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〜異世メン〜  作者: マルージ
第二章 誇りの風が贈る[前編]
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東の魔族領



世界共通地図。その東に位置する大陸。『東の大陸』

前世のユーラシア大陸とアフリカ大陸のように地続きになっていて、北の大陸と東の大陸は船を使わず移動することができる。気候は場所により差異あり。首都は温帯。

そして、この地にはある特徴がある。



この地に住む人々は、九割以上が『人型魔物』で形成されている。詰まる所、魔族である。



故にここは他国からは東の魔族領と呼ばれている。

魔族たちの暮らす大陸。そこは人の文化とは隔絶された違いがある。魔族たちには、良くも悪くも血気盛んな奴が大勢いるのだ。


北の神聖王国が『愛と祈りと音楽の国』ならば、

東の魔族領は『華と戦と誇りの国』。




  -・・・-




「ぬぅう!!」

「があぁ!!」



取っ組み合いの喧嘩が始まっていた。戦いはこの国の『華』。ちょっとした諍いは集落全体を巻き込んで大騒ぎになる。ここでは二人の鬼人族が腕を掴み合い力比べしていた。



「ロウとカクの喧嘩が始まったぞ!!」

「この集落自慢の怪力バカ同士じゃないか!!」

「喧嘩だ喧嘩だぁ!!」



喧嘩一つでお祭り騒ぎ。大男の二人は組み合っていた腕を離すや否や、固めた拳を顔に目がけて突き出した。拳は交差してクロスを描く。どちらも一切の回避を捨てて、全力、全身、全体重を拳一つに乗せた一撃だ。



