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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
31/74

執行の騎士 と 血みどろ異世界人



「ガラスみてぇ」


「限りなく透明に近い氷。これだと我々は空を飛んでいるようですね」


「ここなら邪魔は入らなそうだ。BGMも凄まじく壮大だ」



空には巨大なステージが浮いていた。下ではアリアが指揮棒を振るって大量のマネキンの演奏を操っている。

教会本部の下には民たちがイクオとレチタティーヴォの二人を見つめている。二人の行く末を見守るように真剣な顔立ちだ。



「ただアリアの大規模魔法で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だとバレちまったな」


「仕方ないですよ。アリア様は魔法に気持ちを強く込めすぎててしまう」


「せっかく罪をかぶってカッコつけようとしたのになー」


「優しさからの行動じゃないんですか・・・」



ひきつった笑顔でイクオの言葉にツッコむ。ある種この特殊な自分本位の在り方がイクオなのかもしれないとレチタティーヴォは理解した。


思いがけない観客ができてしまった。民たちは皆理解している。これはアリアをめぐる戦いだ。この勝敗でアリアがどちらにつくかが決まる。

二人は顎を引く。こぶしに力を込め、気迫が漏れる。



「第三ラウンドか?随分と刻んじまって悪いなーぁ!?」


「かまいません・・・」

(イクオは弱っている。彼が勝ちを狙うなら正面からの勝負を避けて不意を突く戦いをするはず。なら私は大技で隙を見せて反撃を誘う!カウンター返しを狙う!!)



両者、三度目の突撃。

イクオは右足がつぶれて片足でしか【跳躍】できない。スピードは本来の半分もない。

方やレチタティーヴォはさらにスピードが上昇している。一般人からしてもスピードの差は歴然だ。


しかし、



「世界樹ーぅぅううあああああ!!!俺の根性を見ろーぉぉぉおおおおおお!!!おげヴッ!!?!??」



イクオはあえて逃げない。【演算魔法】と【集中】で攻撃を予測した後、振りかぶる腕をつかんでスイングを止めた。



「逃げないだと!!?」


「ゴフッ!!・・・ヒュ・・ヒュ・・・・・!」



勢いが消せずに突撃の衝撃を正面から受け止め、体中の骨がきしむ。何本も折れた感触がした。満身創痍のイクオ。その眼力にレチタティーヴォは戦慄する。



(もはや瀕死の重体だというのにこの気迫!やはり本気で挑んで正解だった。彼はまだ真っ向勝負をこれっぽっちも諦めちゃいなかった!!)

「ウッ・・・何っ!?」


「ワッハッハァ!くふぁ・・!狙い通りぃ!!」



レチタティーヴォの体から魔力が抜ける。代わりにイクオの体に魔力が宿る。世界樹の権限が少しだけイクオに移ったのだ。



「さっきはひどいこと言って悪かったなー世界樹。もう二度とあんなマネしねー。ちゃんと・・・俺の根性で奪い取ってやるからよーォオ!!」



イクオは腕に力を入れる。レチタティーヴォの腕をつかんだ掌の中には【魔力放出】のスクリプト。レチタティーヴォの流星の軌道を変えながら、一本背負いの体勢でレチタティーヴォをブン投げる。



「ゥオラァ!!!」


「うわっ!?」



スピードを完全には制御できていないレチタティーヴォは、流星の勢いに任せて空高くへと飛ばされる。その間イクオは・・・



【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】【集中】



「うおぉ・・・ぉ・・お・・・あ・・・ワッハハハーア!!!」



並列集中のストックも全部使って感情の爆発に集中する。世界樹のいるここでは意志の強い者が世界樹の主。レチタティーヴォが飛ばされている間にイクオはみるみると世界樹の権限を奪っていく。



「それ以上はさせません!!」



レチタティーヴォはイクオのそばを駆け抜けるように一閃。しかし手ごたえはない。レチタティーヴォが手に入れた流星の速度の一撃をイクオはかわしたのだ。



「【アタック・プロジェクション】・・・!」


「くッ・・・!」

(追いついてきている!少しずつだが魔力量の差を埋めてきている!)



