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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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「その・・・すまなかったな」


「なんで?」



イクオの突然の謝罪にアリアは首をかしげる。今は北の神聖王国の出口まで一直線に走っているところだ。傷は治ったが蓄積された疲労は直ってはいない。そこそこのスピードで移動している最中にイクオはぽつぽつとしゃべりだす。



「無責任に名前や地位を捨てろ見たいなこと言っちまって」


「あぁーーーね。うん、まぁ」


「未練を残す別れは悲しいだけだ。そこにロマンはない。俺はそのことにちゃんと気づいていたはずなのに・・・」



イクオにしては珍しい後悔の表情だ。

イクオは異世界からの転生者であると聞いたことがある。死別であったはずだ。親とは悲しい別れをしてしまったのかもしれない。もしくは別れの言葉すら言えなかったのかもしれない。

アリアはイクオの肩を叩く。



「ほらっ!そんなしょげてないでもっと元気に行こう!!」


「そうじゃぞイクオ。らしくないのう」


『お前がションボリしてると調子狂うぜ』



「・・・あぁ!」



北の神聖王国の出口へと向かう。外の吹雪はアリアの魔法で防げる。【風避けの護符】がなくったってこの国から出れるのだ。もう阻むものは何もない。足りないものは何もない。四人は着実に出口へと向かっていった。



「・・・・・・・うん?」



「なんだ?アリア」






「あそこに誰か倒れてる」




  ~・・・~




「大丈夫ですか!?」



アリアは行き倒れの人に声をかける。北の神聖王国の住人は中心の教会本部に集まっていてここは人が出払っているはずだ。ここで人が倒れていることはおかしな事態だ。アリア含む四人は倒れている人物に近づく。

そして近づいて初めて誰なのか気づいた。



「ってこれデニスじゃねーか!!」



デニスはこの国を出る道すがら力尽きて倒れていた。アリアが声をかけるも全く反応がない。嫌な予感を感じたアリアはデニスの首に手を当てて脈を測る。

デニスの首からは何も感じなかった。血が巡るような感触が全く感じられない。



「そんな・・・嘘ッ・・・!!?」


「・・・・・死んでるのか?」

(嘘だろ?さっきまでピンピンしていたはずだ。それにデニスの生き汚さは折り紙付きだ。こんな簡単にポンと死ぬなんて考えられん!)



そして



アリアは気づけなかった。

ピグは魔力を感知する術を持っていなかった。

サラは魔力を失い弱っていた。


幸運にも唯一イクオが真っ先に気づくことができた。【演算魔法】による魔力感覚か、はたまたあの【スキル】の所持者だからか。何のおかげかはわからないが、ただ一つ言えることがある。

今は()()()()を、イクオより先にアリアが気づかなかったことに、深く胸をなでおろすばかりだ。




「全員、前を見るなぁぁぁぁぁああああああ!!!」




今までにないイクオの迫真の声。今のイクオには余裕がない。異世界に転生してもロマンだロマンだと叫んでいたあのイクオが楽しむ余裕を失っていたのだ。いまだかつてないその必死さに、ただ事ではないと感じたほか三人は下を向く。

そうしてようやく前方に何者かがいることに気が付いた。




「何で死なないの?」




少女の声が耳に届く。信じられないほどの邪気を孕んだ声。声を聴いて三人は確信した。イクオの指示が少し遅れていたら、きっと自分はただでは済まなかっただろうと。

アリアは恐怖した。息ができなくなるほどの恐怖に震え、イクオの安否が不安になる。



(どうしてイクオ。何で貴方はその存在を視認して無事でいられるの?)