「セイッ!!」

「ダァ!!」



およそ顔を叩いたとは思えない轟音が響く。風圧は辺りにまで響き渡り、脆くなった旧人類の建物が音を立てて崩れる。弱っちい魔族ははるか遠くまで吹っ飛ばされた。



「うおおおおおおお!!」

「うあああああああ!!」

「カアアアアアアア!!」

「だあああああああ!!」

「ズオオオオオオオ!!」



吼える。やじ馬たちはワッと盛り上がる。高揚した気分をさらけ出し、思いのままに叫ぶ。魔族は戦いが好きだ。正面戦闘なら倍好きだ。彼らは邪気を無邪気に放つ。

背後で崩壊する旧人類の建物など意にもとめず、喧嘩は続行される。



「ハアッ!!」

「ツェイ!!」


「「「ウオオオオオオ!!!」」」



殴る。殴り返す。さらに殴り返す。さらにさらに殴り返す。

一撃一撃は想像を絶する破壊力を有し、同族に向けるべきではないパワーは躊躇いなく相手に解き放たれる。



「ガハハハハッ!!この集落一番の怪力は私だカク!!貴様の力など赤子のデコピンと大差ない!!」


「グハハハハッ!!そういう貴様は蚊に刺されるより軽いわぁ!!」



またクロスカウンター。辺りの建物の被害などお構いなしだ。風圧だけで更地に変わっていく。やじ馬だって被害お構いなしに騒ぎ立てる。

どんどん集落は破壊されていき・・・



「北のアホどもが攻めてきたぞぉぉおお!!」


「なにぃ!?」

「また来たのか、あのアホども!?」

「戦だ戦だぁあ!!」

「武器を持て野郎どもぉおお!!」

「北の騎士様に我らの誇りを示してやれぇぇええ!!」


「「「ウオオオオオオオオオッ!!!!」」」



更地になった集落を置いて皆どこかへ消えてしまった。

魔族どもには戦闘狂が沢山いる。北の騎士たちが攻めてきたら、奴らは待ってましたとばかりに武器を手に取りだす。


北は魔族を毛嫌い。

東は戦が大好き。


こんなんだから北と東の戦争は何時まで経っても終わらないのだ。

そんな鬼人族の集落。誰もいなくなった集落の建物の陰から、誰かがひょっこり顔を出す。



「・・・ここの皆は相変わらずね・・・」



アヤメだ。

どうも皆とはぐれてしまった。東の大陸ではアヤメはちょっとやらかしすぎたから目立つわけにはいかない。黒い外套に身を包みコソコソと動く。



「もー。アイツらはどこ行ったのよ。ちゃんと東の大陸にたどり着いてたらいいんだけど・・・」



【隠密行動Lv10】



スニーキングに長けるアヤメは油断なくスイスイと集落を移動する。出払っているとはいえ、まだこの集落に魔族はたくさんいる。バレない様に皆を探している。



「クソッ・・・まさか皆とはぐれちゃうなんて。アンタも探すの手伝いなさいよ変態!!」


『魔族の女の子のパンティも意外といけるな・・・』


「サイッテーこの変態!!」



現在。アヤメとサラのサイド。

関係性としてはサラがアヤメに魔法少女になれと懇願しているのは変わらない。アヤメは一先ず断ったが、サラは未だに諦めてはいずに、付き纏うのをやめてはいない。



『アヤメ。ここら辺の地理には詳しいのか?』


「うん、まぁ。一度見たものは覚えられるから、通ったことのある道なら迷うことはないよ」


『ひゅう。天才だねぇ』



サラの姿が少し大きく見える。北の大陸にいた頃は寒さで弱体化していたが、東の大陸の寒さは少しなだらかだ。温度によって出せる力の変わるサラは、少しだけ精霊王としての力を取り戻していた。



「ここは鬼人族の村。正確には鬼人の中でもシンザン部族の集落。シンザン部族は強くて北の大陸から押し寄せてくる騎士たちを食い止める役割を担ってるわ」


『つまり見つかったら面倒ってこったな』


「その通りよ。高確率で喧嘩売られるから一々構ってたら時間がないわ。さっさとここに他の皆がいないか確かめてとっとと逃げるわよ」



移動にはアヤメの【気配遮断】。索敵にはサラの【魔力感知】。割とバランスの取れている二人は、特に音沙汰もなくイクオたちを探し回る。

状況確認を済ませてアヤメたちは動き出す。


鬼人族の村北西の集落にて、アヤメ&サラ。



  -・・・-



「ウオオオオオオッ!!?」

「強い!!強すぎるぞこの人族!!」

「もう既に十人抜きだぁぁああ!!」


「イヨッシャアア!!見たか!」



突如現れた人族の女が腕に自慢のある鬼人族をのしている。



「次はウヌだ・・・っ!!」



そこへ現れたのは筋骨隆々の一人の鬼人族。

背は優に三メートルを超えるだろう巨体。体色は赤く、傷が至る所に見える。額の三本の角は太く見るだに堅牢だ。瞳の眼光は虎さえ慄くだろう。



「ラ インヤンだ・・・!」

「魔王四天王の一人が何故ここに・・・!?」

「首都にいた筈では!?いつ帰ってきたんだ!?」



「ふはは・・・貴様、強いな」


「アハハ。そりゃどうも!私はアリア。アリア・イェレミエフよ」



相対する二人。

東の大陸の最高峰。魔王四天王の一人。ラ インヤンの戦闘となれば、それはお祭りにも勝る一大イベント。

人族の女は慣れない東言語で応答する。



「ふはははは!貴様はイェレミエフの血族!!あの『血濡れの怪物』の娘か!!」


「『血濡れの』・・・それはお母様の呼び名ね?その二つ名、お母様嫌いだったよ?」


「ふはは何を言うか!これ以上の誉れは無かろう?」


「うぅ~ん。やっぱりちょっと感性が違うな?」



北の神聖王国№3

『魔力に愛された子』アリア・イェレミエフ

VS

魔王四天王が一角

『剛腕無双の』ラ インヤン



「アハハッ!!」

「ふははっ!!」



どこぞのゴロツキとは訳が違う。国家規模の戦力同士が喧嘩をおっぱじめた。これが国同士の代理戦争でもなんでもなく、ただ単純に腕試し目的の喧嘩なもんだから手に負えない。集落の一つや二つは消滅してもおかしくない喧嘩だ。


