愛している証明
あ、最近はあとがきでキャラのプロフィールを書いていますが、読まなくても本編を楽しむのに一切の支障はありません。
買ってもないゲームの攻略本を読むのが好きって言う設定好きであれば呼んでも面白いかも知れません。
世界樹の実の輝きではなく朝日の輝きがこの国を照らしていた。
優しく光る道を歩く少女が一人。アリアはイクオを抱えて教会本部の屋上に下りた。イクオに傷はない。【神聖魔法】で直したのだろう。今はぐっすり眠っている。
「イクオの勝ちです」
教会本部の屋上にいる人たちに向かってアリアは言った。
近衛騎士の人々は皆肩を落としてうつむいた。アンジェリーナは黙ってこちらを見つめている。両親は肩を寄せ合っている。ピグとサラはバツが悪そうにしている。教皇は目を閉じた。
「今まで・・・ありがとうございました。私はイクオと共に世界を旅してきます」
アンジェリーナが近づいてくる。そしてアリアに手を差し出し・・・
「フンッ!!」
「アイタァ!!?」
デコピン。それもかなり強烈。【怪力】スキルを込めたかなり全力のデコピンがデコに直撃。
衝撃で後ろにのけぞり、デコを押さえて立て直す。
「な・・・何するの!?」
プイッ
(ガーンッ!!)
極めつけにはそっぽを向かれた。ショックで落ち込むアリアにアンジェリーナは話し出す。
「別にこの国を出るとか、憎きイクオと行動を共にするとか、そんなことに怒ってるんじゃない」
「え・・・?」
「その行動に至るまで私に相談してくれなかったことに怒ってるんだ」
予想外の返答にアリアは目をパチパチと開く。てっきりイクオと国を出ることに不満があるのかと思っていた。いや、不満はあるのだろうがそれ以上に思うところがあったのだ。アリアはデコを押さえたままアンジェリーナの言葉を聞く。
「これでも私はアリアを親友だと思っている。だから次こういうことがあれば頼ってくれ」
「アンジェ・・・」
自由奔放なアリアに比べてアンジェリーナは真面目なしっかり者だ。今までもアリアはアンジェリーナに何度も助けられた。そしてそのことは迷惑ではなかったのだとアリアにしっかり伝えた。
「師匠を介してでもいいから私にも連絡をよこせ。そして悩みがあるなら何でも打ち明けろ。それを約束してくれるなら、私はアリアの選択の全てを受け入れる」
アリアの目にジワリと涙が浮かびそうになった。嬉しさを言葉ではとても表せれなかったのか、アリアはアンジェリーナを強く抱きしめた。
次にアリアは教皇の方に目を向けるも・・・
「教皇様!」
「・・・アリア。私より優先すべき人がいますよ・・・・・」
教皇は全て知っていたかのように冷静だ。教皇が自己申告しない限り【啓示】がいつ発動したのかはわからない。【啓示】でどこまで知っているのかわからないのが教皇の魅力だ。
教皇が指さす先にはアリアの両親の二人が立っていた。
「お父様、お母様・・・」
「・・・・・」
~・・・~
「全くアリアはこの結婚式を甘く見ている!!この結婚式は世界の歴史に刻まれるほどの行事だ!!貴方の名前は世界中から見ても知らない人の方が少ない!!貴方の結婚式を見に来た人々は皆国に名前を知らしめた人々です!!その人々の目を欺き、無駄足だったと思わせたこと!!その責任は本来死罪でも生ぬるいテロ行為!!国々の代表たちを騙すだけでなく、共演者の人々や舞台裏の人々、結婚式の準備をしていた教会関係者の方々!!その他大勢の人々の顔と名前に泥を塗った!!挙句の果てにあの国家転覆を謀ったブサワ イクオのそばにつき、そしてついていきたいとのたまった!!その発言にどれだけの問題を孕んでいるか!!最早かばい切れないほどの問題を貴方は起こしてしまった!!これはもう「娘のいたずらです」の一言で済ませれる問題の範疇を軽く超えている!!これだけのことを起こして貴方はどう責任を取るつもりなのですか!!?」
「うぅぅぅ・・・・だって」
「だってではありません!!」
クリスティアラのとどまるところを知らない延々と続く咆哮。アリアは目に涙を浮かべ地面とにらめっこしていた。
不運にも十字路でぶつかり魔物とエンカウントしてしまったアリアは、かれこれ何十分も説教を受け続けていた。
(って違うでしょ私!いわれっぱなしではダメ!ちゃんと私の気持ちを伝えないと!!)
