解説章 旧人類とは?
解説章です。設定大好きな方はロマンを感じるかも。
次回も解説章で、なんと豪華な二回連続予定です。主に世界観について色々語っていこうと思います。
後書きにできるだけまとめます。解説の長文を読むのが手間だなと思ったら、後書きだけでも読んでいただけると幸いです。
ここは北の大陸。『旧遺物の雪原』
旧人類の時代は滅んでからまだ500年ほどしか経過していない。つまり、旧人類の暮らしていた建物はまだ形を保って現存している。旧人類たちの残した物は遺跡として残っているのだ。
そんな遺跡がゴロゴロ雪に埋もれていることこそが旧遺物の雪原と呼ばれている所以だ。標高の高い建築物が乱立してあり、所々倒れているものもある。そんな上から雪が覆いかぶさっている。
イクオたちは倒れたビルの上に積もった雪を踏みしめる。高く積もっていて、足を踏み出すと深くまで足が突き刺さる。
雪にしっかりと足跡を残す。歩いた後に残った軌跡は、時が経てば吹雪に埋もれて消え去るだろう。
ザグククク・・・
ザグククク・・・
「いーねー。雪を踏みしめる音。何歳でも興奮する」
『俺は寒い・・・』
イクオはついつい今の高ぶりを口に出してしまう。
「雪だけでこんなに元気になるんなら安上がりなものね・・・」
「なんだとーアヤメ!雪いいだろ!」
「・・・なんかアヤメちゃんよりイクオの方が幼そうに見える・・・」
イクオはなかなか雪が降らない場所で暮らしていたもんだから、辺り雪一面の雪原が目新しい。いや、正確には雪一面というわけではなく、そこらへんに旧人類の遺跡が雪で埋もれているのだが。
イクオは不意に何かに気付いて口を開く。
「ふ~ん?今の時代は文明レベルが低いわりに、建築技術だけは高かったのはそういうことか」
「そういうことって?」
「新人類には旧遺物をもとにした建築のノウハウがあるんだよ。だから中世程度の文明レベルでも十階層を超えるような高さの建物が作れたんだ。精密機械とかは復元できてねーだろうけど」
・旧人類時代
今から約500年前は旧人類と呼ばれる人々がこの世界で暮らしていた。旧人類の歴史は、たった500年程度の新人類の歴史よりはるかに長く、文明レベルも今とは比べ物にならないほど発展していた。
旧人類は500年前に突然に姿を消した。大災害か、何らかの兵器の暴発か、原因は不明だが旧人類は確かに滅んでいた。原因不明の旧人類の消滅を、新人類は『人類の漂白』と呼んでいる。今も実態は謎に包まれている。
旧人類の残した建築物や道具は、『旧人類の遺物』として新人類の発展に大きく貢献している。500年もの間でこれ程発展したのは、旧人類の残した遺物のおかげである。
イクオは鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌だ。旧人類というワードは当然のようにイクオの心を揺さぶる素敵な言葉だ。すなわちロマンを感じる。
(500年前の旧人類。ロマンだ。いったいどれほど文明が発展してただろうなー。きっと滅ぶ前はすごい文明を築き上げていたんだろう)
「建築技術とか言った技術を発見して生活を豊かにしてくれているのは、探索者や考古学協会のおかげね」
「探索者?考古学協会??」
「探索者は旧人類の遺物を持ち帰る仕事の人。旧人類の遺物は宝の山みたいなものでね。これをもとに新人類は発展してといっても過言ではないよ」
「ほ~ん」
・探索者
北の大陸だけでなく、大陸各地に存在する職。500年前の旧遺物を国に持ち帰ることが主な仕事で、これらを権力者や考古学協会に引き渡しすことが役目である。希少価値の高い旧遺物を持ち帰れば多額の富が手に入り、一獲千金を目指して探索者を目指す者もいるとか。
なお、北の大陸に存在した【世界樹 ユグドレイシア】を発見したのもとある探索者で、世界樹はデニスに奪われた。それがデニスが世界樹を手に入れるに至ったことの経緯と認識されている。