「ねえ。何で死なないの?」


「うるせえな。何でっつったら俺にだって聞きたいことがあるんだよ」



イクオは声を張り上げる。




「何でお前は【Lv100スキル】を持ってんだよ!!」




イクオは自身のスキルの魔力を見て知った。その異質で、強大で、無慈悲な魔力の深淵。ひとたび発動すれば国一つを簡単にひっくり返すことができる力。

イクオは仮面で蓋をした。しかし目の前の少女は顔を隠さずそのスキルを隠そうともしていない。



「・・・まさか貴方は()()()?」


「ああ。ということはやはりお前もだな?俺も持ってるからわかる。そのスキルは自分のレベル未満の奴にしか効かねーんだろ!?」


「・・・・・」



イクオと少女はにらみ合う。

少女はボロボロの黒いローブを身にまといフードを被っている。しかしそのフードの陰から見える黒い瞳は不気味な存在感を放っている。

アリアの震えた声が聞こえる。



「イクオ・・・・イクオ・・・・・」


「アリア。大丈夫か?」


「私・・・【鑑定眼】で見えてしまったの。その子のスキルが。ほんの少しだけ・・・!」






【転生者特典】


【スキル ????Lv100】


【持ち主の意思に関わらずオートで発動する】


【自身よりレベルの低い相手に抵抗不可の即死を無差別にかける】


【顔を隠すと効果が解ける】






「大丈夫。誰も死なせねーよ」



イクオの落ち着いた言葉にアリアは少し静かになる。落ち着きを取り戻したわけではない。しかしその声掛けにアリアの意識は、その少女の存在からイクオへと少し移った。



「即死魔法のスクロールを見たことがあるからな。大体効果はつかめる。さしずめその手のスキルの終着点だろう。ならば俺のは魅了・・・いや、洗脳魔法の極地だろうな」



イクオは解析する。危険すぎる相手のスキルの解析を何のためらいもなく進めていく。いくら効かないとは言っても、自分が必ず無事という証明にはならない。何らかの深みにまで至ってしまえば、もしかしたら自分だって死ぬかもしれない。

それでも【演算魔法】で解析を進めるのはイクオが分かっていたからだ。この窮地は自分が何とかしなければならないことに。



「今この国の住民は皆疲れてんだ(ほぼ俺のせいだが)。悪いがこっから先に通すわけにはいかねー」


「知ったことではないわ。この国の状況も、命も」


「成る程」



イクオは構える。

ここは居住区。時間が経てば人が戻ってくる。無差別に発動するスキルが人々の目にあらわになったら、最悪の事態を招きかねない。多くの人々がそのスキルの餌食になることは絶対に避けなければならない。



(もうこの国は転生者に振り回されるのはウンザリなんだ!こいつだけはここで仕留めなければ!)


『おうイクオ。一人でやる気だろ』


「おヌシだけにカッコつけさせるわけにはいかんのう」 



サラとピグが起き上がる。ピグは目をつむったまま立ち上がりイクオの横に立つ。サラは後方に控えているが魔力を集めて臨戦態勢な入る。



「ワシには嗅覚がある。目を使わなくても十分じゃ」


『俺もなけなしの魔力で魔力感知を行う。微力だが加勢できるはずだ』



イクオはやれやれと笑った。こいつらは人が良すぎる。一歩間違えれば死ぬ相手だってのに。そう思うとイクオはキッと顔を引き締めなおし、アリアに告げた。



「アリア。目をつむったまま前方に走れ。そうすりゃ国の出口まで着ける。あいつにはぜってーに邪魔させねえ。お前を先へ必ず送る」


「で・・・でも!」


「大丈夫だ。待っててくれりゃいい。今度は絶対負けねーから」



あの時ポツリと聞こえたその言葉にアリアはハッとする。今回も簡単に相手できる敵じゃない。それでもイクオは負けないと宣言した。

手助けしてあげたい。それでも今の自分がイクオにできることは、足手まといにならない様に戦線を離脱することだけだった。悔しさを噛みしめるようにアリアは震える足で立ち上がった。



「イライラするわ」



少女はゆらりと揺れる。一人一人を観察するように見る。誰も自分を見ようとしない。それどころか恐れてもいない状況に少女は苛立っていた。そしてアリアを見つめてポツリと呟いた。



「あぁでも、アナタは死んでくれそうね?」



少女はいつの間にかイクオたち三人を通り抜けていた。驚き振り向いたころにはアリアの目に向かって少女は手を伸ばしている。目を開けられアリアが少女を視認してしまったら、アリアは間違いなく死んでしまう。

少女の手がアリアの瞼に触れる瞬間。



「ッラァア!!!」



イクオが少女に追いつき腕を蹴り上げた。

弾かれた腕を押さえつけてキッとイクオをにらむ。尋常じゃない殺気にものともせずイクオはアリアに叫ぶ。



「走れぇえ!!!」



アリアは走り出した。持てる力の全てを使って走る。身体的スペックはこの場の誰よりもアリアが上。あっという間にアリアは距離を引き離した。

遠くなっていく背中を見送るとイクオは少女に向きなおす。にらみつける少女に負けない眼力で睨み返して言い放つ。



「誰に手えだしてんだテメェエエエエ!!」



イクオは吼えた。足場から亀裂が入り、風が騒ぎ立てるように吹く

神聖王国の辺境にて咆哮が炸裂する。感じられる感情は怒りではなく焦りに近い。威圧目的の声に少女は鼻で笑う。



「脅しにもならない」



ローブから手を伸ばす。手にはナイフが握られている。クルクルと手で器用に回した後イクオに向けてニヤリと笑う。



「それとあの女がアナタの弱点ね?」


「ケッ!」


「ブヒヒッ!神聖王国最後の戦いがこんなおっかないのが相手じゃとはのう!」


『アンジェリーナとの約束でこの国出るまではパンティを楽しめねぇんだよ。ちゃっちゃと終わらせようぜぇ』



場所は神聖王国の端。正門に少し近い地域。

前回の戦いと打って変わって観客は誰もいない。しかしこの戦いでこの国の運命は破滅か存続かの二択に迫られた。


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