下唇を噛んで涙をこらえた顔でキッと前を向く。母に向き合う。反抗的な目つきを感じてさらにクリスティアラの目つきは険しくなる。
折れそうな心を必死に立て直し、喉の奥から搾り取るように声を出した。
「ごめんなさいお母様!!私は何を言われようとこの国を出る!!」
「ハァァァアアアアアン!!!??」
「ピィ!!」
怯えた肩を気合で抑え込む。カラ元気で母の目を見る。今まで自分にここまで尽くしてくれた母親に何も言わずに国を出るわけにはいかない。
「私は貴族に向いていない!!勝手に屋敷を脱走するし、結婚は嫌だし!!」
「向き不向きの問題にしない!そのようなワガママが国を出る言い訳になると思わない!!」
「私はイクオに私の命運をゆだねたい!!例え世界中の全ての人が私のワガママに納得しなかったとしても、イクオは肯定してくれる!!」
「肯定してくれないから国を出るの!?拗ねた子供の家出と何も変わらない!許しませんよアリア!!決して貴方たちを国から出すわけにはいかない!!」
「それでも!!!」
半泣きで叫び散らすアリアをクリスティアラは正論で追い詰める。危機に迫る顔だ。いつもの娘に甘いのろけた顔とはかけ離れた必死さでアリアに問い詰める。
それでも・・・
「それでも私はイクオについていく!!」
「この・・・っ!!」
折れない。半泣きを超えてぐじゅぐじゅになった顔でもまだクリスティアラをにらんでいる。クリスティアラは焦っていた。もう既に何十分も叱った。ここまでくらいついてくるアリアは初めて見た。
「いけません。これは貴方のために言っているのです。貴方を守るためにイェレミエフの名がある」
「私の自由を奪うというのなら!私には要らない!!」
「アリアァ!!滅多なこと言うんじゃありません!!貴方が今何を言ったのか理解しているのですか!?」
今まで聞いたことのない声を聴いた。怒りだけではない。それと同等以上の悲しさが感じられた。
(言いたくない。お母様を悲しませたくない。こんなにも胸が張り裂けそうになるなんて思わなかった。
でも・・・・・)
「私は教皇様より賜った魔剣。及び、イェレミエフの名を・・・ここで返上します」
「ッ!!!」
アリアの頬を叩いた。
アリアは赤く腫れた頬を抑えて呆然とする。クリスティアラは息を荒げてアリアを睨む。クリスティアラの目にも涙が浮かんでくる。その顔は今怒られているアリアよりも何倍も苦しそうな表情だった。
言葉が出てこなくなった。
家族と縁を切る覚悟をしていた気分だった。名前を返上するという言葉の残酷さを、その時アリアは初めて理解した。
「・・・・・」
クリスティアラの腕がアリアに伸びる。ひどく震えている。
アリアの頭の後ろに手を添えるとそのまま胸に押さえつけた。背中にも手を回して強く抱きしめる。腕だけではない。全身の震えが感じられた。
「アリア・・・私は嫌です。もう愛する子供たちが手の届かないところへ行ってしまうのが・・・・・怖くてたまらない・・・!」
「お母様・・・」
「惨めです。先代の『至高の三騎士』ともあろう者が・・・こんなにも恐れ泣いている」
クリスティアラは自分の弱さを嘆いた。昔はここまで涙を流す人ではなかった。自国のものですら恐れおののき、他国にまでその名をとどろかせた先代『至高の三騎士』。引退したのはアルセーニスと結婚してからだ。その時からだった。
子を守る強さを知った。それと同時に子を思う弱さを知った。
(ああ・・・私は馬鹿だ。ゲオルグ兄様の件を知っていながら、お母様に何て残酷なことを)
アリアはクリスティアラを抱きしめる。クリスティアラの腕の力にも負けないような力で強く。
名を捨てれば自由になれると信じていた。縁を切れば誰も傷つかないと思っていた。とんでもない。残された家族に一生癒えない傷を残すところだった。
「・・・ごめんなさい!家族の誰かが手の届かないところまで行ってしまうのが、どれだけ辛く苦しいことなのか!私は知っていたはずなのに!!」