「というのが探索者」
「ロマンだねー。一獲千金求めて旧遺物を探す。う~ん最高じゃないか!」
「次に考古学協会ね。まあ解説通り、探索者が発見して持ち帰ったものを解析や分析する。そして得た知識を文明の発展に費やす機関ね」
・考古学協会
前世に比べて考古学は世に与える影響がかなり強い。一つ一つが宝の山である旧人類の遺物を解析することで得られる利益は膨大。それ故に考古学をより深く追求するために生まれた機関。分類的には魔法に関連する遺物を調べる部門や、科学技術を解析する部門など、多くの部に分かれている。部門によって魔術協会や魔導技術協会にそれぞれのつながりを持っていて、各部門はほぼ独立している。
考古学協会の総本部は南の大陸に存在するが、協会の支部は他の大陸にも大勢存在する。
ともあれ考古学という分野はこの世界では馬鹿にできない強い力を持っているのは紛れもない事実である。。
「以上が考古学協会についてね。以上、教えてアリア先生のコーナーでしたー!」
「うぇーい!」
『うぇーい』
「ブヒーい」
「アンタ達いつも楽しそうね」
ノリノリな男どもに比べて割とドライなアヤメ。適応能力が高いのか、この雰囲気になれるのもかなり早かった。
「成る程・・・その人たちの努力と知恵で、ホモ・サピエンスから中世ヨーロッパになるまでの時間を500年ですっ飛んだのか・・・」
「ホモ・サピエンス誕生は250万年前よ。流石にそこまで爆発的じゃないでしょ」
「・・・よく覚えてんな」
流石は天才少女アヤメ。今は十二歳で、イクオとは七歳ほど年が離れているが、それでもイクオよりは頭がいいだろう。嗚呼イクオ。この集団の中で一番頭が悪いのはおそらくイクオだ。
「ていうか旧人類の生き残りが新人類を築き上げたわけだから、頭の出来はホモ・サピエンスより上でしょ。恐らく前世の人類より地頭はいいはずよ」
「スゲーな」
続いては教えてアヤメ先生のコーナー。
「少なく見積もって金属器を使い始めた日本の弥生時代から遡ってみましょ。紀元前300年前とすると、ヨーロッパの騎士の時代が大体で紀元後1200年。つまり新人類は約1500年の歴史を500年ちょっとで追い越してるのね」
「いやいや凄すぎねーか!?スピード三倍じゃねーか!!」
「これは北の大陸での話ね」
「ぬう・・・となると北の大陸より発展しとる西の大陸はもっと文明の進化が爆発的じゃの。一体500年でどれだけのペースで進歩たのか。西の大陸出身の身としては気になるところじゃの」
「西の大陸には行ったことないから何とも言えないわ」
西の大陸は今一番発展している国だ。西の大陸のトップが若くして凄まじい手腕らしい。トップに立ってからというもの、西の国の発展は著しい。未知なる中央の大陸を例外とするならば、一番力を持っている国だろう。
「でも流石に旧遺物だけで1500年を500年で駆け上がったわけではないだろ」
「その通り!そこで新たに文明を飛躍的に向上させた人物が・・・」
『大英雄レオン・ロイヤルというわけだ』
(ガーンッ!)
キメ台詞を見事にサラにかっさらわれたアリアは目に見えてショックを受ける。
『アイツは中央の大陸からの遺物を、東西南北の四つの大陸に分配した。配られたものは大陸によってまちまちだが、それでも分配された者には共通点があった』
「ほお・・・共通点」
「北の神聖王国は『歌の詞』と『聖典の写本』」
「東は『料理本』と『伝記』ね」
『南は『魔導書』が代表的だ』
「西はとある機械の『設計図』じゃのう」
「それらの共通点・・・・・本?」
「おしい。答えは文字じゃ」
「・・・・・あ、あー!成る程!!」
(旧遺物に記された文字の解読を手助けしたわけか!!成る程、それならば1500年の進歩も頷ける!ようは文字さへわかれば旧遺物をあさって勝手に新人類が進歩する!!旧遺物なんざこの世界にはゴロゴロ転がっているわけだからな!!)