こちら鬼人族の村北東。アリア。



  -・・・-



「だから。ワシはレイ マンユエ殿を出せと言っておる!」


「そんな・・・!ダメですよピグさん!例えアンタの頼みでもそれは承諾できません!」



これ下手すりゃ魔物では?そんな二足歩行する豚が誰かを相手に交渉していた。不思議とへりくだっているのは豚ではなく交渉相手の魔族だ。



「レイ殿にはピグレットが来たと言っておけば通じるんじゃ!待っておるから言伝を頼むぞい!」


「貴方のことを忘れたわけではありませんよ!当然レイ様との関係も!ただどうしても会えないんです!!」


「なら何故その訳をワシに話してくれないんじゃ!」


「うっ・・・それは・・・・・」



交渉相手の魔族の返答はどうも歯切れが悪い。レイという魔族に会えない訳を隠したがっているのは明白だが、嘘でもちゃんとした訳を話さないとピグとしても引き下がれない。



「さあ訳を話せ!貴様なら知っておろう!!」


「あの・・その・・・・」



「・・・・・ピグや。儂が教えようぞ」



「ぬう!?」

「うえぇ!!?あ、貴方は・・・!!」



後ろに控えていたのは一体誰だったのか?そもそもレイって誰なのか?

そしてこの豚は一体何をやっているのか。最後に現れた謎の人物に妙にペコペコ頭を下げていた辺り、この豚にとっては逆らえないような存在らしい。


???の村、正門前。ピグ。



 -・・・-



北と東の大陸のはざま。旧人類の道路の上。

とある人物が北の神聖王国の騎士たちの前に立ちはだかっていた。否、本人にその気がなくとも、彼は騎士たちの恨みを買っている。

相対しているのは二人。仮面の全身タイツと重鎧の騎士。



「・・・『断罪の騎士』・・・・・!」


「ほう?我の呼び名を知っていたか。外道」



仮面の男は肩を押さえて流れ出る血を抑え込んでいる。騎士たちの包囲の中、彼は戦っている。これは決闘ではない。

公開処刑のようなものだった。



(・・・勝てねー。レチタティーヴォなら何とか逃げれる。アンジェでも逃げおおせれる。それでもコイツだけは無理だ!天地がひっくり返っても逃げれるイメージが湧かねー・・・!)



『断罪の騎士』ゲオルグ・イェレミエフ

北の神聖王国№1の実力者。極めて冷酷で、極めて徹底的で、極めて強い。至高の三騎士最強にして、北の神聖王国の最高戦力。

神聖王国に属する者の中で、実力において彼の右に出る者はいない。世界から見ても彼とまともにやり合えるものは数えるほどにしかないだろう。故に彼は畏敬の念も含めてこう呼ばれる。



「・・・『剣聖』・・・・・」


「・・・我のことに妙に詳しいようだが、我も貴様のことを知っているぞ」



重い鎧がガシャリと音を立てる。白銀の鎧には傷が目立っていない。それは彼が傷を負わないからではない。彼の防御魔法を誰も打ち破れないのだ。

新品のごとく美しい鎧を身に着けた大男。背にある『断罪の聖剣』は巨大。その大きさは、目の前にいる仮面の男の伸長を優に超えている。



「ブサワ イクオ。『イクオイケメン事件』の主犯であり、『アリア誘拐事件』の主犯でもある」


「『アリア誘拐事件』か・・・怒ってるか?」


「怒っているとも。北を出し抜いた貴様に。出し抜かれた『執行』に。『執行』に任せてしまった我に。外道に誑かされた我が妹に・・・。我は怒り続けているとも」



北と東の境界。戦線高速路上フロントライン・ハイウェイ。イクオ。



彼は絶体絶命の窮地に陥っていた。相手は今まで出会ってきた者たちの中で頭抜けて強い『断罪の騎士』。レチタティーヴォとの決闘も、アヤメの襲来も、全てが色あせるがごとくの危機。




波乱の東の大陸編。

ここに開幕。





新章開幕。


前回はレチタティーヴォが主人公みたいなモノでしたが、今回はちゃんとイクオが主人公する筈です・・・・・多分。いや、やっぱりしないかもしれない。

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