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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
35/74

数々の想いは結ばれ 今、終演の時



「忙しくてできないときもあるでしょうけど、必ず連絡をよこしなさい」


「はい」


「私も連絡を送るけど、貴方の居場所が変わって届かない時があるかもしれない。前回の手紙が届いたことを必ず手紙に書いて返事をしなさい」


「はい」



クリスティアラの言葉にアリアは一つ一つ丁寧に返事をする。ここにいる皆がこのやり取りに耳を傾ける。



「スーゥゥゥゥ」


「?」


「あとちゃんと食事をすること、体はしっかり洗うこと、体調管理にはしっかり気を配ること、剣の稽古はどこにいてもさぼらないこと、学びの心を忘れず知識を蓄えること、イクオのスキルにはちゃんと目を光らせておくこと、サラマンダー様の性癖には気を付けること、そこの豚にも気を付けること、悩みごとはため込まないで相談すること、友達を作ること、行く先々でできた縁は大事にすること、尊敬できる人を見つけること、礼節をもって人と接すること、人に迷惑をかけたらちゃんと謝ること、逆に怪しい人には気を付けること、正しいことを考えて行動すること、やらなくちゃいけない事には目をそらさない事、そして・・・・・」


「うえぇ!?」



唐突なマシンガントーク。言いたいことはいくつもあって言い切れない。絶え間なく漏れ出してしまうクリスティアラの心配にアリアは少し後ずさる。アワアワと戸惑っておされるアリア。周りの人間はみんな目をつむってうんうんと深くうなずいている。

それはそうだ。アリアが本当はお転婆なのは実は皆が知っている。そんな人が外の世界で旅をしていくんだ。母ならなおさら心配なはずだ。



「それと~~~~後は~~~~~~~」


「ひぃぃぃ」



誰も止めない。アリアも困りつつも勘弁してとは言わなかった。この会話が終わればしばらく会えないのだ。こんな時ぐらいいいだろうと他の人はみんな黙認した。

ひとしきり言い終わった後クリスティアラ最後に一つ。



「誰かに名前を聞かれたときはイェレミエフの名を語りなさい」


「・・・・・はい」



悲しそうにも嬉しそうな表情だった。本当は嫌なはずだ。言いたいこともこれだけじゃないし、そもそも考え直してほしい。それでもアリアが正しく覚悟を決めてしまったら、それはもう親のエゴだ。

悲しい雰囲気の中、イクオが目を覚ます。ボケた頭を覚ますように首を振るって目を開ける。



「へぁ・・・どういう状況?」


「おいイクオ!今は大人しくしていろ」


「お?アンジェか?」


「だから愛称で呼ぶな!!」


「いいだろ別に。お前喜んでるだろ」



  ・・・



「え?」


『え?』


「ブヒ?」


「え?」


「え?」


「「「「「え?」」」」」




「ぁ・・・・ぅ・・・・・ぅぅ・・」



衝撃の事実に全員が耳を疑う。

アンジェリーナは耳まで顔を真っ赤にして辺りを見渡す。みんなの視線が突き刺さる。

そこにイクオがさらに解説による追い打ちをかけた。



「【イケメンLv100】のときの一目ぼれの衝撃が忘れられなくて、お前はまだ俺のことが・・・」


「あー!!あー!!!」



はい。

実はアンジェリーナ。かのイクオへの恋が忘れられなくて今までズルズルと引きずってきたのだ。この人は北の神聖王国で生まれておきながら、恋というものに全く縁がなく生きてきた。恋をしてみたいという乙女願望があったこともあり、アンジェリーナはとてつもなくチョロかったのだ。



「アンジェ・・・え?・・ホントに?」


『へー?』

「ほーう?」


「『ふうぅーん??』」



「アンジェ・・・貴方という人は・・・」


「アンジェちゃん・・・・・」



「そんなはずは・・・!貴方は近衛騎士団の!我々の団長ですよ!?」


「嘘ですよねアンジェリーナ様!?」


「嘘だと言ってくださいぃぃいい!!」




(うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)




