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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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『剣聖』断罪の騎士

東の大陸編に入ったばっかだけど、もう少しだけ北の大陸系統の騒動が続きそうです。






『剣聖』

それは神聖王国最強の者に贈られる称号、という簡単なものではない。『至高の三騎士』とは別で、()()()()()()()()()()()()()にのみ贈られる特別な称号。実力が伴っていなければ、それが北最強であったとしても『剣聖』とは呼ばれない。


『剣聖』には抑止力以上の意味と重みがある。

かのクリスティアラでさえ、『剣聖』とは呼ばれなかった。ゲオルグ・イェレミエフは実に200年ぶりの『剣聖』だった。



『剣聖』ゲオルグ・イェレミエフ。

二十歳後半で、身長は190を超える。目が隠れ口が見えるヘルムを被っているが、顔の一部だけでも傷だらけの素顔が想像できる。背に背負った聖剣は巨大で、内包する魔力はレチタティーヴォの聖剣とは比較にならない。それは所有者が聖剣を真に使いこなしているという表れだ。

そして、まごうことなき神聖王国最強の男。


【イェレミエフ流剣術Lv96】




  -・・・-




「【跳躍】ダ―――――ッッッシュ!!!」


「・・・・・」



ゲオルグの周りを走る。


ここは北と東の大陸の境界。

旧人類は大陸間の移動のためにここに大量の道路を建てた。朽ち、苔むした高速道路が上に下に交差する。


姿を視認させるわけにはいかない。ゲオルグが少し本気で剣を振るえば、イクオはそれだけで即死する。



「遅い」


「え、ちょっ!?」



ゲオルグは一歩でイクオとの距離を詰める。タイミングを合わせて上手く接近したのではない。単純にゲオルグの一歩が、イクオのスピードを上回ったのだ。



「【イェレミエフ流剣術・神聖魔法剣術 複合スキル】・・・・!」



(保有魔力量125,800・・・13万・・14万・・・どんどん上がる!あーもう計算したくねえー!!)



「【偉大なる誓の十字(グランド・クロス) 三連(トロィエ)】ッ!!!」



「ワッハッハ!!バーカバーカ(泣)!!!」



炸裂する光の十字。レチタティーヴォの【グランド・クロス】の様なまばらな十字の集合体ではない。ほぼ同時の連撃をもって一撃とする完璧完全なる真の【グランド・クロス】・・・


の三連撃。


この劣化版でさえイクオは何度も死にかけたのだ。【集中】【演算魔法】をフル起動させても回避には程遠い。体中を切り刻まれ、急所を外すこともかなわず、大半を直撃する。



「ごっはぁあ!!?」


「ほう?生きているのか・・・」



(手加減してくれたお陰でな!俺を絶望させようって口だな!?そうはいくか!!)

「・・・クソッ!口から出せねーや・・・・」



本来はここで啖呵を出せるイクオだが、喉の奥で出そうになった悪態を飲み込んでしまった。

まともな死の恐怖では屈しないイクオだが、それでもゲオルグには恐れていた。死の恐怖ではない。圧倒的な実力の差。イクオはそれほどにまでこの男の力の強大さにのまれていた。



「先ほどの攻撃で貴様は二度死んでいる。一撃はやりおおせただろうが、残り二つは直撃だ」


(知ってるよそんなこと!!)

「クッ・・・!」



「今まで『執行』や『法』と戦ってきただろうが、かのような弱者にしか相手にされなかったのは幸運だったな」


(じゃかましい!!レチタティーヴォもアンジェもチョー強かったわ!!お前みたいなバケモンと比べんな!!)

「ウググ・・・!!」



「だが運の尽きだ。貴様はここで『断罪』する。『剣聖』と『断罪の騎士』の二つの名において」


(やれるもんならやってみやがれーぇ!!)

「ぬ・・グ・・・・お・・・・・・」



あのロマン主義のイクオが発言できない。イクオはロマンの為なら命さえ危険にさらす狂人だ。それが恐怖で口を開けない。



(ぬうあああ!!俺が好きに発言できないなんて初めてだ!!しっかりしろビビり!!ここで喚かなきゃ俺じゃねー!!)


「知るかボケーえ!!やってみやがれぇーぇぇぇええええ!!」


「っ!!?」



及び腰だったイクオの気合に再び火がともる。なけなしの灯を必死に息を吹きかけて蘇らせる。ゲオルグも敵対した人間に啖呵を切られたのは久しぶりだった。



(度胸と根性でここまで登りつめたんだ!それさえ消えりゃ俺には何も残らねー!!捨てるわけにはいかねーんだよ!!)


