に同席しているこの男はゼノス・ベルベット。

この独房には珍しい人族の収容者だ。何をやらかしてこの檻に閉じ込められているのかは聞いたらぼかされた。不敵に笑う男だが、イクオと打ち解けるのは早かった。

ちなみにイクオが話せるのは『北言語』だけで『東言語』は喋れない。何か言う度に通訳が必要になってまいってる。両方の言語が理解できるゼノスはもっぱら通訳係だ。



「話せっつったってお前らも仲間は売ってねーだろ!!」

『お前らも話してねーんだろってよ』※ゼノスによる通訳


『おうよ当たり前よぉ!!』

『俺たち『誇りある華の民』!!』

『仲間を売り、誇りを汚すようなことなど死んだとしてもしないのさ!!』



この単細胞馬鹿どもはどうもイクオと波長が合うのだ。『ロマン主義者イクオ』と『誇りを尊ぶ華の民』は、なんだかんだ言って似た者同士みたいだ。どちらもロマンを追い求めるのだから。

向かい合う側の檻や、隣側の檻から愉快に談笑する。同席のゼノスからも話しかけられる。



「おい兄弟。今日の傷は控えめだな」


「んん?あー何か火炙りでも効果が薄いって判断されたらしい。拷問官もめんどくさくなってやる気出してねーのよ』


「ギャハハッ!魔族ってのは大体バカばっかだが、アンタも大概イカレてるな!」



ゼノスは『北言語』が通じないことをいいことに、アッサリと『華の民』の蔑称を口にする。



「ワッハッハ!仲間の位置なんざ知らねーんだからしょうがねー!!知らねーってのは何にも勝る口封じだぜ!!」


「ぶっは!!」


「それに、拷問体験は前世じゃ経験なかったからな!!これも異世界社会見学の嗜みよー!!」


「ギャッハッハ!!一ミリも理解できんね!」

「ワッハッハ!!」



異世界への適応力が異常なイクオは、拷問の日々にも存外ストレスなく耐えていた。やっぱりイクオは頭がおかしい。



「拷問以上に空腹がキツイな。北の連中は蓄えがねー」※通訳済み


『あぁ。故郷の飯が恋しいぜ』

『あれがたらふく食えたらいいんだがなぁ』


「東の大陸の飯は美味いんだって?」


『おうよ!!』

『全大陸一だぜ!』

『ここを抜け出せたら食わせてやるよ兄弟!!』


「おー!!楽しみにしてるぜ!!ワッハッハ!!」


「テメーら話しすぎだ!!通訳の気持ちにもなりやがれ!!」



ドロドロの何とも言えない流体物質を手掴みで口の中に放り込む。食感、味、ともに最悪。腹も膨れない。ぶっちゃけ鞭で打たれるよりイクオにはこれがしんどかった。



ゼノスとレイとの出会いです。

割とこの先の展開で重要になっていくエンカウントです。


レイに関してはこの作品においてトップクラスにあざといキャラクターになりそう・・・男の娘って強い。

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