気まずそうにしている親友から、ニヤニヤとジロジロ見てくる変態ども。あきれている友人の両親。そして驚愕の事実に開いた口がふさがらない部下たち。


一生の不覚。生涯の恥。


ここまで恥ずかしい思いは初めてだ。手で顔を覆い隠し、膝から崩れ落ちてうつむく。

ああ、こんなことなら もういっそ



「くっ・・・・殺せぇ・・・・・・・ッ!」



「ワッハッハー!くっころ一丁入りましたー!!」


「あ・・悪趣味!」


『サイテー』


「人間の屑じゃのう」


「おぅそこの豚と畜生パンツ大臣!自分のことは棚に上げてねーか!?」



宴会のごとくワチャワチャしてしまった現状にクリスティアラは頭を抱える。せっかく人が別れを告げているのにこの状況では真剣な話も場違いだ。

ハハハと笑っていたアルセーニスがアリアに話しかける。



「レチタティーヴォ君は?」


「世界樹のてっぺんで寝てる」


「ハハハ。あそこで眠るのは気持ちがいいだろうなあ。本来国宝として保護される代物だ。そんな世界樹に背中を付けて眠るとは、以前の彼なら考えられないな」


「フフフ。本当ですね」



楽しそうに笑う。そして一息つくと空を見上げた。いつものどこか悲しそうな顔に戻るとポツリポツリと話し出した。



「レチタティーヴォ君には何故か親近感がわいてたんだ。若いころはやんちゃだったクリスティアラとアリアは性格が似ていると思ってたから、彼とは仲良くなれるだろうと思ったんだ」


「ちょ、アナタ!?」


「アッハハ!」



赤面になってワタワタするクリスティアラ。アリアはおかしくなって笑ってしまった。なんだかんだ簡単に頭から火を噴くこの夫婦がアリアは大好きだった。

一息ついた後再びアルセーニスは話し出す。



「でもアリアは僕ともクリスティアラとも似てない。一体誰に似たんだろうね?魂とは難解だよ」


「・・・うん」


「でもね、僕達にとってアリアが愛する家族であることには変わりないんだよ。イム神教の第三項、言えるね?」


「『汝、家族愛を尊び、大切に守るべし』」


「うん!じゃあ・・・」



アルセーニスはアリアの背中を優しく推した。



「行っておいで!」


「・・・・・はいっ!!」



そういうとアリアは振り向いて、後ろでギャンギャン騒いでいる馬鹿三人に声をかける。慌ただしく旅の準備に取り掛かる。アリアが忘れ物を取りに行ったり、サラの魔力が枯渇して動けなかったり。

正常な状態まで目を覚ましたイクオは状況を察知し体の調子を確かめ、そして神聖王国の面々に向き直る。



「・・・イケメン事件については悪かった。アリアのこの件も恨むだけ恨んでくれて構わない」


「「「・・・」」」


「それでも!アリアを連れ戻してーって言うんなら!いつでも俺から奪いに来い!!何度でも相手になってやる!!」



面々の顎が引く。彼らはまた挑戦に来るだろう。彼らはアリアを奪い返しに必ず現れる。それでも何度だって相手になると言い放った。

アリアの支度が終わり、ピグとサラが【仮契約】をして変身する。四人パーティが出来上がった。全身タイツにお嬢様、あと豚と変態妖精。異色パーティに変わりはないが、楽しい旅にはなるだろう。



(今回はレチタティーヴォとの決闘を優先したかったからほかの奴には参加を遠慮するように仕向けたが、それでもホントは全員相手してやりたかったからな。次からは全員参加だ!今度はぜってーに負けねえ!!)



