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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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潜入 ステルス 茶番劇

深夜一時十分。


夜の街を一人の影が駆け抜ける。住宅の屋根を軽々と飛び越える人影が月光に照らされ、スカーフをはためかせた仮面の男の姿をシルエットにする。


(みんな寝静まった夜に人知れず夜の街を駆ける。ロマンだねぇーゾクゾクするぜ)


嬉しくなってイクオは跳躍の後くるりと宙返りする。もうアルハンゲルスキー家の屋敷は目と鼻の先だ。イクオは魔力の篭った石を取り出した。


イクオはただの石ころにサラの魔力を込めてもらっていた。演算魔法には魔力探知のような効果がある。微細な魔力の変化も感じ取れるのでイクオの魔力の篭った石にサラが魔力を流したら合図を送ることが出来る。会話をすることはまだ出来ないがそれでも簡易的な無線が使えるのは潜入作戦に多大なる影響を与えていた。


(なぜ演算魔法はここまで衰退してるんだろう。こんな便利な事が出来るんなら使えない魔法というのは認識はおかしい。考えられるのはやはりレオン著の演算魔法が特別だからなんだろうが・・・・・・・・・)


演算魔法に関してはイクオは煮え切らない気持ちでいた。



少し中央の大陸の話をしよう。


中央の大陸は強大かつ凶暴な魔獣たちの巣窟、言わば魔窟だ。然し中央の大陸には旧人類と呼ばれる人達の凄まじい財産が眠っているとされている。その財産のやばさから中央は世界地図の中心足りえている。


レオンは誰も成し遂げていなかった中央の大陸からの唯一の帰還者だ。レオンが帰還した後始めた事は、中央から持ち帰ったものを各大陸に広めること。これにより東西南北の大陸は劇的な発展を遂げた。


それが新人類の誕生からたった五百年程度で古代から中世、はたまた近世まで文明が進化した理由である。



(レオンの目的が各大陸の発展なら、演算魔法を広めることはとてつもなく重要だったに違いない。何故レオンは演算魔法を広めず、衰退させたままでいるんだ?)


故にイクオは理解出来ずにいた。このレオンの【演算魔法】さえあれば文明の進化は近世程度では留まらない。たったLv1で無線技術が開発出来るもんだ。現代以上の時代までぶっ飛べる。



なんて関係ない事を考えている間にサラから合図が入る。三回の合図は準備完了のサインだ。これで俺が準備完了の合図を出せば三秒後に作戦が開始される。


イクオはなるべく音を立てないように跳躍し、アルハンゲルスキー家の近くに生えた木に着地する。体の調子や魔力の出を確かめる。


(まっ、考えてもしょうがない問題か)


イクオはサラに三回合図を入れる。


3   「すぅーー」


2   「ハァーーー」


1     ギリギリギリ


Jump!!





  ーアルハンゲルスキー邸ー



深夜一時三十分。夜の門番が交代の三十分前。つまり一番門番が眠そうな時。こういう時間帯が一番危険だと分かっていつつも眠気には抗い難いのが生物というものだ。


「ふわぁあぁあぁあ」


「失礼っ!」


トンっ

「へうっ」


ドサリ


イクオの子守唄(しゅとう)によってあっさり熟睡(きぜつ)してしまう。


「さぁここからが仕事だ」


イクオはニヤリと笑い何か専門的な道具を沢山取りだした。






「おーい。深夜の番交代だぞ」


「あ、ありがとうございます」


「あれ?お前何時もタメ口だよな?」


「ん?あぁ、いや、寝ぼけているだけだ」


「お疲れさん。ゆっくり寝ろよ」


「おぅ」


眠そうな門番1は屋敷の中の寄宿舎へ向かって行った。その姿を門番2は見送った後。


「さぁて見張り頑張るか!」


門番2は気合を入れる。

実は足元の床下には交代したハズの門番1が眠っているとは思いもしないで。




(侵入成功!第1段階はクリアだな)

門番1の皮を被った、否、門番1とそっくりの顔のマスクを被ったイクオが小さくガッツをとる。

新たな門番2がやってくるまでの間、イクオは門番1の顔とそっくりのマスクを作ったのだ。


スキル【仮面職人Lv7】


(無駄なスキルだなんてとんでもない!ミッ〇ョンイン〇ッシブルみたいな事がやりたかったが為にこのスキルを得たようなもんだ)


  ガチャ


「そこに誰かいるのかー?」


(ビックウゥゥ!!)


突然すぐ隣にあったドアが開き出す。そこから眠そうな顔をした中年の男性が首を出した。


・・・・・・・・・誰もいない。暫く左右を確認した後男は気のせいだったと判断し、


「・・・・・・・・・何も無いか・・・」


そう言ってドアを閉める。



  ギシッ  ギシッ       キシっ



足音が遠ざかっていく。

イクオは天井にベッタリ張り付いていた。


「ぷはぁ」


(あ、危ねぇぇぇえぇえええ!!ここは屋敷の中と違って寄宿舎だから人が多い。物音は屋敷内より気を付けないと)


着地した後イクオはマスクはかけたまま堂々と歩く。しかし足音は消す。見つからないように動き、見つかっても不自然じゃないように振る舞う。


「ふぅ。俺は至ってクールだ。落ち着け、落ち着くんだ。スーーハーー」


  ガチャ


「そこに誰かいるの?」


(ほぁああああああえい!!?)