大英雄レオンは旧人類語の文字の翻訳を渡したのだ。旧人類の遺物に記されてある文字を解読できれば、遺物一つに得られる情報は格段に変わる。つまりレオンはこれ一つで文明が超絶進歩するよ!!という物ではなく、これ一つで格段に進歩しやすくなるよ!!という物を新人類に贈ったのだ。
「そうやって人々は知識を蓄えていったの。まあそれだけの進歩ができたのは大英雄レオンの影響もそうだけど、何より旧遺物をあさるだけでここまで発展する『旧人類の英知』ね」
「成る程な。東西南北の大陸が中央の大陸を目指すわけだ・・・・・」
イクオは歩みを止めた。何やら悩んでいる様子だ。上を向いてう~んう~んと唸っている。
他四人は振り向いてイクオに注目する。
『・・・どうした?』
「・・・なぁ」
「?」
『?』
「?」
「?」
「・・・やっぱ中央の大陸に寄っていかねー?」
「『「「 ダ メ 」」』」
中央の大陸はかなり危険だ。この500年間、中央の大陸から帰還した者はレオンしか存在しない。世界でも実力の下の下の下であるイクオが踏み出して無事でいられるはずがない。
「そこを何とか!!見るだけ!見るだけでいいから!!」
「阿保ぅ!おヌシはそうやって言いつつも中央の大陸に足を踏み入れようとするじゃろ!!」
「死にたいの!?アタシは嫌よ!!」
「見るだけだよ!本当に見るだけ!!」
実は北の大陸は中央の大陸に一番近い。ここから南に向かえば中央の大陸を見ることだけなら可能なのだ。
確かに見るだけなら危険ではない。しかしイクオのことだ。【跳躍】水面ダッシュで中央の大陸に行こうとか十分に考えうるのだ。何より中央の大陸は、イクオで言うところの『ロマン』の宝庫だ。興味を持たないはずがない。
「流石に突っ込んだりはしねーよ!ここから中央の大陸まで横断するほどの力は俺にはないし、そこまで死にたがりじゃねー!ロマン主義と死にたがりの区別ぐらいつく!」
「どうじゃか」
『嘘だろ』
「クッソこの変態二人組!俺のこと一切信用してねーな!?」
「悪い意味で信用しとるんじゃ!」
喧騒の中、アリアだけは黙っていた。ついさっきはイクオが中央の大陸をのぞくのを全力で反対していたが、何やらアリアの頭にも電撃が走った。
何かいい予感がした。いや、いい予感ではなくとも何か大きなことが起きる予感がしたのだ。その何かが何なのか、アリアは知る由もない。しかし、イェレミエフ家の感が猛烈に反応したのは確かだ。
「・・・見るだけなら私はいいよ」
「ヒャッッホォーォォオオオイ!!!」
「ちょっとアリアさ・・・アリア!?」
『大丈夫か?』
「承諾しかねるのう・・・」
無論アリアも自分たちの実力が中央の大陸に通用するなどつゆとも思っちゃいない。しかし、中央の大陸に踏み込まずとも、何か面白いことが起こるような気がした。
「イクオ。中央の大陸には絶対に行かないと誓って」
「わーってるわーってるってー!!ワッハッハ!!」
「イクオ・・・・・」
「約束を破れば私、故郷に帰るからね?」
「・・・・・はい・・・」
過去一番の反省を見せた。
声色の露骨の変化のしようで、結局は中央に行こうとしていたことがバレた。あーあ。
・500年前には旧人類って人々がいた。
・今の人々は旧人類の技術で進歩を遂げた。
・イクオたちは『中央の大陸』を見に行った。