イクオは本来長期戦向きだ。【演算魔法】で解析されれば動きを読まれ、実力差があっても攻撃が当たらなくなる。まさに大物喰らいの能力だ。

しかしレチタティーヴォとの初戦闘のとき長期戦が向いているのに短期決戦に持ち込んだのは、ひとえに【演算魔法】の燃費が悪いからだ。【演算魔法】の戦い方にイクオのスペックが追いついていないのだ。


しかし世界樹の権限という魔力リソースを手に入れてしまった今、イクオの弱点はたちどころに消えてなくなった。



「世界樹の力を知った時からこの戦い方が頭に浮かんだ!利用できるものは何でも利用するぜ!!」


「やはり貴方は向こう見ずのふりをしていながら実は打算的だ!!」


「悪かったなーァ!!」


「敬意を持って本心を言いました!!」



大けがをしフラフラになっていたイクオが、魔力で調子を取り戻し始めた時からレチタティーヴォは察した。ピンチなのは私の方だと。



(いや、そうではない!これは権限の奪い合いだ!意志の強い者が勝つ精神の戦いだ!!)



今度はイクオから仕掛ける。片足でしか跳べないはずだが、それでもスピードは加速してきている。

レチタティーヴォは迎撃を選ぶ。



(チキチキチキチキチキチキチキチキ)(計算中)



イクオは【演算魔法】による計算を開始した。攻撃の仕方やどの位置を狙っているかなどの予測。イクオは目線や気配ではなく、魔力で相手の動きを予測する。

魔力を誤魔化すことはレチタティーヴォでは不可能だ。ならばそこを利用する。



「スウゥゥ・・ゥ・・・・・ハァァアァァアアアアアアアア!!!!」



イクオとレチタティーヴォの攻撃が交差する瞬間。レチタティーヴォは攻撃の直前に気合を入れ、気持ちを高めた。



「ウオッ!?やっべ!」



魔力が上昇し、イクオの計算式にずれが生じる。急な計算の変更を求められ行動を迷ったイクオ。その一瞬の隙を、レチタティーヴォは見逃さなかった。

イクオに小さな傷を負わせた。



「見えたっ!貴方との戦い方!!」


「流石すぎだぜ!?」





  ー・・・ー




今まで見たこともないような膨大な魔力が渦を巻いている。宙に浮かぶアリアの作ったステージはもはや激戦区だ。

しかしそのステージで暴れている男どもは二人とも笑っていた。



(レチタティーヴォがあんなにも楽しそうに戦うのを見たのは初めてだ)



アンジェリーナはようやく理解した。アリアを引き止めるのは自分の役目ではないのだと。

これは二人の男による、一人の女を懸けた戦いなのだ。



「引き止める役が・・・私じゃないのが悔しいな。アリア・・・」





  〜・・・〜





『・・・・・・アンジェリーナ・・・』


『っ!? はっ!!』



急な呼びかけでアンジェリーナは一瞬取り乱す。直ぐに返事をした後に教皇の言葉を待つ。



『半月後、アリアの結婚式で・・・ブサワ イクオが現れる・・・』


『・・・・・・啓示ですか?』


『えぇ・・・・・・お達しがきました』



アンジェリーナは歯を食いしばり拳を強く握る。教皇の前だ。怒りを見せまいと必死になるがそれでも怒気が溢れる。



(絶対に仕留める。教皇様だけでなく親友のアリアにまで手を出すとは。許さない。絶対に捕らえてみせる)



顎は引かれ、目元まで影が差す。紅い瞳が煌々と輝く。



(どうか私に捕らえよと命令を下さい。教皇様を御守りできなかったこと、今こそ償わせて・・・)



教皇は優しく言い放った。




『・・・・・・協力してあげてね・・・』





  〜・・・〜





(教皇様。その言葉の意味、今ならハッキリわかる。教皇様はこれが愛の戦いだと初めから【啓示】で知っていたのだ)