「いいか粛清騎士ども、よく見て、よく聞いて、よく感じやがれ!!」



啖呵で息を吹き返す。

押しつぶれそうな恐怖も根性でねじ伏せ、震える拳を気合で握りつぶす。



「俺は異世界のイケメン仮面!!ブサワ イクオだ!!覚えとけー!!」



ビビっているのに変わりはない。だが、それをはねのけてこそイクオだ。

神聖王国№1ゲオルグに、命知らずにも大口で発現する。



「利口な発言とは思えん。ただの蛮勇だ」



【グレーテスト・クロス】

超巨大な十字斬撃。イクオは手のひらを向けて構える。手のひらにあるものは【スクリプト】の書かれた紙だ。



(逃げて逃げて逃げてっ!もう十分だ!!やられてばっかじゃ性に合わねー!コンマ0.01秒の誤差が死を招こうと知った事か!この一撃はあえて避けねー!!)


「【スクリプト・魔力屈折】!!北の大陸移動中に編み出した俺の新文字魔法だ!!」



魔力を込めて魔力の軌道をずらす。レチタティーヴォ戦をヒントに、それに特化させるように作ったイクオの新たな文字魔法。【スクリプト・魔力屈折】。

『強大な魔力の指向性をいじるのに、強大な魔力は必要ない』。それは最早イクオの謳い文句だ。


朽ちた高速道路のアスファルトを削り飛ばし、巨大な斬撃はイクオに目がけて突き進む。イクオは自分の数十人分の体力(ヒットポイント)を余裕で全て消し飛ばせそうなエネルギーの斬撃に、一歩も引かずに立ち向かった。



「どぅrrrrうらっっ!!!」



体半分がゲオルグの一撃に巻き込まれる。それでも顔と首は守り切った。擦れ擦れのところで回避し、死に至るダメージだけは避けた。



「ゴハッ!!」


「・・・・っ!」


「ワッハッハ・・・ようやく驚いた顔見せやがったな?・・・・・ゴフッコホ!!ゼーッ・・ゼーッ・・・」



命に別状はない。しかしまともに動けるような傷じゃない。この男はもう既に負けたも同然な傷だ。しかし、イクオの気迫は上がっている。死の間際に近づくにつれてイクオの気持ちは高ぶっていく。

虚勢を張るイクオに対し、その不気味さを感じ取ったゲオルグは思考する。



(・・・避けた方が確実だった。しかしコイツはわざわざ意地のために命を懸けたのか。

命の危機を何度も潜り抜けてきたのか?それとも命懸けに抵抗がない?前者なら問題は無い。後者は死にたがりなだけだ。しかし両方だとしたら・・・)


「・・・危険だ」



世界樹然り、魔力は感情の激しいものに味方しがちだ。危機的状況による感情の爆発は魔力の上昇に拍車をかける。命の危機ならその上昇率は計り知れない。



(見たところこの男の素質は平凡の域を出ない。しかし、窮地は才能の壁を乗り越える。このままコイツが死の間際を経験し続ければ、いずれは我々の脅威になりうる。危機となる前にここで潰すのが最善)

「・・・・・アリアの居場所を吐かせる」


(吐かせたらその時点で処分する。なーんて考えてんだろうな。【演算魔法】でお前の魂胆なんざ丸わかりだ!)

「来いよゲオルグ。妹を取り返してみやがれ」



左半身はズタズタだ。右手を前に挙げて挑発する。左手左足はもう使い物にならない。【跳躍】ダッシュは使えない。



「右足で十分だ!!」



【演算魔法】起動。それに加え【集中】スキルで並列演算する。

ゲオルグの思考。魔力量の変化。騎士たちの数と配置。自身のスキルに割く魔力配分。脱出ルート。

五つ程度なら何の狂いもなく並列的に思考できる。



「着火だ!!」

【スクリプト・ボム】



場所はゲオルグではなく、その前方。イクオとゲオルグの間の地点。

用意された大量の【ボム】を全て起動させ、巨大な爆発を巻き起こさせる。当然ダメージ目的ではない。意図的に外して煙幕を張ったのだ。



【魔力感知】

「・・・・馬鹿なっ!?」



(ワッハッハ!!【スクリプト・魔力遮断】だ!!魔力を完全にシャットアウトして隠れることができるのは世界で俺だけだ!!・・・多分!!)