「アリア・・・アリア・・・・・!!」
それでもアリアの考えは変わらなかった。どれだけ母に強く抱きしめられても、胸を締め付けるような苦しみが引いてくれない。
母にここまで言われたのに、まだ夢を諦めていない。そのことが申し訳なくて苦しくて仕方なかった。
「行かないで・・・!!」
寄る年波にはあらがえない。今のクリスティアラに全盛期ほどの力はない。もうアリアはクリスティアラを超えている。振りほどこうと思ったら振り切れた。
それでもアリアは振りほどかなかった。そして振りほどいてはいけないとも思った。クリスティアラが自分の意思で離さない限り、癒えることのない傷がまた増えてしまう。
もう眼には涙は浮かんでいない。アリアは今度こそ覚悟を決めなおした。
「お母様。それでも私はお母様の気持ちを裏切ります」
「・・・!」
抱きしめている母の体の全身から恐怖のこわばりを感じた。アリアはクリスティアラの肩をつかんで目線を合わせる。そして苦しそうに泣いている母に、満面の笑みで話しかける。
「でも・・・連絡します!!今世界でどんなものを見ているか!どんなものを食べているか!私がどれだけ楽しんで生きているか、絶対に伝えます!!」
精一杯に気持ちを伝える。もう名前を捨てるなんて言わない。名前は貴族であるという記号ではない。家族を愛し続けている証明なんだと今ならハッキリわかる。
クリスティアも、アルセーニスも、アンジェリーナも、レチタティーヴォも、誰もが納得できる結末を模索すると誓うように叫ぶ。
「だからお母様!!私にはお母様の声が聞こえるよ!!手は届かないかもしれないけど!どんなに離れていたって私はお母様の声に耳を傾けるよ!!」
ゲオルグは魔族への憎しみに取り込まれてしまった。もうクリスティアの声は聞こえないかもしれない。『それでも私には届くよ』と必死になって伝えようとする。何時でも何処でも『愛している』を伝えられると約束する。
クリスティアラの肩の力が少しだけ緩む。
「だからゲオルグお兄様の時のような気持には絶対にさせない!!だから・・・だから!!」
笑顔が崩れだす。安心させようと頑張って作っていた笑顔は決壊し、涙でおぼれたような顔がまた現れる。
そしてかすれた声で母に尋ねる。
「私を娘のままでいさせてくれますか?」
静かに泣いているクリスティアラにアリアは伝えた。震わせた肩を必死に抑え込むように体をこわばらせる。
静かに頷く。震えはこの時は止まらなかった。まだ娘と別れる決断に心が追いついてなかった。
~・・・~
「アリア・・・」
「はい・・・」
「もう一度約束しなさい」
アリアとクリスティアラとの間でかわされた約束をもう一度確認する。あの時の震えはもう止まっていた。
『北の神聖王国 最高権力者』『北の教皇』『愛の法王』
エリザヴェータ七世
LV 50
平常時魔力量 8、200
限界魔力量 10,500
固有スキル 【イムの啓示】
【イムの言葉を感じ取れる】
このスキルは突発的に突然現れる。このスキルの発動に教皇の意思は全く関係なく、いつ発動するかはまさに神のみぞ知る。
いや、このイムと呼ばれる存在が本当に神という存在なのかは教皇にはわからない。しかしイムと名乗る存在が予言した言葉は全て的中していることだけは確かだ。
ちなみにこのイムと名乗る存在が、イクオと顔を合わせたことがあるのは紛れもない事実である。
・詳細
一族皆が突然に神の電波を受信しだすオカルト一族。というのは割と冗談ではない。
イクオがこの世界に来る前から、教皇は【Lv100スキル】を持つイレギュラーが現れることを【啓示】から知っていた。心に決めた男性がいるのにもかかわらずイクオの洗脳を食らってもイクオを憎まないのは、イクオに悪気があった訳ではないことをちゃんと知っていたからである。
今も心に決めた人が、この国にやって来ることを待ち続けているとか。
その話が書けるのは一体いつになることやら。