アンジェリーナは後ろを向いた。【感知魔法】でここに来る人々の気配を感じ取ったのだ。慌ててここまで駆け上がっていく者たちの声。アンジェリーナはその足音の正体を知っている。



「アンジェリーナ様!!加勢に来まs・・・・・ぅええ!!?」


「ど・・どういう状況!?」


「おい、あそこにイクオとレチタティーヴォ様がいるぞ!!」


「レチタティーヴォ様が謎の波動に目覚めている!!?」



アンジェリーナ直属の部下、近衛騎士団の人たちだ。やっとこさ教会本部の屋上にたどり着いた彼らだが、この状況に慌てふためく。



「騒ぐな。今レチタティーヴォとイクオが戦っている時だ」


「ッ!・・・加勢しますか?」



愚問だと笑う。剣を構える近衛騎士たちに向かい合い立ちふさがる。

聖剣に魔力を込め、床に突き立てた。



『【法の聖剣 洛陽を至らせし我が法(アムズィロール)】!!我が領域内で【あの二人の戦いへの干渉】を禁じよ!!』


「ぇええアンジェリーナ様ぁ!!?」



瞬く間に聖剣は【法の領域】で一帯を包み、二人の邪魔を禁じた。



「手出しをすることは許さん。これはあいつらの戦いだ」



二人の戦いの手助けをすること。それがアンジェリーナにできるアリアへの唯一の行動。







「クリスティアラッ!!」


「あらアナタ」



アルセーニスが教会本部屋上に上がってきた。住民の避難が完了して加勢に来たのだ。



「加勢に来たっ・・・・・ってアレ?」


「周りをよく見なさい」


「ふむ・・・・イクオ・・・レチタティーヴォ君・・・アリア・・・・」



笑いながら戦うイクオとレチタティーヴォ。

これまでにないほど楽しそうに指揮棒を振るうアリア。

アンジェリーナは近衛騎士を足止めして状況を説明している。

そして教皇と騎士の男。教皇はただ微笑み戦いを眺めている。



「成る程・・・僕たちの出番はないんだね」


「・・・・・えぇ」


「アリアとは話せたかい?」


「・・・・・・・・・えぇ・・・・」


「・・・ならよかった」



クリスティアラの震える背中をアルセーニスは優しくなでた。



「やれることはやったさ。後はイクオとレチタティーヴォ君に任せよう」



二人は腰を下ろす。クリスティアラは顔を手で覆い、アルセーニスは震えが収まるまで背中をなでた。

アリアの親である二人にはこの先アリアがどうなるか、もう察しがついていたのだ。





『頼れない公爵』

アルセーニス・イェレミエフ


Lv         79

平常時魔力量  54,000

限界魔力量   76,000

スキル 【叡智 Lv79】

    【記憶 Lv62】

    【速筆 Lv53】

    【スタミナ Lv56】等


固有スキル 【魂の観測者】


 感知魔法と魔力感知を複合したようなスキル。通常の魔力感知よりも魔力の深い場所まで観測できる。アルセーニスは魔力の正体を突き止め、その実態をまだ誰にも話していない。

あとクリスティアラに遠隔から話しかけたのは実はこのスキルの能力である。遠隔からの会話は あるスキルと共通する能力だが、その関係性は・・・



・詳細


戦闘能力はお世辞にも高いとは言えない。【スタミナ】スキルを使って長時間の活動が可能だが、それも長い事務仕事に追われ必要になってしまった悲しいスキル。

実はクリスティアラがイェレミエフ家の血で、アルセーニスは別の家からやって来た。実は北の神聖王国は女性が性を変えなければならない決まりがない。(元々はあったらしいが)故にイェレミエフ家の当主はアルセーニスではなくゲオルグが受け継いでいる。

ゲオルグは母親に似たが、未だ登場していない二人目の子である次女は父親似の苦労人。いずれ登場させたい。

なお、巷では『頼れない公爵』などと言われているが、やる時はやる男だと知っている人は知っている。

見事な社畜ぶりで、やっぱり知っている人は少ない。ああ不憫。


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