魔力を消すことは不可能である。という常識を利用したイクオの一発芸。これを使えば大抵の者は意表を突かれる。アンジェリーナはこれに翻弄され、見事に一杯食わされた。

だが、ゲオルグはそうはいかない。



(戦場は予想外の連続だ。確かに驚いたが、これしきで我の意表をつけると思ったのなら嘗められたものだ。魔力が見えんなら見えんなりのやり方がある)


「全員伏せろ!!」

【千乱飛剣・滅】



一糸乱れぬ連携で、粛清騎士たちは一斉に伏せる。背中に掠るギリギリの範囲を斬撃の波が押し寄せた。

斬撃の密度は最早壁。360度、上空も含め斬撃の空間が射程範囲を埋め尽くす。イクオの本調子の【跳躍】だろうと簡単に飲み込める範囲だ。



(四方は騎士たちが包囲している。ならば上空へ【跳躍】して逃げるしかあるまい・・・)



入り込めば八つ裂きでは済まない斬撃の波。上空にいたのならイクオは逃げ遅れていただろう。

しかしイクオには【マインド・パーセプション】という感情を読み取る魔法がある。



(「上空しか逃げれん」とか考えてんのは分かってる。かわし方もお前が言ってくれたのが答えだ!)



イクオは最初から跳んではいない。

ゲオルグが「伏せろ」と言ったタイミングでイクオも伏せてやり過ごしたのだ。粛清騎士団の配置と脱出ルートは演算済みだ。騎士団の陰に紛れて逃げればイクオは難なく脱出できる。



(自信満々に『上空に逃げる』と思ってたもんな!このタイミングならゲオルグは油断する!逃げるなら今!!あばよ『断罪の騎士』!!)



イクオは騎士たちの包囲を潜り抜けようと、伏せて視界が狭まった騎士たちの間を潜り抜けようとする。






「つまり貴様は最初から跳んでなどいない。と言うことだ」






「なッ!?」



イクオが走り出した先にはゲオルグが立っていた。



「は!?何で・・・お前は・・・・・」


「上空に逃げると思っていただろう、と?」


「っ!?」



ゲオルグは【魔力感知】を応用してイクオの【マインド・パーセプション】を逆探知した。イクオが感情を読めると理解したゲオルグは、『上空に逃げるしか無かろう』という()()()()をイクオに送り込み、見事イクオを操ったのだ。

つまり【千乱飛剣・滅】はデコイ。イクオの思考の先の先を読み、ゲオルグはイクオの行く手を先回りしていたのだ。



(まさか感情を読める【演算魔法】を持つ俺が読み負けるとは・・・!)



「貴様は感情を読めるみたいだが、嘘の思考にまんまと食らいついたな」


「ば・・バレてるし・・・!」


(読み合い化かし合いは俺の独壇場だと思っていた。思考を読めるということをアドバンテージに思い込みすぎた!まさか利用されるとは・・・!)



力、スピードは言うまでもない。肉体スペック的な格上とはイクオは何度も何度も戦ってきた。それ自体は経験してきた。

しかし、ゲオルグは心理戦でも格上だ。今まで自分が利用していた長所でも上を行かれた。



(いや、こいつほどの実力があれば、粛清騎士たちを下がらせてあの【千乱飛剣・滅】で俺を瀕死にさせることもできた。わざわざ思考の読み合いという俺の分野に合わせる必要はなかった。スペックのゴリ押しで俺を殺せた筈なんだ!)


「気づいたか?」


「・・・チクショォ・・・・!」


「格の違いを思い知らせるためだ。力も、速さも、頭も、何一つ貴様は我に勝ってなどいない。手加減してでも勝てる、取るに足らん相手だったというわけだ」



峰打ち。



「ぐッ!?」



イクオの意識が遠のいていく。

薄れゆく意識の中で、「捕らえよ」と命令するゲオルグの姿が目に映る。それを最後にイクオは目を閉じてしまった。



「くっ・・・ア・・・リア」



ここでイクオの意識は途切れた。




北の神聖王国、過激派。

今までイクオが会ってきた人物はほとんどが穏健派だった。が、過激派も当然存在する。人族至上主義で魔族を嫌い、その撲滅を目的とする。

その過激派の代表的集団こそが、この『粛清騎士団』だ。団長はゲオルグ・イェレミエフ。神聖王国最も強く凶悪な騎士団だ。その恐ろしさは実力以上に冷酷さにあると言われている。


彼らは捕らえた魔族や罪人を拷問し、情報を全て吐かせてから、上の判断を待たずにその場で処分する。




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