また別のドアが開き、中から女性が現れた。



  キョロキョロ



「気のせいね・・・・・・」


  パタン


今度イクオは壁の方に寄って丸まりツボに擬態していた。違和感バリバリである。


(セーフ!コイツら睡眠浅いぞ!?ほんとに寝てんのかよ!?いや、これで気づかない辺り寝てんのか?)


スクリと立ち上がりなかなか進めない苛立ちをマスクの下で顔に出す。


(えぇい。まだ潜入し始めたばっかだぞ。もうちょっとスムーズに進m・・・)


「何だー?誰かいんのかー?」


「誰?」


「なんか気配がするなー?」


   ガチャガチャガチャー!


(ピギィイイイイイイイイイイイイイ!!!)


今度のイクオは窓の端によってカーテンに擬態!(違和感MAX)


(お前ら眠り浅ぇぇぇぇぇえええ!!寝ろよ眠いだろ!?全員夢遊病か?夢遊病なのか?精神病院行け精神病院!!)


ユーラユーラと風になびかれる振りをしてカーテンの真似をする。懸垂の格好でゆっくり横に揺れないといけないからこの体制は辛いのだ。イクオは顔を真っ赤にする。


「ん?」


「どうしました?」


「あのカーテン・・・・・・・・・」


(やばいっ!)


「んん〜〜〜〜?」



  ドクン   ドクン   ドクン



「んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」



  ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン




「・・・・・・・・・いいセンスだな」


単に品定めしているだけだった。


(良し!センスいい訳ねぇけど良し!全身タイツが顔真っ赤にして懸垂しているようなカーテンがセンスいい訳ないだろ!でもナイス節穴ぁ!!)


「そうね、いいカーテン。ねぇ、これ貰えないかな?」


「そうだね。君が欲しいなら主様に頼んでみよう。いつか僕達のマイホームが建ったらあのカーテンを部屋中の窓に飾るんだ」


「素敵・・・・・・。とってもロマンチックね」


(違う!馬鹿!目を覚ませ!やっぱこいつら寝てんじゃねぇか!?ロマンチックな訳ないだろ地獄が完成するぞ!ロマンを冒涜するな!!)


その後二人はこのカーテンを飾った家を建てると約束した。愛の約束を・・・・・・






翌日







「ダメだ。このカーテン(タイツ)は我が家宝だ。渡せない」


「そんな!私はこのカーテン(タイツ)に希望を感じています。どうか渡してくださいませんか!?」


屋敷の主は家宝のカーテン(全身タイツカーテン)を抱える。


「ダメだ!このカーテン(タイツ)があるから我家は他の貴族たちへの体裁を保っているのだ!!」


「それでも・・・・・・・・・っ!」


男は思い出す。これまで彼女と過ごしてきた日々。食事をしに行って一緒になって笑った。劇を見に行った時に一緒になって泣いた。そして告白した時一緒に泣きながら笑った。そんな彼女が・・・・・・


『ねぇ、これ(変タイツ)貰えないかな?』


そんな彼女が初めて欲しがった物なんだ。男は拳を握り締める。


「私はお金が無い。何も望まず、指輪さえいらないと言って我慢してた彼女が、初めて欲しがった(タイツ)なんだ!僕は・・・・・・・・・」


涙が溢れる。もっと裕福な人と結ばれれば幸せだったかもしれない。なのに彼女は自分を選んでくれた。「貴方がいい」と言ってくれた。


「僕は彼女と・・・このカーテン(タイツ)で囲まれた家に住みたいと・・・・・・約束したんだ・・・・・・。彼女の願いを・・・・・・・・・叶えたいんだ・・・・・・」


男は蹲って泣いてしまった。

男に屋敷の主は ポン と肩を叩く。


「主様・・・・・・・・・」


「彼女を・・・・・・・・・幸せにしろよ。その子は実は・・・・・・私の生き別れの娘なんだ」


「・・・え・・・・・・」


「私にもね、愛する人がいたんだ。でも東の国へ出兵し、長い間家を留守にしている間にね、妻は病気で無くなってたんだよ」


「そ・・・そんな・・・・・・」


「でも、子は生きてたんだ。私のような何もしてやれない父親なんかじゃなく君のような恋人を見つけて


幸せに生きてたんだ」


男はグッと歯を食いしばり涙を拭う。そして新たに決意を固くして立ち上がる。


「お義父さん。娘さんを僕にください。必ず幸せにします!」


主は泣きそうな顔で笑い、


「あぁ。私にこんな事を言う資格は無い。でも・・・」





     「娘を頼んだぞ」





主は正式に会を開き家宝のカーテン(懸垂タイツカーテン)を貴族の名の元、二人に渡した。


北は愛の国。従者二人の為に家宝を渡した貴族。そして愛の約束を見事遂行した二人。この話は瞬く間に国中に広がり、「理想のカップル」として語り草となった。


二人は裕福になった。そして、約束のカーテン(変態タイツカーテン)に囲まれた家で、


二人は何時までも幸せに暮らしました。


いつまでも、いつまでも・・・・・・・・・








~完~

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