最後の言葉が不意に漏れてしまったのをアリアに聞かれた。イクオがアッと口を押えるとアリアが満面の笑みを浮かべた。

アリアは後ろに振り替える。大きく息を吸って、北の神聖王国の民に向かって声を張り上げる。



「みぃぃぃんなぁぁぁぁぁあああああああ!!!」




「なんだ!?」


「アリア様だ!!」


「レチタティーヴォ様の姿が見当たらない!」


「戦いはどうなったんだ!?」




「今まで!本っっっ当に!ありがとぉぉぉぉぉおおおおお!!!」



精一杯の声を届ける。下にいる人々にはしっかり聞こえている。ざわざわしていた声はすぐ小さくなってアリアの声に耳を傾ける。



「私はどこか遠くまで行っちゃうけど!!ここで暮らした日々!!ここで学んだ事!!一生忘れないからぁぁあああ!!!」




「レチタティーヴォ様は・・・」


「アリア様・・・」


「そんな・・・アリア様・・・・ッ!」




「元気でやってるからね!!!皆も元気でねぇぇぇぇええええええ!!!」



息をつく。そしてパッとイクオに振り向いて告げる。朝日を背に振り替えるアリアがとても美しい。それでも顔には少年のような無邪気な顔を浮かべている。



「約束通り、私をさらって?」


「おう!!」



【跳躍】

お得意の【スキル】。アリアの横をかすめるように跳ぶ。目にもとまらぬ早業でアリアを抱きかかえて屋上から躍り出た。それに続くようにピグとサラが飛び降りる。教会本部の壁を走り、滑走し、跳べば今度は住宅の屋根に着地する。屋根から屋根へ飛び移るように移動し、北の神聖王国の出口まで一直線だ。



「行かないでアリア様ぁぁああ!!」


「行かないでぇぇぇええええ!!!」


「帰ってきて下さいアリア様ぁぁあああ!!!」



民の声が聞こえる。アリアの旅立ちをここまで悲しんでくれる人がたくさんいる。人々を残していってしまうことはとても苦しいことだけど、慕ってくれる人がたくさんいることは幸せなことなんだと確信した。

もっと民の声を聴いていたいけどその声は瞬く間に遠のいていく。




「アリアっ!!!」




クリスティアラの声が聞こえた気がした。その声に不意に振り向いてしまったアリア。

しかしクリスティアラははるか向こうの教会本部にいる。ここから姿は見えなかった。



「お母様・・・・・・」



この日アリアは愛する祖国に別れを告げた。





『元至高の三騎士』

クリスティアラ・イェレミエフ


Lv 80(全盛期は94)

平常時魔力量 69,000

限界魔力量  84,300

職業 公爵夫人

スキル 【イェレミエフ流剣術 Lv80】

    【神聖魔法 Lv76】

    【心眼 Lv62】

    【超頑強 Lv44】

    【怪力乱神 Lv58】等



・剣術


由緒正しきイェレミエフ流剣術の達人。その神髄は魔法剣士としての戦い方。魔法系統のスキルを習熟し、剣術にその魔力を流用するというもの。そのことにより剣の力をより引き出したり、聖剣の力を呼び覚ますことに長けたりする。

レベルが凄いことになっているが実力はレベルほどはない。実は鍛錬をしなければレベルは下がっていくものでレベルの維持はしているが、肉体が老いてしまい力が全盛期以上をでない。

それでも90レベル越えた人間は世界中でもそうそういない。



・詳細


東の戦場でかつて暴れまわった先代『法の騎士』。その名は今でも東の大陸で伝説になっているとか。『魔物より魔物』だとか『血濡れの怪物』とか言われてるそうだ。今は指南役として戦場には退いたが、その技術は今でも頼りにされている。最終的な実力はアンジェリーナの方が上でも、やはり技術ではまだまだ敵わないそうだ。

そんな魔物にも三人の子が生まれた。人ととの付き合いが苦手で不器用な性格でも精一杯愛を込めて育てた。長男は戦場へ行ってしまった。長女はもう嫁がれた。末っ子の次女は旅に出た。三人とも消えてしまったがそれでも我が子らを愛し続けている。帰りを待ち続けている。


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